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【清話会会員企業インタビュー】㈱ビー・エス・ケイ(増田辰弘)

増田辰弘が訪ねる  清話会会員 企業インタビュー ㉙

頑固な既存市場を情熱と馬力で新しい市場へと変革させる
全国で唯一快適な仮設トイレを市場に送り届ける
㈱ビー・エス・ケイ

■21事業に及ぶ多彩な事業内容

 会社の組織には文字通り100社、100様でいろいろな形態があるが、仮設トイレなどの製造、販売を行う㈱ビー・エス・ケイ(本社:大阪市、三谷彰則社長)もすこぶるおもしろい運営体制を取っている。
 それはまず事業内容の広さである。メインの仮設トイレに加えて、携帯トイレ、バイオトイレ、車載トイレの製造、販売を手掛けるほかに消臭剤、洗浄剤、凍結防止剤、不凍結関連の製造、販売、ほかにも建設機材、土木工作用保安用品、事務用品、建設物の設備販売、空気清浄機、厨房設備、衛生設備電気設備の販売設置、メンテナンス、各種イベント、展示会の企画、制作、運営、管理そして商業デザイン、グラフィツクデザイン、クラフトデザインの企画、制作、生ごみ処理装置、汚水処理施設、脱臭装置の販売など21事業に及ぶ多彩な布陣である。
 このほかにバイオトイレ、循環浄化システムトイレ、鍵装置などの特許も所有しており研究開発も盛んに行っている。
 一体この会社は何を考えているのか。それは同社の沿革から探るとよく分かる。
 同社のスタートは1992年に先代の社長で父である三谷治太郎氏がユニットトイレ:ビューティースカーレットを製造、販売したことに始まる。この商品は翌年にグッドデザイン賞に選定されている。しかし、この時にはまだ別の事業が本業であったためその7年後の2000年に同社が設立されている。
 その後、同社はバイオトイレ、消臭装置、コンパクトトイレなどさまざまな商品を開発、販売をし続けている。すなわち、もともとは仮設トイレの専業メーカーではなく後発メーカーである。
 三谷社長は、「うちの仮設トイレは値段も品質も世界でもトップレベルです」と言われるように、とても仮設トイレとは思えない完璧なトイレである。価格も高く1台50万円、75万円、100万円と他のメーカーの2倍から3倍はする。循環式バイオ水洗トイレに至っては1台2000万円もする。

■商品の仮設トイレを知っていただくことが最大の販売戦略

 ここでまず、一般の仮設トイレメーカーの商品を紹介する。おおよその価格は10万円~30万円、多くが和式で、軽くて運びやすい簡易的なものである。
 これは近所の建設現場などの仮設トイレを見てもらえれば分かるが、極めて狭くて臭くてとても長期間は使えない。せいぜい小便を足す程度でとても長期間、恒常的には本格的には使える代物ではない。これは仮設トイレメーカーがお粗末と言うよりも仮設トイレにはこれまであまりお金をかけたくないという市場の常識がそうなのである。
 能登半島の地震の折、㈱ビー・エス・ケイの仮設トイレを輸送するトラックが同業者により一時止められた。先に同社の仮設トイレが入ると、使い勝手の悪い他の仮設トイレメーカーの商品にクレームが入る可能性がある。
 これを避けたかったのだろうか? 避難所には高齢者も女性も子供もいる。旧態依然とした狭い和式のトイレで、臭いと時間が経てば避難者が疲弊することは目に見えている。 
 同社の仮設トイレが現地に入った際、これまでのものと違い、とても使い易いと感謝された。
 そうなのである。同社は小さいながらも仮設トイレ市場に革命を起こしている会社なのだ。しかし、改革者には守旧勢力という障害物はつきもの。彼らと時には戦い、時には協調して会社を経営して来たのが現実である。
 さて、これらの仮設トイレの利用場所であるが、第1は地震や台風の時の避難所、第2はマラソン大会や市民祭りなどのイベント会場、第3はビルや高速道路などの工事現場、第4が公園・キャンプ場などの公共施設、第5が農園・工場などの大規模施設、第6が災害時用の備蓄倉庫など、幅広く活用されている。時代が進み仮設トイレ問題を適当に処理をしておくという時代ではなくなってきたからだ。
 さて、同社の販売戦略であるが、東京マラソンや大規模なコンサートなどは避け、数十万人規模の所沢まつり、麻布十番まつりなどの中規模の事業に絞っている。それにしても東京支店には駐在員もいないのにどのようにして同社は営業をしているのか。これは三谷社長が東京に出張ベースで営業している。同社の商品は他社メーカーの2倍くらいと高価格なので売り込むのは大変であるが、一度商品を覚えてくれたら信頼ができていて成立は早い。 
 同社の商品を知っていただくのが同社の最大の販売戦略である。


●国土交通省基準の快適トイレで同じ土俵にのぼる

 同社の仮設トイレなどの販売は、直売が20%、レンタルが20%、全国の約50社の取扱店での販売が60%である。三谷社長がいくら腕利きの営業マンでも、個人で動き廻るには限界がある。そこで考え出したのが2016年からの快適トイレシリーズである。
このトイレは国土交通省が制定した洋式で、臭い逆流防止装置や照明設備を備えており、着替え台や小物などの付属品をつけるなど、これまでの仮設トイレのレベルを格段に上げたという特徴がある。この商品の同社に取って一番の強みは、これまでとは異なりこれで同業者と同じ土俵で勝負ができるようになったということである。
 この快適トイレは国土交通省が建設現場を男女ともに働きやすい環境とするために進めたもので、2016年10月から公共事業の入札を開始する条件とされた。
これまではどうしても高級な同社の製品と低価格な他社の製品との価格競争になるため何かと不利な面が多かったが、国土交通省が制定した快適トイレの基準により少しは同じ土俵で勝負ができるようになった。また、この国土交通省が制定した快適トイレの基準は人手不足のためその対策としてやがて大手ゼネコンなどの民間企業でも次々に採用されるようになり市場が拡がった。
 この快適トイレは同社の価格が50万円、ほかの仮設トイレメーカーの価格でも平均30万円~35万円であるから、これまでのように同社の製品が倍も3倍も4倍もするものではなくユーザーにすぐに製品の比較検討に入って貰えるということなる。やっと市場が同社の快適な仮設トイレに近づいてきたのである。
 また、三谷社長はこの快適トイレにオプションをつけるのが大変得意である。仮設トイレの入り口をスマートに目隠しをする「ルーバースクリーン」、消臭剤、消臭液、凍結防止剤、災害時、断水時の水洗トイレが使えないときに使用する非常用トイレ処理パックなどをさりげなく売り込む。これで大きな付加価値をつけて売り出すことができる。

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●技ありの軽量経営

 身軽で気軽で腕が立つ、三谷社長を見ているとまさにそんな感がする。何しろ仮設トイレ、消臭剤、電源設備などの製造、販売、リース,からイベントの企画、立案、実施など21項目に及ぶ事業をわずか6人の社員、関連会社を含めても20人に満たない社員でこなしている。
 先ほど述べたように、大阪・東京の2拠点とは言っても東京にはオフィスだけで社員はいない。時々社長が出張で来る程度である。この極端な軽量経営に大きな不自然さと無理を感じる。おそらく三谷社長もそう感じているに違いない。
 なぜこんな軽量経営を行うのか。これは私の推測であるが、仮設トイレ業界の特有な事情がある。
同社は快適な仮設トイレを製造、販売していない。後のメーカーは、価格は安いのかも知れないが昔型の和式トイレの在庫を大きく抱え込んでいる。なにしろ地震の起きた能登半島に先に㈱ビー・エス・ケイの仮設トイレが到着しては困るから、トラックを止めさせて自分たちの仮設トイレを先に運ばせるぐらいであるから、これからも何を仕掛けて来るか分からない。
 だから、一つは事業内容を幅広く揃えておき、例え本業の仮設トイレ事業がうまく運ばなくなってもほかの事業がカバーできるようにしておく、もう一つは社員を最低限に抑えて軽量経営でリスクに備えている。
 それにしても、大阪・東京の2拠点、兵庫県丹波市の組立て工場、山梨県都留市の仮設トイレの保管倉庫を入れてこれだけの人数でこなす芸当は手品に近い技のようにすら感じる。
 そして、同社のもう一つの得意技が委託生産、委託販売、代理店の販売などの他の企業の活用である。軽量経営を実現するためにもこの領域にはかなり力を入れている。幾度となく三谷社長の方式を伺うとなるほどと感じている。                                                                                     
 そして、三谷社長の一つひとつの仕草にも軽量経営の身のこなしがある。形にこだわらず実を取る。軽やかな身のこなしと如才ない人との対応能力につくづく軽量経営が骨身に染み込んでいると感じる。

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【インタビューを終えて】

● 日本市場を大きく変えるビジネス

 毎年地震や台風が起こる度に避難所である学校の体育館や町の公民館に雑魚寝をしている姿を見る。これだけの災害列島なのに信じられない光景である。シンガポールや台湾などの先進国並みとは行かなくとも、この日本で避難民対策が未だに発展途上国並みと言うのは、何とも情けないを通り越して信じ難い。
せめて地方自治体が協力してテントでも保管して置けば良いものの、ほとんどのところはその確保もない。プライバシーもなく雑魚寝になる。まだ若い人は良いのかも知れないが、高齢者や子供がいる家族などは厳しい状況となる。これを懲りることなく何十年も繰り返している。
 これは先ほど述べた、「仮設トイレはなるべく安くて軽いものが良い」という発想に結び付く。ところが、ひとたび事務所や自宅のトイレとなるとこれが世界一清潔できれいなトイレの状態となる。この大きな差は何なのか。
 少し話題は異なるが、国の財政問題でも同様である。国には1300兆円を超える国債などの借入金がある。この額はGDPの2倍をはるかに超えとんでもない額である。もちろんこんな国はほかにない。それでも多くの政治家や国民はほとんど関心を持たない。それどころか物価高だからと赤字国債でもかまわないから国民に1人あたり2万円の現金支給をしろと言う。一方国民の資産残高は2100兆円、企業内部留保金は600兆円を超えて空前の資産額である。どうもこれらの何ともアンバランスな状況が日本人の本質なのである。
 こんな事情を知っているから、マーケットがありながらTOTOやLIXILのような大手メーカーが仮設トイレの市場に参入しないのではないのか。その意味では㈱ビー・エス・ケイは日本市場に途方もない挑戦をしていることになる。
 これは以前の旅館のサービスに似ている。かつての旅館は、料理をお客の部屋に配膳していた。夕食も、朝食も配膳し布団の上げ下ろしも行うという過剰サービスであった。今では考えられないがこれがなかなか辞められなかった。時にはお殿様になったような気分を味わいたい。そんなニーズを満たしてくれた。大きな旅館でもこのサービスを行い、時には仲居さんに酌までしていただいていたから信じられない。
 しかし、この過剰サービスも多くのホテルができて近代的なサービスが始まると、やがて時代が変化を求める。一つは人手不足である。旅館の側が従業員を揃えることが困難となって来た。もう一つはお客の側も客室にどんどん仲居さんが入って来るサービスに嫌気が差して来た。
 今ではさすがに昔のままのこの過剰サービスをしている旅館は少ない。夕食、朝食はレストラン、宴会場などで会食、いやここまでは行かなくとも朝食の部屋への配膳はほとんどなくなった。
 ㈱ビー・エス・ケイの仮設トイレはこのホテルのサービスによく似ている。いずれは旅館からホテルに変わるのだが、今はその過渡期なのであろう。

 


増田 辰弘
〈ますだ・たつひろ〉
1947 年島根県出身。法政大学法学部卒業後、神奈川県庁で中小企業のアジア進出の支援業務を行う。産能大学経営学部教授、法政大学大学院客員教授、法政大学経営革新フォーラム事務局長、東海学園大学大学院非常勤講師等を経てアジアビジネス探索者として活躍。第1 次アジア投資ブーム以降、現在までの30 年間で取材企業数は1,600 社超。都内で経営者向け「アジアビジネス探索セミナー」を開催。著書多数。