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中国のカンボジアとの親密さの演出(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
中国のカンボジアとの親密さの演出

真田幸光(嘉悦大学副学長・教授)

カンボジアはここに来て経済も安定、政治的な権力集中の問題も沈静化し、国家の発展に向けた体制が整いつつあると見られています。
また、そうしたカンボジアの発展、安定の背景には中国本土の支援もあるとの見方が強いことも間違いありません。

こうした中、今春、中国本土の習近平国家主席はカンボジアを訪問、国賓晩さん会に招待され出席し、カンボジアの、
「国民の妹」
と呼ばれるノロドム・シハヌーク前国王のひ孫に当たりジェナ王女がサプライズ参加したと伝えられました。

ジェナ王女はカンボジアでアイドル顔負けの人気を誇っている13歳の少女であり、晩さん会では、王女は自らマイクを握ってステージに上がり、中国語の歌を披露したと伝えられました。
中国本土との連携の深さを改めて示す光景でありました。
習近平国家主席は、米国の関税に対応する中国本土とカンボジア両国の協力策について話し合う為、2016年以来となるカンボジア訪問を行っていた中の出来事でありました。

中国本土に対して高率の関税を課した米国は、中国本土製品の迂回輸出国として想定されることなどを背景としてカンボジアに対しても49%という相互関税を予告していました。
 
ジェナ王女は、専用機でプノンペン国際空港に到着した習近平国家主席をノロドム・シハモニ現国王やフン・マネット首相と共に出迎えもしています。
香港メディア「Bastillepost)」によると、スカートスーツ姿のジェナ王女は幸運のシンボルである伝統の花のブレスレットを習近平国家主席に渡し、流ちょうな中国語で、
「お会いできて光栄です」
と歓迎の挨拶までしたと伝えられています。
 
これについて、
「東南アジアを代表する親中国家のカンボジアは、中国との文化的な繋がりを強調する為、ジェナ王女の人気を利用している」
という見方もあり、更に、優れたダンスの実力や歌唱力により東南アジアで人気が高いジェナ王女は、自身の交流サイト(SNS)のフォロワー数が「TikTok(ティックトック)」290万人、「フェイスブック」259万人、「ユーチューブ」91万人に達する人物であり、2023年には中国本土中央テレビにも出演してカンボジアの伝統公演を披露し、中国でも知られるようになっている人物であり、こうした政治利用は今日はじまったものではないとの見方もあります。
 
ジェナ王女は更に、上述した国賓晩さん会で中国語の歌を歌い、習近平国家主席ら一行を笑顔にしたとも報告されています。
因みに王女が歌った歌は中国本土・山東省にある山の美しさを讃えるものであり、中国本土を代表する愛国民謡であったそうです。

そして、この歌は、何と、習近平国家主席の妻であり、歌手である彭夫人の愛唱歌としても知られていることから、にくい演出でもあったと言われています。
また、ジェナ王女の父親はフランス人で、3歳までフランスで育ち、カンボジアに来てからもインターナショナル教育を受けてクメール語(カンボジア語)だけでなくフランス語、中国語なども堪能であると言われていいます。

今年初めにはカンボジア・ミャンマー合作映画にも出演し、カンボジア国内の映画祭で最優秀新人主演女優賞を受賞するなど、女優としても活躍、台湾メディア「三立新聞網(Sanli News Network)」は昨年、
「ジェナ王女はアイドルとしてデビューする為、韓国行きも検討しているのではないか」
との観測報道もしていました。
 
王室の政治利用、カンボジア政府も巧みな動きを示しているようであります。

 

真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。84年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支店等を経て、1998年から愛知淑徳大学学部にて教鞭を執った。2024年10月より現職。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メンバー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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