鬚講師の研修日誌(34)
「強味をより強く」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆R社にみる強さある企業の3条件
R社は機械、電気、電子回路の設計・開発、試作、製作、ソフトウエアのコンサルテイングを駆使してお客様に最適なソリエーションを提供する企業である。
創業20年、時流に乗り、逞しく伸展しており、企業名のリゾームとは「根茎」との意味がある。これは竹などの地下茎が伸びて、なにかにぶつかっても地上に芽を出し、さらに枝葉を茂らせて力を蓄えると、そこからまた地下茎が伸びていく様を表現しているという。
このことは企業での多角化戦略を表しているとK社長が説く。まさにR社の伸展そのものである。
先般、管理職研修を担当した。その切り口は「当社の強味を確認し、さらに強さを創出していく」管理職パワーアップである。
強味の分析から提起されるキーワードは、
全社員が設計者、・メカと電気と電子の総合的開発力、・お客様第1主義、・当社でなければできない高度技術に基づく提案力、・過程の仕事を丁寧に施す絶対的信用、・ボトムアップを生かした団結力、・お客様の要望に応えたオリジナル製品を製造できる、・個人のスキルアップ育成に熱心……等である。
まさに本物企業としての特質を持ち合わせている。ちなみに強さある企業の本物条件は次の3本柱である。
①真の顧客ニーズに合致した企業活動……(市場・商品開発力)
それは、顕在ニーズへの安心、信頼の対応のみでなく、潜在ニーズを掘り起こしての提案型対応である。
当然、顧客様の同業間では初であり、独自であり、それだけ競争力を高める貢献力として評価される。内なる強さは、部署枠を超えた顧客に向けた全体最適の企業活動が成されている。
②本物の技術(専門力)…………(人財育成力)
それは、メカトロニクス、ロボット化を駆使したハイテクへの着目があるが、要望の多様化への対応は人の持ちうる暗黙知(熟練・カン・コツ・多能・匠)が融合していることである。
単に造る技術のみでなく、機能美、見た目等のソフト創造力を究め、こだわりによる技術力の総合力である。個々の強味を引き出し最大に活用が成されている。
③顧客に心を込めた社員力……(顧客感動創造文化)
①②を現実化していくのは個々の社員。その活躍の元は、経営理念の共有、企業への誇り、何のための仕事かその意義に基づく高い意欲、豊かな心、協働関係、倫理観である。
だからこそ、お客様に最高の喜びを提供する仕事観を駆使している。
R社管理職の誇る自社の強味もこの三本柱を裏付けている。
ならば今後どう生かすか。現状の分析は現在成しているスケッチにほかならない。
それは、組織集団をより強くすることである。企業は環境適応業、いや環境創造業である。変化の対応に対してスピード感溢れる戦術対応はもちろんのこと、可能な限りの予測、先見に基づく中期戦略は、創り上げていく一歩先んじた環境創造である。現状維持は退歩なり。例え現在良くても明日が保証されているわけではない。積み上げてきた強さをさらに強め「本物の企業」として、選ばれ、選ばれ続ける楽しみを社員こぞって得たいものである。
◆強い組織を形成する7つの実践の楽しみ方
強い企業のコアは強い組織力である。その肝心な人財は管理職である。それは組織力を生かしたlead(リード)を楽しむ事である。改めて管理職について確認してみよう。
管理職とはゴールに向けて、事のlead・人のleadをする人である。現実には組織の先頭に立って、方向性を示し、目的を示し、その実現の為に目標を決め発信する。そして必達力を持って事の進捗、人の献身力を最高の状況に発揮させる統率力を発揮していく。勿論そのプロセスで不具合が生じたときには即断即決での指示を施す事もある。そこには、率先垂範的実践力を持って逞しさが求められる。大事な事は、日頃から「この人の為なら」「この人ならついて行く」の人物的影響力が不可欠である。指示・命令で動かすのではない。このようなleadぶりを楽しむことである。
ならばそのポイントは何か。それは孤軍奮闘で頑張るだけでない。関わる人のパワーをどう総合化し、かつ高めて行くかである。
そこには、プロデュースあるいはコーデイネートする力量が必要であり、異見(自身と違う考え)を聞ける度量で関わる人の英知を生かし得ることでもある。新たに成すときには関わる全員に「なぜそうするか」を丁寧に説き、理解、納得を得て新たな活躍のベクトルを共有することは承知の通りである。
ここで強い集団力を形成する身近な実践ぶりを7条件として提起してみよう。
① 部下力の活用による全体最適を構築しよう
プレイヤーの活躍も現状は否めない。しかしながら、部下への移譲、任せ状態を敢えて創り、部下力を生かすことである。部下の潜在能力を見い出し、引き出していくこの働きかけを部下は待っている。忙しすぎることは、度胸なき、抱えの安心から脱皮できない自身である。立ち位置に応じた潜在能力の最大発揮は、集団の全体最適をより高める。でなければ忙しがる上と、欲求不満の下との不協和音がはびこることになる。
② 目標の旗を掲げ点火する
自身の想いを見える化し、総合力を結集した山登りで頂上を目指すことである。先頭に立つ管理職の「やろう!!」との強い覚悟の灯火は、関わる人の心に「よーしやろう”」と点火する。全員の心意気の強さは相互に支援しあう団結力ともなる。旗はなに? それはトップを獲ることである。
③ 目標達成は部下力を高める指導実践にあり
掲げた旗の到達は部下の現存能力では不足。目標とはできてない事でありできたにするには新たな改善が必要。新たな改善は新たな学びなくして創造はできない。知識・技術・情報等を広く、深く、新たに付加する指導が不可欠。なぜなら組織目標達成は部下個々の目標達成の集積だから。ならば目標未達は指導不足のつけである。
④ 新発想による壁の打破
壁は自身の経験則そのもので考えるあがきである。視点を変える、切り口を変える、発想の転換をせよ、それは経験則を破り、新たな想いの巡らしに取り組むことだ。殻を破る、枠組みを壊すその第一歩は、「おやっ」「なぜ」「どうして」「こんなことって」とコウモリの目で見てみることだ。
コウモリの目とは反対、逆からの目線で問いかけることであり、よく言う「相手の立場に立って」とか「顧客目線」である。「なるほど」「そうだったのか」の気づきから「ならばこうしよう」との発想が浮かぶ。
⑤ 部下の喜働を助長する惜しみない一言のプレゼント
任せ、責任持たせての活躍には、信頼しているとの安心感を抱かせ、タイミング良い褒め、認め、ねぎらい、励ましの言葉を施すことである。自身の努力を評価されることは働きがいであり、期待に応えている実感が次なる活躍の弾みを付ける。それは、喜働に基づくやりがいである。
⑥ まさかのときの示範力はよりleadパワーを増幅する
順調なときばかりでない。まさかの事態も発生する。自身のみでなく、部下の活躍現場でも起こる。このときの対応力が問われる。立ち位置、身の丈を素直に認め、自身でできること、上司への相談、関連部門の協力依頼を即断即決して、どうすべきかの解決策を発信し、先頭に立って実践していくことである。いざというときに魅せる示範力はさすがの信頼関係を高め、引っ張るパワーをより強くする。本物の管理職の魅せる真骨頂である。
⑦ 異質の人を繋ぐ総合力の強さ
R社の強さづくりは中途採用者による人財パワーにもある。異なる特性、異見を持ち合った人材が組織に新たに加わり、更なる強さを構築していく。そこには親和感を醸し、互いに引き合う支援関係が成される。この新戦力集団から新製品・技術を産み出し、強い成長力を成している。異質なる人的パワーを総合力化させる手腕が、個々の能力の強味を生かしうることである。
いかがであろうか。次に管理職のleadパワーに応えた強みを生かす社員クラスの強味を生かした活躍ぶりにも着目してみよう。
◆若手社員クラスが誇る我らの強味
和・洋菓子大手メーカーS社の若手クラス社員研修を先般担当した。入社4~7年の第一線で活躍する社員である。問いかけは「顧客様に安全安心を提供する我々の強味を生かした活躍」である。強味を一人2枚づつカードに書き出しグループ内で貼り付け生カードを一覧化する。いくつか紹介してみよう。
◎積極的行動=先を考えての向上心・自分で考えての行動目的を意識した実践力
・自分で判断した行動、・報連相を意識した行動、・状況判断した行動、・時間を意識した行動、・次になにを成すべきかの把握、・挑戦意識を持っている、・ポジテイヴ思考、・思いっきりの良さ、・前の失敗をバネに進む力、 ・学びで気づいた事を生かした改善へのつなげ、・目標に対して努力を惜しまない……。
◎信頼関係=長い歴史から得た当社への信頼、・当社社員の自覚、・多くの人財が揃っている安心感、・学ぶ力、・集中力、・漏れ、ミス無しの落ち着いた確認実践、・責任もっての仕事の遂行、・専門能力(製造技術・接客・管理システム等)の自信・各自の人間性の尊重、 ・経験から来る創意工夫、・柔軟な対応……。
◎環境=パートさんが安心して働ける環境、・周囲への気配り、・目的までの仕事の速さ、上司、後輩から頼られる、・上司、後輩へのサポートによる作業効率の向上、・多能化社員としての適応力、 ・周囲を見て次に何をすべきかを考える、・知識、技術の自信ある後輩指導、・上司、後輩の間に入った行動……が上げられた。
前項に提起した本物企業の社員力の条件に整合されることは察しの通りである。現状の強味はさらに高め、深め、新鮮味を学ぶ力によって強めていくことを人事戦略として掲げ、人材育成を施しているS社でもある。
研修では、さらに当社の絶対的強さを示す安全安心の提供のために、この強みを生かした活躍をどう実践するかをグループ討議でまとめ上げた。以後、各自の具体的目標に落とし込み、組織集団の第一線の現場から産み出す企業のより強さづくりとした。
◆各自は完璧・一番・一流の強みが大切
企業・組織集団の強さをより強く、その起点は社員個々の強さである。ましてや個人プレイでなく集団力を形成するには全ての社員が完璧であり、一流、一番でなければならない。一人のミス、未熟さが集団をゼロにしてしまうこともある。勿論、育成の過程や、不足、不備な時点での支援体制は無しというわけではない。
N大の集団行動の凄さを見聞きしている人も多いことであろう。
先日TV放映を観た。清原伸彦監督が半年間かけて育て上げた完璧に演ずる美しき集団行進には感動する。基本は行進。50人、70人、一糸乱れぬ見事な集団による行進の美しさだ。
8連続交差、15連続交差、縦・横・ななめ、圧巻は後ろ向きでの交差歩行である。一人が躓き倒れれば、次から次へと躓き重なり、集団は成り立たない。勿論リズム、スピードそして、姿勢、腕振り、歩幅全て個人の完璧さが集団の完璧さの実現だ。
45万歩、360km、130万歩、1,200km 練習の歩いた数字だ。鍛錬、鍛錬の凄さの紹介の一例だ。
「やればできる」監督の信念だ。
体力・気力・精神力……個人差があってのスタートだ。中には疲労、心労で貧血症状になる。
「外れろ」「やります。やらしてください」「皆さん”迷惑かけてすみません。一緒に練習させてください」
詫びて集団に入る。本番二日前の出来事だ。
本番大丈夫か。見事。見事。完璧。会場全体が称賛の拍手の嵐だ。清原監督が出口で「最高、最高、最高」と満面の笑みで迎える。そこには厳しさと優しさでleadしてきた満足感であろう。
「ワーッ」学生同士が抱き合い、泣きじゃくる、まさに汗と歓喜だ。
清原監督の強い集団を創り上げる手腕は称賛である。学生に檄を飛ばす一言に「N大だからできることをする」があった。そして、「誰かのためにやる」それは単に自分のためにだけではない。喜んでくれる、観てくれる、期待してくれるその人への応えることである。だからこそ仲間には絶対迷惑かけてはならないとの自律が極まる。と解した。
このことは2社の強味との共通項である。そこには当社だから成せる企業ブランド力の誇りであり、企業理念の顧客思考(喜びを創る)に基づく活躍を全体最適で遂行していることである。
さらに、一人ひとりの強さが一番である強味が絶対必要であるとの考えを貫いたのは、1972年のミュンヘンオリンピックで金メダルを獲った男子バレーの松平康隆監督であった。
そのチーム論として説いたのは「世界一になるには、各選手が世界一であること。世界一のセッターN、世界一の大砲O、世界のアタッカーM、K、Y、世界一のオールランドプレイヤーS、世界一のキャプテンN、世界一のサブMなど……とした。
見事その策が実を結び歓喜の金メダルであった。なぜ全てが世界一でなければならない。それは、5人が世界一であろうが一人弱ければそこに敵攻撃は集中する。瞬間的カバーは他選手はでき得まい。相手が弱ければ一人の優秀選手でも勝てるが……」との考えだ。
企業活動でも一組織・一社員の弱みから起こりうるまさかの不祥事は、企業全体を揺るがす。支援し合おうといくら説いたところでその瞬間は、他社員が側にいてもカバーし切れないことも事実。他の強味を無にすることに他ならない。各自が一番である必要性は納得できる一理でもある。
新たな想いで今年もより伸展を期しての企業活動である。敢えて強味をより強くすることへの着目した人材育成の施しを紹介してきた。企業の強味、組織の強さを産み出す管理職の実践の楽しみ方、そして社員としての強味をさらに生かした活躍の有り様を切り口として確認してきた。100+1=無限大・100-1=0を記して結びとする。
現状の強さが100、そこに社員が+1の新たな強さを加味する。100+1=無限大、それはリピートを広げ(顧客のお取引拡大)、新たな評判にリピーター(新規顧客)が増えるとの表現だ。
しかし、100-1=0もある。それはたった一人のたった一事の不が重ねてきた強味をゼロとし、他者の努力も無にしてしまう意見合いである。
R・S社の各位が研修後、強味を生かした活躍を現在実践中である。100+1の強味がどれだけ進化したしたのか検証する楽しみを秘めて今稿とする。
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東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
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