真田幸光氏の経済、東アジア情報
「日本と南北の関係、そして拉致問題について」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
韓国では、
「日本による植民地時代に強制徴用された朝鮮半島出身者の遺骨を日本から持ち帰る事業」
がかねてより、検討されていたが、ここにきて、これについて、北朝鮮と協議をする動きが出ています。
そして、その協議の為、訪朝していた韓国の社団法人「民族和解協力汎国民協議会」(民和協)の金弘傑代表常任議長は、ソウル市内で記者会見し、遺骨送還のため、北朝鮮の民族和解協議会と南北共同推進委員会を結成したと明らかにしました。
金常任議長が訪朝したということは、当然に、政府の了承の下の動きであり、
「南北融和推進」
にも繋がりましょう。
一方、北朝鮮としては、
「日本に強制徴用≒拉致≒された朝鮮人の遺骨回収を日本に定義することによって、日本が北朝鮮に向けて非難をする拉致問題の国際社会に於ける反発や批判を和らげる効果を狙い、その過程で、日本の北朝鮮に対する非難と要求をすり替える」
と言った効果も狙っているものとも見受けられます。
ところで、この金常任議長は、日本では有名な、九段のホテルで発生したあの、
「金大中拉致事件」
の故金大中元大統領の三男であります。
そして、今般の訪朝では、北朝鮮の民族和解協議会の会長で最高人民会議常任委員会の副委員長を務める金永大氏と会談し、その結果、合意文書に署名しました。
その上で、当該事業の名称について、
「朝鮮の魂、アリランの帰郷」
と紹介しています。
更に、当該事業を、「民間運動」として進め、日本など国際社会の支持や協力を呼びかけていく方針で、日本でも活動を開始し始めました。
金常任議長は、上述したような、北朝鮮の思惑を危惧する声を意識するかのように、
「当該事業は、あくまでも韓国と日本、北と日本の関係を改善するための、北東アジアの平和の為の運動であり、対立を深める意図がないことを明確にした」
と強調しています。
日本としては、本当にそう信じたいものではあります。
そして、もしそうであるならば、日本に拉致被害者帰国ともし遺骨があればその遺骨を返還してもらうことに、こうした流れを繋げていくべきであり、
「日本の拉致問題解決のプラットホーム」
として、今回、新しく設立された、
「朝鮮の魂、アリランの帰郷」
という事業の事務当局との対話チャンネルを有効利用していくと言う具体的な検討に入ることも一策であり、南北双方の出方を確認、
「日本と韓国、北朝鮮の関係改善を願っている」
ことを確認出来れば、遺骨返還に応じていくことを具現化していっても良いかと思います。
尚、今回、南北で合意された、推進委員会は、南北それぞれ3人で構成され、韓国側の委員長は金常任議長が務めることになるようです。
また、9月に民族和解協議会の関係者をソウルを招待する計画も明らかにしています。
そして、民和協は日本全国の寺院などに強制徴用被害者の遺骨が約2,200柱あると見ており、日本の市民団体や在日本大韓民国民団(民団)、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)などと協力し、遺骨の確認や送還準備などを進めていく方針と言っていますが、日本としては、日本側の窓口には、例えば、上述したような目的から、
「拉致被害者家族、政府関係者、拉致被害に関する識者」
などで構成し、オール日本の意向が反映される形で、本件については協議をしていってはどうかと私は考えています。
新しい動きです。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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