[ 特集カテゴリー ] ,

「上に立つ人の手腕発揮の4条件」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(66)
「上に立つ人の手腕発揮の4条件」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

コロナ禍の今年であるが人材育成事業、地域貢献活動で多くの方々とご一緒した。新たな年に向け上に立つ人の更なる手腕発揮の活躍パワーはどこにあるかを考察してみた。
その4条件を提起してみる。

1.デジタル化を取り込む融合センスを生かす
 
創業塾の経営計画発表会プレゼンテーションでのM氏の新ビジネスは「クラウドファンドによる新製品を世に送りだす」ことである。市場が求める潜在欲求を満たすための新商品を開発し、支援アプリに登録する。「いいね。期待し支援するよ」の支援者からの購買申し込みを得て、販売確実数の生産に入る。勿論メーカーとのコラボである。

今回発表の新製品、紳士用鞄に入れる小物収容バックは、鞄の収容条件にきちんとフイットし無駄なスペースをつくらないタテ・ヨコ・厚みの寸法を最適に決め、生地も選びに選び抜いた優れものだ。まさに「こういう入れ物が欲しかったんです」との便利性の実現である。

プレゼンテーション前日に公開し、なんと一日弱で約70万円の売上げ額を確保した。以後相当額の確保となろう。従来からの製造条件、資金を用意して生産販売する方法でなく、工場なし、店舗なし、しかも在庫の危険なしのデジタル化最善に生かし込んだビジネス法である。

また、F氏は、ケーキ職人技と科学的切り口からのケーキの製造、販売を目指す。それは商品の付加価値を高め、お買い求めいただく顧客に高い喜びを提案できる強みと説く。それにはタブレット利用で、説明内容の画像、製品のできあがりをみせるスキルを存分に内蔵させている。つくる職人技に知識、創造力をデジタル機器を効果的に活用して付加価値の高い高額顧客層の開拓を目論むビジネス手段である。

さらにK氏は、オンライン活用によるコーディネートビジネスの起業である。大手ビール会社での様々なキャリア、実績を生かし「思考を形にしていくアウトプットサービス」とし、起業化した。その扱い業務は、ライティング・SNS代行・メルマガ代行・イベント募集、運営・バナー、イラスト、ロゴ制作・討議資料作成などを扱い、ほぼオンライン活用でのビジネススタイルである。案件を自ら取り組むことや、パートナー関係のプロ集団をネットワーク化し、依頼とそのマネジメントを施すコーディネートをビジネス化しての創業である。
 
近年4年ほど創業塾講師団として関わって来たが、今年の特徴はこのようなデジタル化の活用を組み込んだ創業プランが特色である。実は、この傾向は創業に限ったことではない。コロナ禍に伴い、業務遂行方法もオンライン、リーモート、テレワーク・ZOOM方式等々デジタル化の導入が急激に進んでいる。

しかしながら、すべてこれがよしかというとそうではない。新たな課題も出ていることも確か。例えば、対面だからこそのコミュニケーションの欠如がその最たる事項でもあろう。だからと言って、どちらが〇×でなくベストマッチング、融合化しての最適方法を編み出しが必要不可欠である。

上に立つ人はたとえシステム構築はは若手パワーに託するも、その方向性の発想、明言や実施への正しく判断し、決断するその力量はどうしても高めなければならない。また、新たにシステムの実施には支障なき対応能力如何が問われる。また、新たに発生する対面不足による課題を従来の方法を生かしうる得策と融合させていくことが要求事項である。

2.変えるパワーを引き出す理念に基づく育成力
 
当社の人財3条件を掲げて人材育成を推進しているのはS社である。長らくの関わりであるが、新人研修時からこの人財条件に適応させ内容、方法を決定しての実施である。勿論、採用時から確認しての新人である。

その3条件とは、
・創造=新たな価値を提案、推進できる人財
・挑戦=失敗を恐れず果敢に行動する人財
・共生=多様な価値観を尊重し、ともに高め合える人財
としている。

従って、トップからは「挑戦せよ。失敗は挽回への新たなチャレンジ」、担当者からは「本気で取り組み、自分の限界を認め、他の人の協力を得ること、それが当社の組織」「考働(むやみに行動することでなく、考えての実践)せよ。そしてPDCAのサイクルをスパイラルに回す。そこには、C(振り返り)から、「良しの活躍は、さらによりよくする改善、反省は即、変える改善」が肝心と指導する。
S社の人財3条件に基づく育成の一環である。

一方、社内活動では5S活動の改善(心と作業方法を変える)を長年展開し、改善活動を通じての育成、その結果を部署単位、個人、サークル活動の表彰制度を設けて認め、社員還元の一助としている。理念に基づく人づくりの一例である。
 
企業は人なり。ならば、どう社員を信頼し活躍の喜びを享受させるか、本気で育成に取り組むことなくして、モラール、モチベーション、定着云々などと論ずるのはいかがであろうか。

S社は社会にお役立に立つ会社、社員の幸せを大事にする理念のもとに、社員各自の立ち位置で具体的に何をどうするかを目標化した年ごとの経営計画に基づ企業活動を推進し、54周年を迎える中堅企業である。研修活動も充実している。もちろん実施方法は今年は工夫を凝らしての実施である。
 
肝心なことは「変える改善の知恵は、新たな学びなくして新たな発想はない」ことである。

デジタル化でも新たなインプットなくして新たなアウトプットは出ない。特に人の持つ体験による経験値は、感性に基づく察する、引き出す、先を読む想像力を形成する。従って、育成は「信頼し任せる」、この手腕の駆使も必要だ。それは、新たな体験、難しさのあがきによる自己啓発の促進力にもなる。

育成の最大なる実効は自ら求めた学びの実践にある。「電池型社員ではなく、自家発電型社員たれ」とは、工具トップメーカーN社の故会長の言葉である。さて、確認してみよう。

「社員はトップ・の器以上育たない」との名言である。それは、時が変われども見て覚える、まねる学び法は現在でも生きる。だからこそ、感化された、薫陶を受けたとの感謝の声が寄せられる。ということは、指導する側がそれだけの人財であることが前提になることに他ならない。
とすれば、たとえ優秀なる部下でも、上役によっていかようにも変えられてしまう現実だ。

また、社員は提案はできるが決定権はない。決定を下すのは上の人の器である。また、昨今問われるジョブ型人財としての中途採用なる社員は当社の社員に変え、最高に生かしうる条件は、上に立つ人の器と育成力に他ならない。それでなければ新戦力採用の価値はない。

3.人間力豊かな組織文化の形成力

まず、O園長の保護者向け通信文を紹介しよう。 

「ケヤキの根っこ」
「園庭には大きなケヤキの木が2本あります。いまから47年前第一回目の卒園生から修了記念品としていただきました。
大木となりました。ケヤキは落葉の高木で大きいものでは40メートルを超すものもあるそうです。
夏には大きな陰をつくり、たくさんの二酸化炭素を吸って酸素を供給します。冬は落葉させ根元までお日様を届けます。毎日の落ち葉掃除は大変ですが、春に芽吹く新たな葉が酸素を供給してくれると思うとそうは言ってられません。
季節の移ろいとともに姿を変え対処する自然の姿は偉大です。根元をよく見ると南側の根が大きく盛りあがり、南からの強風に耐えてきた様子がうかがえます。
約50年間どの方向からの風が強く吹き、自身が倒れないためにはどう根を張ればいいのか、永い年月のあいだに学んだ根の姿がこのようになりました。
何も物言わぬその姿に自然の偉大さを感じます。
私たちも困難に立ち向かうときいろいろなことを考えて対処しますが、時にくじけそうなときもあります。でもこのケヤキはその場でじっと耐え、南側の根っこを人知れず成長させ来るべきときに耐えうる底力をつけていたのでしょう。
セミだけでなくこのケヤキには山鳩やカラス、時には尾長鶏など様々な鳥や虫たちが羽を休めたり、樹液を吸って喉を潤したりしています。
先日はこのあたりでも見られなくなった玉虫が飛んできていました。また樹皮の間にはヤモリやハサミムシなども身を潜める格好の場所になっています。
大きな木には様々な動物たちを包み込む包容力のようなものを感じます。(以下略)」

いかがであろうか。学校法人O学園幼稚園2園を経営するO氏とは地元で経営者の学び仲間としての交流であるが、実に欅の大木のごとく包容力ある人だ。

園での活躍ぶりは早朝から園児を迎え挨拶を交わす、職員の待遇も他園に比して配慮し、職員からからの絶対的信頼を得ている人である。
園児には「将来に生きる人を育てること」を真髄とし、二宮金次郎像を園庭に設営し、また報徳の心得を園児が唱和することも指導の一環としている。

「今は意味が分からなくてもよい、成長し、何かのときに“あっこういうことだ!”とそのとき気づいてくれればいいのです。それが将来に生きる支援です」と話す。

卒園児は多勢だが、時がたってどこで会おうが名前とでき事、それに保護者との話題にも及ぶ対人関係力も見事だ。

一方、毎週祖先の墓参を欠かさず、祖先との語らいを楽しみ、素直に自分を見つめる人でもある。また、休日には地元出身高校でボクシングに汗を流す多様な活躍ぶりには目を見張る。
「尊敬される、頼られる、あこがれられる」、そんな人徳を備えたO氏である。
 
活躍のキーワードは「楽しく」とし、「子供たちからいろいろ教わることは楽しい。餅つきで杵を存分にツキまくる、バーベキューで準備、汗をかくことも、子供の喜ぶ笑顔が楽しい」と自然に話す。率先して、裏方を楽しみ、園庭の植木の手入れも施すトップとしての活躍ぶりには目を見張る。

30人の学び仲間からの信頼も厚く、学びの会の会長職も担ってきた。どこでも一目置かれる人物の大きさは、仲間の経営課題への支援を率先垂範する実践力にも魅せる。まさに徳ある人と称しても過言であるまい。
 
この時代、国内外での政経活動で自己中心、自分だけよければよいとの風潮や、コロナ禍での自粛要請への対応でも「えっ」と思える行動に眉をひそめることもある。厳しい変化の事実を大きな視点でとらえ、関わる人を包容力で受け止め、先に向けた視点と現状にどう取り組むかの示唆は、明るさを灯すことが肝心である。

その牽引者たる人はそのオーラを醸し出す人であり、「この人ならついて行くとの人間力の豊かさ」と自ら示す言動に他ならない。ちなみに勉強仲間とは週一回の5:30から7:00までの早朝セミナー35年。現在のモットーは、「トップは、笑顔で社員・業務に取り組もう」である。

人徳あるトップ、リーダーの組織文化が持続的活動集団(企業・諸団体)の評判力を高め、協力関係を高める真髄である。

4.寄り添うリーダーシップを生かす人

T氏の主催した集いは、3団体の出会いの機会である。3団体とはT氏の学友(大学、小生も加わる)、主宰するボランテア活動、それに学ぶボイストレーニングサークルの学び仲間である。総勢高齢者23人。会場は飯店利用で通常の3分の1の人数での設営。完全なる感染防止策を会場および出席者が施しての開催である。

すでに活動の仲間と初の人との出会いであるがどう進めるか、T氏が進行役を買って出た。ボランティア活動での歌手のいでたちがよく似合う。そのはず、これまで(コロナ禍以前まで)20数人でフラダンス、舞踊、カラオケを本格的に魅せるグループを結成、高齢者施設からの招きで慰問活動を行う。その集団を率いるオーラそのものである。

楽しく皆を乗せる巧みな話術で挨拶をし、各自の自己紹介に進む。まず、元学校校長、現在社会教育、夜間中学校講師を務めるK氏の引きつける魅力あるスピーチ力で場を作り、順次進む。

「話の味は人の味」と形容できる各自の生き様から話される紹介は実に味わい深い。とりわけK氏のコロナ禍に対するとらえ方に「当たり前のことに感謝」との提言には、まさに、毎年暮れには忘年会、年始は初詣と当たり前になしていたことが今年はできない状況は寂しい、窮屈、厳しいと思うことも多いが、だからこそ、改めて感謝するが大事との訴求に納得。大きな拍手が沸いた。
「自己紹介、苦手です」と言いつつも、皆、人に話す楽しさ、人の話を聞く楽しさを満喫した昼のひと時であった。

ふと気が付く。なぜ、このようなときにこのように皆、集まるのだろうか。会場に来るまで一時間半以上かかる人もいる。

その答えは一言で表せばT氏の「人に寄り添うリーダーシップにあり」といえる。それは、各自の自己紹介には必ず、「T氏のおかげで」との言葉が入っていることにある。

初の出会いで、笑顔のオーラのあるT氏の声掛けから、
「私の得意・好きなことを理解していただき、ならばこうしましょうとのその出番の場を提供してくれることです。おかげで、タンスに眠っていた着物を着る機会、そして踊る楽しみをいただきました」
「T氏との出会いが我が人生を変えてくれました。それは充実した日々を過ごせる素晴らしい生き方ができていることです」
「T氏の友垣の方との出会いの広がりもあり、その方たちにお役に立てるエッセイ書きに取り組み100回まで発行しました。なぜかワクワク感のある日々となりました」
「丁寧な文に一言の言葉の添えが、私のその時の心境にやさしさと勇気を与えてくれてます」
「ほんとにまめに面倒を見てくれる人、だから一緒することが楽しいのです」
……とのT氏への感謝の言葉をかけT氏に目を合わせる。

利害関係のない人との関わりでもT氏の一人ひとりの心と特技を生かしてあげたい、さらに学びたい向上心に寄り添ってのリーダーシップは、素晴らしい。
 
ふと思い起こす。コロナ騒動の発端の横浜桟橋での客船に隔離された家族と子供との電話のやり取りである。それは客船に隔離された祖母と孫の電話会話。子供がクイズを出す。「四角いボールは何」「うーんわかんない、教えて」「答えは段ボール」「あ、そうね。笑い」。実に微笑ましい。早く下船して話してあげたい。早く聴きたい。この目的に対して、今できることは何をしてあげることがいいのか。その最適な施しである。

孫さんがどこまで考えたのかは分からないが多くの人の心を打ったのは確か。ちなみに寄り添うとは、「ぴったりとそばによる」という意味合いであり「寄り添って歩く」、それは微笑ましさとともに結び合う目的地に向かっての光景である。人と人の接触なき、ビジネススタイルも日常化してきた。しかし、不安感も募る事態が生じていることも確か。だからこそ、関わる人ヘの見えない寄り添いの気配りが上に立つ人の裁量あるリーダーシップである。

現在は新コロナ感染による国難的状況。企業への影響は大きい。だからといって悲観的に陥っているだけではもったいない。

「禍転じて福となる」「苦難福門」との言葉があるが、それは厳しい状況を、単に悲観的思考に固まらず「こんなときだから」とそれまでの当たり前のありがたさを確認し、この状況だから発見できる新たな種を生み出す機会である。

その実現に向けて4条件を提起してきた。時を経て「あのことがあったから今がある」と語れることはこの上なき幸せである。

このときだからこそ、
「こんな新たなことをしていこう」
今日まで気づいていた「やろうと決めたことができていない」
「やればできることができていない」
「できていることをさらにこうしたい」
「できないことをできるようにする」
との想いを改めて確認し、新たな年に望むことを期すことがよい。 

 

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/