真田幸光の経済、東アジア情報
「原油価格とウクライナ情勢」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
今年は春先から国際原油価格も落ち着き、世界的な、
「悪いインフレ問題」
もひと段落つくとの見通しが昨年末にはありましたが、年初からの、ウクライナ問題の拡大、カザフスタン動乱、イエメン反政府組織フーシ派のUAE攻撃などがあり、国際原油価格が不安定な動きとなり、とうとうWTI基準1バレル90米ドルを突破してこの7年余りで最高水準となりました。
市場では、90米ドルでは収まらず、今夏の国際原油価格はWTI基準で1バレル当たり100米ドルに達するという見通しも最近では相次いでいます。
原油の高騰はインフレに繋がり、これが金融政策に繋がる、つまり、利上げにより一層動く、すると米ドル高を基本とした為替市場にも影響を与え、また株価下落にも繋がりかねないと言うことで、国際金融市場には、
「潮目の変化」
を意識した警官感も出てきています。
そして、特にウクライナ問題が大きなチェックポイントとなっていることは間違いありません。
こうした中、ウクライナ情勢については、私は経済力には総じて余力の少ないロシアが積極的に戦争を仕掛ける状況にはなく、しかしもちろんチャンスがあればウクライナに攻め込む、また、その前にクリミアを欧米・ウクライナに取り戻されぬようにする為に軍事的対応をしている、そして何よりも、今回の事態は、先に黒海に海軍力を展開した英米を軸とするNATOの挑発があったから、ロシアも対抗措置として軍の大規模展開をしているとの見方も出来ると考えています。
そして、その欧米はロシアを盛んに挑発し、経済制裁、そして、金融制裁までちらつかせ、更にロシアを挑発していますが、巧みなプーチン大統領はそれに応じてきません。
逆に、ロシアは欧州に対する石油・天然ガスの供給制限を示唆、カウンターパンチ前のジャブを入れ、欧米の足並みは崩れかけ、ロシアの思惑通りに話は展開されているとも私は見ています。
即ち、ロシアの石油・天然ガス供給制限を恐れた欧州国の中に、ドイツなどを軸にして、解決の着地点を求める声が出て、
「ロシア包囲網」
を展開しようとするアメリカには、課題が出来てしまいました。
そこで、その課題解決の為、アメリカは、こともあろうに、日本に欧州向け天然ガス供給を依頼してきたのであります。
世界最大の石油産出国にして、世界最大の天然ガス産出国(下記をご覧下さい)であるアメリカ、自らが仕掛けている喧嘩を、石油・天然ガスの産出がほとんどない、日本に尻拭いさせようとしている、とんでもない話でると私は感じてしまいます。
日本はしっかりと米国に、
「先ずは余裕あるアメリカが欧州を支援するべきではありませんか」
とお答えしても良いのではないでしょうか。
もちろん、アメリカを怒らせぬ範囲内でではありますが。
■参考:
日本の天然ガス生産量は、3,273百万立方メートルで、世界ランキングの順位は56位です。
ランキングの1位はアメリカの681,400百万立方メートル、2位はロシアの669,700百万立方メートル、3位はEUの162,800立方メートルです。
尚、このランキングは米国CIAのワールドファクトブックに基づいたものであります。
また、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、デンマーク、ノルウェー、オーストラリアなどの、かつてこれら諸国が大航海時代以降獲得した海外領土は、本土とは別の集計になっていることがあります。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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