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「“守破離”まずは“守”」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(36)    
「“守破離”まずは“守”」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆自身の惨めさが「基本」を素直に学び込む

話力啓発を志して学び合うC県話し方友の会が50周年を迎えた。設立当初会長の任に携わったことから諸処のイベントに招かれ、共にその軌跡を顧み、喜びを共有化した。祝い文には次のように記した。

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感動・感激・感謝

「社員研修担当としてどうしても話す力を磨きたい。話し方教室普通課程に学ぶ。最初の実習は1分間の自己紹介。恥をかきたくない、57秒きっちりで話すと決める。三日間暗記に暗記して絶対いけると密かな自信。いざ。本番、「皆さん……」途端に足ががたがた震え、目の前が真っ白、顔は真っ青、背筋に汗が。一気にしゃべって37秒。あがっても暗記した内容はなぜかでた。I先生からのコメント、何にも聞こえず。恥ずかしい。あれでも研修担当か、皆のまなざしが突き刺さる思いだ。

7回コースの最終回、各クラスの全体閉校式での感想発表者を当クラス23名からは誰にする。「澤田さんが良い」「なぜ?」最初の自己紹介時からの進歩がめざましいから。「えっ””」閉校式400余人の会場で、自己紹介の実習を再現、大拍手。学んだ基本を素直にいかしたスピーチだ。この体感が「他の人に劣ることを恥じるよりも、昨日の自分に劣ることを恥じよ」現在講師の立場で説く言葉だ。
 
友の会に入会、会長代行とのこと。「えーつ」。非才ながらもできることの最高実践の2年間。蒔かれた種を少し芽に……それだけの貢献だ。あれから50年。以後歴代会長の敏腕なる活躍で、現在では単なる友の会でなく、指導者を育て、教室を開催、県内での話し方コンクールの開催と着実に発展を成してきた。この軌跡は見事の一言に尽きる。感激と感動と感謝である。なんと心豊かな日であろうか。現在、足の震えはないが、感動の心震える50周年万歳である。おめでとうございます」
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と記した。

「先生嘘でしょう」「いや、それが真実。だから今の自分がある」と祝いの席で交わした現会員とのやり取りだ。
 
多少なりの自信を持っていたからこその「かっこよい話し手」の妄想に駆られた自己流の話し方。それは惨めな体験を授けてくれた。だからこそ自分の未熟さを素直に認めての学びであった。

話力啓発の学びは、基本コースを5ヶ月みっちり受講した。その後、話し方教室インストラクターの資格を取得し,インストラクターとしての更なる学びも重ねた。このときの学びの体得が現在の講師力としての基本力である。単なる一方的講義でなく,受講者との対話心での講義であり、ヒューマンアセスメントを生かした個別への支援指導である。

従って、研修項目は同じであっても、指導支援の実践はいつも新なる心意気と3現(現場、現実、現人(言った本人)主義に基づく動きに対応した指導・支援の施しである。「おかげさまで」の小生だからこその評価を得ることは講師冥利につきる。それは、講師としての「守」「破」「離」の体験による体感の進化ステップである。

◆「規矩作法 守り尽くして破るとも 
  離れるるとても 元を忘れるな」
 
茶人の千利休が詠んだ和歌に
「規矩(きく)作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 元を忘れるな」
との教えがある。

そこには,「守破離」の階段を確かに踏んできた成長といえども、基本を忘れることのないようにとの学びがある。

その実践では都合の良い評価設定を上から目線で設定することなく、各社、各自の現有能力を基点とすることである。そして指導支援の施しで潜在能力を引き出し、自らの気づきから磨く楽しみを喚起する。

以後の成長は絶対評価で認めていく「寄り添い指導者」としての現在である。その過程では「基本を確認する」このフレーズが生きることも多い。

改めて、守破離の意味合いを確認しておこう。

まずは「守」、この段階でいかに能力の根(基本力)をきちっと体得するかが大事である。案外、自分流にやることが個性が生きると言うが,それは根・芯なき素人の浅はかな学び心の怠惰心である。

「守」は下手な段階であり、無知から素直な学びで既知となり、その通りの実践体験だ。案外、解っている、やってみせると頭心は確かだが行は思う通りいかない。すぐには体得できないがそこには修練の重ねがある。

何事も本気でやれば成就できる。基本は地味である。こんなことが何の役に立つのかと、しらけ心がでることも多い。基本は、自分と異なる方法であるかもしれない。だから、こうしたほうが良いと都合の良い方法を絶対視することもある。

しかし、先輩が長年にわたって身につけてきたノウハウ、仕事の進め方は多面的に捉えた最適方法である。ならば、謙虚にあるがままの状態を盗み真似ることが良い。素直に指導を受容することから貪欲にものにすることだ。基本100点満点の遂行実績は信用を得、やがて、任される存在となる。

「破」、習得した基本に自分なりのアレンジを加えていく段階である。より良い方法を考える楽しみである。

大手鉄鉄鋼所のベテラン研修で紹介される貢献力に、「先輩から継承された技能に自分なりの改善を加えてきた」と誇りを持って話される。自分が担当した足跡として進化させてきた技能による効率、安全、品質向上への貢献である。改善を施す、その為には新たな学びが不可欠。本を読む、人の話を聴く、情報を得る、他社から学ぶなど新たなインプットの蓄積だ。

インプットが変われば当然アウトプットに新たな発想を産み出す。そこには「Think・Think・Think、考えよ。考えよの知恵の創造だ。智恵は、試行錯誤、創意工夫、改善へと生きてくる。この実践はマニュアル人間からその場の条件を活かしたおもてなしの行使である。
 
型破りとは型ができてから始めて破ることである。型無しではそれはない。

「離」は、基本を踏まえたオリジナルに進化する段階である。振り子打法、一本足打法の実例が良く紹介される。まさに独自の境地を拓いて一流の強さを編み出しだ。各分野でのプロ、五輪選手、メダリストの強さもここにある。匠、名人、達人、スペシャリスト、○○流……表する言葉は様々だ。

確認しておくべきことは「プロも元はアマだった」「初心者のできない自分からできる自分に、さらに独自の強さをつくり出す」、こんな改革の努力の実りである。しかし、いざ闘いへの臨みのときには基本動作の確認を怠らない。

◆春・張る、張り切る「新への想い」第一歩は「守」
 
企業での動きも新たな息吹のときである。未来への期待を持った新入社員として活躍のスタートを切る人いる。

今年は93万人と聞く。また人事異動により新たな職場、職種での活躍もある。さらには、役職の昇進に伴う新たな高次元のキャストへの挑戦もある。各様であっても同様なことは意気込みは強い。早く結果を出す。個性を活かした独自の活躍を魅せ、気持ちははやるし、自分はやれるとの自負心もある。
 
だが、勢いだけでは、関わる人からの献身的協力を得ることは無理である。適切な「守破離」の活躍展開で想いを着実に実現していくことだ。

郷には入(い)っては郷に従えとの例えもある。人はその土地に入ったらその土地の風俗・習慣に従うのが処世術「溶け込む」ことが第一歩。例えば、新入社員なら学生から企業人へ(入社した企業の理念を理解し、社風に染まる)ことであり、前任から新任職への配転では、職場(赴任地も含め)そこには独特の雰囲気、文化、慣習がある。

また仕事の独特な基本手順もあろう。立ち位置の違いでは、一般から役職へ、役職から幹部へとの役どころの違いはできないことでも成り切る覚悟が必要だ。そして成すべき職務の違いは、当然能力の新たな確保が不可欠である。

目指す独自の活躍を魅せる段階へ、それは「守」の出発であり、何事も素直に受け入れる学びからである。そして、順次キャリア(既存の能力)を応用しての「破」「離」の段階への昇りとなる。
 
小生の職歴でも、メーカーの製造ラインから人材育成担当に転籍した。基本スキルは何かそれは話力。文頭での紹介事例である。それだけではない。社内の諸制度、職務分掌など学び直した。専門分野では、教育担当者の基本コースを専門機関で学び、さらに管理者、監督者、ジュニアコースの研修講師資格や、産業カンセラーの資格取得もした。

その能力を駆使して、企業内研修の企画、講師で活躍を重ねた。時には教育団体からの要請を受け、外部企業社員への指導体験も成した。さらに労働組合の執行役員としての活躍も体感した。この力は、現在のご依頼企業とパートナーシップを生かした実効ある研修づくりの土と根の力として生きている。
 
「新」への取り組み機会は自身の更なる成長と存在感を魅せる絶好の機会である。
だからこそ、新たな周囲からの注目度も高い。自信を持った自分であればこそ、一皮剥いて、素直に謙虚に誠意を持っての学ぶ強さを活かしたい。この実践は「守」の段階としての能力の確かな根・芯づくりとなり、新たな協力者を得るはずだ。

◆どこでも魅せる基本言動のセブンアクト
 
経営者の学びの場で人間力向上の言動の基本としてセブンアクト(7つの実践)がある。全社員の行動指針として取り入れている企業もあるし、朝礼で唱和している企業もある。企業活動に限らず、家庭、社会生活・諸活動でも共通する基本事項である。紹介してみよう。

1.挨拶が示す人柄、躊躇せず先手で明るくはっきりと
挨拶上手は付き合い上手、そして事に当たっての積極的態度。挨拶下手な人は対人関係でも損をする。人を尊敬し人を慈しむまごころの発信が挨拶。自ら先に、明るい、はっきりした声と表情で行う習慣を付けよう。

2.返事は好意のバロメーター、打てば響く「ハイ」の一言
間髪入れずに【ハイ」という返事をされたら誰しも気持ちのいいもの。なぜなら、好意の表現だから。また、返事をした人もそれによって実行に向けての明瞭な区切りがつく。

3.気づいたことは即行即止、間髪入れずに実行を
やろうと思ったらサッとやる。やめようと思えばサッとやめる。ぐずぐずしただけ物事はスムーズに運ばない。気づいたことをその都度適確に処置していけば、心にかかることなく常に実力発揮できる。「あのときにやっておけば良かった」「あのときにやめておけばよかった」こんな悔いとはおさらばしよう。

4.先手は勝つ手5分前、心を整え完全燃焼
約束の時間を守る。絶対遅れない。この事は信用の第一歩。早め早めに行動し,始まるのを待つことがゆとりを持っての完全燃焼のコツ。少なくとも5分前に決められた場所に行き、心を整え、呼吸を整え、満を持して事に臨む習慣を付けよう。

5.背筋を伸ばしてアゴを引く,姿勢は気力の第一歩
正しい心は正しい姿勢に保たてる。ふしだらな姿勢には,積極的、建設的な心の宿りようがない。腰骨をしっかり立て。あごを引いた姿勢姿勢から気力が出てくる。

6.友情はルールを守る心から,連帯感を育てよう
集団生活では、一人のルール違反が大きなマイナスになる。約束ごとを守り,その場のエチケットを一人ひとりがしっかりと守るときに、集団力が発揮される。

7.物の整理は心の整理、感謝を込めて後始末
後始末は,物や環境を元の場所に戻すというだけでなく、感謝の表現であり、次の働きのスタートでもある。つまり、心に区切りをつけて、そのつど100パーセントの力を発揮する重要な生活実践である。

いかであろうか。それは意識すればできるでなく習慣化まで身についていることが肝腎である。家庭ではいかがであろうか。近隣の交流ではいかであろうか。所属する諸処の団体・組織活動ではいかであろうか。
 
研修時「今できることを最高実践せよ」と右肩上がりに板書する。最高実践は「守」「破」「離」と成長することにより成すことは進化する。多様な影響や貢献は「さすが○○さんですね」「おかげさまで」「ありがとう」との多様な影響力や貢献を産む。働きがい、やりがいを享受する瞬間である。
 
春、張る、気張る時である。新たな想いはその実現だ。だからこそ、その第一歩をきちんと学び、あるいは確認することを願い、今稿とする。


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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
  


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