【特別リポート】
「外出自粛の日の歌舞伎町」
日比 恆明 氏(弁理士)
本年1月から新聞、テレビのトップで報道されるのは、中国から発生した新型コロナウイルスに関するものばかりです。命に係わる事件のため、真先にニュースで取り上げるのは当然のことでしょう。
昨年12月に中国・武漢で発生したウイルスは瞬く間に世界に伝搬し、最初は韓国で拡散し、暫くするとイタリアに伝搬しました。イタリアでの感染者、死者数は異常に増加し、ヨーロッパ各国にも感染者が増加しました。
アメリカ本土での拡散が遅れたため、トランプ大統領は楽観的な見通しをしていたようです。しかし、3月中旬になってアメリカ、特にニューヨーク州に患者が増加すると、「これはただ事ではない」と認識したようで、非常事態宣言を発表することになりました。
現状ではウイルスの治療薬、ワクチンは開発されていないため、感染者の増加を防ぐには患者から健常者への感染を防ぐという極めて原始的な方法しかありません。つまり、人と人との接触を極限まで制限することです。
このため、中国政府は武漢市を封鎖し、市内外での交通を遮断して、ある程度の成果をあげたようです。独裁国家であるため実行できた方法なのですが、自由主義国家であるニューヨーク市、パリ市、イタリア、スペインなどでも外出禁止の措置をすることになりました。罰金や懲罰もある公安による強権的な制限ですが、ここまでしないと感染爆発は防げないでしょう。
写真1
日本でも人の接触を防ぐため、25日には小池都知事より「外出の自粛の要請」を発表することになりました。特に、人が集まりやすい映画館、コンサート、飲食店、観光施設については週末(28日、29日)の営業を自粛する要請がありました。
このため、新宿では小田急、京王のデパートでは地下の食料品売場を除いて休業しました。伊勢丹は営業時間を短縮して週末も営業を続けています。高島屋は全館で閉店しましたが、これは大阪支店の食料品売場で感染者が一人発見されたからです。
しかし、日本は島国であることから国民のウイルスに対する恐怖心は薄いようで、それほど深刻に考えていないようです。このため、外出自粛を要請された3月28日に国内最大の歓楽街である歌舞伎町にでかけ、人々が自粛についてどの程度配慮しているかを観察してきました。撮影したのは土曜日の夜8時前後です。
写真1は歌舞伎町の入口であるセントラルロードを交差点側から眺めたものです。何時ものようにネオンサインがギラギラと光っています。交差点では、何時もの時刻の10分の1程度の人出ではないかと推測されました。歓楽街に向かう人達のほとんどが若者でした。
雨の日の土曜日でこの程度の人出なので、天気がよければもっと多くなっていたことは確実です。この写真では比較的人数が多くいるように見えますが、出歩いてきた人達はそのまま飲食店などに消えてしまうので、歌舞伎町の道路には人がたむろしていません。道路上には客引きの姿ばかりでした。
写真2
セントラルロードではこのような人混みなのですが、一本となりにある一番街の道路では人影が少なくなっています。通常の週末であれば、この一番街は遊行客で賑わっているはずです。しかも、外人観光客の姿は全く見つけられませんでした。外国人の入国は規制されているためであり、そもそもこのような特別な時期に日本に旅行に出かけようとする観光客はいないからです。
歌舞伎町の飲食店では、ほぼ全ての店舗が営業を続けていました。都知事は営業の自粛を要請していたのですが、実際には休業するような店舗はほとんどありません。
写真3では自主休業の告知を出して、週末は休業している店舗ですが、このような店舗は数店もありませんでした。喫茶店もスターバックスのようなチェーン店は休業していましたが、個人経営の喫茶店は営業していました。
飲食店は日銭商売であり、休業することでその日の売り上げが消滅するので、致し方ないところがあります。休業する店舗は良心的で、資金力があるため休業しても維持できるだけの余裕があるからでしょう。開店している飲食店であっても、本音は休業したいのですがそこまでできるだけの資金的な余裕がないからです。
何れにせよ、飲食店には来店者が減少していることから、ウイルス騒動が続く限り売り上げが減少し、相当に苦しくなるのは目に見えています。これからは体力勝負ということになります。
写真3
写真4
飲食店の店舗前には客引きの姿が多く見かけられました。売り上げを維持するために必死なのです。この写真は居酒屋の客引きですが、ガールズバーでは多数の若いホステスが客引きしていました。何時もの歌舞伎町の光景といえばそれまでなのですが、ウイルス騒動がある最中に客を誘導するのですから、感染者を増やすようなものです。なお、観察している限りでは、セントラルロードにいた客引きの人数は何時もと同じくらいでした。
各飲食店に入店した客の数はそれぞれの業態によって違っているようです。写真5は居酒屋であり、大衆居酒屋は比較的客が入っていました。しかし、満席ということではなく、他の業態よりも多いと感じられる程度です。写真6は、少し洒落た焼き肉店であり、席の半分くらいが詰まっていました。写真7はショットバーで、ここは無人でした。
写真5
写真6
写真7
総合的に考えると、客単価の安い居酒屋では来店者が多く、客単価の高い飲食店には来店者が少ないと思われました。これは歌舞伎町に繰り出した人達が学生を含めた若者が多かった(ほとんどかもしれない)ことに起因していると推測されます。若者であれば使える飲食費が少ないためで、ある程度は支払える会社員ではなかったからです。
会社員などの働いている人達では、病気に罹ることのリスクを認識しているはずです。ウイルスに罹れば出勤できず、収入が途絶えると共に会社に迷惑をかける結果になります。歌舞伎町に繰り出した若者にはそのような責任感が薄いのでしょう。
歌舞伎町ではパチンコ店も営業していました。隣の客との間隔が狭く、長時間座り続けるのでウイルスに感染する恐れが高いと思われます。そんな危険を侵してでもパチンコで遊ぶために入店する客がいました。しかし、店舗の方でもその点を考慮してか、営業時間を短縮していました。通常なら23時が閉店なのですが、週末は早めて21時に閉店する告知がありました。
写真8
写真9
【日本のウイルス対策は】
このように歌舞伎町界隈を観察すると、日本人のウイルスに対する危機感は薄いように思われます。政府や東京都では、飲食店の休業の「自粛」を「要請」していて、禁止はしていません。飲食店に来店した若者が感染しクラスターとなれば、感染爆発するのは目に見えています。早急に不要の外出を禁止し、飲食店の営業を休止すべきではないかと思われます。
諸外国では軍隊も出動させ、外出を禁止していて、違反者には高額の罰金を課しています。政府としては外出禁止を発動したいところですが、野党の反対を恐れているようです。しかし、感染爆発が発生してから外出禁止とすると、こんどは野党から政府の決断が遅かった、と叩かれるでしょう。この辺が難しいところです。
一番の良策は、交通機関の遮断ではないかと思われます。昨年の台風19号が発生した時には、政府は交通機関の運休停止措置を取りました。この措置は非常に効果があり、繁華街には人が出歩かなくなりました。飲食店の休業を命令するよりも確実な効果があるでしょう。
【ウイルスの終焉は何時になるか】
現在のウイルスの感染が何時終わるか、誰も見通しがつきません。2月初旬の中国政府の発表では3月下旬に終息すると説明しており、トランプ大統領は5月には終わるであろうと予測してました。しかし、患者の人数は毎日増加し、終息する見込みは全くありません。
27日のNHKニュースで、山中伸弥京都大学教授は「ウイルスによる感染が終息するには1年はかかる」と発言していました。これは当たっています。2018年春にアメリカで発生したスペイン風邪は、2018年秋と2019年春に大流行し、1年かかって終息した経過があります。今回のウイルスではワクチンが未だ開発されず、終息するのは人間に免疫ができて他人に感染しなくなるまで待たねばなりません。これから長期の予防と忍耐が必要となってくるでしょう。
写真10
写真11
【追加の出来事】
29日は日曜日でしたが、日本政策金融公庫の新宿支店は開店していました。休日に金融機関が営業しているのは前代未聞のことであり、驚かされました。
金融公庫が開店しているのは、ウイルスにより営業に影響が発生して中小企業に向けての特別融資の申請を受け付けるためでした。余りにも多くの中小企業からの申請があったため、休日にもかかわらず窓口を空けて受付をしていたのです。
資金的に余裕の無い中小企業にはもう業務に影響が出ているのでした。これから1年以上はこのような状態が続くのでしょう。