武者陵司のストラテジーブレティン vol.99
サナエノミクス、日経平均10万円が視野に
~高市氏は長期政権となり安倍改革を成就させる~
武者陵司((株)武者リサーチ代表、ドイツ証券(株)アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー)
Q)高市氏が自民党総裁に選出され、日本初の女性首相が生まれます。株式市場はそれを歓迎して棒上げ状態です。この相場をどう考えればよいでしょうか。
息長い長期上昇トレンドが見えた
武者)まず日本株式の長期上昇トレンドに弾みがつく可能性が高いと考える。2012年12月の第二次安倍政権の成立により日本株式は長期上昇トレンドに入った。直近までの日経平均は起点をどこにとるかによるが、年率10~13%成長である。この趨勢が続くと考えれば、10万円には2031年か遅くとも2033年に到達、2035年には12万から16万円に達すると計算される。
Q)何故アベノミクス以降の上昇相場が続くと考えられるのでしょうか。確かに高市氏は安倍政権の後継者と自他ともに考えられていますが。
アベノミクス成果大、唯一政策の誤りで消費停滞を解決できず
武者)アベノミクスが道半ばで目的成就できていないのは、ひとえに政策の誤りにある。目的未達とは企業の稼ぐ力が完全復活し、株価は4倍になり、税収も大幅増収が続いているのに、個人の生活水準は、長期低迷を余儀なくされていることである。実質家計消費は10年前のピーク比マイナス状態が続いている。原因は税の取りすぎにある。「税と社会保障の一体改革」の美名のもとで、国民負担率は2011年の38%から2022年の48%まで乱暴なほどに押し上げられた。ようやく実現した賃金上昇もインフレに追いついていない状況の下で、税負担増が消費を直撃している。他方インフレにより税収は恒常的に大幅に上振れを続け、日本の財政赤字(対GDP比)は2025年1.8%(OECD推計)とG7で最良となっている。他方税負担増による消費圧迫が最大の原因となり、日本のGDP成長率はG7で最低まで押し下げられている。IMF経済見通しは2024年は米の2.8%、ユーロ圏の0.9%に対して日本は0.2%、2025年は米国の1.9%、ユーロ圏の1.0%に対して日本は0.7%となっている。
高市氏の使命、政策誤りの是正
高市政権はこの残された課題に手をつける。つまり政策の誤りが正されることが、見えてきた。今後日本経済は消費主導で成長率を高めるだろう。既に積極財政路線や減税の障害となってきた自民党税調会長宮沢洋一氏の退任が決まった。
Q)企業利益は順調、武者リサーチは株価は超割安と説明してきました。これだけの好条件がそろっている中で、唯一政策だけが正しくなかった、と言うことですね。政策を除けば長期株高の条件が揃っているとは、なんだか都合よすぎるようにも聞こえます。
反アベノミクス派が、アベノミクス成就の障害に
武者)話がうますぎるように聞こえるのは、安倍首相によるアベノミクスが最も困難な企業の稼ぐ力を取り戻し、外国人投資家から非難されていた企業統治・コーポレートガバナンス改革を成し遂げた。アベノミクスは一番難しいことを成し遂げたのに、政策の邪魔が入った。政権発足時の「税と社会保障の一体改革」の約束に縛られ、社会保険料引き上げと2度の消費税増税を余儀なくされ、消費の回復までは実現できなかった。
アベノミクスを批判してきた人々(財政健全化路線堅派、黒田日銀による異次元金融緩和に反対した経済論壇の主流派)が実はアベノミクスの完成・成就を阻んできたのである。東大名誉教授吉川洋氏は「大規模緩和は全てが間違い」(1/11朝日)、井堀利宏元東大教授は「危機的な財政状況を直視せよ」(8/8日経)との論文を発表し、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いという石破発言を正当化した等、日本経済を貶めてきた。
Q)財政健全化を主張する人々は、金利上昇が心配だと言います。2022年イギリスでは
積極財政がトリプル安を引き起こしました。日本の長期金利も2024年初0.6%、2025年初1.1%、2025年10/9日1.7%と急騰しています。
巨額貯蓄超過・経常黒字の日本にトラスショックは起きようがない
武者)イギリスのトラスショック(2022年9月トラス新政権の大規模な財政出動が金利上昇、通貨安、株安のトリプル安を引き起こし政権が短命に終わったこと)の再現の心配は全くない。イギリスと日本とは事情がまるで逆である。トラスショックは、①長期にわたる大幅な経常収支赤字かつ対外純資産マイナス、②ロンドンの国際金融センターとしての地盤沈下・資本流出、③景気過熱と高インフレ、と言う土台の下で、大規模な財政出動が打ち出され、市場が反乱を起こしたもの。日本は①~③はまるで逆、むしろ巨額の貯蓄余剰・経常黒字が続いている。日本の金利上昇はデフレ脱却と日銀の利引上げによるもので、健全な金利上昇と言える。
金利上昇と株高の並行、Golden 50s、60sの米国に類似
比較するべきは1950~1960年代米国の金利上昇である。デフレから成長経済に移行し長期金利が緩やかに上昇する過程でアニマルスピリットが高揚し、株価の長期上昇が続いた。大幅な負のイールドスプレッドは縮小した。日本でも金利上昇と株高による益回りの低下が続き、負のイールドスプレッドは大きく縮小していくだろう。レポート末尾図表11の日米株式益回り、国債利回りとイールドスプレッドの推移を参照されたい。
Q)高市政権は少数与党であり沢山の政策遂行上の障害があります。乗り越えて行けますか。
高市氏に3つの勝算、国民の支持、市場の支持それと・・・
武者)財政健全化路線を堅持したい自民党反高市グループや与党の公明党、立憲民主党は高市氏の政策転換に抵抗するかもしれないが、高市氏の勝算は大きい。第一に国民世論の支持がある。積極財政、成長優先政策は、先の参院選での国民の強い声であり、それに答えた国民民主党、参政党、日本保守党の改革派保守3党が勝利し、それに背を向けた既成政党、自民、公明、立憲民主が敗北した。但し改革派保守の各党は政権担当能力に疑問があり政策の実現が危ぶまれる状態にあった。高市政権の誕生により、政権党自民党のアジェンダは財政健全化路線から積極財政路線へと大転換する。改革派保守の3党の協力を得て、政策実現の可能性が高まる。
第二に市場の支持がある。財政健全化路線は、決定的に重要な市場も支持しない。過去政権誕生時の株価の反応は二つに分かれる。金融所得課税を打ち出した岸田氏、財政健全化路線を主張していた石橋氏の政権発足時、株式市場は大幅下落で反応し、厳しい財政スタンスの緩和を余儀なくされた。それに対して第二次安部政権発足時には、日経平均は半年で73%という急騰を見せ、安部氏の政策(アベノミクス)遂行を後押しした。株式市場の支援がなければアベノミクスは頓挫していただろう。今年の各国相場にも政策への評価が現れている。韓国相場の急騰、年初来47%、李在明政権成立(6/4)以降28%上昇、ドイツも積極財政に転換したメルツ政権成立(5/8)により好調である。
巨額の隠れ資産の存在
第三に巨額の隠れ資産がある。税収の大幅上振れに加えて、
1)GPIFの巨額運用収益累計166兆円(2025年6月末)、
2)外為会計保有の米国国債為替益推定46兆円(取得コストが110円とすれば150円で)、
3)日銀ETF保有含み益48兆円(ニッセイ基礎研井出氏による9/19日時点での推計(日経9/20)、 である。
これらは全てアベノミクスによる成果であり、高市氏の政策推進の原資に充当できる。このうち外為特会の為替益、日銀保有の含み益は、防衛・国土強靭化・研究技術開発などに何にでも使える。GPIFの累積運用益も年金改革(大幅な給付の引き上げ)に利用可能であり国民福利に還元できる。アベノミクスは円安株高以外何ももたらさなかったと批判派が投げつけてきた非難が、いかに的外れであったかがわかるだろ。
Q)株高が高市政権を成功させ長期政権をもたらすと言うことですと、まず株高ありき。株高にならなければ高市政権は失敗するということにもなりますが。
株式市場は成長政策を支持する
武者)そこがポイントだ。高市氏の政策が株価を押し上げ、経済と国民生活を成長させるのか否かが、一番大事な点である。高市氏を批判してきた人々が主張してきた緊縮政策は経済成長を抑制し株価の腰を折り続けてきた。今後アベノミクス批判、高市政策批判をする学識者、メディアの議論の誤りは、株高と経済成長によって、明らかにされていくだろう。
悲観論・増税路線 vs.楽観論・減税路線の勝負はすでについている
財政健全化路線を主張する財務省やそれに同調する学者、メディアは「少子化とデフレで日本の将来は厳しい、その中で年金や健康保険などのサービスを続けるためには、増税・高負担が必要である」と主張した。先行きが暗いのだから増税を受け入れよ、と言われて消費者はますます委縮して消費を削ってきた。しかしうれしい誤算が起きた。日本はデフレ脱却し企業も儲かり、税収は見積もりを大幅に上回り続けている。税金の取り過ぎが起きたのである。
日本経済の将来は明るく、増税しなくても税の増加が続き年金や健康保険は安泰と言う楽観論への切り替えが必要である。減税すればさらに消費は増え、税収も経済成長の高まりによってむしろ増えていくことが見込まれる。そうした楽観論は株式市場が歓迎するもので、株価を押し上げていく。
Q)トランプさんが高市さんにエールを送りました。10月末にも訪日するようです。日米関係の好転は好材料になりそうですね。
世界から歓迎される高市氏
武者) トランプ氏は「深い知恵と強さを持つ尊敬される人物だ」と評した。その上で「日本の人々にとって素晴らしいニュースだ。おめでとう」と祝意を示した。高市氏はトランプ大統領、ベッセント財務長官が深く敬愛する安倍氏が推した次期リーダーであり、そのナショナル・コンサーバティズムに立脚した心情とは相性が良い。
Q)政策転換、株高と良好な日米関係の3つが揃えば、高市政権が長期政権になる展望も開けてきますね。心配があるとすれば、それは何ですか。
少数与党の関門をどう乗りきるか
武者)減税・株高・経済成長に至るには通らなければならない関門がある。少数与党である以上野党との協力が不可欠だが、公明党が高市自民党との連立に難色を示している。まず野党とどう連携し政策を遂行するためには障害を乗り越えなくてはならない。公明党や自民党反高市派の妨害で、暗礁に乗り上げれば、一時的には株価にもショックを受けるかもしれない。周到な高市政権の船出が望まれる。
他方それをクリアできれば、図表9に見る第二次安倍政権発足時のような、強烈な株式ブームが起きるかもしれない。
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