澤田 良雄氏(株)HOPE代表取締役)
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専務理事を経て、(株)HOPEを設立。企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。
話す時に「話せる機会を頂きありがとうございます」と感謝の心で臨み、話している時には「聴いて頂きありがとうございます」「うなずき、相づちを頂き、ありがとうございます」との聴き手の助長に感謝の心を抱いて話しているでしょうか。また、聴き手としては、「お話し頂きありがとうございます」と聴かせて頂く感謝の心で聴き入っているでしょうか。
筆者は半世紀にわたる研修講師として、話力向上法として独自に「感謝話法」と称して指導してきました。感謝の心が大事であるということは、どなたでも周知の通り。しかし話すことに生かしていなかったら、実にもったいないことです。
■お役立てできる感謝の心での話は
感謝の言葉が返ってくる
感謝話法と銘打った元は感謝の心で話す実践です。ひと言の挨拶であれ、スピーチであれ、会議での発言であれ、営業トークであれ、機会場面は違えども感謝の心が込められた話には快く伝わる力があります。だからこそ、理解され、納得され、共感を得て、話し手の思いに応えてくれます。
それは、「何のために話すのか」が起点にあります。相手のために役立つ施しの橋渡しが話すことであり、施しとは、話す人の持つ決め手、すなわち培われた自身の持つ才能、知識、技術、考え、人間味、体力、特技を活かし、関わる人のお役に立てることを信じて話すことなのです。
従って、聴き手から「あのときお聞きした話しを実践してみましたら、実にうまくいきました。ありがとうございました」と感謝の言葉が返ってくるのが現実です。話す働きは、相手の従来からの言動を変え、新たな良さを創り出すお役立てなのです。
だからこそ、話せる機会は、お役立ての機会を頂くありがたさであり、自身の存在感を成している事実の証です。そこには、「この人だから聞きたい」との能力と人間味の信頼があります。そして、結びのことばの「お聴きいただきましてありがとうございました」とのその心は「聴き手が支援してくれた反応のお陰さまです」の感謝の心です。
■謝念による、日常の感謝の言動の実践が第一歩
このような感謝の心が生きた話しは、その場で繕うとか、演じたりしても成り立ちません。感謝の心を日常生活の中で自然な言動として表わされる状態を「謝念」といいますが、その実践として、ひと言、一秒の振る舞いに感謝の心を込めた言動が習慣化することから育まれていることです。
例えば、筆者の身近な企業や個人でこんな実践例があります。
・来客されると所員が一斉に立ち上がり、「いらっしゃいませ」と笑顔でお辞儀を添えて迎え、お帰りになるときには再び立ち上がり扉が閉まるまでお見送りする。
・帰宅したら、玄関に脱いだ靴を磨きながら、靴に「今日はありがとう」と声がけする。泥がついて汚れている時には「こんなに汚してごめんなさい」と言いながら、きれいに磨く
・便器に名前をつけて、「〇〇さん、どうもありがとう」と声がけしながらトイレ掃除をする。
・使用機械に名前をつけて、毎朝「今日もお願いします」と声がけしながら掃除をする。
・朝、帰社時のトラックに「ご苦労様」と労いの言葉をかけ、丁寧に掃除をする。新車の購入時には、トラックを主役にした入車式でお祝いし、長年運行していただき、廃車が決まった時には退車式を行い、「ありがとうございました」と長年の務めをねぎらう。
このような、謝念、感謝の心が話しぶりに表れます。それは表情、言葉遣い、語調、それに話す態度です。この好感度が、聴き入れ、変える気づきを生み出します。感謝の心を生かした話し方、その第一歩は「ありがとう」のひと言を自然に発信する実践からです。
皆さんは、1日何回「ありがとう」の言葉を交わしているでしょうか…。