鬚講師の研修日誌(57)
「支援企業に学ぶ成長の実践ヒント」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆創業塾での成功事例から学ぶ
地元商工会議所主催創業塾のフオローアップ研修に出講した。6回の研修で創業に向けての経営計画書を見事に作成し、いよいよその実現に向けてのスタート段階での確認である。
想いの実現への現実は思いのほか戸惑いと難解の連続である。その難解さは創業塾で履修したプロダクト=何を専門力として売るか(商品、サービスなど)、ターゲティング=顧客の的(誰、どの層、極だてる特徴)、プライス=価格(いくら、当初は、同業との差別)、プレイス=場所の決定(事務所、施設、工場)、プロモーション=どのように知らせるか(宣伝・広報)などなどでの現実化への取り組みである。
そこで、当創業塾での学びから実際に創業し、現在順調に成長している企業2社の事例をS主任講師(中小企業診断士)が「実例に見る創業成功ポイント}として紹介し解説を加えた。
その一例は学童育成(*保育でない)事業C社である。
母子でスタートし4年、現在30余名の学童を預かる成長ぶりである。
事業の特徴は単なる預かり時間を過ごさせるサービスでなく、子供の創造力、生活力(自立力)学力、社会性を伸ばし育成することにある。
この評判が高まり初年度5名から、15人、20人そして現在30人と成長していると分析。その成長戦略は母子(子息)での二人三脚で生み出す、子育ての経験を生かした最適条件の追求から醸し出された真の愛情に満ちた児童育成にあると解説された。
もう一社は焼焼き菓子店のO店である。
店主のN氏は創業時の不安は「実際に売れるかどうか」、しかし、迷ったらお客様の話を聴き参考にしようと覚悟を決めた。そして子育て女性、高齢者女性層をターゲットに素材と上品なおいしさを加味した商品開発に駆使した。
さらに顧客の声に応えて焼き菓子にプラス関連商品も新作し、商品群を拡大している。路地裏に位置した店だが、チラシなしで口コミでの評判が広がり、3年目の現在「競合店はない」との自信をのぞかせるN氏。その人間力は商品開発、製造、接客をこなし、まさにお店の顔としての魅力にあふれ、賢しを備えた女性である。
そこには「楽しい」、このキーワードがお菓子に転嫁されお客様の食する楽しみに届くという信念がある。だからこそ笑顔で何事に向かうその人間Nさんの魅力が常に醸し出されていると解説する。
この二社はスタート時代の成功事例であるとS主任講師は説く。
いかがであろうか。以上の2例でも成功の柱は、顧客様の真なる欲求を察し、受け入れ、応えたサービス提供、商品提供があること、しかも、進化を加えてより高い満足を提供する素晴らしさがある。
もちろん実現していくトップとしての市場、顧客の要求を素直に受け入れていく器量の豊かさがあることは言うまでもない。そこにはお客様から学ぶ、経営に関しての指導者から提供される示唆事項をも受け入れ、再考を重ねて判断、決断する人間力が生きている。
改めて小生が関わり(人材育成支援、かつ顧客の立場、さらに諸団体での活躍および学びの場……)交流を通じた企業(店)に着目してみると、成長過程では前記の2社事例との共通性がある。また、各社(店)の成長発展への取り組み事項の特異性の加わりもある。
◆地元企業にみる成長への取組み
そこで、本稿では6社(店)に着目し、対談で確認した成長の実践策を「専門力」「人間力」を切り口として考察してみよう。
成長過程は、創業時の規模は小さく、やがて徐々に拡張していく。実はこの想いは創業塾生とて同様である。また、この時期、各企業での新年(度)として宣言した新たな抱負・目標何を・どうしていくかの具体的取り組みの時でもある。そのお役に立てることも勘案してのことである。
ちなみに地元とは都内から30分、人口19万人 企業としてはキッコーマン、フアンケル美健、サンコーテクノ(株)、そして卓球台のSANEI社等々が活躍している地である。
まず長年、人材育成等で関わってきた、
① H板金社は、創業から45年、塗装・整備、車両販売、車検、ロードサービス、自動車保険を事業とし社員数50名。車の製造以外何でもしますとの企業である。
経営理念は「皆様に「安全」と「安心」をお届けします」。
現在は承継者にも受け継がれ成長する企業である。
その根底にあるのは「感謝の心」。それは、創業時の顧客獲得の辛苦の努力から得られた初顧客様へ跪いてのお辞儀するくらいの感謝で一杯だった。その瞬間の感謝の心に起因する。
そこで成長の特徴点を考察してみると、
●髙技術の証はドイツの車輌検査の技術認証で有名なテュフ認証を取得。その主旨は「最新且つ高い品質の修理を行える工場」としての評価である。
それは、車両製造の進歩に伴う専門技術は叩いて直す車でなく、目で見てもわからないところまで直す自動車の電子化への対応できる専門力を有しているとの認証である。
しかも最高グレードのプラチナクラス。この認証企業は国内29社。従って、H板金だからこそ直していただけたとの顧客の声も多い。
また、メーカー販社からの依頼修理についても指し値でなく価格設定力を持つほどである。
●社員全員が技術者でありサービスマンであり、365日の顧客対応体制を整えている。
●トップの顧客、社員、家族全員に感謝する「ありがとう」といえる謙虚さは、人の信頼を増幅 し、また面白さを生かしての、社員の漫画による組織図、名刺作成もする。
ちなみにK会長(創業者)の名刺の肩書きは「社長の父」としている。社長は子息である。
●3髙の実現。それは技術力による高品質、高効率、そして社員への高賃金である。
◆初顧客感動。その感謝が企業に根ざす。着実な拡大(専門力の多角化・企業規模)そこには高い専門力とトップの人間力が相乗されての成長である。
次は、
② 創業50周年となるお茶・海苔・ピーナッツ、ソフト・アイスクリームなど販売のY園店。
経営理念は「感動を生む」であり、2代目のT社長の独自性を生かした成長戦略により2店舗に拡大、発展を魅せている。
打つ手の例は、
●先代のお茶中心販売のときには、来店機会を増幅する工夫として店頭でのソフトクリームの販売を開始する。
発想は、お茶類の購買層は高齢者が多い、ならばお孫さんのねだりの対象を整えるとよい。それをソフトクリームとした。
効果大であった。現在は商品の柱となった。
●商品を仕入れて売る商売から自店ブランド商品開発として、製販店に脱皮。県名産品のピーナツはじめ、お茶・コーヒーを原料調達(生産地から買い付け)、焙煎、商品製造、販売を一貫する商売に変えた。
もちろん大手メーカとの差別化にこだわり、アイスクリームの種類は落花生アイス、びわアイス(双方県名産品)枝豆アイス、ほうれん草アイス(双方地元の農産物)などを考案した。
そして、
●販売方法は、商店街店売りにプラスして楽天市場に開店、販路を拡大。こだわりの商品であることから地元顧客に加えて、その珍しさは全国から興味と注文を取り付けた。アイスクリームでは楽天市場2位の売り上げ実績も残す。
●このブランド品のアピールに自身を「日本一の焙煎男」と称して広告に写真掲載。さらには商売の話題性から取材もあり知名度を高めている。
●それに、機械に強い器用さを生かし豆汽車を自己製作、市内催し会場で運転、子供の楽しみを創る(感動)地元貢献もする人柄である。
◆打つ手にはT社長の面白さの発想、自己顕示の発信、こだわりの人間力がいきている。さらには継続実践力がすごい。この一例は110kgあった体重を4ヶ月で30kg減量を成し、現在も20kmの走りを日々実践する徹底した健康への自律行動の人でもある。
次は社員の人間力向上に着目してきた
③ 凡事徹底を貫くN運送社である。
創業60年、事業は貨物運送、倉庫、自動車分解整備、建設工業と拡大し、社員数200人の中堅企業である。
「全員野球」が理念であり、現在のワンチーム思想に共通する。N社長の掲げたスローガンは「笑顔+挨拶=成長」であり、まさに運転技術に人間味のある「運ぶプロ」しての社員力育成に力を注いでいる。
その取り組み事項に着目すると
●輸送の安全を事業の根幹と位置づけ、全社員に安全意識の徹底、安全目標を設定して安全マネジメントを確実に実施。信用を重ね、事業認可の幅、営業所の拡大、大所の括りとしてのセンター制を組織化して成長。
●協力体制強化に対する人づくりに尽力。例えば5協体勢として、「協議」(皆で考える)、「協調」(協力する)、「協同」(力を合わせる)、「協業」(行動、力を合わせる)、「協約」(皆で取り決める)を推進。
●N社運送人としての成長3項目<*N社運送人としてお客様へのスピーデイな対応*プライドを持った言動と行動*大切な仲間との信頼関係>を掲げ社員育成の柱としている。
●東日本大震災時、市から友好都市福島県S市への支援物資の輸送を無料で引き受け、皆が一丸となって対応。5協体制,N社運送人、全員野球の実践であり、そこには目に見えない心の教育の一端でもあった。
ちなみに物資の梱包ボランテアに小生も参画した。
◆専門力と凡事徹底を施す社員力を高め、絶対的安全確保による信用・強味の向上が功を奏し、成長の重ねを実現。
出会う度のN社長の笑顔での先手の挨拶にはこちらも笑顔になる。また研修への出講どきに診る社員各位の挨拶も表情の豊かさもうれしい。
次にはご夫妻それぞれぞれの専門力が生きた成長店を見てみよう。
それは、
④ 創業から4周年目の和食、創作料理での人気店G店である。
I店主は都内有名店で修行、外国での店長、地元割烹店でさらなる腕を磨いた調理人である。従って、
●自ら地産地消で厳選した材料の仕入れを生かし、顧客条件(年齢、好み、会食の目的など)に対応した献立の組み立て、調理で顧客様の食する楽しみを演出する。
●客のカウンター席は、お客様が調理を観つつ、店主から食材の紹介、調理法など解説、丁寧に創るプロセスも楽しみ、味わいを高める楽しみを提供。
●価格は高めであるが十分満足を提供、顧客満足度を高める尽力は見事。
●パートナーの奥様の職歴は看護師。キャリが生きた接客サービスでは即名前を覚え、お名前、仕事、ご家族の話題など適度な会話で食する合間の時間を上手に繋ぐ、
更に、その日のメニューを記録し、次なる来客時には、かぶらない献立を提供することに生かす。従って今度はどんな料理に巡り会えるか楽しみです、との声も多い。
◆料理人の専門力と、職歴が生きた接客力の夫婦一体となった評判力の創出。そこには立地条件から見込める顧客の特徴を踏まえて、高めの価格でも信頼と楽しみを提供できる成長店である。固定客も増え、そのお客様の目的の応じたリピートでの利用、口コミでの新規客の来店も加わり、客室を増設するなど成長を成している。
<客が客を産む>この口コミが生きた成長で、特に女性が頼る不動屋さんを次にスポットを当てる。その企業は、
⑤S不動産。
代表のH氏(女性)曰く。「不動産屋」と言うと、なぜか構えてしまう一般的イメージを超えて、当社は女性が身近に相談、安心できる人としての人間力が強味です」と断言する。
だからこそ、
●チラシ、ネット広報などよりも、面談による相談を基本として、代表・社員(女性)の人間性を受容頂き、女性特有の安心(防犯、洗濯物、隣人、音……)した店として選択肢に位置づけて頂く。このことはお世話になった小生の娘の話でも「安心感を醸し出すお人柄が見事です」で実証済み。
●急ぐ契約を進めるよりも、顧客様がじっくりと検討して「OK」を自ら決断する商談に留意。それは以後の関わりが長く、想わぬ課題の発生があることへの安心作りでもある。
●ご利用者の口コミ紹介の新規顧客からの問合せ、来客が主。その範囲は市内に限らず都内、時には東海地域からもある。
●ネット活用でのサービスとして、情報発信を小まめに提供(不動産関連情報、住まいの知識、ご利用者様の声など)を日々更新実践。
◆物件の特徴(地の利、生活の利便性、建物、部屋、土地質など)専門分野での説明ポイントを顧客の特性、条件にあわせた丁寧な施しと人柄は安心感を生む。
さらに当店の前身は明治時代から酒屋を営んでいた老舗。地域で知名と信用は高い。開業5年であるが顧客がお客を生む(点)から(線)そして扇型の広がりは素晴らしい。
最後に意外な成長店に着目してみよう。それは
⑥ 頭痛専門整体「ちいのいえ」である。
頭痛を直す整体とは意外であった。創業1年半であるが忙しさを感じる成長を見せている。
整体施術、食事指導、カウンセリングを一人でこなすK院長は、
「<人生一度きり><何事にも真心込めて>なりたい自分になるためのルートが見えているならば、それにチャレンジしないのはもったいない。その一歩が、頭痛で足踏みされているならばなんとしてでもまず頭痛をとりましょう。そんな頑張るあなたを精一杯受け止め応援する治療院です」
とのメッセージを掲げている。
単なる整体治療にとどまらず、豊かな人生作りの応援者としての位置づけだ。
東洋医学の学びも深く、論理的融合を生かした施術、食事指導についての効果性も高い。病院、薬の服用で長らく苦しんでいたのが数回の治療で解消できたとの感謝の声も多い。
特筆すべき事項は
●頭痛治療に整体施術があるとの意外性の興味と、治したい頼る人へのインパクトの強さ。
●自律性神経失調症(朝起きられない、しかし夜元気、会社、学校に行こうとする、でも足が進まない。……)また不妊の要因の解決に役立つ施術効用は、子供から74才までの顧客層の幅が広い。
●地元だけでなく埼玉、東京、遠方からHP内容(施術手順、動画、顧客の声……)で知ったとの来院もある……。
●地域2幼稚園から職員の福利厚生の一環として定期的的に出張施術契約を結ぶ。
●生後8ヶ月のお子様を常に伴って治療室での仕事の遂行、さらには学びの場に連れだって対応、特に学びの機会の一つとして週一回朝6:00からの地元経営者のセミナーにも同伴参加を実践している。
「子供がいるから」との不可能発想はない。
◆メッセージでの生き方を自然の言動で魅せているこの姿勢に、関わる人からの応援力が注がれる。専門力を特異なフレーズで商品化で構成し、そこにK院長の生き方、明朗なる人物的影響力、さらなる素直に学ぶ人間力は素晴らしい。
◆学ぶ力が新たな成長を編み出す
いかがであろうか。成長企業から学び得る成長の糧は次の10項目に集約できる。
1)初心の熱き心と初顧客への謝念は絶対に失わない。それは原点に返る源だからである。
2)その想いの実現は、理念をしっかり軸に据えて後継者、社員も共有する。
3)想い、理念の具体的実現には取り巻く変化、企業の成長に準じて変えていく。それは苦難をあえて課す。企業はトップの器以上に大きくならない苦難の克服は一回り大きな器への脱皮 である。
4)「楽しい」、このマインドをトップとしては関わる人への行動の基本とする。それは商品に心を宿し、顧客に届ける。その届きが顧客の喜び作りに通じる。
5)専門力を磨く。それは広げる、深める、新たな知識、技術を取り入れることである。
6)人だからこそ提供できる笑顔、挨拶、接客、相談対応、新たな知恵による新商品・顧客満そして安心安全の信頼。
7)人から学ぶ素直・謙虚さ、人への施しは相手の心と願いの受容に応えた利他の実践。
8)……だからの言い訳思想を超え、自ら示す垂範行動は積極的生き方への誘導でもある。
9)面白さ、ユニーク、自己顕示の人間味が企業を際立てる。硬軟併せ持つ人間力がよい。
10)価格の善し悪しは顧客が決める。それは喜びの提供を成し、高満足の創造である。
新たな年、新たな成長はトップだけではない。社員各位の立ち位置に準じて成すべき事項の違いはあるが、進化、成長を実現していかねばならない。
「社員の成長が企業の成長」と語るトップも多い。ならば本稿での成長企業実践事例から自身の職務に落とし込み「何をどうする」と変えることの楽しみにお役立ていただければ幸いである。
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東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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