特別リポート
令和8年 春の九段界隈のできごと
日比恆明(弁理士)
今年も春となり、桜を鑑賞するため3月28日の土曜日に九段界隈に出掛けてきました。東京の花見の名所(と言われている)は「上野公園」「隅田川公園」「飛鳥山公園」などがあり、これらの場所では宴会ができて飲酒も可能です。江戸時代から続く慣習なので、禁止ができなかったようです。千代田区にある桜の名所は「千鳥ケ淵」「北の丸公園」「外濠公園」ですが、いずれも飲食はできますが飲酒は不可です。どうも、大使館が多いことから、酔っぱらいの姿を外国人に晒したくないという配慮からではないかと推測されます。なお、靖国神社の参道沿いでは飲酒できます。昔から、祭事には屋台が出店していたという慣習があったからと思われます。

写真1
この日の千鳥ケ淵の風景を撮影したのが写真1です。このカメラアングルは業界用語では「絵はがき写真」と呼ばれ、可もなければ不可もないノッペリした構図であり、私は好きではありません。桜は三分咲で見応えが無いかったのですが、この日は快晴であったことから、記念に撮影しました。多分、この構図と同じ写真を見かけられた方は多いでしょう。観光案内、週刊誌、ポスターなどではお馴染みの構図だからです。そもそも、桜の咲く千鳥ケ淵を撮影するとなると、春の雰囲気が出るような場所は3、4か所に限定されます。このため、プロが撮影してもこの写真と同じ構図となってしまいます。
しかし、同じ構図であっても、最良の条件で撮影することは非常に困難です。その条件とは、桜が「満開」で、少し花びらが散り始め、ボートの廻りには「花筏」ができ、雲が無い快晴で、空が「真っ青」というものです。こんな条件が揃った日は、数年に一度も有りません。プロでも滅多に撮影することができないのです。
このため、全く同じ写真が何度も何度も見かけられることになります。過去に撮影された最良の写真が使い廻しされているからです。

写真2
今年の桜の開花宣言は3月19日で、例年より5日早い開花でした。私が九段に出掛けた28日の午後に、気象庁は桜の満開を宣言しました。写真2は靖国神社の標本木を撮影している観光客で、皆様、満開となった標本木を撮影されてみえました。なお、気象庁が満開と判断するのは、標本木の80%の桜花が開花したことが基準となっていて、全ての桜が開花したという意味では無いそうです。
ただ、標本木が満開となっても、千鳥ケ淵に立ち並ぶ桜木が同じように満開になっているのではありません。この日の千鳥ケ淵にある桜木は三分か四分咲でした。これは標本木の生育条件の相違から発生したものです。写真2をご覧になれば理解できるのですが、標本木は他の桜木に比べて丁寧に扱われています。標本木の周りには柵が設けられ、根の周りが踏まれて土が堅くならないように保護されています。また、根元には養分を注入して活力がつくように養生されています。いわば、健康優良児を育てているようなもので、このような保護を受けた標本木と一般の桜木の開花を比べるのは無理があるのです。
しかし、この標本木も樹齢が80年近くとなり、桜木としては老木になりました。このため、気象庁では次の標本木を選定している、という噂も有ります。どの桜木が選ばれるのか今から楽しみです。
桜が満開になったことで靖国神社に参拝するお上りさんが増加し、境内の駐車場には参拝者を乗せたはとバスがぴっしりと駐車していました。1台のはとバスが駐車場から出ると次のはとバスが次から次ぎに入り、この日は一日中満車状態でした。ただし、駐車場がはとバスで満車になるのは桜の季節とゴールデンウイークだけのようです。この期間になるとはとバスは靖国神社を巡るコースを増車しているのですが、それ以外の時期では一日に3便(つまり3台)のコースしか募集していません。

写真3
その昔のはとバスでは、皇居前広場、靖国神社、東京タワー、浅草を巡るのが定番コースでした。現在、戦中派が減少して参拝者が減少しており、桜花以外では靖国神社に関心が薄くなったことが原因のように思われます。また、以前に比べて東京の観光が変化してきたことも原因なのです。東京スカイツリー、豊洲市場、お台場などの新しい観光地に関心が向けられるようになりました。社会の変化によって、お上りさんがでかける目的地は変わってくるのです。

写真4
この日、神社の内苑では野点の茶会が開催されていました(有料です)。暖かく晴れた日であったので、会場はほぼ満員でした。野点の茶会はその性質から、少しでも雨が降ると中止になるため、花見の期間中いつでも参加できるものではありません。
つらつらと考えてみると、東京には桜の名所と呼ばれる場所はあちこちにあるのですが、野点の茶会を開催している場所は靖国神社以外に無いのでは、と思われました。まさか、酔客が騒いでいる上野公園でおしとやかな茶会を開催することはないでしょう。茶会の使用許可を得ることができて、比較的静かで、抹茶を喫茶できるような花見客が集まる場所となるとかなり限定されます。このように考察すると、桜の花の下で喫茶を楽しめる場所は東京でも珍しいということになるでしょう。

写真5

写真6
花見の場所には必ずと言っていいほど屋台が出店しています。桜の花の下で食事をしながら飲酒するのは日本の文化のようです。しかし、屋外での飲酒を禁止している国は多いようです。イスラムのように飲酒そのものを禁止している国もありますが、屋外で飲酒していると逮捕される国もあります。アメリカでは屋外飲酒が禁止されている州もあり、酒ビンを紙袋に隠しながら飲酒する人をみかけることがあります。
30年以上前の規制が緩やかな時代では、祭事の度に靖国神社の参道には酒や料理を提供する屋台が軒を連ねて営業していました。しかし、来場した若者による行動があまりにも過激となり、神社本来の祭祀目的とかけ離れたことから、屋台の出店を全面禁止することに踏み切りました。しかし、それではあまりにも寂しいということからか、数年前からは厳選された屋台のみに出店の許可を与えたようです。
出店する屋台の数は激減し、キッチンカーによる近代的(?)な屋台が主流となったようです。ただ、厳選された屋台は非常に個性的となってきました。写真5、6にあるように、屋台の看板が巨大なのです。従来の屋台ではサンズンの平台でチマチマと営業していたのですが、厳選された屋台は縦方向、横方向に広がっていました。

写真7
今年も靖国神社の大村益次郎の銅像の下で、「同期の桜をうたう会」が開催されました。参加者はざっと数えて3百人程度ではないかと推測されました。最盛期には8百人近くが集まったのですが、軍歌を懐かしむ戦中派の人口が減少していくのですから致し方ないでしょう。この会は今年で42回になるのですが、何時まで続けられるのか問題です。もしかしたら、50回を区切りとして終了するかもしれません。

写真8
うたう会の裏方はこのようになっていました。エレクトーンによる生演奏で、銅像の台座の上で矢がすりの着物と袴姿のコーラスガールが軍歌を歌っていました。最盛期には12名のコーラスガールが登壇していたのですが、今年は5名に減っていました。コーラスガール達は、大和実業(現、ダイワエクシード)が銀座で運営していた「ザ・トップクラブ・ミュージックサルーン」という軍歌バーで働いていた方達です。遠くからコーラスガールを眺めると乙女のように思われるのですが、軍歌バーが閉店となってから20年近くなりました。軍歌バーで働いていた彼女達がその頃に30代とすれば、現在は・・・・・。彼女たちをアップで撮影してきたのですが、名誉棄損で訴えられるかもしれないのでここには掲載しません。

写真9
千代田区にある全ての公園では飲酒が禁止されています。しかし、外濠公園は管理が薄いので、おおっぴらに飲酒しているグループを見かけます。この日、同窓会ののぼり旗を立てて宴会をしているグループを見かけました。函館にある高校の同窓生の集まりなのだそうです。
この外濠公園の土手に沿って法政大学があります。大学の告知では、公園で飲酒を伴う宴会を開催したことが発覚した場合には、当該学生の各部長及び保証人にその旨を通知するのだそうです。退学処分ではなく、単に関係者に通知するだけのようで、少々処分が甘いのではないかと思われます。しかし、大学がこのような告知をするのですから、過去には法政大学の学生が飲酒して大騒となり、付近から多くの苦情があったのではないかと推測されます。