髭講師の研修日誌(115)
リーダーの活躍を楽しむ話力磨き
澤田良雄((株)HOPE代表取締役)
昨今、話力向上に関する指導・支援の機会が多くあります。先日は、人間力を磨く経営者の組織で「話し上手のコツ実践講座」を担当しました。企業のトップ・幹部・・のリーダーで活躍する受講者ですので、話す機会は多く、それなりの自信を抱いていますので、その是々非々を確認、診断する機会としました。
そこで、いきなり取り組んだ演習は「お題拝借1分間スピーチ」です。方法は、お題《話すテーマ)入りの封書を各自が持ち、「はい、封書からお題カードを出してください。それではスピーチ開始です《拍手)といきなり、スピーチに入ります。…1分経ちますと終了ベルが鳴ります。即、筆者が話ぶりのコメントをします。
お題テーマは「私の考えるリーダーシップ」「当社の強み」「大谷選手」「お客様の喜びとは」「私の健康法」「米の値段」「今年のお花見」「笑顔」・・皆違います。「それでは次の人・・・」。各自「どんなテーマが当たるのか、果たして話ができるのか・・」緊張が続きます。しかしながら、終了時の安堵感に満ちた表情が嬉しい。それは「なんとかできた自分・・」の確認だからです。
この自信が筆者のサポートなのです。なぜなら、リーダーが最も大事な話は、いきなり関わる人から問われる事への即断即決による返答だからです。それは、指示であり、解決策であり、共に成す行動です。この話の対応が可能でなければ、「あの人に訊いてもだめだ。考えを示してくれない人だから」に類したレッテルができます。それでは、職責の存在感はなくなります。
続いての演習は、共通テーマに基づく準備してのスピーチ演習です。勿論、話の組み立てのコツを講義し、組み立て例を示し、組み立てのひな形に、自身の話す内容に準じて、キーワードを記入しての準備です。
そして、話し方のコツを講義し、大勢対象の話の場面対応を支援します。いよいよ4人グループでのスピーチ実施です。各自の終了時には、他の人から感想をプレゼントします。お題拝借時の演習よりも、組み立て、話ぶりも様になり上達気分を多少なりとも確認できます。察しのとおり、研修スタート時にはない充実感溢れる研修会場でした。それでは、話力磨きのポイントを確認してみましょう。
◆上に立つ人の話力の磨きは不可欠です。
リーダー(トップ・幹部・管理者・・・)としての活躍は、社内外において、自然に魅せる人間力(人物的影響力)によって発信され、伝わる話力は、組織力を高め、社員の活躍の楽しみを醸成します。なぜなら、社員の活躍は、トップ・幹部の想い・目標に対して持ちうる能力を最大に生かし貢献することにあります。だからこそ「あの人だからついていく」との信頼されるリーダーなのです。従って、この基本スキルの話力はどうしても磨かねばなりません。
それは、部署へ、各自への考えの提示、朝礼でのスピーチ、あるいは、協力依頼、会議での活発な意見の交換の話力は、一丸となった組織力を高めるからです。勿論、外部でのプレゼン・折衝・依頼スピーチの対応は企業イメージを左右することにもなります。「あの人の会社だから安心、この人だから協力する」との外へ向けてのリーダーシップも生きるのです。
◆日常の話し方10の確認です
それでは、日常の話す機会での対応ぶりを確認して診ましょう。
①自分は何を言いたいのか、即座にはっきりさせていますか
②話すとき、感じたことや思ったことを素直に伝えていますか
③話す時に相手の立場に立って、わかりやすく話す工夫していますか
④ 話す予定がある時は、内容を整理して組み立てていますか
⑤話す場では、 相手を観て、反応を確かめながら話していますか
⑥ とっさの場面でも落ち着き、機転の利いた対応をしていますか
⑦日頃、苦手な人に対しても、笑顔で話しかけていますか
⑧相手の反論、言い訳をきちんと聞くことができていますか
⑨ 話をするとき、態度・表情・語調・言葉にも気配りしていますか
⑩どんな人にも、きちんと聴くことができていますか
如何でしょうか。話す働きは、相手の従来からの言動を変え、新たな良さを創り出すお役立てなのです。だからこそ、「この人だから訊きたい、聴きたい」との人間味の信頼があります。そして専門力、実績の豊かさもあるのです。正に、話の味は人の味、その人だから話の価値があるのです。
確認します。「話すことは、相手の言動を変える事により、新たな楽しみ、喜びを生みだす働きかけです。その実効《話の効果)が、リーダーの想いを結実する原動力なのです。決して、話の上手を見せびらかす場でも無く、上から目線で指図する楽しみではありません。
◆伝わる話し上手のコツ
時に「話がきちんと伝わっていない、誤解されることもあります、一所懸命話していますが旨く伝わっていない事があります」・・・耳にする言葉です。今回の受講者からも出されました。それでは、伝わるプロセスを確認して観ましょう。まず、
①伝わる相手の反応
· 当方の主張内容がわかる(理解する)
· なるほど、そうだと思う(納得する)
· 当方の気持ちがわかり、自分もそう感じる(共感する)
という過程をたどり、実践が成されます。ここで肝心なことは、
②どう話すかの前に、どう聞いて頂くかを考える
まず、相手のことを知ることからです。それは、
理解レベル・体験・年齢の特性、職責、仕事のキャリア、聴き手との親疎程 度、時には、相手部署・企業様と自職場・社との好感状況があります。
ですから、この聴き手を分析を無精し、一方的に話しても、「わかりません」「私なりにわかった」「難しい」「興味がないことだから」・・などとの現実があります。
従って、どう話すかの前に、どう聞いて頂くかをまず考え、相手の特性を把握し、対応した話し方を工夫する事です。
「わかった」「わからない」の決定は聞き手にある。」この事が相手との関係での原則です。こちらが、あれだけ話したのにとの言い方は、単なる話し手の一方的努力であり、自己満足に過ぎないのです。
◆伝わり、好感持たれる話し方の5つの基本
しかしながら現実には、うまく話せなかった、途中でパニックになった、そして、話した後にも正しく伝わらなかった・・との自省があリます。この自省が上達を生む宝なのです。筆者が30年余指導・支援している「話し方教室」があります。月1回の開催ですが受講者は、5年~20年と継続受講しています。学び法は、スピーチ演習中心で、即題、自由テーマ《各自が用意した2分から5分のスピーチ)です。
サポートは各自のスピーチ毎に筆者が丁寧にコメントします。その秘訣は、受講当初からのプロセスを踏まえた成長ポイントを明解にいたします。それは、「うまくいかなかった」「なぜ」「ならばどうする」と話す事への改善に生かして来た実体験が、やがて、良き話し手に成長している確認でありさらなる成長の秘訣だからです。
その、成長のサポートの軸は、次の5つです。
①筋道作りのコツは=テーマに対して「こう思う」と主張し、「なぜならば」と根拠・理由付け、「だからこうです」とまとめる。=単純明快な話となる
◆序論 挨拶 自己紹介 (名のり) テーマ紹介、
◆本論 内容 3点あります。
○こう思う(主張点)、
1.(まず)・・・2.(次に)・・・3.(そして)・・・
○なぜならば(根拠付け)←(話題・資料・もの活用)
○だからこうです(主張と)結び付ける
◆結び 以上で・・・(テーマに戻る)、挨拶 お聞き頂きありがとうございました
*時間と主張点(項目数)と話題(根拠・裏付けのネタの数)で調整する
*根拠付けの話題は、体験談、資料、聴いた話、情報・データー・・・
②わかりやすく話すには=これには、聞き手が理解できる言葉、聞き手の身近にある話題を活用。そして、ゼスチャー、現場、データー、実物の活用・・・
③簡潔に話すコツは=簡潔な話しとは要点をついた話。そのコツは、見出しを付けること。例えば 一つ目は、二つ目は、三つ目は。そして、センテンスを短くする配慮。それは、「です。」「ます。」で区切り、間を創る。
④感じ良く話す心得は=まず表情は笑顔。聴いていただく感謝の心が微笑みとなる。聴き手との「笑顔は人と人の架け橋」。そして態度。人は耳で言葉を聞きながら目では話し手の態度・姿勢を観ている。それは、態度には人間性がでる。
⑤言葉の活用のコツは=2つの調和。一つは、相手の理解レベルに対応した言葉の活用。そして、相手の心に調和する敬語的言葉の活用。それは社会的見識に基づく年齢、職階、相手と自身の立ち位置に留意。
です。即ち、 理解し、納得し、共感得られる伝わる話というのは、筋道がすっきりし、わかりやすい、感じの良い言葉、話しているときの 態度、スピード・声・目配りを生かした話し方です。 勿論。好感持たれる人間味です・いやな感じの人の話は聴きたくない・・・これが現実です。
◆本気で話すその熱心さが聴き手の心に刺さります
筆者は時に、熱血講師と称される事があります。その所以は、喜劇王と名をはせたエノケンさん《故榎本健一)からの話す態度による教化(教えによる感化)にあります。そして、話す力は、この「本気で話す熱力が聴き手の心を動かすのです」と指導の糧としているのです。そのエノケンさんの教化の場面を紹介いたします。
「昭和44年。当時私が師事していた「話し方」の大家・江木武彦言論科学振興協会理事長との対談の直後のできごとである。ご存じのとおりエノケンさんは、五体満足で舞台の生涯を閉じた人ではない。片足をモモから失い、義足で舞台を務めた不屈の喜劇王である。この対談のときも、義足のエノケンさんのあたたかさとユーモアにあふれ、心から笑い、楽しい時間があっという間に過ぎた。一区切りついて、司会者から、「せっかくの機会ですから、榎本先生に直接、質問をいただきたいのですが・・・・・・」と会場へ向けて声がかかった。さっと手をあげ、一人の紳士が立ち上がった。
「私は外科の医師をしております。患者さんには、手、足を不自由にした人がたくさんいます。退院近く『これからの人生を明るく生きてください』と話すのですが、一様に『手足が不自由となっては、もうダメ・・・・・・』と暗い顔をする人が多いんです。先生は片足を切断され、義足とうかがっております。しかし、あの動きの多い舞台を見事に務められ、観衆に笑いと楽しさを与えています。先生!!片足をなくされてからの気持ちの切り換えと、その後の努力ぶりについて教えていただきたいのですが・・・・・・」と真剣に、まさに訴えるごとくの質問である。
うなずいて聞いていたエノケンさん、それまで机のマイクに向かって話していた席をやにわに立上がり、なんと、舞台の中央まで義足の足をひきずって歩き始め、「おっしゃる通り、片足はこのモモのつけねからです。でも歩けましたよね。座ることだってできるのです。やってみましょう」。次の瞬間、土足であがる舞台に、義足を伸ばし、折りまげ、必死に座り込むのであった。「ほら、座れましたね。立つことだってできるかも・・・・・・」。
さらに立ちあがろうとする。エノケンさんの闘いが続く。しかし、なかなか立てない。たまりかねて、江木先生がかけ寄った。「先生お手をどうぞ」。「いや、わたし立ってみせますよ。きっと立てますよ!立てるんですよ!」。顔をゆがめ、口をキッと結び、義足の足に手を添え、時には体をふるわせ、ついにエノケンさんは立ち上がったのです。
「ほら、立てましたね。私も片足なくしたときには、もうエノケンもだめだと思った。何回か自殺もはかったこともありました。でも、ふっと自分の体をみつめ直してみると、目が見え、耳が聴こえ、口もきけ、両手もあるじゃないですか。私よりもまだまだ不自由な人はたくさんいる。しかも、心豊かに人生を生き抜いている人はいっぱいいるじゃないか。『なんだ、片足一本ぐらい。残された体を生かし、より一層喜劇をきわめてみよ!』と自分の胸に叫んだとき、パッと明るい光を見いだしたのです。この義足は、私が考え、作ったものです。いずれは、これで舞台を跳びはねてみせますよ・・・・・・」。こう、心から話されたエノケンさん、またまた片足をひきずり、自分の席に戻ったのである。
会場はシーンと静まりかえり、ハンカチを目にあて、すすり泣く声さえ聴こえる。不自由な体をさらけだしてでも、真剣に応えていったエノケンさんのすさまじいまでの話す姿勢にこらえ切れない感動であった。
私も涙した。そして、右頬に「おまえは五体満足でありながら、持てる力を精一杯だし切って話に向かっているか!!」とビシッとビンタをくらい、左頬に「おまえは人にどれだけ心温かく“本気で心の通わせ”をしているのか!!」とバシッと返しのビンタをくらったような衝撃を覚えた。以来、自分が安易に流されそうになるたびに、この情景を思い起こし「エノケンさんのあのときの姿を忘れたのか!!」と両頬をビンビン打ち、心にカツを加えるのです。」
いかがでしょうか。話す力は、この本気で話す熱力が聴き手の心に刺さり、言動を変えていくのです。従って、単に巧みに話す事ではなく、例え訥弁でも、どもってでも、時につかえても本心から話す姿勢が聴き手の心を動かし、実践されていくのです。
A会長始め、明朗なる受講者との学び合い後、「やはりライブの研修は良いですね」「楽しく話す事の基本を確認できました」「筋道の立て方がわかりました」「聴き手にわかって頂く工夫が第一としていきます」「私なりの素直な話し手として先生の様に熱く話します。」・・と笑顔での言葉がけは喜びでした。
この時期、新たな想いでの組織活動がスタートしています。その成功は、リーダーの本気、本物の実践力に不可欠な話す力が決め手です。ちなみに、「お役だてを楽しむ話し方の極意」のセミナーも各所で指導を成す昨今です。上に立つ人だからこその、話す力の磨きに今回の日誌がお役に立てば幸いです。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/