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「ホンクーバーの”闇民泊”」(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考
「ホンクーバーの”闇民泊”」
                                
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

私は10年ほど前、中国のわが工場で縫った衣類を、カナダに輸出することを狙って、頻繁にバンクーバーを訪れたことがある。

当時、バンクーバーは1997年の香港返還時に、香港の未来に悲観した金持ち香港華人が、大挙して移住したので、ホンクーバーと揶揄されるような状況だった。市内の一角に、立派なショッピングモールができており、そこでは日用品から食料品まで、香港華人の必要な生活物資がすべて揃っていた。

また、そこのフードコートは、香港華人の高齢者のたまり場になっており、多くの人が中国語、主に広東語で会話を楽しんでいた。もちろんバンクーバーにも古くからの中華街はあったが、新しく移住した香港華人はあまり寄りつかないようで、そこは寂れた感じであった。

私がそのようなホンクーバーに出張した時、いつも使っていたのは、中国人の知人に紹介された“闇民泊”であった。闇民泊はホテルの1/3ほどの料金で泊まれたので、それが魅力の一つであったが、それよりも、私が闇民泊を利用した大きな理由は、そこで市井の情報収集ができたからである。

闇民泊の利用方法はきわめて簡単で、上海からFAXで闇民泊の中国人オーナーに、宿泊希望日、飛行機便名などを送っておくと、ホンクーバー到着時には車で迎えに来てくれる。当時、なんどもホンクーバーを訪れたが、その間でトラブルは一度もなかった。

ただし、一度だけ、先客が当日になって宿泊延期を頼んできたというので、いつもの家は満室となり、私は他の闇民泊に回されたことがあった。そこは立派なマンションの4LDKで、その中の一部屋だった。本当に普通の家庭であり、ときどきあぶれた客の収容を手伝っているのだという。

私は、先年まで高校生の息子が使っていたが、今はオタワの大学に行ったので空いているという部屋に泊まった。もちろんその4LDKの持ち主も中国人だった。私はそこに数泊し、去るとき、バスルームや居室を徹底的に掃除し、「来たときよりも美しく」を実行した。いつもの一軒家の闇民泊オーナーから後で聞いた話だが、マンションのオーナーが、「さすがに日本人は奇麗に部屋を使ってくれる。できるだけこれから、中国人ではなく日本人を泊めたい」と告げたという。

中国人オーナーはホンクーバー市内で4軒の闇民泊を営んでおり、16~20室、最大収容人数は50~60人ほどだと言っていた。その話を聞いた時、私は、多分、月収は200万円を下回らないだろうと思ったものである。彼はホンクーバーには、同じような闇民泊を経営する中国人オーナーが相当数いると、私に語った。

その闇民泊を2~3回利用しているうちに、顔なじみも増えて、雑談ができるようになった。その家には10畳間ほどのリヴィングルームがあり、夕方になると三々五々、そこに宿泊客が集まってくる。もちろんアルコールは禁止されていたので、コーヒーなど飲みながら、彼らは世間話をしていた。私はソファーの片隅に座り、ニコニコしながらその様子を眺めていた。

それとなく素性を聞いてみるのだが、香港華人はいろいろ話してくれたが、大陸から来た人たちの口は一様に堅かった。そのとき私は、大陸中国人には、高飛び組が多く、それは当たり前だと思った。その場は彼らの重要な情報交換の場になっており、闇民泊の利用客の多くが、そこをワンストップ基地として、利用客同士で情報を交換し合い、カナダでの生活の生きた基礎知識を覚え、早い人は1か月、長い人は3か月間ほどで、巣立っていくようだった。

高飛び組にとっての闇民泊の最大のメリットは、消息が消せるということだった。ホテルならば、身元が判明してしまい、高飛びを試みる中国人には不都合である。闇民泊ならば偽名でもOKだし、誰からもそれを詮索されない。闇民泊のオーナーたちは、前金の現金決済だから、代金が手に入れば、それ以上なにも詮索しない。もちろん中国政府も当局の回し者を送り込んでいるのだろうが、それは闇民泊オーナーにはなんの関係もない。
 
これらの闇民泊のオーナーたちは、ほとんど納税していないということだった。それでもなぜか、カナダ政府は、この闇民泊ビジネスに鷹揚だった。宿泊中、警察の手入れなどはまったくなかったし、オーナーにそれを警戒するような素振りはまったくなかった。

それには当時のカナダ政府の移民政策が大きく影響していた。カナダは全世界から移民を受け入れており、投資移民や技術移民などの各種の政策が取られていた。なかでも投資移民政策を利用して移民して、大陸中国からくる金持ちが多かった。

移民希望者は50万ドル以上をカナダに投資し、ひとまずビザを取得し移民、そのまま3年カナダに住み続ければグリーンカードが取得できるという。投資した資金は5年後償還、ただし利子なし。カナダ政府は、世界中から無数の金持ちを吸収し、その資金でインフラ整備を行っていたのである。カナダ政府は、労せずして巨額の資金を手に入れたわけであり、それが大目に見た真の理由であった。ちなみに私の闇民泊のオーナーの投資資金は、アルバータ州のオイルサンドプロジェクトに回されたという。

昨今、日本社会では闇民泊が問題となっている。中国人観光客が大挙して訪れ、中国人の闇のネットワークで、普通のマンションが闇民泊として利用されている。そこではマンションの住民たちが、騒音やゴミ問題でたいへん迷惑している。

同じ闇民泊でも、カナダと日本の間には天と地ほどの開きがある。闇民泊の利用客は、カナダでは金持ち中国人が多く、カナダ政府の政策に貢献し、最終的にカナダに居住する目的を持っている。ところが日本に来て闇民泊を利用する中国人は、観光客であり、彼らはあまり金持ちではなく、そのため安い闇民泊を利用するのである。つまり彼らはあまり消費しないので、いかにインバウンドと言っても、日本の得るものは少ない。しかも彼らは観光客であって、その姿勢は基本的に、「旅の恥はかきすて」であり、彼らに日本人の、「来たときよりも美しく」というモラルを望むことはできない。

それらの闇民泊のオーナーの多くは、数年前から日本の不動産を買い漁っている大陸中国人である。彼らの多くは、中国では多額の借金を背負っている。マンションバブルの結果、それを担保にすればどんどん借金できるからである。それは日本のバブル期とまったく同じである。それらの中国人の多くは、中国経済の崩壊を怖れ、海外に資金を逃避させようと考え、安く安定した日本の不動産を買い漁ることになったのである。

ところが、日本のマンションはまったく値上がりしないし、固定資産税も高い。賃貸しするにしても20万円以下にしかならない。いわゆるコスパが悪いのである。品国で借金を抱えた中国人オーナーたちは、それらの物件を使用しないで、放置しておくことができず、焦った結果、生み出したのが闇民泊である。最近、テレビを見ていたら、そこでは闇民泊の中国人オーナーの月収が60~100万円と告げていた。

それらの闇民泊のオーナーたちは、納税していないと断言できる。したがってまず、この闇民泊を根絶するには、国税庁が動くべきである。マルサが1週間も張り込みをすれば、利用状況は簡単に把握できる。そこから推計課税、重加算税となれば、中国人オーナーの儲けは半減する。こうなれば中国人オーナーたちは、闇民泊を諦めるだろう。闇民泊の根絶には、警察よりも国税庁が動くべきである。徴税もできて一石二鳥である。

それでも闇民泊が根絶できなければ、いよいよ老人決死隊の出番である。テレビではマンションのカギが電柱にぶら下げてあった。電柱は、電力会社の所有物であるから、カギは強制撤去すればよい。大型ペンチで切り取って、捨ててしまえばよいのである。それは合法的である。電力会社がやらなければ、老人決死隊がそれを決行すればよい。もしも、やくざや蛇頭の出番となり、暴力沙汰になったら、老人決死隊のメンバーは無抵抗で、殴られればよい。その結果、警察沙汰になれば、老人決死隊の勝ちである。死を怖れないという点では、ヤクザや蛇頭などよりも老人決死隊のほうが強い。

また自転車などにカギがぶらさげてある場合は、老人決死隊がその自転車をどこかに隠し、4~5日後に、元の場所に戻しておけばよい。この場合、老人決死隊の隊員は、罪には問われるが、微罪だろう。社会貢献と微罪の軽重を問われれば、躊躇なく私は前者を選ぶ。中国人オーナーたちも、自分が法を犯しているのだから、訴え出ることはしないだろう。

最近、名古屋駅周辺でも、中国人観光客が大きなトランクを持ちながら、右往左往していることが多くなった。今、私は、彼らを尾行して、カギのありかを突き止めておき、数日後、大きなペンチを持って行って切り捨て、どこかに捨ててしまおうと考えている。

死を怖れない日本の高齢者ができることは、まだまだたくさんある。

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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。