真田幸光氏の経済、東アジア情報
「2021年の世界と日本」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
2021年はどういう年となるのか?
2020年に突然発生した新型コロナウイルスの感染発生とその世界的拡大を受け、人々の生活の根底そのものが変化する兆しを見せる中、
「価値観の変化」
の兆しが出始めており、その結果、
「人々の消費行動も変わる可能性がある」。
そして、更にその結果、ビジネスを仕掛ける側の、
「ビジネスモデルも変化させていかなくてはいけないかもしれない」
という状況に世界はあり、そこで、これまでのビジネスモデルの中で、既得権を得ていた、
「既得権益層」
と、
「新興勢力層」
の間に、水面下の駆け引きが見られる可能性も出てきた。
それはまた、国際標準、現行の世界秩序を握る、
「英米」
と新しい秩序を世界に植え付けようとする、
「中国本土」
の水面下の駆け引きも激化させており、また一方では、現行の世界秩序そのものをまずは破壊させてしまえとばかりに動いている、
「過激派」
の動きも織り込んで、今後を考えていかなくてはならないという状況も作り出し、
「価値観の共有が出来るか否か?!」
と言う議論ともなっている。
こうした中、具体的には、
1.現行の国際金融筋や宇宙航空産業とその延長線上にある防衛産業筋に支えられる既得権益層とGAFAに代表されるIT、AI、IOT技術を駆使しながら、新たなビジネスモデルを構築しつつある新興勢力の駆け引き
2.英語、米ドル、英米法、ISOを中心としたものづくり基準、英米会計基準と言う世界秩序が、中国本土の標準、即ち、中国語、人民元、中国法、中国本土のものづくり基準等に変化していくのか否か?
更には、新型コロナウイルス感染拡大の混乱に乗じて動こうとする過激派の活動活発化をもたらすのか?
3.「情報を制する者が世界を制する」との認識の下、「情報覇権争い」はどうなるのか?その前哨戦として行われる「通貨覇権争い」はどうなるのか?特に、デジタル人民元が中華経済圏に定着していくのか?
4.即ち、中国本土の宇宙開発の速度、ファーウェイを軸とする5-G開発を巡る世界標準化競争、アリペイなどを意識した中国本土型デジタル人民元の一帯一路国家での定着度などはどうなるのか?
5.アルカイダ、タリバン、ボコハラムなどの動き
6.イスラムの盟主争いに関わる、サウジアラビア、イラン、トルコの相関関係
7.イスラエルとイスラム勢力の駆け引き、相関関係
8.こうした世界情勢を睨むロシア・プーチン大統領の出方とプーチン大統領自身の健康不安疑惑?!
9.朝鮮民族大国建国を目指し、南北融和に動く朝鮮半島
10.そして、世界のリーダー国家、米国で見られる民主党バイデン政権の誕生とその政策運営による世界の変化の可能性
などを慎重に注視しなくてはならなくなるであろう。
もちろん、大航海時代以降の既得権益層が存在する欧州情勢にも注意を払うべきであり、英国のEU離脱問題やNATOの変遷についてもフォローしなくてはならない。
さて、こうした点を踏まえ、先ずは国際機関である経済協力開発機構(OECD)や日本の調査機関のデータなどをもとに2021年の世界経済と日本経済を真田の私見を交えて概観すると以下の通りとなる。
■世界経済見通し
世界的に信頼される国際機関である経済協力開発機構(OECD)は、新型コロナウイルスの感染再拡大が世界経済回復の道筋をより緩慢なものにしたと指摘し、各国政府が支援を尚早に引き揚げたり有効なワクチンが普及しなかったりすれば回復ペースはさらに遅くなると警告している。
OECDは2021年の世界成長率見通しを4.2%と2020年9月時点予想の5%から引き下げている。
新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)とロックダウン(都市封鎖)の繰り返しという状況は当分続く可能性が高く、今後も暫らくリスクが高まると分析した結果であると説明している。
ユーロ圏と英国の成長見通しを特に大きく引き下げ、英国は4.2%(従来予想7.6%)としている。
米国も3.2%と従来の4%から引き下げた。
また、OECDは、日本の2021年の経済成長率は2.3%と予想、ユーロ圏は3.6%と予想している。
そして、
「政策にはまだすべきことが多くある」
とチーフエコノミストのブーン氏は述べた上で、
「公衆衛生か、財政政策か、いずれかがつまずけば、信頼が失われ、経済成長見通しは更に一層悪化するだろう」
と厳しいコメントをしている。
また、
「新型コロナ治療普及の成功が回復の軌道を決める決定的要因の1つとなる」
とも指摘、
「各国政府がロックダウンを終了し企業は業務を再開、人々は仕事に戻れるという大きな期待がそこにかかっていることから、遅延は深刻な打撃を与えるだろう」
として、
「経済へのコストは大きく、それが脆弱な国家・企業発の金融混乱と世界への波及のリスクを高めるだろう」
とも分析している。
また、地域間の乖離が世界経済の長期的な変化に繋がるリスクが高まっているとOECDは指摘した上で、
「欧州と北米は2021年の成長にその経済規模ほどは寄与せず、中国本土が世界の成長の3分の1余りを担うだろう」
と予想している。
一方、各国政府はロックダウン措置解除後も経済への支援を続け、緊急措置が期限切れとなった時の「財政の崖」を回避するべきであるとも主張しつつ、公的債務は増えているが、借り入れコストは低いとしてOECDは強い懸念を否定した。
ただ、支出の一部が有効に使われなかったとし、
「財政支援と結果としての経済パフォーマンスの相関関係欠如がある」
と指摘した上で、
「支援は破綻の恐れが大きい小規模企業やセーフティーネットの不十分な低所得者や貧困家庭、就学困難な子供など危機の影響が大きい弱者を対象とすべきである」
とも訴え、
「政策による大規模な支援措置にも拘らず、良好なシナリオに於いてすらパンデミックは世界各国の社会経済的構造を損なうことになる」
とブーン氏は論じている。
◎OECD OUTLOOK
経済成長率見通し
出所:OECD 単位: %
2020年見通し 2021年見通し
世界全体 -4.2 4.2
G20 -3.8 4.7
ユーロ圏 -7.5 3.6
中国本土 1.8 8.0
韓国 -1.1 2.8
トルコ -1.3 2.9
インドネシア -2.4 4.0
米国 -3.7 3.2
オーストラリア -3.8 3.2
ロシア -4.3 2.8
サウジアラビア -5.1 3.2
日本 -5.3 2.3
カナダ -5.4 3.5
ドイツ -5.5 2.8
ブラジル -6.0 2.6
南アフリカ -8.1 3.1
フランス -9.1 6.0
イタリア -9.1 4.3
メキシコ -9.2 3.6
インド -9.9 7.9
英国 -11.2 4.2
アルゼンチン -12.9 3.7
■日本経済見通し
一方、主要な研究機関の定量データを基にして、日本経済の予測を真田流にしてみると以下の通りとなる。
1.2020年7~9月期の実質GDP成長率が前期対比年率+21.4%の高成長となったが、緊急事態宣言によって経済活動が極度に委縮していたところからの一時的なリバウンドの面が大きいと見られている。そして、4~6月期の落ち込み分の6割もリカバーしておらず、新型コロナウイルス感染拡大前のピークである 2019年7~9月期を大きく下回り、絶対的な水準は低いままに留まっている。実体経済の痛みは大きい。
2.国内、海外とも再び新型コロナウイルスの感染拡大が進んでおり、これまで回復の牽引役だった輸出と個人消費にも下げ圧力がかかりつつあると見ておくべきである。欧州各国では再び行動制限が強化されており、日本からの輸出に悪影響が及ぶことは避けられない。個人消費についても、今後自粛ムードが強まる可能性もあり、悪化する可能性は高いと念の為、覚悟しておくべきであろう。
3.ワクチンの普及までにはまだ時間がかかると見ておくべきである。今後も暫らくは経済活動と感染拡大抑制のバランスを取る必要がある。こうした中、即時、景気回復の見込みは薄い。新型コロナウイルス感染拡大以前の状態への実体経済の早期復帰は困難であり、実体経済の活動の正常化には時間がかかりそうである。
と総括しておきたいと思う。
◎2021年の日本経済
出所:各機関の予測値を筆者が調整 単位:%、兆円
2020年 2021年
実質経済成長率 -5.3 2.3
内需 -4.5 2.5
民間消費 -5.5 4.0
民間住宅投資 -10.0 2.0
民間設備投資 -9.0 1.0
公的需要 0.5 0.5
輸出 -15.0 10.0
輸入 -6.5 6.0
鉱工業生産 -11.0 7.5
消費者物価指数 -0.3 0.2
完全失業率 3.1 3.1
貿易収支 0.2 0.5
経常収支 13.7 16.0
米ドル/円 106.4 106.0
原油価格(米ドル) 38.6 45.0
ところで、国際的な環境保護団体によると、ユネスコの世界自然遺産の3分の1が気候変動の脅威に晒されているとコメントしています。
ユネスコに助言をする国際自然保護連合は、252の世界自然遺産の現状に関するレポートを発表する中、こうした報告をしています。
環境問題と人権問題に神経質な反応を示すと見られているバイデン新政権の動きも意識しながら、今後の動向をフォローしたいと思います。
一方、欧州情勢が気に掛かる状況となっています。
即ち、英国と欧州連合の指導者は、英国の欧州離脱後の貿易協定での双方の意見の食い違いを、対面サミットを行っても解決することは、今回もできなかったのであります。
即ち、英国のジョンソン首相と欧州委員会のライエン委員長が12月9日水曜日にブリュッセルで約3時間会談したが、合意は見られませんでした。
交渉の期限が迫っています。
混沌は世界的に広がっているようです。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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