鬚講師の研修日誌(40)
「変える・変わる楽しさ」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
「心が変われば行動が変わる(意識改革)
行動が変われば習慣が変わる(行動改革)
習慣が変われば人格が変わる(人物的影響力)
人格が変われば人生が変わる(業績向上」
これは研修の素晴らしさを提起する言葉である。
テキストの頭書に必記し、受講者との共通項として確認する。それは、各位が現在自信と誇りを持って活躍している活躍ぶりを客観的に診断し、更なる活躍向上のヒントに気づく機会が研修であり、小生の支援の施しである。
気づきは、心の変化であり、ヒントは変える術である。だからこそ目に見える言動変化が、関わる人の協力温度を高め、業務推進がよりスピードを早め、質良く遂行される。
当然その集約は業績向上を成就する。従って研修は「自ら変わることにより、相手が変わる」そのジョイントパワーの向上である。
「変える」「変わる」このキーワードに着目して、昨今の直間の施しの事例をもとに確認してみると次の4項が浮き彫りとなった。
●心を変えることは「自分の可能性を信じる言葉」を持つこと
●行動を変える。それは想いに近づく努力の実践である。だから楽しい
●習慣が変わるとは、感謝と信頼を高め活躍の喜びとなる
●ネガテイブをポジテイブに変換させる。それは「運が良い」と鼓舞する言葉がよい
それでは各項について記してみよう。
■「できる、できる……」可能性を信じる言葉が打つ手を産み出す
「できるできる必ずできる、自分がやらずにだれがやる、希望の道を切り開こう。打つ手は無限にあるからだ」と精一杯の声を張り上げ今後の活躍を鼓舞する後継者塾生の凜とした声は、会場を埋め尽くした聴衆の心に響き渡る。
打つ手は無限とは、塾生が修養する塾の設立に尽力した実業家T氏の言葉である。その内容は
「素晴らしい名画よりも、とても素敵な宝石よりも、もっともっと大切なものを私は持っている。どんなときでも、どんな苦しい場合でも愚痴を言わない。参ったと泣き言を言わない。何か方法はないだろうか。何か方法があるはずだ。周囲を見回してみよう。いろんな角度から眺めてみよう。必ずなんとか、なるものである。なぜなら打つ手は無限にあるからだ」
である。
T氏は裸一貫から事業を興し、実業家として名を馳せた人である。小生も薫陶を受けた経営者であった。そのご縁で、塾生への「青年経営者・幹部社員の話力」を20年間指導してきた。
会場は、その卒塾式である。1年間の修養で最も大事な実践の取組報告がまず成された。
実践は様々である。例えば、
「工場のトイレ掃除をいたします」
「父が早く他界しました。100日墓参します」
「父が嫌いと決めつけていました。父に100日葉書を書きます」
「職場のパート社員に朝一番に心のこもった挨拶します」
「使用機械を掃除します」
「社長の父に100日葉書書きます」……
である。
ならば実践目標にどう取り組んできたかの報告発表だ。最初は、
「潔癖症の自分、トイレを素手で洗うことに、なんでこんなこととしなきゃならないんだと抵抗もあった」
「葉書内容もありきたり、中々心から書けない。投函に迷ったこともあった」
「小さな声でぼそっとした挨拶が始まりでした」
「大きな機械を見あげてこりゃ大変とめげた」
との当初の取組状況だ。
そのとき、言い聞かせた言葉が冒頭の言葉である。
「できる、できる…………」
段々直行(素直に行う)の心に変わり、
「書く内容もありのままの心情と意思を伝えるようになりました。父、母から喜ばれました」
「周囲の人がきれいになったね。私も手伝うよ。と掃除仲間になりました」
「名前をつけての挨拶で両手で握手。明るい職場環境となりました。パートさんから若い人と握手すると朝から元気が出ます。といわれてます」
「機械に名前をつけた。それは初恋の女性の名『あさみ』の名です。名前を呼びつつ掃除するのは楽しい。小さなペンキの剥げも見逃さずできてます」
「雨、晴れ、毎日墓参の日々は天候の条件もある。父に語りかけ、母の名、祖先の名のいわれも調べもしました。改めて感謝の気持ちが深まりました」
と気持を切り替えての素直な実践ぶりを報告する。
時には感情が高まり。涙声になる。小生の胸が心地よく騒ぐ瞬間である。会場にお出でになった父、母に最後の葉書を読み上げ花束を贈るシーンも大きな拍手で祝福された。
報告者による実践の総括を試みれば、「当初は抵抗あり、しかし、塾生仲間、指導者からの示唆により素直な自分になりきった。どう成すかを見いだし、愚直に継続した。自分が変われば、相手が変わるこの実証を体得した」という意義を有している。
実践の誇りを紹介する卒塾生の規律正しく、凜とした晴れやか表情が今後の更なる成長を期し、頼もしい。話し方も、体験に基づく訴求であるからこそ全身での表現が説得力を高めている。
そこには、半年前に基本を指導したお役立てが生きていることが嬉しい。退室時一人ひとりに「良かったよ」と声がけ握手する。「ありがとうございました」との感謝の返礼のその目線に「共に成していきましょう」と激励された思いがするのも心地よい。
「今はできない。でも明日できないことではない。新たな学びによる新たな智恵を創造し可能性を編み出す」
「できない理由を考えるより、どうしたらできるか考える」
この心の切り替えは活躍の向上策を創造し、語れる結果を創り出す。
そこには持ちうる潜在能力の新たに生かし方に目を向け、自ら可能性に気づくことも多い。新とは、無から有を生むことだけでなく、今ある力の新たな生かし方を見出すことでもある。自能力の限界は、打つ手の無限の教えの如く、周囲からの力を借りることである。
■「苦闘とは楽しむ努力である」金メダリスト三宅氏に聴く
新たな苦労は楽しみである、とはメダリストの提言である。
地元経営者の学び仲間で三宅義信氏の講演を主催した。三宅氏は1964年東京オリンピックで金メダル、次回メキシコ大会で金メダルと連覇をした人だ。ローマ大会から、ミュンヘン大会と4回連続の出場でもある。
輝かしい戦績と指導歴の陰には壮絶な特訓や独自の練習方法がある。三宅語録として
「夢が全ての成果なり」
「何事も努力なくして勝利なし」
「持たない夢は掴むことができない」
そして
「オリンピックは7割がメンタル、3割が運」
との言葉を紹介された。
講演テーマは「苦闘の栄光」。開口一番、
「苦闘はありません。むしろ楽しみです。だから(苦労を)買っていくことです」
と話された。
それは、夢に近づいていく実践は努力である、だから、苦労でなく実現に向けての楽しみである、と説く。
勿論、そのためには、自己流の強さをどう創り出すかを必死に考え鍛錬する。それは他選手と違う強さづくりが勝利を生む。
これは、名を残したスポーツ選手に共通していることである。だからこそ練習も半端ではない。ライバル選手がバーベルを1日30本上げるなら自分は100本挙げる。そのための体力作りをする。小柄な身体を鍛えるためにどうする。バーベルを買えない。ならばどうする。トロッコの車軸をバーベル代わりに猛練習をした。
また、月給1万円の時代、8万円の最新カメラを借金して購入、自分のフオームを自分で確認して勝てるフオームを身につけた。勝負は一瞬。その時に天から女神が降りてくる。運を呼び込むということだ。それは練習・努力が呼び込むものだという。
更に、勝てる力をつけても五輪での大会では100パーセント出せない。勝負は一瞬。その一瞬の心はどう創る。
「己に勝って初めて、その結果が出る」だからこそ心を鍛える。山に籠もる。寺で座禅、滝に打たれる、碁、将棋に親しむ。将棋では大山名人と対局したこともあるという。
抜きんでる力は、とことん変えていく努力の累積を、徹底してやり抜く鍛錬である。何事も「一番になることだ」。五輪で金メダルを取る。2,3番手を目指すことではない。聴衆に強く訴求された一言である。
そして、たった1回の人生自分が死ぬまで働ける場所を持っていることは素晴らしい、と説く。現在 2020年東京五輪に向けての選手育成、外国からお出でになる人たちへの「おもてなし隊」としての重責を担い、大学の客員教授としての現役でもある。お会いし親しく談義し、講話をお聴きし、まさに、名選手にして名指導者の人である。
企業での社員の強さづくりの育成、企業のオリジナリテイの創造、そして上司力の向上に通ずると参加者のトップ幹部、管理者層から、懇親の場で多く聴かれたことも嬉しい。苦あれば楽あり。それは感謝として返ってくる喜びである。この事例を次に紹介してみよう。
■実践例を語る喜びは素晴らしい
先般、C市の技能員研修を担当した。事務職と異なり、専門技能での活躍であり、配転による職種変更はない。例えば調理、学校用務員、運転、道路補修、斎場、など様々である。
現状の行政は「選ばれる、選ばれ続ける街」として在住人口の維持、増加は競争である。それだけに直接住民との接点で活躍する技能員の活躍ぶりは、市町村の評判を決める。
だからこそ日常の活躍には自信と誇りを持った活躍ぶりである。例えば、今夏は暑い日々が続く。保育所の調理場は大変な暑さだ。限られた職員で、たとえ休暇を取った人がいても、献立に基づき、調理し、配膳を皆でやり抜く。昼食時間は決まっているからだ。園児から「美味しかった……」といわれる一言に思わず微笑むという。
そこで、研修の軸は「変えることにより、生涯語れる、語っていただく足跡を残す」とした。
「活躍の情報交流」のグループワークは賑やかである。その柱立ては、現況の活躍ぶりにこだわりの活躍法、関わる人(職場内外、住民)から喜ばれたこと、感謝されたこと、そして自慢できる実践例などである。自身の実践例を紹介する豊かな表情、他の人の話題に問いかける探究心で盛り上がる。例えば、
●「忙しい中でも、決して手を抜かない。清潔、衛生、異物混入、アレルギーに留意し、絶対に間違えない配膳をしてきました。上司、保護者から信頼されています」
●「子供に花に関心持ってもらいたい。赤いひまわりの種を購入し、花壇で育てています。綺麗だと興味を示せば、他の花に水をくれるにも楽しみがでます」
●「草刈りは重要です。一回りするともう伸びている。また刈ります。住民が防災行事で来校し、こんなに校内を綺麗にしているんですね」と声がけしてくれました
などなどが紹介される。
その活躍状況は、あえて新たな想いをつくり、その実現のために新たな努力を課しての取組みである。決して「慣れたことを慣れた方法で余計なことはしない」などという現状維持型の人はいない。
毎年担当しているが概ね感じる実感である。
そこには、なぜ当市で働いているのか(人生観)と、なぜこの仕事を選んだのか(職業観)が確立しているからである。だからこそ経験値(キャリア年数)は経験智(やり方の智恵)を高め、することが変わらずともそのし方への変えようを編み出している。
変える智恵の継続実践は、やがて、「ありがとう」の感謝の言葉がプレゼントされる。そのことは自らの職業人生を心豊かに創造していくことでもある。
そこには、明るく物事を観ていく「明朗さ」が決め手である。
■思考枠を壊すその実践
思考枠は経験則にとらわれることが多い。良く、行き詰まる、壁に当たるという。それは、経験を重ねた経験則が造り上げる。壁は自身で造るものであり最初からある訳でない。自身の思考枠に絶対間違いないとはまればはまるほど壁となり躱せない。「視点を変える、切り口を変える、発想を転換せよ」と普段口にしていても案外思考枠に固守する傾向があることも実態。ネガテイブ思考は失敗例の経験則であり更に厄介だ。失敗経験や自己否定による「でも」「だって、こういうことがあった」「あの人はまたこういうだろう」とのいらぬ心配性の先読みによることが多い。
ならば、この克服にはどうするか。
「視点を広げる」
「失敗は成功の母、第1回の失敗は第2回の成功の足がかりであり、より良い智恵を産み出す元である。第2回の失敗は第3回の大成功の序曲であるかも知れん、と失敗を生かすこと」
「切り口を変える」
「他の人の助言を生かす」
「発想の転換」良く口にする言葉・素直な取組みだ。その具体的実践策は新たな情報の収集、体験、人からの学び、気づきである。例えば、
① 自分と異なる考え方(異見)を歓迎し、新たな視点で物事をみる
②「もう一つ、もう一歩」のワンモア精神を生かしてこだわりの探究心を持つ
③ 子供心の遊びの余裕と「なぜ?」の好奇心を持ち面白さを追求する
④ 他からの忠告、アドバイスは素直に取り入れる
⑤ 物事の核心を掴むこと。それは目的に対応して多面的思考を試みるチャンスだ
⑥ 鳥の目、(全体を観る)魚の目(流れを読む)虫の目(現実・現場・足下の実態に触れる)コウモリの目(逆から観てみる)の4つの目の付け所を生かす
⑦ 時には異なった条件に身を置いてみる(場所・人の集まり・立場・仕事・学習など) そこで、いつもと違った目線での新発見を生かす
⑧ 早起き、早歩き、早読み、を試みて積極的言動を自分に課してみる。自然に攻めの思考になる。
いかがであろうか。加えて 先般のF県経営者協会主催での新任管理者研修で「視点を広げることへの実践」を紹介し合った事柄を追記してみると、
● 会社以外の趣味仲間、学友などと話す機会を持つ
● 自分の得意とする趣味、特技を持っている
● 映画・音楽鑑賞を時に楽しむ
● 時にはタウンウオッチング(街の散策)を楽しむ
● 初めての街、初めての店に行ってみる
● 子供、外国人、若者など異質の人との関わりを楽しむ
● 時には、通勤経路、駅から自宅までの道順、散歩コースを変える
● テレビ、新聞など見る内容(各紙、チャンネル)を変えてみる
などなどである。
いずれにしても「井の中の蛙」「蛸壺思考」「世間知らず」「頑固者」……ではなく自らの可能性を粗末にせず「ポジテイブ思考・「多面的思考」で愉しんでいくほうが良い。
経験則は現在の最高の方法、だからこそ経験則+改革(変える=新たに目をかける、気にかける、体験する→考えが変わる)が必要である。
■「わしは運が良い」陽転思考が踏み出しの第一歩
よく「ピンチはチャンス」という。苦しんだりしたとき、そこから逃避することでなくその状況を受け止め、良き方向を導き出すことにより、チャンスに転じることができるとの意味合いである。
かつて、熊本地震で現地を訪れた際、目にした言葉が鮮明に思い浮かぶ。それは、被災地の美容室の扉に張られた「今日の涙を、明日は笑顔に」の文字である。
現在の西日本豪雨被災地でのインタビューの応答にも類した心境が伺える。それは陽転思考の凄さである。
陽転思考とは松下幸之助翁の「運が良い」との考え方から来ている。関連する逸話は多い。例えば、学歴の乏しさを「教えていただくありがたさ」に、あるいは,身体の弱さを「御願いすることにより人が育ち企業の発展の力になった」等々の「運が良い」と捉える心境は学ぶことは多い。
現実に持ちうる自身の特性、それは宿命もあろう。避けることのできない厳しさもあり、思わぬ失敗の事実もある。まずはあるがままに素直に受け入れ、「ならばどうする」と次に向けての打つ手を引き出す前向きの姿勢づくりをせよとの教えだ。そこには、陰のお陰で陽が生まれる。陰陽共に生かし合う関係が成り立っていることにも気づく。
よく成功の軌跡を語る話題として「今の自分があるのはあの苦しい時期があったからこそである」との体験談はその一環である。
紹介してきた事例の各自の実践の喜びの起点がここにある。それは「相手を変えたければ自ら変わる」その第一歩の踏み出しは「私は運が良い」「できるできる……」のマジックフレーズとして言いきかせることをアピールして、結びとする。
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東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
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