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「中国一強」時代の到来(小島正憲)

小島正憲のアジア論考

「中国一強」時代の到来

小島正憲 (㈱小島衣料オーナー )

この数か月間で、下記の3書が次々と刊行された。ともに、「中国一強」時代の到来を予測したものである。だが、それぞれに、微妙な違いがある。また、共通した盲点もある。以下に、3書を比較して、それらを論じてみたい。

なお、昨年発行の④も、中国の現状把握の一助になるので、参考にしていく。以下、書名は①、②、③、④と略す。

①『中国は覇権を握るのか』 李虎男著 光文社新書 2026年4月30日

②『おそるべき“中国一強”時代』 富阪聰著 小学館新書 2026年6月3日

③『G2構想 勝つのは米国か中国か』 遠藤誉著 PHP新書 2026年7月14日

④『ほんとうの中国』 近藤大介著 講談社現代新書 2025年8月20日

1.「中国一強」時代の到来を予測

①は、本書の冒頭で、「覇権国家の地位は、現在の強さではなく、未来の産業をどれだけ掌握しているかによって決まる。米国が古いエネルギーの橋を渡り続けている間に、中国はその先にある新しいエネルギー文明の基盤を静かに、しかし着実に築き上げている。橋の上で立ち止まっている者が気づいたとき-対岸には、すでに別の秩序ができ上っているかもしれない」と書いている。

さらに「おわりに」で、「中国は従来の成長モデルから脱却しつつある。高度成長を支えた不動産開発は急速に重要性を失い、代わってAI、量子技術、6G通信、バイオテクノロジー、核融合といった分野が新たな柱となっている。これらは短期間で成果が出るものではない。10年、20年という時間軸で育てる必要がある。

習近平は“成功が任期中でなくても、貢献は残さなくてはならない”と語った。短期的成果を重視する民主主義国家の政治とは異なり、中国の指導体制は長期ビジョンに基づく政策遂行を可能にする。これは体制の特性であり、同時に競争上の強みともなりうる。技術覇権を数十年単位で構想する姿勢がそこにある」と書いている。

②は、本書の約半分を費やして、中国の現場をウオッチした体験に根差した分析を行い、世界最大の電力インフラの実態とAI・自動運転・ロボット開発などの現況を詳しく紹介している。さらに、深海探査や宇宙開発において中国が突出していると書いている。そして来るべきAI時代に中国が勝利する根拠として、中国が電力大消費時代への準備が終わっているからであるとしている。

さらに、「中国は今日、ロボット工学、電気自動車、原子炉、太陽エネルギー、ドローン、高速鉄道、そしてAIにおいて、世界の革新者かつ技術的リーダーである」と書いている。また、「“中国一強”はむしろ“来るべくして来る”未来と言わざるを得ない」と断言している。

③は、本書の半分以上を費やして、米国のイラン攻撃についての各種情報の詳細な分析を行い、「イラン攻撃が米中の力関係を逆転させた」、「イラン攻撃によって、トランプはイスラエル一国を除いた全世界、とりわけ同盟国の信用を失った。その失点が、何もしていない習近平への得点へと転換されていった」と書き、「米国以外の同盟国がすべて“10年後には中国が覇権国となる”と考えている」という調査報告を紹介している。

その根拠として、「製造業とレアアースでアメリカを圧倒する中国」、「戦争のアメリカ、貿易の中国」という章で、それらを詳述している。また、「外国人投資家が、多くの中国国債を保有しようという方向に動き米ドル以外の投資方法を求めていることを考えると、人民元は5年以内に世界的な準備通貨になる可能性がある」という有力情報を紹介している。

④は、「中国がアメリカと角逐し、世界の覇権を目指したければ目指せばよい。逆に、20世紀後半の文化大革命や天安門事件のように、思わぬ混乱の時代を迎えるかもしれない。だがそれも中国の選択だ」と書いている。

 2.台湾問題

①は、「台湾問題は、中国にとって単なる領土問題ではない。国家統一、主権回復、そして列強に翻弄された近代史の屈辱と復興-それらが重なり合う、きわめて感情的かつ政治的な核心問題である。その台湾をめぐる有事に、日本が軍事的に関与する可能性を公式に認めたことは、中国指導部にとって戦略的にも心理的にも看過できない挑戦と映ったはずだ。中華民族の“悲願”である統一を妨げ得るものとして、日本の存在が再び強く意識されたのである」と書いている。

②は、本書の一章を割いて、台湾問題を詳述している。そこには、「我々は戦いたくない。だが戦う準備はできている。演習は台湾同胞に向けられたものではない。しかし分裂の動きに対しては容赦しない」という中国軍のスローガンの紹介があり、「日本の主要メディアの報道に慣れ切った日本の読者には、“中国が平和統一を望んでいる”と説明されても、にわかには信じがたいだろう。

だがそれは日本のメディアが、中国側の発する強いメッセージばかりを報じ、こうした意図を無視してきたからである。台湾問題を少し遡れば、中国が一貫して平和統一への道を探ってきた一面が見えてくるのだ」と書いている。

③は、「そもそも毛沢東は、1950年代半ばごろから、台湾に関しては“平和統一”としか言っていない」、「鄧小平時代になっても、やはり平和統一しか唱えていない」、「もし鄭麗文政権が誕生すれば、政権を転覆させるようなクーデターでも起こらない限り、話し合いによってのみ“台湾統一”を成し遂げる可能性が高くなる」、「いずれにせよ、台湾統一はカウントダウンの段階に入っている」と書いている。

④には、特筆すべき論及はない。

3.日本は「中国一強」時代に、いかに対処すべきか?

①は、「国を理解するには感情ではなく事実が必要だ。体制に賛同できなくとも、その経済戦略と技術投資の方向性は冷静に分析すべきだろう。アメリカか中国かという単純な二者択一ではなく、複雑な国際秩序の中で日本自身の立場を築くことが求められる。その第一歩は現実を直視することにある。“実事求是”―事実に基づいて真理を求める―この言葉こそが現在の日本に最も相応しい姿勢であり、激動の時代を生き抜くための基盤となる」と書いている。

②は、「中国が経済的にも外交的にも軍事的にも近年ますます存在感を増している中で、アメリカや台湾は対中戦略の見直しを迫られている。そんな局面下で日本だけが従来の“毅然とした対応”を繰り返し“アメリカ追従”を続けていればいいというわけにはいかないだろう。

中国との関係をあらためて見直し、”中国一強”時代に備えた戦略的思考を持たなくてはならない」、「少々の対立があっても、問題をきちんとコントロールして迎える未来の方が、戦争という結末よりもはるかに素晴らしいことは明らかだからだ」と書いている。だが、具体策は明示されていない。

③は、「日本はアメリカの思惑により、つぎつぎと世界第一線から後退し、今では見る影もない。日本の国益を最優先にして強い日本を目指すなどと高市政権は口では勇ましいことを言っているが、G7の中でもみっともないほど“トランプ抱きつき”外交をしているのは日本だけであることから目を逸らしてはならない」と書き、「中国が勝つ」、「一人日本だけが、中国の味方となっている“時間と潮流”に取り残されていく。

この責任は必ずしもひとえに高市総理個人にあるとは言えず、高市早苗氏を総理に選んだ日本国民の認識の問題であり、その認識を形成した日本メディアの大きな責任、“大罪”でさえあると言えるのではないだろうか」と書いている。

④は、「日本は中国とは競わずに、“島国らしく生きる”ことである。換言すれば、鎖国をしない形での“江戸時代への回帰”だ。それは“衰退の道”ではない」と書いている。

4.その他の国が台頭する可能性

①も②も③も、将来、中国以外の国が台頭する可能性について、全く言及していない。眼中にないというところだろうか。しかし、現在、世界で進行中の情報革命を見据えたとき、どこからか、こつ然と、新興国が現れる可能性を否定することはできない。それどころか、中国自身が予想外の変身をする可能性もある。

中国の社会形態は、社会主義市場経済、つまり社会主義と資本主義の微妙な均衡の上に成り立っているのである。したがって、情報革命の結果、膨大な余剰生産力が生み出され、毛沢東が理想とした共産主義社会が誕生するかもしれない。そのときは、当然のことながら、マルクスが予言したように国家も揚棄される。

①も②も③も、そこへの論及は、まったくない。かつて世界を産業革命が席巻したとき、そこから共産主義思想が生まれた。今、情報革命の嵐が世界を吹き荒れ、世界中の人民を翻弄している。今、必要とされているのは、どの国が1強となるかの予測ではなくて、「どこから世界中の人民を救う新たな思想が生み出されてくるか」の予測ではないのだろうか。④には、もともと、この視点はない。

 5.誰が、「中国一強」時代を担うのか?

①も②も③も④も、現在中国が抱える諸問題については、多くを語っていない。それでも、①は、「現在の中国は、不動産市場の調整、急速な高齢化、地方政府の巨額債務という三重の構造的課題に直面している」と書き、②は、「現在の中国は、不動産不況の低迷と新型コロナ禍で負ったダメージからの回復の遅れなど“負”の影響によって個人消費が湿っていて、かつて全土を覆っていた自信は失われている。先行き不透明感が社会から活気を奪った結果として、消費だけでなく、民間の投資も冷え込んでいる。それは事実だろう」と書いている。

10年後には現出してくる「中国一強」時代を担うのは、明らかに、「一人っ子」世代の小皇帝・小公主たちである。

しかし彼らと彼らの親世代とは、大きな断絶がある。①は、それについて、「若い世代は、長年にわたり教育に時間と資産を投資してきたにもかかわらず、社会的成功が得られないという現実に直面しており、それが大きな挫折感と制度への不信感を生んでいる。一方で、親世代は教育機会に恵まれなかったにもかかわらず、時代の波に乗って資産を築いた。この矛盾が、世代間の感情的な断絶をさらに深刻なものにしている」、「世代間の断絶を超え、共に社会の未来を築くためには、経済格差の是正だけでなく、価値観の多様性を受け入れる文化的な寛容さも求められている。急速な社会変化の中で生まれたこの断絶をどう乗り越えるかが、今後の中国社会の成熟度を問う試金石となるだろう」と書いている。

他の個所では、「八零後世代は、努力と能力によって自身の地位を向上させることを是とし、そのために既存の枠組みの中で最大限のパフォーマンスを発揮しようとする。この能力主義的態度は、社会的不平等を個人の努力不足として解釈する傾向を生む。構造的な問題や制度的矛盾よりも、個人の能力向上と努力増大が解決策として重視される。このような思考パターンは、既存の政治・社会システムへの根本的批判を回避し、システム内での個人的成功を追求する方向へと政治的エネルギーを向ける効果を持つ。彼らの関心は、より大きな社会変革ではなく、自己の向上と既成概念の中での成功にある」とも書いている。

中国は今、超高齢社会に入ろうとしている。それを支えるのは、小皇帝や小公主である。だが、来るべき「中国一強」時代を背負うのも彼らである。その彼らにはハングリー精神がない。それどころか、「一人っ子」政策の負の遺産である「男性過剰」、つまり「女性優位」の結果、連帯すべき小皇帝と小公主の間に、亀裂が入っている。

6.著者たちの生い立ちの違い

蛇足ながら、最後に、この4書の著者たちの生い立ちの違いについて、書いておきたい。その理由は、各自の生い立ちについて、各自が著書の中で詳述しているからであり、それらが、それぞれの著書ににじみ出ていると思われるからである。

①李氏は、「1980年代、中国で沸騰した日本ブームに魅せられ、筆者は日本への留学を決意した。鄧小平の改革開放政策が本格化し、人々が外の世界へ目を向け始めた時代である。それから30年以上、日中両国を行き来しながら、研究と日常を通じて両国社会の変化を見つめてきた。1990年代から2000年代初頭にかけては、経済成長を背景にビジネス関係が深化し、人的交流や文化的共有も広がり、相互理解が進んだ時期もあった」と書いている。

②富阪氏は、「私自身、もともと台湾で暮らし、この地で初めて中国語を学んだ経験を持つので、台湾に対する思い入れはひとしおだ。これからも台湾の平和と安定が続いてほしいと切に願っている一人だが、だからこそ頼総統の進める政策には首肯しかねることが多い」と書いている。

③遠藤氏は、「筆者は国共内戦中の1947年から48年にかけて、当時住んでいた吉林省長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い餓死体の上で野宿させられた経験を持つ。しかしすべての感情を乗り越え、いかなるイデオロギーにも束縛されない視点から客観的ファクトにのみ焦点を当てて執筆に当たった。そのことを読者の方々にご理解いただきたいと切に望む」と書いている。

④近藤氏の略歴 : 1995年生まれ、埼玉県立浦和高校、東京大学卒業。国際情報学士。講談社入社後、北京大学に留学し、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。

 

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  小島正憲 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。