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「2018年、渋谷のハロウイン」 (日比恆明)

【特別リポート】
「2018年、渋谷のハロウイン」

日比恆明氏(弁理士)

10月31日、渋谷の「ハロウイン」に出かけてきました。

27日には前夜祭と間違えたのか仮装した若者が集まり、センター街で軽トラックを横転させる騒ぎとなり、ニュースで大きく取り上げられました。その日は土曜日とあって、飲酒した一部の若者達が暴徒化したのでしょう。このため、本番のハロウインが始まる前から、地元の企業では早めに終業し、従業員を帰宅させる、とテレビで報道していました。また、暴動や混乱を避けるため警察、商店街は厳重な警戒をする、と告知していました。

事前にこんな報道がなされると、仮装した人達は駅から追い返され、仮装パーティが行われないのでは、と危惧しました。

        写真1

        写真2

そんな不安を持ちながら渋谷に出掛けてみると、昨年同様に仮装者、観客が大勢集まっていました。この日に渋谷に出掛けた人は100万人と言われていますが、ホントかなと疑問に思われます。警察による公式発表もなければ、各種団体が計測したものではないので信憑性がありません。人数を数えようにも、出入りする人達が多すぎて正確に数えられないでしょう。大雑把に10万人から20万人といったところではないでしょうか。

写真1は午後6時30分のJR渋谷駅のハチ公前広場です。狭い地域に人々が集まったため、雑踏とか人混みと言った表現はできず、もはやラッシュと言った方が適切でしょう。群衆が密集していて身動きが取れず、JR渋谷駅改札口からスクランブル交差点を経てセンター街に到着するだけで30分はかかりました。日頃は2分もあれば到着できる距離なのですが。

        写真3
 
この日の群衆を整理するため、渋谷周辺のあちこちでは交通規制がなされていました。おまけに、宇田川交番の裏のビルでは写真2のように火災が発生し、さらに交通規制が厳しくなりました。火事はボヤで終わったようですが、規制が解除されるまでの間はセンター街から奥には入れず、人々はウロウロされてました。
 
写真3は午後8時頃の渋谷109前の道路の様子です。どこからともなく人が集まってくるのですが、ハロウインはデモでもなければ集会でもありません。誰かが主催したわけでもないため、警察も集まってくるのを止めることができず、ただ交通規制をするだけでした。

そもそも渋谷のハロウインに人々が集まってくる理由を考えたら、「入場料が無料」ということではないかと思われます。ハロウインパーティは舞浜のディズニーランドや大阪のUSJでも例年開催されているのです。ただ、こちらは入場料を徴収する遊園地なのです。しかし、渋谷のハロウインは電車の切符だけ払えば誰でも参加できて、極めて敷居が低いのが特徴なのです。
 
次に、渋谷に人々が集まる理由としては「夜間に開催される猥雑さ」があります。集まってきた人達には、「渋谷に行けば何かある」という群衆心理があります。「もしかしたら意外な人に出会えるかもしれない」とか、「異性と知り合えるきっかけになるかもしれない」という期待があるはずです。毎日変わらない平凡な生活を続けていても、年に一度は刺激のある夜を過ごしてみたい、という感情が湧くのでしょう。
 
渋谷と対比するものに「川崎ハロウイン」がありますが、こちらは観客は無料ですが仮装者は参加料を払わなければなりません。仮装したグループが道路を歩くというパレードであり、昼間に開催される健全なものです。

しかし、健全であるために人気は落ちていくようです。2016年の観客数は13万人、仮装者は2400人であったのが、2018年には観客数は12万人、仮装者は2200人に減少しています。特に仮装者の人数は2500人の募集枠に達していません。健全であるが故に飽きられるのが早かったのでしょう。

【仮装した人達】

        写真4

   

        写真5


         写真6

       

        写真7

        
        写真8

        写真9
 
渋谷の大通りのあちこちには仮装した人達が集まってました。仮装者と観客の比率は1対9程度ではないかと思われ、観客の方が遙に多いのです。仮装者の年齢は10代後半から20代半ばがほとんどで、それ以外の年代は極めて珍しいと考えて良いでしょう。仮装して馬鹿騒ぎをするのは、都会に住む若者達の特権かもしれません。

写真4、写真5はキャラクターの着ぐるみを着たグループで、これらの着ぐるみはドン・キホーテや通販で入手できます。仮装した者同士が記念写真を撮影して、住所や氏名を交換することもなくそのまま別れる、というのがお決まりのようです。
 
今年に目立って多かったのは写真6のような幼稚園の生徒の仮装でした。同じような仮装はあちこちで見かけられましたが、服装の費用が安かったからではないかと推測されます。

写真7はバニーガールのようなドレスを着た女性で、この服装も結構見かけられました。キャバレーのホステスが、店で働いている格好のまま街に出てきたような感じで、妙に艶かしいものがありました。
 
仮装では目立つことが大切なのです。通販などで入手した着ぐるみや仮面程度では全く目立ちません。写真8は、地下街で見かけた女性で、レオタード姿でダンスをしていました。これなら目立ちますが、どのような理由でレオタードを着てきたのか不明です。

写真9はマッチョな男性で、肉体美を誇示していました。裸であれば仮装の費用もかからないのですが、ここまで筋肉質にするためには日頃の努力が必要となります。

        
        写真10

    

        写真11
 
目立つ仮装は手作りのオリジナルに限ります。写真10は頭の上に巨大な亀の模型を飾った仮装でした。写真11はその裏側から見たもので、仮装者は柱を背負っていて、柱の上に模型を載せていました。ここまで凝った仮装は、制作に時間と費用がかかったことでしょう。一夜のために大変な努力をされたようです。

        写真12
 
写真12は武士の衣装をまとったグループで、年齢層は極めて高い人達でした。貸し衣装屋から借りてきたのでしょうか、手作りではないことは確かです。この仮装は外人に人気があるようで、通りがかりの外人達が必ず写真を撮影していました。

【寂しい男達】
 
ハロウインでは、何かの下心をもって渋谷まで出掛けてきた男性もまた多いのです。写真13の2人は「FREE HUGS」の看板を掲げていました。要するに「タダで抱いてあげます」というサービスをする表示なのですが、ナンパが目的なのは見え見えです。こんな薄汚い男達と抱き合う女性はいないでしょう。

写真14の男性は路上の建築物の上に登って「彼女が欲しい」と叫んでいました。

       
        写真13

        写真14
 
さて、渋谷のハロウインには、女性は必ず2名以上のグループで参加されていました。痴漢や暴行に巻き込まれないためでしょう。しかし、男性はグループで参加するか、単独で参加するかの2種類に分かれていました。

単独で参加する男性を観察すると、妙な共通点がありました。どこか侘しいのです。嬉しいような顔つきでもなく、少し不安が混じった固い顔つきをしているのです。多分、彼らは渋谷に出掛けることで、男性の知人か恋人を見つけようとしているのではないかと推測されました。知人が少なく、孤独な生活をしているのではないでしょうか。「人出の多い渋谷にでかけると、誰か友達を見つけることができるのでは」という一抹の期待を持ちながら、「しかし、一夜で友達を作れなかったら悲しい」という相反する感情が顔に現れているようでした。

【外人の仮装者達】

        
        写真15

        写真16
 
渋谷のハロウインでは外人の仮装者と観客が目立って多いのです。人数比からすると5%はいたのではないかと推測されます。聞こえてくる言語は中国語、韓国語、英語、スペイン語、フランス語などでした。外人達はパンフレットなどを持っているため、来日者向けにこの日のイベントが広く告知されているようです。来日者にとっては、ハロウインは日本のお祭の一つと考えているのでしょう。

写真15はフランス系の外人で、ハロウインには慣れているような感じを受けました。写真16の女性4人はそれぞれ中国人で日本語は話せませんでした。来日する前からハロウインがあることを知っていて、仮装して参加したようです。

また、観客には中国人の姿が目立って多いものでした。これは母国の政情によるものではないかと思われました。中国ではデモ、集会は禁止されています。暴動や反政府運動につながるからです。群衆が集まるこのような光景は、中国人にとって極めて珍しい体験でしょう。

【好まれない参加者達】

        写真17

        写真18
 
渋谷の路上では女子高校生の姿も多く見かけられました。しかし、男子高校生の姿は全く見かけられません。学生服を着た男子高校生は渋谷の街には似合わないからです。しかし、女子高校生の制服では、在校している学校が直ぐに判ってしまいます。夜中に制服姿で猥雑な雑踏には出掛けるのは、危険と隣り合わせのようなものでしょう。
 
そして、写真18は幼稚園児と思われる子供の仮装者でした。子供だけで渋谷に来るとは思われず、保護者が連れてきたのでしょう。どういう感覚をした親なのか顔が見たいものです。子供たちは大人に混じって楽しいかもしれませんが、幼児教育にはあまり良いとは思われません。よい子はお家でお勉強しましょう。

【クリーン作戦】

        
        写真19

        写真20
 
渋谷のハロウインは悪評判が高くなり、一部の団体は危機感を持つようになりました。写真19は商店街の有志によるゴミ回収で、道路にゴミをポイ捨てさせないように声をかけてました。しかし、ゴミ回収の地点が広い渋谷地区で4か所しかなく、少な過ぎて焼け石に水といったところです。

今年からゴミ回収地点には「仮装衣装の回収箱」が設置され、当日に使用した衣装を回収していました。これはネット通販の楽天が企画したもので、廃棄された仮装衣装をネットオークションで販売し、売上金額を清掃費用の一部に充てようというものです。アイデアは良かったのですが、回収箱を見ると、全く仮装衣装が集まっていませんでした。

【厳重な警備】
 
27日には前夜祭と間違えて若者達による騒動があり、本番ではどのような大事故になるか予想もできなくなりなりました。このため、警察では万全な警備体制をとったようです。道路の至る所に写真21のような制服警察官が配備され、群衆を誘導していました。「制服警察官は数百人が配備された」と新聞報道にありましたが、実際には私服の警察官も同じ人数が配置されたと推測されました。

写真22は車上から群衆を誘導するDJポリスで、最近はどこでも見かけるようになりました。口の達者な警察官が注意していましたが、群衆にとっては馬の耳に念仏で、前を歩く人達の後ろに続いて無言でゾロゾロと移動していました。

         
        写真21

     

        写真22

         
        写真23

   

        写真24

この日の道玄坂、文化通りなどの主要な大通りは警備車により塞がれていました。通常の警備では柵などで人の流れを規制するのですが、この日は大がかりな規制となりました。これは、秋葉原で発生した、トラックで群衆に突入した事件と同じような事件が発生するのを阻止するため、と思われます。

公安関係者で一番恐れているのは、ハロウインでテロ行為が発生することです。これだけ群衆が密集した場所でサリンなどの毒ガスが散布されたり、無差別に銃弾が発砲されたりしたら(日本では有りえないが)とてつもない大惨事となります。多分、公安、警察ではテロ発生の防止と予防に相当の注意と対策を立てていたと想像されます。ハロウインでの喧嘩や痴漢などは、警備関係者からすれば微々たる出来事でしょう。この夜は、群衆の目には見えないところで、テロ対策者が待機していたと思われます。
 
大通りには写真24のような不思議な車が停まっていました。荷台からポールを立て、その先端には監視カメラが固定されてました。車体には、移動防犯カメラ車というステッカーが貼られていました。このカメラで群衆を撮影し、防犯に役立てようとするもので、さり気なく「見張ってますよ」と警告しているのでした。

         
        写真25

        写真26
 
この日、渋谷駅前から出発する一部のバス路線は運休となりました。道玄坂と公園通りを通過するバス路線のみのようでしたが、いっそのこと全てのバスを運休させ、スクランブル交差点も歩行者天国にすれば混乱は少なくなるのではないでしょうか。

【渋谷の商店街の反応】

さて、渋谷のハロウインでは、毎年のように若者による馬鹿騒ぎがあり、新聞、テレビなどで大々的に取り上げられています。その結果、喧嘩、暴行、痴漢、盗撮などにより、27日には5名、31日には13名の逮捕者が出ました。

元々、ハロウインは街の活性かにつながるとして地元の商店街は歓迎していたのですが、このような騒動となるとは想定していなかったようです。現在、地元の商店ではハロウインの開催には賛成派と反対派に分かれているようで、業種によって温度差があるようです。
 
        写真27

    

        写真28

写真27は飲食店の呼び込みで、平日に大量の群衆が集まるのでどの飲食店も満員でした。写真28は美容室の看板で、この日に仮装する人達を相手に特殊メイクの宣伝していました。

        写真29

       

        写真30

公共施設もある程度はハロウインを許容しているようです。写真29は地下道に設置された仮設の着替え室で、営団地下鉄が管理していました。この他にも、仮設のトイレ、喫煙所も設置されていることから、公共団体が街起こしのために協力していることが伺われます。
 
飲食店関係者はハロウインを歓迎しているようですが、これに反し、物販業者は反対のようです。殆どの物販業者はハロウインにはいい顔をしていないようです。

写真30は東急百貨店の入口に貼られた、仮装者の入店をお断りする貼り紙で、各入口には担当者が入店を阻止していました。

写真31は、しぶちかショッピングロードの店舗の閉店案内です。この日は仕事にならないと判断し、地下街にある全ての店舗はシャッターを降ろしていました。

         
        写真31

     

        写真32

また、写真32は私道の路地への立入り禁止で、部外者の進入を止めていました。渋谷の街には群衆による喧騒を嫌う人達もまた多いようです。
 
渋谷でのハロウインは、イベントとしては大成功なのですが、余りにも群衆が多すぎてその副作用も大きいのです。このため、ニュースでは、渋谷区長が「来年からは入場制限し、入場料を徴収したい」と発言していました。しかし、広い渋谷の街でどのようにして入場料を徴収するのか実現不能な話です。

また、小池都知事は「会場を近くの代々木公園にして、人混みを避けたい」と申してました。原っぱのような代々木公園で仮装したとしても、何が楽しいのだろうか、と疑問に思いました。若者にとって、都会の真ん中で非日常的な行動をするのが面白いのであり、観客のいない代々木公園などには頼まれても出掛けないでしょう。

       写真33

写真33はキオスクのおばちゃんです。彼女も小さな仮装をしていて、イベントに参加する人達を温かく見守っていました。来年も渋谷では同じようにハロウインが開催されるでしょう。節度を保ってハロウインに参加するのであれば、地元で反対する人達も少なくなります。来年は羽目を外さずに、適度に楽しんで下さい。