鬚講師の研修日(37)
「引き出し・受け止め・示唆するコミュケーションを楽しむ」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆新人指導現場での改善実践が嬉しい
開始前、2列目の4人に声かける。
「早いですね。近くですか」「車で1時間くらいです」
受け答えが好感持てる。
すると「今日の昼食のお弁当は当社のものです」と紹介される。
「え、どこですか」「Gフーズです」
研修開始。この事実を90人の受講者に紹介し「Gフーズの4人に拍手を」とお願いする。選んで入社した会社だ。誇りを持って知っていただくく働きかけは見事。
「新人は何もできないわけではない。今できることの最高実践を素直に施すことで企業への貢献ができる」
と説く。
4人の表情が照れ気味であるが自信ありげだ。
経済団体主催、新人セミナーでの一コマである。
今年も各社、各所の新人研修の講師活動をしている。指導信条は「新人自身が、自己の未熟さを自ら気づき、自ら変えていく意識と変え方を指導し、言動を改善実施を楽しむことへの支援」である。
従って社会の目、組織の目、受け入れ職場の目線、顧客の目で良いところは褒め、時には厳しい実践指導の施しである。なぜなら、新人は、自身の想定する思考枠での言動であり現実とのギャップがある。だからこそ、是々非々で評価しためすべきことの必要改善を促さねばならない。
各会場では指導・支援に対して、時間経過と共に背筋が伸び、聞く反応もうなづき、メモの実践が高まり、時折施す質問に対しても、きちんと答えてくる。各所、各社、研修実施日の特性(4月直ぐ、中旬、下旬)はあるが、大方、スタート段階では必要条件は持ち合わせている。それは、多分に就活体験が生きており、そつなくこなせる術を持ち合わせているからだろう。
しかしながら時には、おやっと思える言動や緊張感の継続対応の弱さが目につく。それ自体は本人が悪気があってのことでない。それが現在、習慣化されている能力だ。当然変える指導支援の施しが不可欠だ。
よく最近の新人はどうのこうのと言うが、そこに指導必要性があり指導機会である。単なる嘆きの評論家では育成はできまい。
「心が変われば言動が変わる 変わりを継続する事で習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる それが学生からの脱皮であり企業人としての一人前への成長である」
と結ぶとうなづきも多い。
当然、言動改善の試しの実践へと促す。ちなみに思考枠への刺激説法で反応を見せるのは、
「給料は貰うのでなく、働きの貢献によって獲るものである」
「今は、会社から借りをしている状況、早く借りを返せる働きをせよ」
「プライベートの自律した行動が給料を獲る条件。生身の自身、心身が公私で完全に分けられることはできまい。最適条件での仕事ができる前提はプライベートの楽しみをコントロールせよ」
「企業は、関わる人と成すこと(具体的仕事)は選べないもの。あの人がとか、こんなことという言葉は学生気分のあらわれだ」
「適性は創るもの。この仕事に合っているとは、ものした努力結果の評価である。天才と称するのも現在の実力を評している」
「怒ってくれる指導者に感謝すべし、誰でも怒りたくはない、怒るには勇気がいる。その源は将来にも通用する人になって欲しいからだ。真なる愛情ある指導者である」
等などである。
研修現場では、新人の従来の行動規範から今後に描く想いと受け入れがの期待のギャップを捉え、察し、今後の活躍への改善点への支援である。
◆訊くの施しから、成長への支援
それはいきなり施すわけではない。そこには「訊く・尋ねる」ことの施しで、内なる見識を引き出し、そのOK点は「なぜ」「どうして」の講義で基本認識をきちんと共有化する。
そして、更なる最高実践への改善への意識、実践策を指導し、試しの実践への喚起である。つまり「分かった」「できる」「やろう」「やった」との体感である。「知らないことをやりなさい。できないことをしなさい」‐‐こんな理不尽な指導は意味がない。
研修の舞台は、試しの恥かき道場である。勿論、できたことの継続が肝腎。だからこそできることの最高実践の怠り、耐性いかがにも着目だ。なぜなら、今後の活躍は点対応でなく線対応。その線も右肩上がりだ。
一度できたからとのリセットはビジネスにはないと説く。そうでなければ、将来の自己像の想いや、早く一人前になる企業人としての確立はできないばかりか、甘えの不平不満が自己成長を阻害する。読者諸氏の新人への指導実態はどうであろうか。
◆5月病、ホントですか
入社し約一ヶ月経った。決まり文句のように出される五月病。諸説、統計も多い。3割近くが経験との調査結果もある。職場環境への不満等が原因、連休が明けると「仕事をやる気が起こらない」「会社に行きたくない」と思うようだ。
あくまでも括りであり読者諸氏の受け入れ新人は7割の人だろう。なぜなら、仕事重視、役職への上昇志向も強い傾向だし、起業への想いもある。長年継続出講している各所、各社の実態から捉えた実感であり、GW後やめます等との心境は伺えない。心配事があれば、訊きに来る。研修終了時の「さーやるぞ」との発するオーラは見事である。
勿論 その前段で「貯め込むな。頼りを発しよう」と結び、エールを贈る。それは現実は思うとおりのことばかりでない。時には迷い、右往左往し、どうしようのもがきにも遭遇する。それは成長の機会であり、指導側は想定範囲。気にかけ、注視もするし、相談の受け入れも心している。だからこそ報連相の実践で目に見える難事の知らせと、心中の発信である。
どう言うか、そんな工作はいらない。「あのー」と一言いえば、「どうした。なに?」と訊いてくれる。素直に応答すれば聴いて、察して、今後の対応を指導する。現在の「そつなくこなす」、この枠外の状況を素直に自身の未熟さとして受け入れ、頼る実践が良い。それが職場の一員としての新人の存在だ。
そつなくしなければ、とのいらぬもがきが「先を悲観的に見る論理」にはまる。ストレスがたまる、メンタル不全となる。5月病の言い訳要因がそこに起因することもある。
職場の人は「頼られることが新人を迎えての喜びなのだ」と配属されてからの活躍への示唆である。
◆察するコミュニケーション
もし定着への動揺、悩み的心中がるとすれば行動によるシグナルを送っていることが多い。気にかけて見れば、挨拶、出勤時刻、歩きの後ろ姿、仕事への取り組み活力等の変化が一例である。
その変化は相手から「気づいて欲しいとのシグナル」だ。大事なことは、本人の状態(兆候)に早期に気づき、尋ね、聴き、小さい芽を摘みとっていくと良い。そこには「気づく」「察する」「静かなる雄叫びの心を聴く」聴き方ができるならば、メンタル不全を未然に防ぐ(予防管理)ことになる。
ましてや、突然「辞めます」の事態は起こるまい。「気が付きませんでした。言ってくれれば良かったのに」の後追いの自省は他責にすぎない。
◆引き出すコミュニケーションスキル
そこで、大事な事は引き出すコミュニケーション力だ。そのスキルは一言で言えば「引き出す、受け止める、相手が自ら行動改善するように支援する」働きかけだ。
新人指導に限らず、職場内外、社会活動でも活用できる実践法として確認してみよう。まず、引き出し、汲み上げるその一策としての問いかけの方法である。
一言で言えば、相手の自発的な行動を促進させるためのコミュニケーションである。
例えば仕事の方法を指導するときにも、「あなたならどうする」と問いかけ、提案された意見を活かしていく指導実践だ。あくまでも「指導を受ける人が自身の考え方で、主体的に行動を起こしていくよう働きかけていく方法」である。つまり、本人が本来持っている能力や行動力を引き出すことが目的。失敗したときでも「何が原因なのか考えてみよう」と問いかけ、問題解決の糸口の発見に向けさせる。
「何でうまくいかなかったのか、君のやり方が悪かったのはどこか」と責任追求型の質問でなく、「どうすればうまくいったと思うかな」といった肯定型の問いかける。そこから、今度はこうしようとの失敗から学んだ知恵が自発的に出されてくる。案外問題解決や失敗対策は、すでに本人が持っていることが多い。
●問いかけの工夫例
基本的には目的に向けて尋ねる内容に配慮するが、相手の話を聴いての対応はアドリブ的である。尋問調になることに留意し、心することは相手の想いに寄り添うパートナーとして引き出していくと良い。
いくつか例を挙げてみよう。
①行き詰まったときに視点を変える場合
・もしあなたがお客様の立場だったらどうして欲しいかな?
・もし値段を高くするとどんな考えがあるだろうか?
・もしあなたが社長だったらどんな考えを持つだろうか?
②自信がないとき力づける場合
・以前うまくいったときにはどんなやり方をしたのだろうか?
・あなたの学生時代からの強味を生かすとするとどうしたら良いだろうか?
・あなたが決断するには、どんなことがあればよいだろうか?
③考えを引き出す場合
・思いつくまま善し悪し考えずどんどん出してみようか?
・新人としてできることはどんなことだろうか?
・あなたならまだ出せるね。もう一つ出してみようか。
④間違いを気づかせるときには
・これだけで目標は達成できるだろうか。どう思いますか?
・この状態をこのままにしておいたらどうなると思う?
・ちょっと気になるんだけど。あなたなりの感じ方はどうかな?
⑤目標に向けて喚起するとき
・この目標が達成されたどんな喜びがあるだろうか
・具体的に何を、どのように、いつから始めますか?
・何か障害ありそうですか。そのときはどんな風に乗り越えますか?
等である。
返答内容(考え方)は期待への不十分さが現実。だからこの方法は活きる。それは、「どう思いますか?」との質問に提起された内容のOKポイントに対しては、「それいいですね。是非活かしましょう」と褒め、こちらでの思惑内容の不足点は「更に2点加えてみるといいですよ。それ1.……2.……」と自身の考えを提供し補って行く。
「さすが上司(先輩)は自分の気が付かない考えをお持ちですね」と一目置かれる、これが良い。案外考えの共通点はあるものだ。
人は他人から言われたことに従いたくないが、自分が思いついた認められたことは喜んで取り組むことが多い。訊き出し、尋ねる指導法はその点でも効果的である。また、相手から提案される考え方に学ぶことも多い。
◆信頼あるコミュニケーションは相談
「相談に来ないんです」
「それは信頼されてないからです」
「え?」
「相談事は自身の弱み、未熟、恥ずかしいことを吐露することから。ならば信用、信頼できない人にするだろうか」
いかがであろうか。
「また相談に乗って下さい」
「いつでも気軽にどうぞ」
そこには聴き方の見事な施しがある。それは包容力あるカウンセリング的聴き方の実践である。
場面対応ストーリーに基づき、実践心得を記してみよう。
① 親しみのある一言のかけと笑顔を送って聴き始める……………………………・親近
② 真面目な態度で相手の目を見ながら聴く…………………………………………・誠実
③ 脇見やながら動作をせず、関心を持った振る舞いで聴く………………………・関心
④ タイミング良いうなづき・あいづちを打ち、受容的、許容的態度を示す……・受容
⑤ 相手の立場に立ち、喜び、心配、嘆き、いたわり、褒めたりして聴く………・共感
⑥ 先入観や印象、自分の感情に左右されず素直な気持ちで聴き続ける…………・素直
⑦ 早合点、先読み、分かっている、揚げ足を取ったりせず謙虚な姿勢で聴く……・謙虚
⑧ 一部分の言葉印象にとらわれず、相手の言おうとしている全体を理解する……・全体
⑨ 相手が言葉に詰まったり迷ったりしたときには推測や質問で助長、促進する…・促進
⑩ 不明点は質問したり、曖昧点は確認し、十分に理解する…………………………・理解
⑪ 適宜理解したことをもう一度相手に言い戻して全体理解を正しさ確認する ……・確認
⑫ 相手に確認が取ったら、自分に意見を示唆する ………………………………・示唆の提供
適宜施す全体確認は、相手が感情支配が高いときに伝えたいことをロジカルに整理していくサポートになり、鏡に自分を映していることにもなる。
そこから、自省、自戒の気づき、自ら態度変容をためしていくきっかけになることも多い。真剣に向かい合い、聴いてくれた、ここにも聴くことによる、自発意思を持って行動を起こす働きかけになっているのである。
組織の円滑化、チーム力の強化、協力関係の充実は、そして人財育成はいかなる集団でも重要課題である。春、張り切る時期には今後の活躍に向けて地固めのときでもある。それは従来からの有り様から変えていかなければならないことも多い。現状維持は退歩するからである。
その変えていく実践策は多様である。ここでは意識的コミュ二ケーションの実践に着目し、しかも、訊く・聴くことにスポットを当ててきた。「新」とは、既にであるものを引き出し、新たな智恵と活用することでもある。新人指導の実践から定着への支援も踏まえ、更なる諸処の組織活動の向上への一石になればと念じて記してきた。
「個々の力のアップが組織力のより強さとなる」N社新人研修での専務の言葉だ。潜在能力を引き出し、より高める働きかけが個々の顕在能力アップとなり、掛け合う総合力が組織力の新たな強さになろう。
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◇澤田良雄氏
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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