[ 特集カテゴリー ] ,

「車載半導体と自動車について」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「車載半導体と自動車について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

 サプライチェーンの混乱や需給関係の不透明さ、更には物流の混乱もあり、半導体不足、就中、
「車載半導体」
の不足が世界中で指摘されています。

しかし、こうした中、世界の車載用半導体大手3社と言われるルネサス・エレクトロニクス(日本)は、2021年12月期の売上高が前期対比39%増の9,944億円、営業利益が2.8倍の1,836億円となったと発表しました。

同社は昨年、日本国内の主要工場で起きた火災で半導体の生産が3カ月も遅れたにも拘わらず、売上高と営業利益が大幅に増えています。
大量の注文に在庫が底をつくほどの好況となっているということであります。

また、車載用半導体でトップシェアのNXPセミコンダクターズ(オランダ)も2021年は過去最高の売上高となる110億6,300万米ドルの売上高となり、前年に比べて5倍以上も増収となりました。

更に、インフィニオン・テクノロジーズ(ドイツ)の2021年の売上高と営業利益も前年対比でそれぞれ29%増、2.53倍となりました。

車載用半導体はナノメートル単位の製造プロセスを争うモバイル・パソコン用半導体に比べて、技術的に劣るとの評価がありますが、脱炭素の二流れの中で注目されている電気自動車(EV)への転換で、自動車業界では車体に様々な先端技術を搭載する必要性に迫られ、車載用半導体の需要が急増しており、新型コロナウイルス感染拡大により、世界各地の工場が稼働を停止、鈍化したことで、供給不足と価格高騰が起きたことが、業績改善の背景と見られています。

そしてまた、世界的な完成車メーカーも半導体不足で生産に支障が出て、コスト負担も増大していましたが、昨年は大幅な業績改善を達成しています。

例えば、トヨタ自動車は2021年4~12月の売上高が前年同期対比19.2%増、当期純利益は57.8%増の2兆3,162億円となり、いずれも過去最高を更新しています。

ドイツのフォルクスワーゲンの2021年1~9月期の営業利益は7倍増にもなっています。

韓国の現代自動車も2021年の売上高が過去最高を記録し、メルセデス・ベンツ、BMWなど他の完成車メーカーも軒並み増収増益となりました。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大初期に激減した自動車需要が回復しているにも拘わらず、生産台数が減少し、自動車が高値で売れることがこうした、
「金額ベースでの好景気」
となっていると見られています。

実際に自動車メーカー各社は主要人気モデルの価格を引き上げる一方、ディーラーに支払うインセンティブも大幅に減らし、収益性を高めていると言われており、また消費者にとっても値引きのメリットが低下しているとも言われています。

厳しい状況の中でも好業績、これが実態とは言え、やや納得のいかない目論見がここに見えています。

こうした好業績となっているのであれば、これら企業を支えるサポーティング・インダストリーズ各社にも利益の還元をもっともっとしていくべきではないかと私はふと考えてしまいます。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
——————————————————