【真田幸光の経済、東アジア情報】
韓国の中国本土侮辱処罰法について
真田幸光(嘉悦大学副学長・教授)
韓国の与党である「共に民主党」の議員達が、特定の国や国民、人種を侮辱すれば懲役刑に処すと定めた法案を提出している。
代表で提出した議員は、
「最近は中国本土に対するヘイト(嫌中)集会の参加者たちがヘイト発言を乱発し、不正選挙に中国本土が介入したなどと虚偽の内容を訴えている。」
と主張した。
事実上の、
「中国本土侮辱処罰法」
を制定するという動きが見られていると韓国の国内一部では捉えられている。
この法案では、処罰は最長で5年の懲役刑となっている。
共に民主党は更に、
「学校周辺でのヘイトスピーチやそれを助長する横断幕設置を禁じる法案」
も準備中であるとしている。
韓国では、ある団体が中国本土国旗と習近平国家主席の写真を破るなど穏やかでない行動に出ており、当該団体は駐韓中国本土大使館の前で中国人を侮辱する歌を歌い騒ぎ立てたが、これも隣国に対する礼儀に欠けているとの声も出ている。
「不正選挙への介入」
などの誤解を主張し続けることもやり過ぎであるとの声もある。
しかし、韓国の憲法は表現の自由、集会の自由を認めている。
発言や集会そのものを禁じて処罰すれば、それは行き過ぎた法律となるとの声も一方である。
特定の個人に対する侮辱や名誉毀損はその判断基準が比較的はっきりしている。
しかし、どこかの国や国民への侮辱はその判断基準が明確でない為、韓国国内でも意見、判断が分かれている。
ここで、特筆すべきは、
「共に民主党はこれまで反米や反日のデモには何もせずむしろ政治的に利用してきた。」
との声が韓国国内にはあると言うことである。
かつては米国国旗を燃やし踏みつける集会も少なくなかったし、運動圏(左派の市民学生運動勢力)は反日デモを行い、共に民主党は彼らを後押ししていたことは事実である。
ムン・ジェイン政権当時は日本をあからさまに、
「倭寇」
と侮辱する単語を使いながら批判し、抗日歌曲の「竹槍歌」を歌っていた。
反米や反日には何もせず、嫌中に対しては刑務所送りにするのは以下下であろうかとの声がある点は注目しておきたい。
そしてまた、韓国国内には、
「韓国人が嫌中となるには、傲慢で無礼な態度を続ける中国本土にも責任がある。」
との見方がある点も注目しておきたい。
THAAD(在韓米軍の高高度防衛ミサイル)配備への報復として「三不」を強要し、西海の不法構造物で韓国の主権を脅かしているのは中国ほんどではないかとの声も出ている。
かつて駐韓中国本土大使は、
「中国本土の敗北に賭ければ後悔する。」
などと脅迫し、韓国の大統領候補がTHAADを擁護すれば「理解できない」と発言したこともあった。
外国大使が駐在国の選挙に事実上介入したとの見方となるのはこうした点にもあるという主張である。
習近平国家主席は韓国からの特使を下座に座らせたこともあったと伝えられている。
このように中国本土が韓国を侮辱しても共に民主党は常に沈黙していくのか、との声が出ており、韓国での上述した法案の行方は注目したいと思う。
尚、こうした動きを見るにつけ、日本も毅然とした態度を中国本土に対して示していかないと、
「日本は主権を持つ国家ではない。」
との認識が世界に広がっていく危険性が高いのではないかと筆者は危惧している。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。84年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支店等を経て、1998年から愛知淑徳大学学部にて教鞭を執った。2024年10月より現職。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メンバー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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