「高田拓の中国内部レポート」
第8回 「中国の消費者権益の日『315』(3月15日)について解説」
高田 拓(山東外国語職業学院終身名誉教授)
中国では「消費者の権益を守る」ために、毎年3月15日を「消費者権益の日」として、大々的な消費者啓蒙キャンペーンを展開している。
背景: 中国で横行している偽ブランド商品、残留農薬食品、ネットの詐欺表示、飼料に含まれる化学薬品問題、投資詐欺事件、金融機関の個人情報の漏えい問題、健康食品の虚偽宣伝……事例の枚挙に事欠かないほど横行している。
こうした問題によって健康被害、死亡事故、金銭被害…が多発している。
事例: メラミンが混入された粉ミルク、禁止ホルモン剤が入った飼料による牛乳汚染、そこから引き起こされる乳児のホルモン異常、鶏卵汚染による卵加工食品汚染、β興奮剤の入った飼料で飼育された豚肉・ソーセージ、幼児用家具の残留ベンゼンなどの溶媒汚染、廃油やどぶから再生された食用油、病死した家畜の出荷、薬用カプセルのクロム汚染、医療ごみから再生したおもちゃ、強酸などで腐蝕染色された玉製品、鉄筋を細く改造した建築工事、海砂を使った建築、荷物を放り投げる宅配業者、寄付を謳った眼鏡業者の偽装販売、製品瑕疵の隠蔽、銀行から流出した顧客個人情報……枚挙に事欠かないほど横行している。
目的: 政府はこうしたことから消費者の権利意識の喚起と市民生活の安全を守るために消費者権益の日「315」を設定し、消費者の啓発行動、徹底した摘発を行っている。
また生産者の自覚と厳しい製造管理、問題流通業者の摘発、厳格な市場管理などを行い、消費者の消費環境整備に努力している。
成果: 中国の消費者の権利意識の向上に大きな貢献を果たした。また法整備が行われた。
しかし、法律は整ったが毎年、多くの企業が摘発されている現状で課題も多い。
法整備: 2009年食品安全法施行
1.食品に対するリコール制度の確立
2.指定外の食品添加物の使用禁止
3.食品検査の徹底
4.保健食品の病気に対する効能書きの禁止
5.食品安全基準に満たない商品購入者は商品価格の11倍の賠償金を求めることができる
背景: 2009年8月乳幼児用粉ミルクにメラミン混入、乳幼児6名死亡、患者29万人、内、入院 51,900名 こういった食品問題が多発している。
*家畜の飼料からメラミンが検出、全ての肉製品、卵の加工品も汚染の恐れ
さらに汚染粉ミルクが廃棄されないで流通(青海省東垣乳製品工場、黒竜江省大慶……)
*消費者:自国製品に対する信頼感なし、海外製品の購入に走る
■2015年改正「消費者権益保護法」が施行
1.個人情報保護の強化
2.欠陥商品リコールの事業者責任の強化
3.通信販売にクーリングオフ制度導入
4.インターネット取引プラットホーム事業者に対する管理強化
5.詐欺的行為に対する懲罰的損害賠償の強化
6.消費者協会等による消費者権益公益訴訟の容認
7.品質保証に対する責任の強化 耐久消費財の瑕疵は事業者が挙証責任
*ネット購入商品、7 日以内なら無条件返品可能、EC業者に登録を義務付け
個人のネットショップ:プラットホームを通じて取引を行い、姓名、住所、身分証明書番号、連絡方法などの個人情報の提供義務
*懲罰的損害賠償:詐欺行為は3倍の賠償
欠陥を認知していながら販売・サービスは2倍の賠償
2018年スローガン:「品质消费 美好生活」(高品質消費は素晴らしい生活をもたらす)
2018年 中央テレビでやり玉にあげられた主なもの:
(1)フォルクスワーゲン(エンジン浸水故障)
(2)コピー模倣飲料の農村への大量流入
(3)根拠のない食べ物の食い合わせ表 蟹と柿……
(4)野菜や果物に対するデマ
ポリウレタンで包んだキャベツ、針を刺したスイカ、ブドウの白い粉は農薬?
(5)宝石店の懸賞当選による巧妙な詐欺商法
(6)シェア自転車の保証金の返還問題(強奪?) 34社倒産/70数社
市場競争激化による撤退、倒産が相次ぎ保証金が返還されない問題
(7)卵の黄身でコレステロール値が上がる? 科学的根拠があまりない
(8)電動自転車の充電中の火災事故
(その他)市場に出回る劣悪な水道管(再生した材料を混入した劣悪な水道管)、子供用軟らかい樹脂製の靴によるエスカレーター巻き込み事故、道路上の標識線不良問題(光反射材料が基準より少ない安い塗料を使用)
健康食品の虚偽宣伝による販売活動、
韓国・日本から輸入した中国法律違反の歯ブラシ(ブラシ先端が尖っている)
■中国消費者権益の日「315」の特色
1.報道の過熱化
毎年3月15日、中央テレビで報道され、中国全土がこの話題一色になる。
追跡調査報道も過熱し、流通からの締め出し、該当企業トップからの謝罪報道がテレビ映像で大々的に行われる。
しかし、全国で注目されるため、内容的に潜入調査「やらせ」を疑わせる事例、正確な事実報道から外れたセンセーショナルな過激報道も見かけられる。
2.毎年、外資系企業が必ず取り上げられ、槍玉にあげられている。
*外資系企業の場合は多国籍企業が多く、海外での対応と絡めて報道される。
「他国と比べて中国に対する対応は問題だ」とする報道だ。これは国々によって関連法規、消費者行政が異なっていても、中国人だけが馬鹿にされているといった面子に絡んだ報道となり、感情問題だけに解決が困難。
最近、やり玉に挙がった事例:
2012年 カリフール、マクドナルド
2013年 アップル、フォルクスワーゲン
2014年 ニコン、外国製の粉ミルク
2015年 ローバー、日産、ベンツ、フォルクスワーゲンの修理サービス
2017年 日本食品(放射能汚染地区での生産)無印良品、イオン
2018年 フォルクスワーゲン(エンジン浸水)
3.陰にある政治問題、日本叩き
事例1:
2006年9月、国家品質監督検査検疫総局がSK‐Ⅱにクロム、ネジウムなどの有害物質が含まれているとして、SK‐Ⅱが中国での販売中止、返品騒動に追い込まれた。
*世界の有名化粧品や中国の化粧品にも重金属は多かれ少なかれ含まれている
*指摘されたクロムの量は、世界保健機構(WHO)「普段の食生活において摂取される量」の百分の一以下であり、ネジウムの量も、一般に安全と考えられる許容量の千分の一以下のレベルなのである。国家品質監督検査検疫総局と衛生部は10月23日、この問題で「健康へのリスクは小さい」との声明を発表し、販売が再開されることになったが、この騒動で企業が受けたダメージは計り知れない。
*さらに日本からの輸入食品で、カルフールや元禄寿司の寿司、冷凍イカ、サンマ、カレイ、タチウオ、タコ、エビ、カキ、調味料、大豆サラダ油、魚肉ソーセージ、ピーナッツ菓子、ケーキ、冷凍干し柿、コーヒー、ジャガイモ粉末、大根漬物などで、含まれてはいけない化学物質、重金属、菌が検出された発表されたが、量的にいくらなのかは全く発表されていない。
背景:
日本は、2006年5月残留農薬の規制を強化した「新食品衛生法」を施行した。残留農薬規制強化策「ポジティブリスト」は、残留農薬が一定基準以上検出された場合、食品の出荷や流通、販売を禁止する措置をとるもので、外国から輸入された農産物・加工食品にも適用される。この影響でこの年6月の日本向け農産物の輸出が従来より2割近く減った。
この「ポジティブリスト」に対し、中国は「中国の生産者に損害を与えると同時に、日本の消費者の利益を損ねる」として反発していたのである。このことが原因で報道機関、消費者を巻き込んだ明らかな日本バッシングともいうべき状況を露呈した。
事例2:
2005年ソニーのデジタルカメラが浙江省工商行政管理局から品質に問題があると指摘され、さらに対応に問題があるとされ、その後すぐに経済センサスについて「虚偽の資料を提供した企業350社に対して、行政処分が行われた」と報道し、索尼(中国)有限公司(ソニー中国)を実名入りで取り上げた。
しかしこの時、当局はソニー以外のメーカー名や機種は公表しなかった。ひとつの企業バッシングとも思われる事態に発展したのである。
背景:政治問題の先鋭化~反日デモの拡大
2005年反日デモ以来、企業や商品に意図的なデマが飛ばされるようになり
それがあたかも真実であるかのように報道され、被害を受ける日系企業や商品が
相次いだ。デマとわかっても修正記事が出ることは皆無。
中国では報道機関が日本に関する問題に常に批判的に報道していることが多い
多くの国民がこれを見ており、日本商品の苦戦の一因にもなっている。
事例3:
2010.09 トヨタ汽車金融(中国)有限公司
浙江省工商管理局 不法リベート支払で罰金、商業性賄賂と認定される
背景:尖閣諸島漁船衝突事件の報復といわれる。
事例4:
2017年日本食品、無印良品、イオン
東日本地震の原発事故、放射能の影響により、多くの商品がいまだ輸入規制されている。
2011年の福島第一原発事故を受け、中国政府は福島県、群馬県、栃木県、茨城県、宮城県、山形県、新潟県、長野県、山梨県、埼玉県、東京都、千葉県の12都県で製造・生産された食品、農作物、飼料の輸入を禁止し、これは今も続いている(現在は山形県、山梨県を除く10都県)。「放射能汚染地域」だから、というわけだ。
両社はすぐに公開反論し、ネットも使って正確な情報をユーザーに伝えた。ネットでは異例といえる日本擁護の意見が頻出し、ある報道機関も両社の反論を正しく評価し報道した。しかし、中央テレビの修正報道は無い。
*日本の放射線量:2011年5月、2017年3月いずれも北京の放射線量より低い
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■高田 拓氏(曲阜師範大学、斉魯工業大学客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授)
1967年福島大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業(株)入社。1997年松下電器(中国)有限公司に北方地区総代表として北京勤務、
2001年華東華中地区総代表として上海勤務。2002年松下電器産業(株)退社、同年、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)顧問
2009年中国各地の大学で教鞭、2012年山東省政府より外国人専門家に対する「斉魯友誼奨」受賞。
曲阜師範大学、斉魯工業大学の客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授。
現在、現場での実例を中心に各団体、大学、企業のセミナー講師を務める。