小島正憲氏のアジア論考
「東南・南西アジア短信:ベトナム《新型肺炎関連情報》」
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)
1.縫製・履物・電子など生産停止に直面=商工省
ベトナムの繊維・縫製、履物、電子の3分野の企業は原材料や部品が3月末から4月初めにかけて底を突き、生産停止に追い込まれる恐れがある――。
26日に開かれた新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の影響に関する会議で、商工省工業局のチュオン・タイン・ホアイ局長が明らかにした。
ホアイ局長は、新型肺炎の流行が長引いた場合、中国に依存度の大きい上記の3分野が特に大きな影響を受けるとした。このほか、中国から部品の70%以上を輸入する自動車組み立ても3月末で部品不足に陥るとの見方を示した。
国営ベトナム繊維・衣料グループ(ビナテックス)のレ・ティエン・チュオン社長によると、グループ傘下企業の多くが納期を2~3週間延期するよう交渉している。原材料不足による損失は半月だけで15億米ドル(約1,650億円)~20億米ドルに上るという。
2.繊維企業、操業停止の危機=新型肺炎拡大で対中輸出入大幅減
新型コロナウイルスの感染による肺炎の拡大が続く中、中国との製品・原材料の輸出入に大きく依存するベトナムの繊維・衣料品関連企業が、操業停止の危機に見舞われている。
統計によると、ベトナムの1月の繊維製品輸出は前年同月比23.5%減、同輸入も28.5%の大幅減少だった。
ベトナム繊維衣料協会(VITAS)のチュオン・バン・カム副会長は最近開かれた会議で、業界の約90%を占める中小の繊維メーカーは、中国から輸入する原材料在庫が2月末までには払底し、3月には操業停止に追い込まれる可能性があると憂慮を示した。
ベトナムの繊維メーカーは、原材料の6割を調達している中国との国境貿易が制限されているため、タイやインドネシア、韓国、日本の顧客への製品供給に苦心しているという。また、中国はベトナム産綿花の主要輸出先であり、ベトナム綿・紡績協会(VCOSA)によると、大半の生産者が中国からの受注減少を報告しており、今年の収益に不安を抱いているという。
3.サムスン、ハノイR&D施設の着工式を中止
韓国のサムスン電子は2月29日、ベトナム北部ハノイ市で予定していた研究開発(R&D)センターの着工式を中止した。新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の影響で、ベトナムが韓国人に対するビザ免除措置を一時停止しているためだ。
ハノイ市のR&Dセンターは、1億6,000万米ドル(約173億円)を投じて建設される計画だが、今後の着工式の開催有無などは不明だ。ベトナムは同社にとって主要な生産拠点で、現在4カ所の工場を運営している。これらの2018年の総売上高は657億米ドルに上る。
ベトナム政府は先月29日から韓国人へのノービザ入国を停止しており、韓国からの出張者が入国できなくなっている。
4.韓国人の来訪減、ダナンの観光業界が危機に
ベトナム中部ダナン市の観光業界で、休業状態に陥る店舗などが増えている。新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)が韓国に広ったことで、ベトナムを訪れる韓国人が減っていることが打撃となっている。
ダナンで過去20年間観光業に携わってきた旅行代理店の代表は「これまで重症急性呼吸器症候群(SARS)などの苦境を乗り越えてきたが、今回のようにすべてが止まったのは初めて」と語った。
同市の経済は観光業への依存度が高く、韓国人は年間100万人以上訪れる。韓国系旅行会社だけでも100社以上が進出している。韓国人客をメインターゲットにしていたレストランやマッサージ店、土産店、ホテルなどは休業せざるを得なくなっている。
韓国系旅行会社は在宅勤務をしているが、問い合わせの電話がない状態。一部の業者はすでに撤退しており、フリーの観光ガイドのダナン離れも進んでいる。
5.台湾のヘッドホンの美律実業、ベトナムに新工場=中国企業と合弁、リスク分散で
ヘッドホンなどの製造を手掛ける美律実業(メリー・エレクトロニクス)は2月27日の取締役会で、中国の電子部品メーカー立訊精密工業グループとの合弁で、ベトナムに新工場を開設することを決めた。有線ヘッドホンとブルートゥースワイヤレスヘッドホンの生産を中心とする。生産拠点が中国に集中しているため、リスクを分散する。投資総額は2400万米ドル(約26億円)で、出資比率は美律51%、立訊49%。今年後半の生産開始を予定している。生産規模は未定。
美律は、米国向けの音声機器が売上高全体の約5割を占めている。タイにも工場を持っているが、生産規模が小さい上、生産コストがベトナムより高いため、既存のベトナム工場がフル稼働となっている立訊との合弁を決めたという。
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小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。