【真田幸光の経済、東アジア情報】
タイにおける中国本土に対する不信感と不満
真田幸光(嘉悦大学副学長・教授)
最近では、日本国内でもメンテナンスや工事の手抜きもあるのではないかとの見方もあり、心配していますが、こうした傾向は、中国本土にはもっとずっとたくさん見られているとの見方が国際社会の中ではかつてよりあります。
こうした中、本年3月28日に起きたミャンマー大地震の際、タイ・バンコクのチャトゥチャック市場付近に中国本土企業を中心にして建設中であった30階建ての会計検査院新庁舎の建物が脆くも崩壊したことで、タイ国内では、
「中国中鉄工程グループの中鉄十局が建設していたこの建物は、骨格の工事が終わった状態で内・外装の工事に着手していたが、地震の揺れで砂上の楼閣のように崩れ落ちた。
バンコクには高層ビルが立ち並んでいるが、建物全体の95%は今回の地震に耐え、残りの建物も部分的な被害に受けたに留まった。
地震の規模はマグニチュード7.7であっが、バンコクは震源から1,000キロ離れていて、震度は3~4程度と軽微であったが、中国本土企業が建てていたこの建物が唯一崩壊した」
として中国本土に対する不信感と不満が庶民の中には高まっているようです。
公示をしていた中鉄十局は中国本土有数の国有企業であり、中国本土国内では、
「習近平国家主席が提唱、肝いりで推進している一帯一路政策の尖兵の役割を果たしてきた企業である」
とされており、タイが2017年に一帯一路に参加すると、2018年には直ぐにタイに進出し、インフラ施設や官公庁など13件の政府発注工事を受注しているようです。
一帯一路プロジェクトで海外に進出した中国本土国有企業は、何度も手抜き工事で問題になっていたと言う声がやっとここに来てタイ国民から出てきているようです。
そして、タイ国内をはじめ、各国では、
「昨年11月にはセルビアの鉄道駅でコンクリート製の屋根が崩壊し、16人が死亡、2017年にはケニアで施工中だった橋が崩れ、20人余りが負傷、2016年には南米・エクアドルであ建設した水力発電所は1万7,000カ所以上の亀裂が生じ、エクアドル政府が施工業者を提訴した。
一帯一路は手抜き工事を輸出しているとまで言われている」
との声が改めて示されているのであります。
タイではまた、今回の工事で、骨格に使われていた鋼材に問題があったという見方も出ています。
崩壊現場で鋼材標本を回収して調べた結果、2点の標本が品質基準をも満たしていなかったとここに来て指摘されているのであります。
鋼材を納品した業者はタイ現地企業ですが、大株主が中国人ということで、タイ国民からは、
「中国本土に対する不信感と不満」
が示されているのであります。
果たしてこうした中、タイ政府は中国本土との外交姿勢を修正していく動きを示すのか、このまま、どちらかと言えば親中姿勢を示し続けるのか注目したいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。84年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支店等を経て、1998年から愛知淑徳大学学部にて教鞭を執った。2024年10月より現職。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メンバー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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