小島正憲氏のアジア論考
「中国の外貨不足がシアヌークビルを直撃」(後編)
—-日本のカジノ誘致派は、この惨状を直視せよ!
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)
※前編は、こちら。
2.シアヌークビル諸相
①シアヌークビルを「第2のマカオ」に
フンセン首相は、カンボジアが2023年度のASEAN議長国になるので、それまでにシアヌークビルを「第2のマカオ」にすると宣言し、街中の大改造を進めようとしている。
その第一弾として、12月に入り、街中の全道路の舗装が始まった。おかげですべての道路が掘り返され、交通が大混乱し、今、街中がほこりに包まれている。
②リアム海軍基地
シアヌークビルの街中から、車で30分ほど東南に走ると、そこにカンボジア海軍のリアム基地がある。情報では、そこを中国海軍が租借し拠点化しようとしているとのことだったが、そこに軍艦などの姿を見ることはできなかった。
車で周辺を回っていると、基地に行く道路の途中に、中国語で「射撃場」と書いた大きな看板があった。案内に沿って進んで行くと、カンボジア空軍の高射砲基地があり、その敷地内に、簡素な射撃場があった。隣には、鶏料理の中華レストランが併設されていた。
門の前でウロウロしていると、レストランの中から若い中国人男性が二人出てきたので、射撃場について聞いてみた。彼らによると、カンボジアでは一般人の銃所持は禁じられているので、空軍基地内で、空軍の兵士が管理することで、それが許可されているという。なお看板には、「海軍射撃訓練場内」と書いてあった。
《実弾射撃場の看板》
彼らが、「ライフル銃で10発=80ドル」と、しつこく射撃に誘うので、場内に入って撃つことにした。彼らの話では、シアヌークビルのカジノに飽きた中国人が、たくさん遊びに来るという。的は、「50m先の風船(無料)、西瓜(10$)、ペットボトル(3$)、鶏(25$)」だった。
風船や西瓜を撃つのは簡単だったが、ペットボトルは細いのでなかなか当たらなかった。ましてや鶏は動くので難しかった。もし鶏に当たった場合は、それをすぐに隣のレストランで料理してもらって食べることができるという。なお射撃場の隣の農家では、たくさんの鶏が飼育されていた。
ここでも、カンボジア海軍・空軍と中国企業、地元農民の合作(癒着)で成り立っている様を見ることができた。
③シアヌークビル経済特区の現状
シアヌークビルの街中から国道4号線を、車で20分ほど北上した場所に、中国主導のシアヌークビル経済特区がある。経済特区の現状を聞いてみようと思い、立派な事務所棟に入り、経済特区の総経理に面会を求めた。
受付で待っていたとき、受付の男性が小声で、「今、この団地は人出不足なので、縫製・家具・靴・おもちゃなどの業種は難しいよ」と教えてくれた。たしかに特区内を回ってみると、多くの工場の門前に、デカデカと求人広告が掲示されていたし、ワーカーの送迎がワゴン車に変わっていた。
求人広告が目立ち始めるようになるということは人出不足の証拠であり、かつてトラックの混載であった送迎がワゴン車に変わった(プノンペンでは今でもトラックの混載)ということは、それだけワーカーを好待遇しなければならなくったということであり、これも人出不足の証明。
総経理はこの経済特区のメリットを強調しながら、特区内には160社の工場が林立しており、それぞれ活況を呈していること、来年末までに特区内に火力発電所が完成すること、さらにこの特区の管理会社がプノンペンの株式市場に上場を予定していることなどを話してくれた。
しかし前日の深夜、特区内を視察したとき、特区内のほとんどの工場に灯りがついていなかったことから、この特区内の工場群は大儲けできていないということを把握していたので、総経理の言葉をまともに信じることはできなかった。工場が多忙で大儲けしているときは、2~3交代勤務を行うので、工場には深夜でもこうこうと灯りがついているからである。
また総経理は、特区内のワーカーの手取り収入が最低月額350$と説明した。首都プノンペンでも280$ほどなので、これでは受付の男性が忠告してくれたように、労働集約型企業はとても無理だと判断した。
④シアヌークビル港経済特区の使い道
シアヌークビルの街中から西に、車で10分程走った場所に、日本主導のシアヌークビル港経済特区がある。残念ながら、依然として入居工場がほとんどなく、閑古鳥が鳴いている。特区を一歩出ると、建築ラッシュのため、中国の建築関連業者の倉庫兼用のにわかビルが乱立し、出入りするトラックで道路は大混雑している。
この環境を利用して、特区内に臨時倉庫やカジノ向けの設備や修理工場を開けば、かなりの利益が見込めるのに、特区の日本人管理者には、そのような考えがまったくないようだ。
《中国企業の建設資材売り場》
⑤中国主導の高速道路の現状
2019年3月、中国とカンボジアは、プノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路建設契約を締結した。総工費20憶ドルで全額中国負担、完成は2023年度。現在の進捗状況は、着手したばかり。
《高速道路の建設現場》
3.コッコン州にも中国が進出
今、コッコン州にも中国企業・中国軍が着々と進出している。すでに国道48号から海に向けて往復4車線の立派な舗装道路が完成しており、車で約40分間走ると、ダラサコーに着く。そこでは、中国資本による大規模なリゾート開発が行われ、ホテルやカジノ、ゴルフ場などが造られている。また空港も建設中であり、中国空軍が進駐するという話もある。
さらに少し離れた岬に港があり、そこを中国が99年間租借し、海軍基地化する予定であるという。遠くからは桟橋程度しか見えないが、衛星写真では開発状況がよくわかる。
《リゾート開発現場》
《空港建設現場》
《埠頭建設現場》
コッコンへの街道沿いに、数年前まではなかった奇妙な建物が林立していた。それは海燕のビルだという。3年ほど前から、この地では、「海燕の巣」ビジネスが盛んになり、中国人の仲買人がそれを指導し、全量買い取り、清潔にして倍で売っているという。海燕ビルは1棟建てるのに20万ドルほどかかるそうだが、2~3年で回収できるうまいビジネスだという。
《海燕ビル》
(この項、了)
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小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。