【特別リポート】
2025年、雨の渋谷ハロウィン
日比恆明(弁理士)
今年も10月31日が巡り来て、ハロウィンの季節になりました。特に、今年は11年ぶりにハロウィンが金曜日になるため、渋谷には例年以上に沢山の来街者(劇場ではないので来場者とは呼べず、こんな表現となりました)が集まると予想されました。このため、警察、渋谷区では万全の防御を実施するため、警察官数百名、警備員125名、区役所職員90名を配置して対応することになりました。
区役所が用意した警備予算は6800万円となりました。警察による警備費用は公表されていませんが、翌11月1日午前中まで警備したとすれば1億円はかかったでしょう。渋谷駅前では、野次馬を含めた大勢の来街者を迎え打つため、万全の準備でハロウィンの日を待ち受けていました。

写真1
昨年に続いて今年も、ハチ公前の広場には鉄枠が仮設され、鉄枠にはポスターが貼られて広場は目隠しされていました。ポスターは「禁止だよ!迷惑ハロウィーン」の標語が印刷されていました。昨年のポスターは「渋谷はハロウィーンをお休みしています」で、一昨年は「渋谷はハロウィーンイベントの会場ではありません」で、2020年は「今年のハロウィーンは外出自粛モードで安全に!」の標語でした。毎年のように標語を変えていますが、優れたコピーライターに依頼しているのでしょう。
30日に天気予報が発表され、31日は午後から雨になるということでした。当日の午前中は薄曇りでしたが、午後4時頃からポツポツと降りだしました。この頃はまだ秋雨といった細かい雨粒で風情のあるものでしたが、時間の経過と共に雨足は強まり午後6時には本格的な降雨となってきました。写真2は午後7時20分の渋谷スクランブル交差点を撮影したものです。路面には雨水が溜まり、周囲にあるビルのネオンが反射してキラキラと光っていました。このような光景は、同じ傘の下で恋人と肩を寄せて歩くには風情があるでしょう。しかし、ハロウィンという屋外のお祭りには全く向かない環境となってしまいました。

写真2
今まで渋谷のハロウィンを取材してきたのですが、こんな雨の日に出会うのは初めてでした。過去の天気を検索してみると、10月31日は晴れか曇りの日ばかりでした。唯一2021年は雨天でしたが、パラパラとした小雨程度でした。ハロウィンの日に異常な大雨になるといのは、今年の猛暑の影響があるかもしれません。今年は9月になっても真夏日が続き、10月になっても真っ青な秋晴れの日はありませんでした。夏から急に晩秋となったような感じがします。こんな異常気象が続くと、来年のハロウィンも大雨になりそうです。

写真3
時間と共に雨足が強まり寒くなってきたため、例年に比べて来街者の人出は格段に減少していました。写真3は本年に、写真4は2023年に、それぞれ渋谷109の2階から渋谷駅方面を撮影したものです。写真3では傘が反射して光っているため、大勢の群衆がいるように見えますが、傘と傘で人が離れているため、密集度はスカスカなのです。2年前の密度に比べると5分の1以下ではないかと推測されました。

写真4
渋谷区役所の発表によると、今年の渋谷ハロウィンの来街者数は昨年の4分の1となり、ピーク時のセンター街で4千5百人であった、とのことでした。しかし、この集計には問題があり、どこまでがハロウィンの場所であるのを特定するのが難しいのです。道玄坂、文化村通り、井の頭通り、更には公園通りまで含めるともっと多くの来街者がいたのではないかと思われます。
また、歩いている人の全てがハロウィンを目的にしているとは限らないのです。周囲にあるオフィスビルから仕事帰りで歩いている人もいれば、電車の乗り継ぎのために歩いている人もいるのです。こうした条件からすると、区役所発表の「4千5百人」という来街者数の信憑性が薄れていくようです。本当の来街者の人数はだれも計測できないでしょう。
大雨になったことから、今年のハロウィンでは仮装をしている来街者の人数が極端に少なくなっていました。正確に集計した訳ではなく、渋谷の通りを歩き回った感じでは、仮装している人は百人に1人か2百人に1人かの割合ではないかと推定されました。当然のようにこんな雨の降る中に、化粧をして、仮装してくるような酔狂な人はいないのです。雨に降られれば化粧が溶け落ちて、顔がベトベトになります。薄地の化繊を縫製した衣装は、水に濡れると身体に張り付き、みっともない恰好となるのは必然だからです。
テレビのニュースでは、渋谷の通りを歩く仮装した人達を映し出していました。この映像を観ると、今年も渋谷は仮装した人達で盛況なのだ、と信じてしまいます。しかし、これは映像の切り取りによる錯覚なのです。テレビ局のクルーはたまに見かける仮装者だけを撮影し、それらをつなぎ合わせただけなのです。とにかく、今年のハロウィンでは仮装者を見つけ出すのが大変でした。
では、渋谷の街路に集まった人達は何をしていたのでしょうか。皆様、傘をさして、雨の降る夜道をただ歩くだけでした。こんな散歩でも何か楽しいことがあるのでは、という期待感があったのでしょうか。

写真5

写真6
さて、仮装している人達を観察すると、大部分が外国人でした。比率からすれば、外国人と日本人は8対2の割合ではないかと思われました。なぜ日本人が少なくのかと考えると、日本人なら「来年もハロウィンはあるから、今年は雨なので仮装は止めよう」という気分になったからと思われます。外国人であれば、「このハロウィンを目的にして日本に観光旅行をしたのだから、仮装しなければ目的達成できない」という信念にとらわれたためでしょう。
また、外国人の中でその6割以上の人は中国人と思われました。これは、中国本土では仮装して練り歩くような行動が政府から規制されているからと思われます。日本であれば羽目を外して騒いでも、中国の公安から拘束される恐れがないからでしょう。何れにせよ、渋谷ハロウィンは日本の若者向けではなく、外国からの観光客のために実施されるようなりました。
仮装して路上を歩くと衣類が濡れます。しかし、雨を避けるために傘をさすと写真写りが悪く、全くさまになりません。雨を避けることができる場所があれば一番便利です。そんな場所が道玄坂にある「渋谷109」でした。このビルの入口にある広場は左右に開いていて、大きな屋根が張り出しています。仮装者はここを目指して集まっていました。1階の入口はホールのように広いため、ここで記念撮影をしていました。

写真7

写真8
この日に雨が降ることを予想したのか、西武渋谷店が並ぶ井の頭通りにあるビルでは、駐車場の入口を借りてカフェが臨時に開業していました。仮設のカフェは外部に開放されているため、仮装者が雨を避けて集まっていました。しかし、日本人の来街者がわざわざカフェに入ることはないため、店内で休んでいるのは外国の観光客ばかりでした。

写真9
こうして、仮装者達は雨を避けるため、屋根のあるビルの入口に集まっていました。しかし、ビルの運営者(特に営業している店舗)にとって、雨宿りのために来街者達が入口に集まってきては商売が上がったりになります。このため、各ビルでは自衛策を実行していました。写真9はドン・キホーテ渋谷店の出入口です。ここでは係員が待機していて、顧客を丁寧に案内していました。要するに、出入口に来街者がたむろされては困るため、係員が雨宿り目的の人達を追い出していました。なお、ビルの1階に入口がある商店や飲食店では、この日は休業して入口を閉鎖していた店舗もみかけられました。
写真10
ごく少ない人数ですが、凝った衣装でハロウィンに参加している人達を見かけました。写真10は「クエルボ1800」というメキシコのテキーラの瓶を模した仮装をしていた人です。実際に販売されている瓶は台形をしているため少し違っていますが、段ボールでほぼ原型に忠実なデザインにしていました。この人がなぜテキーラの仮装をしているのか不明です。テキーラの宣伝のためであれば、チラシなどを配付するのでしょうがそれもありません。単に好きなお酒の瓶だから、という理由からかもしれません。
写真11

写真12
写真11は派手な電飾をした男性ですが、昨年も同じ衣装で見かけたような記憶があります。この他にも、LEDランプを大量に使用した明るい仮装をする人も見かけました。電飾した衣装は、価格が高くなるためコスプレとしては販売していないようで、ほぼ全てが自作のようでした。
写真12は白熊と虎の仮装をした人です。コスプレの通販をネットで検索したのですが、この白熊と虎の衣装は販売していないようでした。自作か特注のようでした。今年の仮装を観察すると、出来合いの安い衣装はほとんど見かけられませんでした。つまり、通販や量販店で簡単に入手できる、3、4千円程度の安物の衣装でコスプレした人は極めて少なかったのです。これは雨と関係があるようです。安価な衣装を着てまでしてハロウィンに参加するのは無駄と判断したのでしょう。それに比べ、自作したか特注で入手した高価な衣装を用意した人達は、雨に濡れてでも出掛けようと強い意思を持っていたのではないかと思われました。何れにせよ、今年のような悪条件の天気の中で仮装してまで渋谷に来る人は根性があるようです。
写真13
こちらのグループは特に凝った衣装を着ているのではなく、中国の書記長「習近平」のお面を被っているのが特徴です。当然のように中国政府への当て擦りを表現しているのではないかと思われます。左側の男性の腰には「熊のプーさん」のマスコットが下げられていました。「熊のプーさん」は習書記長のあだ名なのです。全員が中国からの観光客のようで、中国本土ではできない政府批判のガス抜きのようでした。
写真14
毎年のように、ハロウィンでは若い女性によるきわどいコスプレが見かけられます。水着のようなコスプレで参加する女性もいて、それを目当てに来街する人も多いようです。しかし、今年はきわどいコスプレはほぼ全滅でした。雨が降って肌寒いため、露出の多い衣装では風邪をひくことになるからでしょう。

写真15
毎年のように公道には派手な車が走行しています。写真15はタイ国で使用されている三輪自動車トゥクトゥクで、コスプレしている二人は外国人のようでした。この他にも、キーンという独特の金属音が特徴のフェラーリも複数見かけられました。何もこんなに混雑した日にわざわざ渋谷まで運転してくる必要も無いのでは、と思うのですが、高級車の持ち主としては車を持っていることを自慢したいのでしょう。
この日、私は午後6時から9時の間、渋谷の街路を彷徨してきました。雨に降られ、上着はビッショリと濡れ、寒いハロウィンでした。私が渋谷に到着した午後6時の降雨量は時間2mmでしたが、渋谷を離れた午後9時頃には5.5mmとなっていました。その後、午後11時になると降雨量は10.5mmとなって本格的な大雨に変化していきました。私が去った後の渋谷で滞留していた来街者達はどうなったでしょうか。多分、ずぶ濡れとなり、散々なハロウィンを体験されたのではないかと思います。来年もこんな天候であれば、渋谷に集まる人達が激減し、ハロウィンも下火になるのではないでしょうか。