髭講師の研修日誌(76)
「夢と希望に向かいチャレンジし続ける当社での活躍を楽しむ」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
このテーマはK社全社員研修会のものである。
K社は通信工事業として10年確実に成長してきた小規模企業である。社長のN氏が同種の中堅企業で実績を重ねた後に独立し創業した企業であるが、現在では、「工事」=職人気質の現場で活躍する社員でなく、工事以外にも通信機器の運用、保守、試験、設定、プログラミングなど多岐にわたる業務に拡張してきた。そこには、「IT業界の最先端技術としての担い手として」をスローガンに掲げ、会社と社員との共有思想として、次の3点を掲げての企業活動を牽引している。
その第一点は「夢と希望に向かいチャレンジし続ける」とし、仕事のしがいを共有化している。
そして、社会に向けての企業活動として、第二点は「未来の暮らしをデザインし、より良い環境を創造する通信工事」とし、社会に貢献するミッションとし、さらに将来像としての第三点として「世界とつなげる、希望が繋がる」としている。
現社員のおおよそは、この三点の考え方に興味と想いをだぶらせ、活躍舞台として選び、入社してきた社員である。従って、キャリアには多様性がある。勿論、専門分野の実績を踏まえた人もいるが、逆に、初めての仕事の人もいる。このような社員には、N社長は「特別な知識や経験がなくても大丈夫、未経験な人でも働きながら専門的なスキルが習得できます」と説き、多様な人材で、多岐にわたる顧客の要望に応えた企業として、専門力も新たに生み出しつつ進展していきたいとの戦略を語る。従って現に、外国人社員も数名存在している。
N社長との交流は、数年になるが、技術者であると共に、発想の豊かさがおおらかで、芸術家的構想を成す人である。だからこそ、想いは大きな枠組みであり、その顕在化に向けて造形していく創造の豊かさがある人なのだ。例えば、企業活動の面白さの仕掛けに、年間の売上げとして、多彩な遊びの社員の共有化財産として、今年は東京湾のクルージング! 等と社員全員でのイベントも毎年楽しむ実践がある。
また専門力の高めには、「資格取得は応援します。取得したら合格祝いをし、給与への反映をいたします」との労務対策も社員満足などと称することなく、楽しく発想を巡らし、実施しているのである。
このような経営手腕を重ねての今日であるが、今研修は、設立10年を機に社員と社の「想い・希望・夢」の実現にさらに挑戦する心意気を確認し、その実践について社員全員の共通の物差しを作り上げていく機会としての実施である。十分なる談義を重ねての研修の軸づくりの確認と、共通の是々非々の判断は、既に紹介してきたように中途採用による多様な人材だからこそ必要不可欠であり、各自の持ち味は、個々の是々非々でなく全社最適の判断による実践が肝心だからである。
そこで、夢を持ち、実現できる企業、その実現に向けて社員が楽しく活躍する心得をまずは確認することとした。確認事項を以下記してみよう。
1.夢を持てる、選ばれ、選ばれ続ける本物企業とは
夢と希望がある企業は、持続的発展がなければならない。先日、2020年東京五輪、パラリンピックの卓球競技に卓球台を提供したS社のM社長から直聴した話に、「なぜ選ばれるか、その条件は、製品の絶対的優秀性(競技条件を最高に対応できる)に、企業の継続性を厳しく審査される」とのことであった。それは、選定されてから実際の競技開催までの期間があることも踏まえてのことであるとのことだ。
従って、顧客が評価する本物企業とは、企業、組織の総合力・それは信頼、安心の評判力を決めることであり、その柱は次の3点に集約できる。
①専門力の高さが挙げられる。例えば、技術・技能、知識、創造力により生み出される製品・商品、システム、工事、修理、や各種サービスなどの品質、納期、コスト対応、以後のフォローサービス等が、他者に勝っていることである。
②企業風土、組織力である。その第一は、企業理念が社員の活躍に定着して、各自の業務、いや、その是々非々の判断の瞬間にその考え、志に即して正しく判断し、最高なる言動の実践に生きているかである。最高実践とは、このストーリーに即していることであり、各自が私なりにやっていますと言うことではない。
③その実践には、単なる専門力の施しでなく、顧客に対して、おもてなしの寄り添いの心でのひと言のかけ、ちょっとした振舞いとしての品格が伴っており、活躍舞台の環境としての3S(整理・整頓・清掃)の施しによる快適さと安心、安全の評価を得ることにある。
以上の3点が、顧客からみた「このような社員だから、この企業なら安心」との評価を得て、持続的お取引が実現するのである。夢、希望を持ってと言っても、企業そのものが衰退し、ましてや倒産したのでは、かなうはずがない。
ならば、社員としての活躍ぶりは如何様であろうか。次に確認してみよう。
2.本物社員としての活躍を楽しむ
それには、企業人としての誇りを持って、自ら創り出す専門力の高めによる、当社の新たな評判を産み出すことである。その前提は、当社の経営理念を自分のものにし、組織、それはチームと称される仕事集団に貢献する楽しみを満喫することにある。その貢献力は、専門力に自信と誇りを持ちつつ、チャレンジ精神に根ざした集団の更なる強みづくりへの対応である。
その活躍の道標は次の8条件である。
①さすがという専門力を活かし、ひと味違う実績をつくる楽しみを追求する
②従来の枠を破り、新鮮な目と一歩前に出る脱皮する勇気を持つこと
③挑戦的目標を持った積極的思考で、改善力、知恵力を活かすことを楽しむ
④心意気は先手の挨拶、周囲に明るい灯火を灯す楽しみ
⑤当てにされる、頼まれる仕事ぶりに、品格ある言動で人に施す
⑥上に感謝される提案力を生かそう、それは組織貢献を楽しむことなり
⑦話力を高めて、社内外の人と交流する逞しさを持った仕事の展開をしよう
⑧時には自己を振り返り、自己認識の高めと自己成長の機会としよう
と言うことになる。この活躍ぶりは、今この時にだけの対応でなく希望、夢の実現に近づく階段であり、生涯の財産づくりでもある。
「あの社員はオーラがある」と評される存在感は、組織活動で力を添えてくれる協力者を引き寄せるパワーとして生きることは言うまでもない。
さらに、挑戦し続けることは、維持型人間ではなく積極型社員、「言われてやるのには価値がない」キャリアを積んだ分だけ、周囲からの期待は高まり、できる人ほど忙しくなることを楽しむことに他ならない。誰しも頼られる存在ほど楽しいことはない。
K社社員の特性に類した新たな舞台で、新たな役割を担う社員の成長段階は、卵から、雛へ、そして成鳥へ、タケノコから竹となり、木は幹が太くなる年輪を刻む楽しみに等しい。
3.挑戦それは、新たな努力を楽しむことである
次にチャレンジに関して着目すれば、やったーという達成感は、挑戦目標を掲げての活躍成果である。それは、掲げた目標は現位置でなく、目指す頂上であるからこそ当然、そこまで登っていく過程をどう楽しむかである。楽しむとは、新たな学びから産み出した智恵の実践に他ならない。
目標達成に向けた取組みの心得は、次の6点がある。
①目標は、当然決められている役割の目標と、自分のやろうと思っている目標、さらには将来を見込んで達成しようとしている目標が考えられる。決められている目標は果たさなければならない必然性であり、後者の目標は、自ら取り組む挑戦目標である。
②主人公意識(当事者意識)で強い責任のもとに関わる人に積極的に働きかける
③同じ事をするにも、やり方を変えるなどの知恵を生み改革へと結びつけていく
④自己能力を最大発揮と共に、新たな学びで、新たな智恵を産み出す源を蓄える
⑤関わる人との円滑な協働関係の構築とコミュニケーション活動を不精しない
⑥仕事の管理サイクルPDCAはスパイラルに回し、目標必達にプロセスマネジメントを確実に実践している。特にCにおける結果対策を先手で施す
この実践である。ここには、新たな苦労、努力を有することは承知の通りである。もし、その必要がないと言うならば、それは、出来レースの目標であり内在能力を程よく呈すればよいのである。五輪重量挙げ銀メダリストの三宅義信氏の言葉に、「苦労は楽しい。それは、目標・夢に近づくことだからである」とある。
同様に、先の五輪のメダリストの言葉にも、多くの人たちの支援のおかげですとの感謝の奥には、血のにじむ練習、努力・努力の重ねであることは紹介された。また、先日お会いした、マラソン銀メダリストの君原健二氏の言葉にも「努力を糧にゴール無限」とあり、「一つの努力は、紙一枚の薄さに等しい、しかし、重ねれば一冊の本となる」と続く。
三宅氏は、2020東京五輪の開会式で国旗を運ぶお役で存在感を示し、君原氏は、聖火リレーランナーを成すなど現在も現役ランナーとして活躍中である。一様に、夢を追い求めて、その頂上にたどり着いた道筋には、努力を楽しむとのポジテイブ思考での取組みがあったのである。
4.カプセル人間になるな、殻を破る勇気で考働を楽しむ
自信と誇りがあることが災いを生むことがある。それは、自分の考えが絶対、自分のやり方が絶対良いのだと意固地になり、現状維持を固守することになる。このような思考枠の塊を被れない人をカプセル人間という。自信あるといっても所詮自分の範囲、頑固意固地、小生意気、自己中では新たな発想や、周囲の人との融合した新たなことを生み出すことは難しい。ならばこの打開策はどうする。
思考枠は経験則にとらわれることが多い。よく、行き詰まる、壁に当たるというがそれは、経験を重ねた経験則がつくり上げる。壁は自身でつくるものであり最初からある訳でない。自身の思考枠に絶対間違いないとはまればはまるほど厚い壁となりかわせない。そこで、普段口にする「視点を変える」「切り口を変える、発想を転換せよ」との言葉を実践すれば良いのである。その取組みの具体策は、まず、
①自分と異なる考え方「(異見)を歓迎」し、新たな視点で物事をみる
②「もう一つ、もう一歩」のワンモア精神を生かして「こだわりの探究心」を持つ
③ノーベル賞受賞者真鍋氏が説く、「好奇心」を持ち「なぜ、どうしての」視点で再考する
④他からの忠告、アドバイスは素直に取り入れる「人から学ぶ楽しみ」を持つこと
⑤自分だけの業務枠で考えることなく「全社(体)最適の視点」で判断する、それは目的に対応して「多面的思考を試みる楽しみ」のチャンスである
⑥時には異なった条件に身を置いてみる(場所・人の集まり・立場・仕事・学習、道のりなど)いつもと違った目線での新発見を生かすことは「新たな思考を育む」楽しみ
⑦鳥の目(広い視野)魚の目(流れ)虫の目(足下の現実)コウモリの目(逆から見る)の4つの目で物事を見る。ここにも「多面的思考の育み」が楽しめる
また、失敗による経験則はネガテイブ思考に陥ることもあり厄介だ。人からのアドバイスに対しても「でも」「だって,こういうことがあったから」「あの人はまたこういうだろう」との「いらぬ心配性の先読み」による走ることが多い。ならばどうする。
「失敗は成功のもと」「失敗体験は新たな体験の財産なり、次の考えは一段高い知恵を生み出す元なり」とポジテイブ思考に転ずれば良い。
経験は財産なり、それは、経験則として現状の最高の方法なり、だからこそ、経験則+改革で、変える智恵の施しが専門力を進化させる。それは、「改」は改善レベルの小さな変えであり、「革」は革新での思い切った変え方を加えることである。
4.考働することの習慣化
「若いセンス、思考の柔らかさで、持ち味を生かした仕事を是非楽しんで欲しいのです。その実績に自信を持ったら、自分の城を創って欲しいのです。夢とはそういう物です」とN社長は自身の想いを語る。是非、現社員のその実現を念じつつ、それには、考働力を生かした活躍を楽しみ、働きがい、やりがいを享受することにあると確認した。
考働力とは自分の持ち味(個性)を生かした仕事ぶりである。単に動く行動でなく、考えて働くとし「働」の文字を人の力を重んずる、人の力を重ねると意味づけしてみた。それは、人間は考えることができる。それは決まったことを決められた通りやるだけならロボットに変えればよい。それは「動く」ことであり、ロボットにするまでにも,人が施す暗黙知による労力(手足の動き・知識の整理など)を部分的に機械化し、エレクトロニクス化を加え、そして組み合わせてハイテク・ロボット化と進化していく。
工具トップメーカーN社のスローガンに「技術で人を想う」がある。労力による負担を新技術の開発により、新たな道具(工具、製品、機械……)に取って代えることにより、人の持つ素晴らしい能力を、より豊かな時間創造に生かして欲しいとの社会貢献の思想である。
まさに、人の素晴らしさを生かした変える楽しみを重ねる楽しみであり、それが考働力による仕事の取組みである。従って、「継続は智可ら成り」である。智は智恵であり、可は新たな可能性を成すことを意味合いとしてみる。
「人は無限の可能性を持っている」これもよく口にする言葉である。
今後の活躍は自ら進化を重ねて、社内外、いや国外に向けても通用する人財としての活躍ぶりを確立していくことは楽しいことである。それは、当社で活躍するからこその働く喜びであり、それはまさしく、夢、希望の頂上に向けての道のりである。とK社の研修の結びとした。
ウィズコロナ、アフターコロナと評される現在である。コロナ過での活躍の様式・生活に変化があった。そして、働き方の改革等個々人の勤務条件も多様化をしてきている。従って、社員の採用、雇用も多岐にわたり、社員の特性も様々である。
だからこそ、社員は、選んだ企業の企業人に早期に脱皮して活躍を成すべきである。この実現の促しに研修の機会は欠かせない。それは、選んだ企業の活躍条件を確認し、持ちうるキャリアをどう最高活用し、新たな企業の強さづくりへ貢献する術を習得させる必要性が高いからである。この時期だからこそこの類いの人材育成ヘの取組みを推奨する昨今である。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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