真田幸光の経済、東アジア情報
「中国本土企業の経営状態について」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
中国本土企業の財務内容悪化が日本経済新聞などでも見られています。
こうした中、最近では例えば、中国本土の半導体分野をリードしてきた清華紫光集団(清華ユニグループ)が債権者の申し立てで破産の手続きに入っています。
中国本土政府の全面的支援を受け、総合半導体グループに成長したと言われる、即ち、欧米からすれば、アンフェアな国家支援の下、資本主義の良いとこ取りをして発展してきた同社が、無理な事業拡張により、経営危機に直面した格好となっています。
そして、中国本土メディアなどによると、清華紫光集団の債権者のうち徽商銀行は、
「清華紫光集団が返済期限までに債務を返済できない上、資産が債務返済には十分ではない。
よって、同社の破産を北京市第1中級人民法院(地裁に相当)に申し立てた」
としています。
この清華紫光集団は、1988年に国立の清華大学が設立した企業であり、事実上の国有半導体メーカーです。
そして、中国本土の国有資産監督管理委員会が直接管理する中央企業でもあり、メモリー企業の長江存儲科技(YMTC)、通信チップ設計の紫光展鋭などを設立し、総合半導体グループへと成長した企業グループであります。
2015年には、韓国の三星電子にスマートフォン用のアプリケーションプロセッサ-(AP)を供給し、中国本土でも最も進んだ技術力を持つ半導体メーカーとして評価されてきました。
清華紫光集団は、持ち株会社を通じて、主力子会社をコントロールしようとしましたが、複雑で不透明な支配構造を変えられず、流動性危機に陥ったと見られ、3,000億人民元に達する資産を保有しているものの、280社余りの子会社と多くの企業軍団を統率する力には欠けていたようです。
そして、一帯一路などを意識しつつ、清華紫光集団が国家目標を達成するために、大量生産大量販売のビジネスを拡大<その結果として、過剰投資を行ったとの指摘がなされています。
更に、清華紫光集団は本業の半導体以外にクラウドなどの新事業への投資も毎年増やしていきましたが、新事業に対する投資規模を増やしても技術力が伴わず、高付加価値の半導体での競争力を失ったとの指摘もなされています。
そして、その清華紫光集団は既に昨年末から揺らぎ始めたと見られています。
即ち、昨年11月には13億人民元の社債を償還できず、初の債務不履行に陥り、12月には、4億5,000万米ドル規模の、
「外貨建て社債」
の償還も出来なくなり、国際金融筋からもマークされていたのでありました。
しかし、同社はそれでも、それ以降半年以上も倒産せずにいましたが、それは正に、
「中国本土では企業が債務不履行を宣言してもすぐには破綻に繋がらず、銀行から一定期間は資金を借り入れられる」
という特徴があり、これこそが正に、これも世界から中国本土ビジネスの形態はアンフェアであると言われる一つの背景となっているのであります。
中国本土政府が国家政策の観点で清華紫光集団の破産を放置する可能性は今のところ低いと見られており、中国本土政府は米国の圧迫に対処する為、2025年までに半導体の自給率を70パーセントに高める目標を掲げています。
しかし、外貨建て財務による破綻懸念は払拭されず、中国本土企業の経営悪化事態は、国際金融社会で更に強く懸念される可能性もあり、これからも企業破綻の懸念は増加する可能性があります。
注目したいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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