【特別リポート】
「令和3年の緊急事態宣言が発令された歌舞伎町」
日比 恆明氏(弁理士)
昨年初めから流行した新型コロナウイルスはその後も拡大が止まることなく、全世界で感染患者、死亡者が増加しており、収束の兆しが見えません。
昨年4月7日夜、政府は第1回目の緊急事態宣言を発令し、東京都では4月9日から6月19日まで飲食店の営業自粛を要請しました。飲食店の営業は夜8時まで、酒類の提供は7時までという要請でした。極めて緩い自粛要請でしたが、5月になると感染者数が激減したため6月19日には自粛の解除となりました。その後は微増となったため、国内では安心してしていたのでしょう。
年が明けて本年1月7日になると、一日に2447人と爆発的な感染者数の増加になりました。それまでは、諸外国に比べて日本は清潔なので感染は広まらない、などと高を括っていたのが冷水を浴びせられたことになりました。このため、政府は第2回目の緊急事態を宣言することになりました。
具体的には東京都では1月8日から2月7日までの一カ月間は、飲食店は午後8時までの営業短縮をお願いすることになりました。1月8日は金曜日で、3連休の始まりの日でした。短い正月休みの後の最初の連休であることから、皆様外出や外食を楽しみにされていたと思われます。この宣言で繁華街に出掛ける人は減少したかと想定されました。
こうしたことから、連休最後の1月11日、日本一の歓楽街である歌舞伎町にでかけ、街の状況を観察してきました。
写真1
今回の緊急事態宣言では、東京都の取り組みは真剣味があるようです。
写真1は歌舞伎町のセントラルロードの入口を撮影したものです。昨年の宣言発令の時は見かけなかった厳重な警備がありました。車道には警備員が複数人立ち、いかにもという雰囲気を出していました。
しかし、緊急事態になっても、行政は飲み客に対して自宅に戻るように強制することはできません。あくまでも、コロナによる感染が厳しくなっている、という状況を飲み客に伝えるだけに止まっています。この辺が諸外国のようにロックダウンできない日本の法制度の欠陥でしょう。
外出禁止や営業停止などの強権力を行使すると、必ずといっていいほど民主主義を蔑ろにするものだ、という横やりが入ります。国民の生命を守るには、少々もどかしいところがあります。
写真2
ニュースで必ず撮影されるのが歌舞伎街一番街の通りです。この日、午後8時30分頃に撮影したのが写真2で、人通りは少なくなっていますが、遠目からはネオンサインが輝いていて賑やかのように見えますが、これは一番街の通りに入口だからです。
写真3
写真3は、その一番街を写真2とは反対側から撮影したもので、路面の飲食店は全て閉店していて、ネオンサインも消えて真っ暗となっています。所々に点灯している店舗はコンビニストアなどです。不思議なことに、歌舞伎町で運営している路面店では、自粛要請を従順に受け入れて休業していました。
政府が自粛要請を宣言した7日のテレビニュースでは、「開店しなければ経営が成り立たない。自粛要請があっても深夜まで営業をつづける」と息巻いていた居酒屋店主もいました。しかし、蓋を空けてみると、歌舞伎町の飲食店は揃ってきれいに休業していました。
これには理由があり、歌舞伎町でもセントラルロード、一番街に面した路面店はほとんどが大手資本のチェーン店であり、資金的に余裕があるからでしょう。また、大手資本のチェーン店が要請を破って深夜営業をしていたなら、社会的な反発を受けるからでしょう。
さらには、飲食店組合からの要請もあって、全店が一斉に休業することになったのかもしれません。いずれにせよ、予想したのとは全く違っていました。飲み客が夜8時以降も出歩かなくなり、社会的には良いことでしょう。
写真4
さて、大通りに面した飲食店は全て休業し、灯が消えていましたが、不思議なことに風俗案内所はどこも開業していて、店頭には客引きが立っていました。写真4の右側にある「無料案内所」というのがそれで、歌舞伎町には3、40店舗あると思われ、ほぼ全ての案内所が営業してました。ここでは夜の歌舞伎町の風俗店を紹介するのが仕事で、キャバクラ、ホストクラブを案内してくれます。
案内所は酒類を提供する飲食店ではないため営業自粛の対象にはならず、深夜営業しても問題はありません。しかし、ここで紹介する飲食店や風俗店は深夜でも営業していることになり、おかしなことになります。深夜でも遊びたいという飲み客と自粛していない飲食店を結び付けるのですから、建前と本音を使い分けているようです。
写真5
大通りにある飲食店は軒並み休業していましたが、中には深夜営業を続けている飲食店も見かけられました。写真5は一番街の横道を入った場所にある居酒屋で、従来と同じように午前5時まで営業しているようでした。ここまで堂々と深夜営業をしている店舗は少ないようです。個人営業の居酒屋なので、組合からの要請を無視しているのでしょう。今後、同業者からは厭味を言われるのではないかと予想しています。
ゴールデン街にも出掛けましたが、全てのスナックはネオンを消して休業していました。しかし、所々にあるバー、スナックからは、何やら酔客の歓声が聞こえてきました。隙間から覗いてみると、カウンターは馴染み客で一杯でした。酔客を詰めるだけ詰め込んで、看板の電灯を消して営業を続けていました。ゴールデン街で午後8時以降も営業を続けているのは、道路側にガラス窓が無く、ドアーを閉めると店内が見えない構造のバー、スナックに限られているようです。
写真6
写真6は、職安通りと大久保通りの間にあり、焼き肉店や韓国化粧品店が並ぶ、イケメン通りと呼ばれている路地です。この路地の左右にある居酒屋、焼き肉店は全て休業していました。ただ、写真にある一軒の焼き肉店だけが深夜営業を続けていました。付近の飲食店が全て休業している中で、飲食ができるのはこの店舗だけのため、店内は満席でした。路上では入店を待つ客があふれていましたが、学生風かフリーター風のチャラい若者ばかりのようでした。
今回の緊急事態宣言による飲食店の営業自粛では、午後8時以降に休業した店舗には1日6万円の支援金を支払うという好条件が付けられました(東京都だけ)。1か月休業すれば180万円の金額になります。夫婦で経営しているような小さな焼き鳥屋にとっては誠に有り難い話です。
個人経営店では、経営者はホクホク顔のことでしょう。ただし、今回は支援金が支給されても次回には支給される保証はありません。また、コロナ感染の騒ぎはこれからも続きますので、自粛要請が終わった後では顧客が減少することは目に見えてます。
つまり、今回の支援金は個人経営店の延命措置のようなものと考えた方が合っているかもしれません。一説には、コロナ騒動の余波で、飲食店の3割は廃業するのではないかと言われています。単発の支援金を受け取っても、将来の見通しは立てられないのが実情でしょう。
なお、営業自粛要請が叫ばれている最中に、深夜営業を続けていた飲食店はどうなるでしょうか。自粛の要請であって「休業の強制」ではないため、深夜に営業していても違法ではありません。
しかし、近いうちに社会的な制裁が下されることは間違いないようです。地域内の飲食店組合や社交店組合は定期的に町内を巡回し、深夜営業をしている店舗をリスト化しているはずです。当然、近所の同業者や競業者ならなお更のことで、証拠の写真なども撮影して摘発の準備をしていることは間違いないでしょう。来期の組合の会合では、深夜営業していた経営者には冷たい視線が投げかけられるか、少なからず厭味を言われるでしょう。
なお、定年になって暇になった老人が毎夜町内を出歩いて、深夜営業を強行している居酒屋を覗いているようです。こちらは自発的に活動している自警団のようなもので、深夜営業している居酒屋を摘発するのが生き甲斐のようになっているようです。緊急事態宣言が解除された後では、インターネットの掲示板に店舗名が投稿され、炎上するかもしれません。組合による嫌がらせよりも、ネットでの炎上の方が怖いかもしれません。
写真7
コロナ騒動で気がついたのは、歌舞伎町で制服警官の姿を良く見かけることです。今まででは、喧嘩などの騒ぎがなければ警官が路上に出てくることはありませんでした。昨年からは、事件も無いのに警官がパトロールしていることが多くなったような気がします。警官の姿を多く露出させることにより、強引な客引きをさせないよう威圧すると共に、飲み客には早く帰宅せよ、という意思表示をしているのでしょうか。
写真8
写真9
歌舞伎町でも売上げ減少のため撤退していく飲食店が目立ってきました。昨年秋に調査した時には撤退した店舗は僅かでしたが、今回の調査ではあちこちで増えきたようです。写真8は一番街の通りに面した角地にあるビルで、5階建てのビルのテナント全てが撤退していました。目抜き通りなので、従来であれば、前のテナントが撤退したらすぐに次のテナントが決まる絶好の場所です。このような好立地での空室が明らかに増えてきています。
写真9は回転寿司の店舗ですが、この店舗はセントラルロードと一番街を結ぶ横道にあり、場所は悪くないはずです。どうも、この店舗は来日した中国人を目当てに営業していたようで、来日客の減少により廃業したようです。飲食店業界は深刻な状況に入りつつあるようです。
写真10
写真10は、11日の朝、新宿で見かけた光景です。あるパチンコ屋の開店を待っている人達の行列です。ざっと3百人が順番待ちをしていました。個人の趣味についてとやかく言う気はありませんが、こんな世相の最中に、客で密集するパチンコ屋にでかける人の気が知れません。きっと、本人達は「私はコロナには罹るはずがない」という固い信念の元に、これから始まるギャンブルに胸を弾ませているのでしょう。
なお、今回の自粛要請では、パチンコ屋は営業時間短縮の対象となっていないため、どのパチンコ屋でもシッカリ午後11時まで営業されていました。