鬚講師の研修日誌(38)
「小集団だからこそ『活かせる』『育つ』『貢献できる』」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆小規模企業の小集団集団活動が面白い
「それでは20分間「仕事をスムーズに進めるためにはどうするか」意見を出し合いましょう。
出し合うルールは4つです。一つは批判厳禁です。これはどんな発言であっても一切批判めいたことは言ってはなりません。こうすることによって誰もが気兼ねなく発言できます。
二つ目は自由奔放、つまり、常識外れ大歓迎です。バカバカしいあまりにも突飛過ぎる、常識外れだと思われるものでもどんどん出します。
三つめは数を多く出すことです。とにかく多ければ多いほど良いと心得てください。10―20と言わず100や1,000を出すつもりで出します。
四つめは、他人の意見に便乗大歓迎です。これは、他の人の意見にヒントを得て、ちょっと変えてみるとか、具体的に掘り下げてみると考えが沸きます。ですから「○○さんの意見と似ているじゃないか」これ大歓迎です事務所のWさん、Kさん出された意見を記録してください。二人をレコーダーと言います。Wさんは奇数、Kさんは偶数を受け持ち模造紙に交互に書いていきます。それでは始めます」
「ハイ……」「ハイ……」「ハイ……」と次から次へと出てくる。意見が詰まってきた。
「ここまででてきた意見を確認してみましょう。……この辺をもう少し便乗してみましょうか」
と誘いを掛ける。
「うーん……」「よしこれでいこう」
また詰まってくる。
「あと30個まで5個です。30個まで伸ばしましょう」
と目先の目標を決める。
「ハイ”30個行きました。やったー。みなで拍手」
9人で交わすハイタッチと笑顔が良い。
これは 、建設関係部品メーカーS社の小集団活動情景だ。6会合を重ねて今回は、改善策の検討である。その取り組み法としてBS法の活用を紹介し、その演習場面だ。
「いかがでしたか。結構意見が出ましたね。楽しかったですか」
「意外と多くでるものですね」
「改まって意見を出すよりも何でも良いから出して良い。この気軽さがいいんですね」
「普段あまり意見を言わないHさんが結構出してましたね」
と目線を送る。Hさんの照れが良い。
「この方法はアイデアを引き出す技法として広く活用されているブレーンストーミング法(BS法)です。ブレーンとは頭脳、ストーミングとは嵐です。今の嵐の大きさは中ぐらいの台風でしょうか」
すかさず
「いや私たちにとっては大台風でしたよ」とOさんが答える。
「そだね」(笑)とEリーダーが受ける。実に和やかだ。日常製造ライン、物流、事務所で黙々と活躍するメンバーたちである。更に続く。
「それでは、出された意見を評価していきます。評価項目は3項目です。
「可能性」これは自分たちでできるか当事者意識で評価、
「効果性」これは、テーマの解決にどれだけ役立つかを診ます。
そして、「経済性」お金の掛け具合です。
5点満点で評価していきます。「Wさん、1番目の意見を読み上げてください」「可能性は……、効果性は、お金はかかりますか……」「4点」「4点」「5点」と皆で議論し決めて行く。
「それでは合計点を出します」
「上位3点を重要案として、決め、以後具体的改善へと進めていきます」
ここでBS法の演習は終わります。
それでは、各サークル活動に入ります。ここまで進めてきた“真因”(問題の重要要因)毎に対策案を考えていきましょう」
ここからサークルリーダーが中心となり、BS法を活用しての活動に移行する。
S社QCサークル活動は3月にキックオフした。O社長・幹部社員との討議のうえ設定した導入目的は、
① 企業体質の向上(5S・安全・改善力・活力ある企業風土など)
② そのためには仕事での「気づき」の感度を高める。「何故そうなのか、なぜなぜの追求 を習慣化する。
③ QC手法の学習。意見を発信する資質の向上
④ そして、グループ企業の見学工場として見学者様に魅せる誇りを高める
ということである。
そこでS社(小規模企業)だからこそのQC活動の楽しみ方・進め方を確認し、4~5人編成で2サークルを発足。第一線でのQCサークル(改善)活動としてスタートした。活動のストーリーは、 現場での気になる課題発見→活動テーマの決定→要因の分析→そして真因を探り出し・決定→今回はその対策案の検討段階である。
既知のとおり、我が国での小集団活動の主たる名称はQCサークル(品質管理活動を具体的に進める方法として職場で少人数のグループを作り、問題解決に取り組んでいく方法、現在でも全国的規模で推進されている)や、JK活動(自主管理活動として主に鐵鋼メーカで推進)またZD運動(ゼロ・ディフェクツ:仕事のミス撲滅・不良低減にあり、究極的に欠点0を目指す)、考える小集団、改善サークル等が主な活動名である。いずれにしても第一線で活躍する社員の「自分たちの仕事は自分たちで良くしていこうとのボトムアップ活動である。
だからこそ、産み出される効果としては
① 自分たちの考え方を仕事の中に生かす事ができ、自信と存在感が持てる
=モチベーション・モラール向上
② 目標達成の喜びを味わうことができ、役割を果たす事で次への活力となる
=喜働の享受
③ リーダーの役割をまっとうすることによって、リーダーシップを高め、管理能力、人格が向上される。 =次期リーダーの養成
④ 自ら考え、実行する習慣が体得でき、仕事の理解を深め、企業の絶え間ない変化に対応し発展に寄与する。 =積極型活躍気質による貢献力
⑤ 問題解決の一連の活動により、諸技法の習得、改善能力、論理的思考力、発言力等 などの能力が向上する。
=育成、能力アップ
⑥ 全員参加による相互の人間的触れ合いを成す事から、対人関係や協力関係が円滑となる。 =組織活動の活性化
⑦ 必要に応じた上司との支援関係により、上下のコミュニケーションが良くなる。
=上下の良好関係
⑧ 活動と発表(社内・職場だけでなく、時には社外でも発表会が開催される)ことによって、より幅広い視野と知識を広め、人間的成長がはかれる。
=社会性の向上
等がある。
下から沸き上がる活動は、各自の意欲、潜在能力を活かせ、向上心による学びで成長し、産み出す成果は職場(組織・企業)への貢献となると集約できる。
先日、サークルメンバーからの声を集めた。
「普段考えていても中々出す機会がなかったが、あれこれ意見を出し合うことは良い」
「他の人の考え方など聞けて視点が拡がった」
「カードによる気になる問題点の抽出、“特性要因図”はどうするのかと思ったがやってみるとけっこうでき、面白い」
「職場、社内を歩くときでも“おやっ”“あれっ”と今まで気にならなかったことが妙に気づくような気がする」
「普段、考える、話す、文にすることはあまりないこと、けっこう疲れる。でもできあがった模造紙をみると嬉しい」
等の声がある。
まだ活動も半ばであるが、トップ幹部の導入目的に整合することも多く、各自の実施への評価もまずまずである。
◆第一線層の人材育成策としても最適である
筆者はかつて民間企業での人材育成担当の時期、一般社員層の底上げ能力アップ方策として小集団活動を導入、先頭に立って推進を率いてきた。それは、前記した産み出す効果は人材育成そのものと確信したからである。しかも 与えられた学習でなく、自ら求める学びであり、試しであり、実践、実効(学びの効果・成長)の体得であるからだ。
当時の社友と会うと「200人の前での発表、2日間眠れなかった。でも頑張り、サークルメンバーに“良かったよ”と肩を叩かれ、社長からお褒めの言葉を頂いた思い出は宝物です」
とラインで活躍していた女性社員や、掃除のおばさんでもある。
「あのときのリーダー経験はその後、役職に就いたとき非常に役立った」
「現在でも魚の骨(特性要因図)や、カード利用の意見の集約方法は活用することがある」
と話題は膨らむ。
できなかった自分たちができてくる、できた達成感と褒めのシャワーを満喫できる喜びは、困ったときの新たな学びや、体験を重ねてきた証である。
現在もこの案件への指導支援を施すと共に、この部分的利点を各種研修に最適に取り入れてもいる。例えば、個別の意見の策定を踏まえ、グループワーク、ワークショップへの導きである。全て実践当事者としての現状の把握から現状改革の提起事項への導きである。4~6人の異なった条件を持ち寄っての異見の交わしだからこそ、集約される衆智の結集は多面的であり質が高い。
人は人中で育つ。異なる特性だからこそ、その学びの種は多岐にわたる。
◆「私は素人です」「えっどういうこと」それは……
周囲には職場の第一線層の小集団活動に限らず、多種多様の小規模グループの活動は多い。
一例を紹介しよう。
N県に高原リゾートBがある。自然との戯れ、スポーツ施設での楽しみ、地元食材での料理を満喫、温泉でゆったりした時間も嬉しい。評判良く利用者が多い。
先般、利用者限定のバスツアーに参加した。案内者のSさんが開口一番
「私は素人です」と挨拶された。
「えっ、どういうこと?」
「この四つ葉のクローバーのマークのついたプレートがその理由です」と説明する。
ツアー中、問いかけの機会を活用しお訊きした。
「クローバーのメンバーは、バスツアーのガイドをしたいと希望する社員です。日常業務は調理、ホテル内営業、外部営業、レストラン、自然施設の担当、緑地管理等様々な担当者です。ですから“ガイドは素人”です。だからこそ皆で学習します。ツアーを考案し、ガイド内容を作成し、練習です。他の人のガイドぶりを見て取り入れることもあります。お客様に喜んでいただく、その楽しみの希望で自ら選んだ役割です。ですから、素人だからとの甘えはお客様に失礼ですよね」
Sさんはホテル内営業担当だが、案内内容も豊富、笑顔、声の響きも良いし、ユーモアも入れ見事、地域名所の問いかけもあり、時には国内ニュースも取り入れて問いかけもする。お客様を取り込んでのガイドぶりも良い。
機会を得て昨年お世話になったTさんと再会し感想を紹介した。
「Sさんはよく話すでしょう。一所懸命勉強しています。評判良いですよ。勿論他の人もですよ」とのことだ。
マルチ社員、多能化社員、本来業務の他に当社で働く更なる楽しみを自らつくる。こんな経営戦略であるとの説明も伺う。自らの成長を理念とし、2025年には、県内で働きたい企業一番を目指すB社の社員への戦略の一端であろう。さすがである。
ちらちら雨が落ちてきた。帰路のバスに乗る。お送りの挨拶者は作業服だ。
「皆さんとのお別れで涙雨が降り始めました……」
うまい“(同行仲間K氏の感動の一言)。
何している人? 緑地グランドマスターの現職社員である。
四つ葉のクローバーの花言葉は「幸運」。バスツアーの訪問先は、バラ園、お菓子工場、B級グルメ店、道の駅だ。
受け入れる地元企業も売れて幸運、一所懸命なるガイドぶりに諸処の学びと楽しみを満喫できた小生等も幸運、そして、役割を自ら楽しむ社員もB社で働く幸運であろう。
それに、B社の社名の意味は「美しき故郷」とのこと。お出でいただいたお客様が時を過ごした故郷の良き思い出を、語り部として伝え広めて頂ける評判の高めは、社にとっても幸運であろう。
四つ葉とはそう言うことであろうと勝手に意味づけてみた。
目を転ずれば、行政関係でも「自分たちのまちは自分たちでつくる」をミッションとして掲げ、県、市職員が横断的構成で学習会を実施している事例なども多い。
いずれにしても、自主的に本質的目標達成に取り組む小規模活動は、想いを同じくする触れ合う集団であり、新たな事を産み出す創造する集団であり、相互啓発による鍛え合う集団であり、関わる組織・人へ貢献し合う集団であると言える。
◆若手社員のモチベーションに小集団活動風の施策が良い
切り口を変えてみよう。若手社員へのモチベーションに関する指導も多い昨今である。対人関係が苦手、積極性に欠ける、自ら意見を発信しない、自意識が高い、知識は高いが応用力が弱い……あれこれの論説から、どう、もっと意欲を高めたら良いのかの模索であろう。
ならば、職場に小集団活動まがいでも良いから実践してみると良いと提案する。なぜ、ここまで記してきた裏付けだからだ。案外、最近の若い社員という割には「?」と察することも多い。それは、自主的にとか、自発的、自由にといいつつも本心は、言われたことをきちんと成せ、目標はこの枠で、生意気なこと言うのでない、そんな奇抜な考えは……等に類した枠の強さを持っている上司がいることだ。
従って、自身の経験則の枠外に対しては、なに考えているのだかわからない、考え方が違うので困る、勝手なことばかり言ってくる、こちらの立場が分かっていないとの台詞がついでているのである。
ならば、この思考枠を破り、若手社員への切り口を変えてみることだ。
「みんなに任せてみよう、挑戦させよう、新たなことに取り組ませよう」
良く口にする言葉を本気で決断し、持ちうる度量で自主的活動を推進してみたら良い。
社員の初心は「役立つ社員になる」はずであった。だが、張り切る活躍心が(彼らにとって)上からの制約で発揮できない不満の蓄積が、無難主義をもたらしていることもある。相手を変えようと思ったら自ら変わる。思い切って施してみたら良い。活動する上で潜在能力の生かせる場と個性発揮の機会、人の関わりも密接となり苦手ではなくなろう。意見を自由に出す手法を取り入れるならば、出さざる緊張が起き、発言に結びつく。
受け入れは自信となり自発的発言に育つ。秘めたる得意事項での活躍は、皆からの賞讃を得て以後の存在感を得る。以後それに恥じない自律的言動となる。一方、活動する上では、体験不足、能力不足で困窮することがある。自意識の高さが他の人に通用しないこともある。未熟さの体感は一回り大きな人格形成になる。多分に「最近の若い社員だからこそ創り出す成果」だと、褒める上司に変わるであろう。
◆活動時間の配慮、決断をいかに
肝腎なことは、どう活動時間を提供できるかの配慮であり、申し入れによる支援指導力である。
昨年、建設工具メーカーの中堅企業S社の一部門が推進する改善サークルを支援指導した。管理部に推進事務局を置き、社内協力企業(製造)のサークル活動を推進してきた。推進状況の把握により推進事務局、リーダーを交えた指導、サークル員全員を対象の学習、事務局独自の指導、肝腎なことは協力企業トップが活動時間の申請に配慮する支援体制。トップの思い切った時間の提供(就業内、後)がサークル活動のスムーズな推進となり、見事な発表会に漕ぎ着けた。
リゾートB社のクローバーメンバーSさん「今、ガイドが終わりましたので職場に復帰します」とのこと。学習は原則就業時間外、ガイドの活動は就業時間中の時間を職場でOKとしている。
現在支援指導のS社では、サークル活動の時間、O社長が代わりに現場に入り可能な限りの生産活動のカバーをなす。小企業だからこその支援策である。
S社の活動もいよいよ改善へと進む。改善策の決定に基づき改善を施し、効果検証へと進む。必ず、テーマ解決を完遂すると確信しての支援の楽しみである。
働き方改革とは、「方」は遂行方法、「改革」とはその方法を変える事である。そこには第一線のボトムアップによる改善活動が不可欠である。改善は効率化を産み、生産性の向上をなす。働く時間は自ずと短縮され残業も減少する。人間だからこそ持つ考える力がそこに活きる。
昨今、見聞きする論評に、ならばどうすると考察し、小集団だからこその利点を活かす事の提言を記してきた。なぜなら、潜在能力を顕在化し(活かす)、共に成長し合い(育て)、現場を変える第一線の社員力は境企業を取り巻く環境変化に対応していく企業の強さに貢献できると心しての今稿である。
///////////////////////////////////////////////////////
◇澤田良雄氏
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
///////////////////////////////////////////////////////