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国内問題の本質に迫る「供給側構造改革」 [ 第79回 ]

 このところ中国政府の政策文書は、「供給側構造改革」という言葉がやたらと強調されている。2016年12月の中央経済工作会議と、17年3月の全人代(全国人民代表大会)における李克強首相の政府活動報告、どちらも主題は「供給側構造改革」であった。

 

 「供給側構造改革」は改革という文字が入っているが、これはいわば産業政策に属するものである。これまでのように輸出や固定資産投資のような需要に頼る経済成長方式は不安定であるため、経済成長の潜在力を高める3要素、「労働」「資本」「生産性」の質を高めて新たな需要を生み出そうとする政策である。

 

 この政策は、15年の中央経済工作会議から強調され始めたもので、鉄鋼や石炭産業の過剰設備削減、住宅在庫の削減などの具体策が打ち出されたが、16年の同会議では、さらにゾンビ企業の整理、不動産市場の適正化、企業減税なども強調され、農業分野の供給側構造改革、イノベーション推進なども加わった総合的産業政策になった。

 

 今後の経済成長の持続性を担保する意味で極めてまっとうな政策であると言える。しかしこの政策を真に効果を発揮するものにするには、実は中国の多くの複雑な国内問題に手をつけなければならないのである。

 

 まず「労働」の改革。中国は既に生産年齢人口が減少に転じたため、政府は昨年「一人っ子政策」を2人まで可能な制度に緩和した。しかし中国の都市部では既に核家族化が進んでおり、さらに教育コストも高騰しているため、出生数の増加は当初想定の4分の1程度に留まっているという。

 

 また出稼ぎ労働者に対する公共サービスの不平等などを解消し、労働人口の流動を適正化するためには、長年の課題である戸籍制度改革に着手しなければならない。

 

 次に「資本」の改革。現在の中国企業の問題で最も深刻な現象は、国有企業の資本投資効率が際立って低いことである。05年ごろは、国有企業、民間企業、外資企業のROA(総資本利益率)は7%程度でほぼ横並びだったが、その後民間企業のROAは伸びて2桁になり、国有企業のROAはここ10年で3%程度にまで低下した。

 

 習近平改革では「国有企業改革」を最重要課題に据え、「混合所有経済化」つまり国有企業への民間資本参加を強く打ち出している。しかし中国では、特定の利益集団が膨大な既得権益を守るために抵抗し、また民間や外国の資本を注入することによる国有資産流出を問題視する意見も根強く、この改革はなかなか進まない。

 

 3つ目の「生産性」の改革について。中国では第1次産業人口が第2次、第3次に移動することで、これまでは労働生産性の向上が顕著であったが、最近は必ずしも生産性が高くないサービス業も大きく伸びており、全体としての労働生産性の伸びは低下しつつある。

 

 そこで政府が力を入れているのが新技術やイノベーションによる製造業の付加価値向上だ。ここ数年、「戦略性新興産業」や「中国製造2025」など重要な政策が出されている。しかし中国政府の意図とは裏腹に、補助金目当ての製造業が跋扈するなど負の効果も出ている。中国企業には、中長期的視点に立って研究開発投資を行うといった戦略が欠けている。市場の変化や価格競争が激しすぎるなど、国内市場の構造的な問題を解決していく努力も必要だ。

 

 「供給側構造改革」は、見かけは産業政策なのであるが、実は戸籍制度、国有経済、市場の健全化など中国経済や社会の本質的課題に踏み込まなければ実効性が出ない。それぐらい難しい改革に現政権が果たしてどこまで切り込めるのか、お手並み拝見だ。