【小島正憲の「読後雑感」】
映画鑑賞記:『老後の資金がありません』『グレタ ひとりぼっちの挑戦』
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)
コロナが終息の兆しを見せてきたので、2年ぶりに映画館に足を運んでみた。観て来たのは、ちょうどTVで、なんどもコマーシャルが流れていた『老後の資金がありません』と、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)を描いた『グレタ ひとりぼっちの挑戦』の2本。
■『老後の資金がありません』 主演:天海祐希 監督:前田哲
まだまだコロナが怖かったので、映画館には、観客が少ない平日の午後を選んで、夫婦で観に行った。予想通り、100人ほどの定員の映画館に、10人ほど入っていただけであった。だが、そのほとんどが、上の方の席に座っていたことは意外だった。かくいう私たちも、「上の方の観客がくしゃみをしたら、コロナウイルスは上から下に飛んでくるだろう」という根拠のない考えのもと、最上部の席を予約しておいたのだが。
原作の『老後の資金がありません』は、垣谷美雨の同名ベストセラー小説だというが、私は寡聞にして知らなかった。今回それが、前田哲監督によって、天海祐希の単独主演の喜劇として映画化された。
ネットの予告編では、「天海祐希が演ずる平凡な主婦・後藤篤子は、家計に無頓着な夫の章、フリーターの娘まゆみ、大学生の息子・勇人と暮らす、あこがれのブランドバッグも我慢して、夫の給料と彼女がパートで稼いだお金をやり繰りし、コツコツと老後の資金を貯めてきた。しかし、亡くなった舅(しゅうと)の葬式代、パートの突然の解雇、娘の結婚相手が地方実業家の御曹司で豪華な結婚式を折半で負担、さらには夫の会社が倒産と、節約して貯めた老後の資金を目減りさせる出来事が次々と降りかかる。
そんな中、章の妹・志津子とのやりとりの中で、篤子は夫の母・芳乃を引き取ることを口走ってしまう。芳乃を加えた生活がスタートするが、芳乃の奔放なお金の使い方で予期せぬ出費がかさみ、篤子はさらなる窮地に立たされてしまう」と書いてあった。
最後は、この映画も、「篤子がブランドバッグを購入し、舞い上がる」という平凡なハッピーエンドとなる。
この映画を観る前、私は、主人公が50代前半の主婦であり、まだまだ老後の資金を真剣に考える年頃ではなく、設定に無理があるのではないかと思っていた。しかし、家計からどんどん予定外の経費が出て行き、預貯金残高がみるみる減っていく様子がリアルに描かれており、「老後には2000万円が必要」などという財務官僚の発言の影響もあって、主人公を震え上がらせる。だから、この世代への警告という点では、この映画は大きな効果があると思う。
ただし、最終的には、姑が妹に再度引き取られて行くため、そこにはその介護費用などはまったく考慮されていない。さらに自宅を売却し、夫婦でシェアハウスに転居するという非現実的なストーリーに落ち着いていく。
また、本当に多額の資金が必要な自分たちの老後生活の設計はいっさい語られていない。つまり、映画では、知らないうちに、格別の工夫や努力なしで、「老後の資金不足問題が棚上げ」されてしまっているわけで、結果として観客は、「老後もなんとかなる」というほんわかした気分で映画館を後にすることになる。私は、この映画は、タイトルの割には、罪作りな映画であると思う。
この映画館も、先日と同様に、上部席が埋まっていた。私も通路側の上部席を取った。通路側を取ったのは、コロナウイルスには無関係で、単に上映中にトイレに行きやすいようにとの思いから。この日も平日の午後だったので、当然のことながら、客席はガラガラで、観客は高齢者が多かった。
この映画を観るまで、私はグレタさんがアスペルガー症候群(詳細は本文末尾を参照)であることを、寡聞にして知らなかった。それまでは彼女のことを小生意気な娘で、あまり勉強もしないで、誰かにそそのかされてやっているに違いないし、メディアや各種環境団体に都合の良い宣伝媒体として利用されているだけだと思っていた。
しかし映画の中で、なんども、両親がアスペルガー症候群である娘の自立を助けていく場面が出てくるのを見て、グレタさんのバックに怪しげな大人がいるのではないかという疑いは晴れた。またグレタさんが成績優秀な娘であり、アスペルガー症候群特有の集中力の結果、気候変動については学者並みの知識を持っていることがわかった。
この映画で、私のグレタさんへの見方が変わった。
だが私には、肝心の気候変動についての科学的論証が、今一つ、腹に落ちない。たしかに、最近の異常な暑さや豪雨などから、異常気象を感じることはある。それでも、その異常気象が地球本来の現象なのか、人間の環境破壊のせいなのか、よくわからない。20~30年後に、気温が数度上がり、南極の氷が解け海面が数十cm上がると言われても、そのときには私はすでに死んでいる。無責任だが、それが偽らざる心境だ。
こんな大人がいるから、グレタさんのような若者が、私たちを鋭く睨みつけるのだろう。
今回のCOP26でも、グレタさんは演説で、「COP26が失敗だということは周知の事実だ」、「(各国の)リーダーたちが美しいスピーチをしたり、派手な目標を発表したりするPRイベントになった」、「彼らは私たちの叫びを無視することはできない」と、リーダーたちを弾劾した。 一方で私は、科学的な論証がなくても、彼らの「今、行動を開始しなければ環境は破壊されてしまう」という声に賛同して、行動を起こすべきだとも思っている。科学的に白黒が付いてからでは、もはや手遅れとなっている可能性も否定できないからである。
グレタさんへは、「もっと勉強して、幅広い視点から真実を見極め、大人を批判せよ」という批判も寄せられている。私も18歳のとき、ベトナム反戦運動に身を投じ、「ベトコン、クメール・ルージュ、パテト・ラオ」などへの物心両面での支援を、文字通り、身を削って行っていた。当時は、それが国際平和の道だと思い込み、なんの行動も起こさない大人なたちを批判した。だが50年後、ベトナムは共産党独裁、カンボジアはフン・セン独裁、ラオスは共産党独裁となり、ともに腐敗汚職天国と化してしまった。今やそれらは理想とはかけ離れたものと成り下がってしまっている。
なによりも、自分自身を許せないのは、当時、カンボジアではポル・ポトによる大量虐殺が行われていたのだが、その事実をまったく知らずに、ポル・ポトを支援していたということである。この犯罪者に加担したという事実は、情報がなかったという言い訳では許されない。当時、私は、色メガネをかけずに、もっと真実を追究すべきだったのである。「もっと勉強すべきだった」、これが現在の私の偽らざる心境である。
アスペルガー症候群 ※ウィキペディア(Wikipedia)より
アスペルガー症候群(アスペルガーしょうこうぐん、Asperger Syndrome)とは、コミュニケーションや興味について特異性が認められるものの言語発達は良好な、先天的なヒトの発達における障害。日本ではアスペと略されることもある(ただし、侮蔑的な意味合いを含む場合がある)。特定の分野への強いこだわりを示し、運動機能の軽度な障害が見られることもある。自閉症スペクトラム障害のうち知的障害および言語障害をともなわないグループを言う。発生原因は不明。特異性や特徴に該当する部分が多いことに気づいて不安感を持った本人が、医療機関に相談したときに診断されたことを本人自身が受け入れた事例のみである。効果が示されたと広く支持される治療法はない。放っておくとうつ病や強迫性障害といった二次障害になることがあるとの指摘もある。
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小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。