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「モーニングセミナーを自家発電の機会として活用する」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(75)
「モーニングセミナーを自家発電の機会として活用する」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆地元のMSが2,000回を迎えた
 
地元の経営者で学び合うMS(モーニングセミナー)が先日2,000回を超えた。初回は昭和57年4月倫理法人会としてのスタートである。経年は38年に近い。開催は週1回火曜日の6:00から7:00までの時間帯を基準に、前後に約1時間の自由参加を設けての楽しく、明るい学び合いの機会である。

毎回、中小企業経営者クラス30人ほどが参加する。小生は、スタートからの関わりで、脱サラ時から現在の現役講師としての活躍の軌跡に多くの学びと支援をいただくと共に、支援をさせて頂いてきた。地元の経営者仲間の学びだからこその良き点も多い。
 
会場には早々に、茶販売店主の会員が、自家焙煎した材料をドリップ方式で入れたコーヒーを振る舞い、美味しく頂きながらの参加者同士の談笑と、相互支援のアドバイスの交流が弾む。現在のコロナ過での対策の話題も勿論。折良く病院の看護師長の参加のときには、関心が高く談笑は弾む。

業種が様々だからこその会員同士の談義は、互いに新たな気づきを生む。それは、「自分なりに頑張っている」との自意識の高さも、全く異なる視点からの指摘やアドバイスを提供されると、今一度自身の考え方、を素直にみる機会とするからである。

指摘やアドバイスを提供する人、地元だからの情報もとらえての真にお役に立てる友愛だからである。まさに、「異見」を持ち合える仲間だからこその良さである。異見とは考え方の違いの意味合いで、各々の考え方は、経験則によることも多い。だからこそ、ここまでの経営の誇りあるからこそ経験則から編み出す考えにはこだわることも多い。
 
当会だからこその学び合う仲間は、相手のために役立つ施しを素直に提供し、その異見を素直にまずは受け入れてみる、この学び合いが各自の自家発電としての力の蓄えとして生きるのである。
 
それは、週一回、継続しての交流であるからその場だけの話のやりとりではない。従って、何か月後に、
「あのときに、アドバイスして頂いたことを、社員に実践してみたら、最近は社員が良い顔になってきました。やっぱり、トップが暗い顔していたら社内も暗くなりますね。アドバイスいただくまでは、自分はトップ自ら一生懸命やっていると自負していましたが、その表情には、明るさ、ましてや笑顔なんてなかったんですね。これじゃ、社員も気軽に私のところに寄ってきませんものね。おかげでお取引様からも最近社員の笑顔が良いねと言われてます」
等と感謝の言葉が交わされる。

好かれる人に人は寄ってくる気づきであろう。継続する学び合いだからこその良さでもある。

◆経営者としての人間力を磨く

学び合いのテーマは「経営者としての人間力を磨く」ことにある。人間力とは多くの説があるが、最も大事な点は、「おかげさまで」「ありがとうございます」「ご苦労さま」という感謝と労いの心を常に忘れていないことである。この言動が自然に成す経営者は、人生に対する姿勢・生き様(倫理観・人生観・経営観)がにじみ出るものだ。 

具体的には、経営に対する高い志、利他主義での無私の心、明確なビジョン、ゆるぎない信念、人の心に灯火をともす言動、強い責任感、潔さ、勇気、決断力、礼儀正しさなどが挙げられる。そこには、理論や理屈、スキルやテクニックを踏まえつつも、それらを超えた豊かな人間性、品格、人徳というものが伴っている。人の器との表現もあるが、この実践がどうかを診断し、新たな気づき、気づいたことの実践が、学ぶことは変わることにより人間力を磨くことになる。

その学習の軸は倫理経営をきちんと学ぶことにある。

◆この学びの機会は次の3点である

①基本動作の診断 

これは、参加者による朝礼の場である。声をしっかり出す、きちんと姿勢を正す、相手に合わせるこの言動の確認が目的である。

例えば挨拶実習では、「おはようございます」「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と、声を合わせ、お辞儀の角度、スピードを隣の人に合わせ、姿勢の角度もチエックする。15~20人ほどの横列だがきちんと揃えるのは並大抵なことではない。
 
なぜならトップは日常自己中心的なふるまいが多く、むしろ自分に合わさせる向きもあるからだ。続けて「返事の演習」に進む。演習リーダーの指揮で「ハイ!!」「ハイ!!」全員で唱和し、次には「一人一人行います」と宣言し、各自が「ハイ!!」「はい!!」と応えていく。

順番が近付くと緊張感が走る。姿勢を正し、指揮者の手先に目を併せ、大きな声での「“はい”」である。ピシッと心が整う。それでも「笑顔で」と指示が飛ぶ。10分間の朝礼だがその後に向けた元気さが体に宿り、創業時のぴしっとした仕事への取り組み姿勢が整う。まさに行動の修正をする機会である。

②講話での学び 

これは倫理経営の有り様を正しく知ることである。各自は、精一杯経営活動し、自信ありますがその善し悪しの判断の物差しは持ちうることが乏しいこともある。だからこそ、倫理の中に経営がある倫理経営の有り様を学ぶことにある。それは 毎回、変わる講話者による学びである。

講話者は多才な方々である。国内外に倫理実践を説き、推進する(一社)倫理研究所、全国・県内の現役経営者である。加えて地域の首長、行政幹部、社会活動・経済団体のトップ、時には僧侶、漫画家、切り絵作者、万華鏡作家、学校関係の校長、ブラバン指揮者、野球コーチ、ボクシング協会トップの方々も会員の人脈での招聘で実現している。ちなみに会員には国・県・市の議会議員も学びの仲間であるのでこの方たちの講話もある。

まさに、経営者の有り様を学びつつ、地域に根ざした経営者としての視野の拡大、また、人脈の広がりの機会でもある。とかく、蛸壺思考に陥りやすい経営者にとっては、多面な外からの刺激による自己診断の機会であり、自家発電の蓄えでもある。さらに終了後、講話者を囲んでの、聴講仲間からの各自の感想交流にも多くの学びがある。それは同じ話を聴いても、受け止め方、各自の実践例の紹介などに多面性がある事実にふれることである。

③役割の体験からの学び

会には会長はじめ会の役職者がいるがMSの運営、場面対応に当たっても役割を担い合う。この役割体験からの学びも良い。それは、企業組織でのトップの担いと違い、指示・命令で動かすことはできない。互いを認め合って協力をいただく事による活躍だからである。

MSの統括者はMS委員長で、そして開催時の役割は進行役、基本動作のリーダー、基本動作演習のチエッカー、受付、会場準備、そして、感想会の司会等々、さらには会長挨拶、会員のスピーチ、事務連絡の役割もある。
 
この学びは、役割は人を育てるがごとく体験による体得がある。しかも、毎月役割担当者が交代する。学び合う仲間がこの役割体験による体得スキルは日常の活躍場面での応用に生かせることも良い。勿論、小生も役割を委託され尽力することもある。

◆話力向上の支援

小生の主たる支援は話力向上である。これには2点ある。

①一つは講話者を対象とした講話力向上研修である。この対象は、地元の会だけでなく、県内各会場に出講する選ばれた講話者としての経営者に向けての支援である。つまり、話すことのプロでなく、自らの経営体験から掴んだ経営者の有り様、施策を直にお役立てとして話す人である。
 
従って、自らの経営体験に基づく話しは、巧みに話すことでなく、話せる機会に感謝し、聴いていただけていることに感謝して、例え、あがっても、真摯な態度で話すことを指導の基点においている。

指導方法には各自のミニ講話をVTRを活用し、再生を自ら診断することを取り入れている。この方法は、素直に善し悪しを受け止める効果を生む。だからこそ、診断ポイントを専門家としてコメントをすると、素直に受け入れ納得を生む。その上に本人の掴み得ないポイントを指摘することがよりブラッシュアップさせていくヒントとしてお役立てができるのである。

受講された講話者が小生の会に出講されて来たときには、診断し、必ず所感としてのOKポイントの確認と、更なる向上に役立つアドバイスをお送りする。喜ばれるお役立てである。

②もう一つは、会員スピーチとして3~5分の体験報告を主としての話し方である。トップ・幹部は日常、社内外で挨拶や朝礼、各種会合、社内行事でも話す場面は多い。この対応力として学ぶ機会がスピーチの役割を生かすことである。従って、必要性を実感されて会員がMSの良さはこの会員スピーチがあることだと話すこともあった。
 
スピーチされた会員には、必ず端的に言葉がけするかメールで小生の所感とアドバイスを送ることが小生の支援である。他の役割での話し方についても適宜本人に支援するお役立てもさせていただくことも多い。

◆2000回記念MSで紹介したエピソード
 
2,000回当初から関わってきた小生だからと記念MSではお役を託された。それは、ここまでの出来事の語りである。そこで、会場は当初喫茶店であった。これには仲間もびっくり。時には当時の会長宅で開催したこともある。休むことないMSであるから、元旦には休園の幼稚園で餅つき、お雑煮食べての学びの機会にしたことなど紹介し、そして、話し方に関するエピソードを紹介した。それは会員故O氏の体験である。

小生が独立して、起業したとき支援してくれた一人がO氏。地元の先輩であり、地元で建設部材の加工業を創業し活躍。O氏は元来職人肌の人で、人付合いもいい人なのだが、話すことだけは大の苦手な人であった。しかし、小生が講師を担当した「経営者・管理者の話し方教室」を受講した。それは次期社長になることもあり、立場上、話す機会を逃げることができないことからの決断である。

受講仲間は、地元企業の経営者、管理者の責任のある立場の人だから0氏の知合いも多い。O氏は会場には一番乗りして、なぜか最後列に席を取る。しかし、講義が終わり、各自のスピーチの実習の時間になると、O氏の姿は会場から消えている。なるほど、消えやすいように最後列の席を確保していたのである。
 
しかし、講座の最終日の受講感想スピーチだけは逃げられない。受講仲間に促されて立ち上がったO氏でしたが、明らかに緊張していることが解る。受講生全員から拍手が送られ、ぎこちない挨拶、会社名と氏名を名乗ると、そこで声は途切れた。2、3秒の沈黙の後、「これからも頑張ります」と精一杯のひと言を告げて、深々とお辞儀をし、着席したのである。

しかし、O氏に対して受講生仲間からは、温かい拍手が送られた。そんないい雰囲気の中で、小生が全員への指導の施しは、
「O氏が、やってみようと決断して、実習に取り組まれことは、素晴らしいことです。この吹っ切りが話すことの上達の第一歩です。途中で止まりました。それでも何とか話し続けようとして、2、3秒沈黙がありました。その時Oさんの心の葛藤(かっとう)があったはずです。その間、皆さんの視線を浴びるのは厳しいものがあります。黙って、この場から退散するという選択もあったかもしれません。しかし、そうはされなかった。ひと言結んで終わられました。ここに大きな価値があります」
とO氏の取組み姿勢を称賛の言葉で締めた。
 
時を経て、O氏は、当会の会長に推挙され、毎週のMSで会長挨拶をされた。勿論最初は30秒程度でしたが、やがて2分、3分と時間も延び、話す表情にもゆとりが見えてきた。小生もその都度、褒めとアドバイスで支援した。圧巻は会の20周年行事でホテルで150人臨席の会場での会長挨拶を、何とか成し遂げたことである。その姿は実習時になると消えていたO氏はない。

誰でも話せる能力を持っている。「吹っ切れる」という言葉があるが、最初は、話すのが苦手という意識と、うまく話したいとの思いの間で葛藤がある。その時、ひと言でも話す実行の一歩を踏み出すことで、吹っ切れる瞬間が生まれる。その踏み出しは、うまく話す必要よりは、人のお役に立つという信念の基に持ち味を生かした話をすれば良いのである。話す事は同時に人格を磨いてくれる。

周囲からの声がかかるのは、それを認めて期待している証である。声がかかったら、謙虚な態度で受けるようにしていくと良い。
「自信はありませんが、皆さまのお力添えをお願いして、なんとかやってみます。どうぞよろしくお願いいたします」
と話すと、周りからは
「お引き受けいただいてありがとうございます。皆で協力させていただきます。なんでも言ってください」
と言葉が添えられるが現実。O氏の体験談はこの好事例でもある。実際、仲間からの良き助言も生きたことは言うまでもない。

◆朝起きの利点は周知の通り

早起きは三文の得とは良く説かれる言葉である。5時起床での1時間は日中の2時間の価値があるとの説きもある。それだけ、脳の働き、思考の聡明さ、身体の動きの良さなどがあるようだ。だから、本を読む、学習する時間、考えを巡らす、その日の予定と準備に活用に活用し、その成果例も多い。企業単位では、早朝会議、早朝勉強会、地域では早朝学習会の開催例も実に多い。

当会のMSへの参加に関して、早起きは苦手から、思い切って参加し、そこでの学び仲間との出会いと縁、そして、多くの学びの刺激による新たな気付きの楽しみは、いつしか朝起きによる1日のスタートが習慣化されてきた人も多い。

創業間もない若手会員のM氏は、会員スピーチで座右の銘として紹介したのは、マザー・テレサの次の言葉である。

      良き人生を創り変える
 思考は運命を変える
 思考に気をつけなさい それはいつか言葉になるから
 言葉に気をつけなさい それはいつか行動になるから
 行動に気をつけなさい それはいつか習慣になるから
 習慣に気をつけなさい それはいつか性格になるから
 性格に気をつけなさい それはいつか運命になるから

まさに、コロナ禍、さらに、ウイズコロナでの生活習慣、企業活動、仕事推進方法は新たな思考での、活動を始動しその継続による新たな習慣を創り上げていくことも必要である。
 
今回は、身近な地元のMSの2,000回の継続におめでとう、ありがとうの節目の言葉を交わしながら、その利点について着目してみた。2,000回記念回でH副会長が「成功者とは、自分磨きのプロである。良い人生とは、実践を伴った仲間を多く持っているかである」と総括された。
 
自分磨きは変化対応に向け、自家発電して新たな能力を蓄え、いつでも取り出せることが不可欠である。現状の能力を電池とすれば電池はいつしか容量が減り、ついに途絶える。これでは困る。朝の最適な学びの時間を活用することもその一策である。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/