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「世界の物流混乱と日本経済、そして中国本土経済について」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「世界の物流混乱と日本経済、そして中国本土経済について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

世界経済情勢に関しては、原油高、食糧価格高、人手不足、電力不足、半導体不足、金利上昇などと共に、コンテナ不足を背景とした物流の混乱も続き、懸念材料が多いと指摘されています。
そして、最近では、不況下での物価上昇と言う、
「スタグフレーション」
を指摘する声も出始めています。

こうした中、11月ともなると、キリスト教徒を軸にして、欧州の人々の最大の関心事であろうことの一つは、
「クリスマスをきちんと穏やかに過ごすことができるかどうか」
ということになりましょうが、最近の世界的な物流の混乱がクリスマスまで続くと、クリスマスに食卓に並ぶ食べ物、やりとりするプレゼントは大丈夫か?もしも物流混乱が続けばクリスマスの時期にはスーパーマーケットに行っても陳列台が空いている、ガソリンスタンドにはガソリンがないなどということにならないかとの不安の声も既に聞かれるようになっています。

世界で、物流の混乱には大きな懸念が示されているようであり、EUを離脱した英国などは、大陸欧州からのトラック運転手が英国に入ってきにくくなり、更に、不安の声が高まっているようであります。

また、日本の中央銀行である日本銀行は、本年9月下旬の政策会議の議事録を発表しました。

当該議事録によると、一部の日銀当局者は、原材料の上昇が個人消費に与える影響を懸念していたと報告されています。
原油やその他のエネルギー価格の上昇を反映して、生産コストや諸物価が上昇する可能性があることも指摘されています。
更に、また別の日銀幹部の中には、エネルギー価格と原材料価格の上昇が、食料を含む日用品やサービスの価格に与える影響について警告もしました。

これらの価格は、更に消費行動に影響を与える可能性もあり、動向を監視する必要があるともしています。
そしてまた、企業がこうしたコスト上昇を消費者に対する価格に転嫁できなければ、企業の利益率は悪化し、また設備投資や人件費を抑える行動に出る可能性があるとの見方も出ています。

更にまた、給与水準に伸びが見られず、収入が停滞している個人世帯の状況を見ていると、今後は日本経済の約六割を支える民間消費、個人消費に少なからぬ悪影響を与えるであろうとのコメントも出ています。

一方、中国本土経済が回復を続けていることについては一定の安心感を持っているとの見方が示されましたが、中国本土の不動産バブル問題の中で苦戦をしている不動産開発業者・恒大集団を取り巻く債務問題は注視、その悪影響の可能性をフォローしていかなくてはならないと指摘しています。

恒大集団問題は、中国本土経済と金融システムにどのように影響するのか、そして更にそれが世界経済へ如何なる影響を与えるのかを意識しつつ、監視を続けるべきであると指摘しています。

ところで、この中国本土に関する問題について、私が気にしている点の一つに、
「中国本土自身の物価上昇問題」
があります。
 
中国本土経済は、これまでは、原油や原材料などの国際価格を持つものの価格が上昇しても、
「相対的に質が高い一方、比較的安い人件費となる労働者」
を抱えていた為、世界的なインフレ懸念が出ても、
「Made in Main Land China」
製品やサービスは相対的には安く、
「世界的なインフレを助長するどころか、むしろ抑制する効果もあった」
と言えましょうが、イギリスの経済学者であるアーサー・ルイスがかつて指摘した、
「ルイスの転換点」
でありましょうか、低付加価値産業の農業部門からの都市部の高付加価値産業である工業部門やサービス部門に余剰労働力が流入、中国本土の経済社会発展をこれまでは促しましたが、今や、中国本土の農業部門の安価で質の高い労働力が底をつく、これがルイスの転換点であり、その後は、中国本土の労働需給が崩れ、賃金率の大きな上昇が起こる、これによって、先進国からの設備投資や技術移転による後発発展モデルはここで限界に達する、すると、中国本土国内で、今、中国本土政府の推進している自発的な経済改革が起こらない限り、中国本土は所謂、
「中所得国の罠」
に陥り、かつて中南米諸国に見られた、そして、今、世界の主要国にも見られるかもしれない、そして、
「経済不況の中での物価上昇」
という、
「スタグフレーション」
に中国本土自身も陥り、結果、
「世界経済の牽引車としての中国本土経済」
という役割も一旦は消滅してしまう、即ち、実体経済、金融経済共に悪化しつつ、世界経済の同時不況と言う事態が発生するかもしれません。

 申し訳ありません、最後のパラグラフは悲観的過ぎる見方かもしれません。
 しかし、念の為、こうしたシナリオも、想定の中に入れておいてください。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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