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「新人と共に喜びを共有する育ての楽しみ」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(82)
「新人と共に喜びを共有する育ての楽しみ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆5月病というがどこの話ですか 

5月病となにかと取りざたされる時期だが、新人が当初の不安から「この会社だからいけそうだ。だって褒められた、認められた事が嬉しいから」の実感があるなら、このままこの会社で良いのかなどのふらつき感情は起こらない。

たとえ入社して、3年で大卆3割はやめるとの説がまことしやかに論じられようとも、それは他社、他所の実態であり、自社、自職場、ましてや指導する新人は10割定着の新人であると信じ、共に成長する寄り添いの指導マインドと指導実践が成されているであろう。

改めて、新人の気概を筆者の指導企業の広報誌などから確認してみよう。

まず、半導体、電子・電気機器、精密機器メーカーS社では、21名入社(院卒、学卒、高等専門校、高卒)。問いかけは「新社会人の意気込み」である。

この回答には
「コロナウイルスの災禍の中、当社へ入社できたことは嬉しくおもいます。1日も早く仕事を覚え、貢献できるように、何事も全力で取り組み、精一杯頑張ります」
「私は慎重な性格ですので、手先が器用なのでこの長所を生かして何事にも丁寧に取り組みたいと思います」
「社会人としては、まだまだ未熟でいろいろと至らぬ点もあると思いますが、先輩社員の皆様と共に、精一杯仕事に取り組み、会社に貢献できるように、努力していきます」

また、学生時代の専門的学習に関しては、
「学生時代に学んだITやプログラミングについての知識を生かして、新しいことを臆せず取り組んで生きたいと思います。精一杯努力します」

さらに、遠方からの入社した新人は、
「親元を離れて自分自身の力で何事も進めていかねばなりません。勿論、仕事を大事にするのは絶対ですが、それ以外をおろそかにしないよう考えています。それは、私生活の質が、仕事のパフオーマンスに影響すると考えているからです。責任感をより一層強く持ち、一人の人間として成長します」と記している。

そして、不安ヘの気概は、
「新しい環境での生活、働く始めることは不安もありますが、希望を持っています。自分はまだまだ未熟なところが多いと思いますので1日も早く戦力になれるように頑張ります」
……がある。
 
いかがであろうか。3割の新人になるだろうか。

現在「Z世代」との言葉が注目されているが、その特徴は、1996年から2015年の生まれの人で現在の年齢が5才から24才の層を表している。当然今年の新人も含まれるがその特質で注目するのは、スマートフォンやSNSを当たり前のように使いこなすデジタル化に長けている。

従って、インターネットを介して自分の考えを発信したり、人脈を広げたりと、いわばネットコミュ二ケーションが日常化されているともいえる。ならば、このパワーは企業にとって新たな風として生かす楽しみであると共に、大いに発揮する事への期待である。

◆将来像も描いてのスタート
 
さらに、10年後に向けた初心を問いているのは、工具類トップメーカーN社グループである。入社19人、院卒、学卒、高専、高校卒。その問いは「10年後になりたい人物像」である。

回答には、
「グローバルに活躍できる人」「周りに頼られる存在の人」「学ぶ姿勢を怠らず、技術力で勝負する人」「信頼される人」「他人に優しく健康な人」「困ったらこの人に聞けと言われる人」「自分に自信を持てる人」「社内で頼りに技術を力を持った人」「信頼され大きな仕事を任せて貰える人」「誰かのスーパーヒーロー」「真面目で最後までやり抜く人」「身に付けた様々なスキルを教えられる、話しやすい人」「今より自分を出せる人」「自立した考えを持つ人、心身共に健やかで公私ともに充実した人」と紹介されている。

まさに逞しく、存在感を得た頼られる影響力を備えたプロ像である。それも企業の目指す、国際的位置づけの志も秘めている。
 
このように発信された各自の内容は、配属先でも受け止め、「期待できる」と育てる楽しみを高揚させる。勿論、新入社員に関する情報は、広報誌のみでない。各社では最善の情報提供策を講じているが、筆者は、各社の研修時には最も重要視して取り組む事項である。

◆実現の喜びの育成は共育を楽しむ

さて、新人も入社1ヶ月近くなる。どんな成長状状態であろうか。「一人前になる、その第一歩は学生から企業人に早く脱皮せよ」とは小生が新人を説く言葉であるがいかがであろうか。多分に理想と現実の違いに戸惑い、あれこれ自己中の拙論にはまり「こんなはずではなかった」などの心境にはなっていないだろうか。
 
今年も育成方法には、オンラインの活用もあり、自宅勤務方式での取入れもある。従って、対面での指導機会とのベストマッチングが課題なのだがいかがであろうか。

何れにしても、職場・指導者は、新人と真っ正面から向かい合い、共に当社社員として成長する共育を楽しんでいく現実を重ねることに他ならない。それは、当社社員としての考え、行動規範、言動、仕事の基本は徹底した教えと、その育みの重ね。時には「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば……」と褒めのシャワーを掛けている。

その掛ける人は先輩指導者であり職場全体である。だからこそ、新人の「良い職場、良い人達のおかげで楽しく働いています」の言葉はともに共有している事であろう。

そこで、確認しておくべきことは、

◆育成の責任者は部門長である

その第1は、受け入れ職場の育成環境である。それには、 三者でのコミュニケーションを密にする事にある。

一例としては、新人研修先のN社様や建設器材メーカーS社様はじめ各社の担当者からは、学生の就活への対応時から、親身になって寄り添い、企業説明、学校訪問、先輩との対話。さらに、入社前研修、面接などの施策を駆使すると共に、配属先職場との連携を密にしている。

従って、小生が担う入社時、半年後にはこの経過の丁寧な情報を生かし研修実施に向けての最適な施策をつくり上げている。ここで、共有している配属先での育成過程の最も肝腎なことは、若手先輩社員に「しっかり指導せよ」ではないとの事だ。

それは、部門長、管理・監督者が責任者であり、その想いを実現するために、新人の秘めたる気概と現実のギャップを埋める知識、技術をしっかりと身に付けさせていくことが直接指導者である。このように、採用を決めた部門長・管理者・指導担当者の三者の指導体制を元に職場全員で育成していく環境の整えである。だからこそ、あらかじめ作成した育成計画に記された内容と、新人が求める自身のありようを可能な限り融合化し、そして、現時点の未熟点を確認して、具体的に指導実践を重ねていけるのだ。
 
この共有化する上での新人に対する納得の支援は、部門長及び管理者による「なぜ、この職場に来て頂いたか」の想いを紹介し、新人のここまで発信してきた想いの実現に向けていくことと、さらなる貢献の楽しみを持たせることにある。

このスタート時点がなければ双方が闇雲に頑張りますの意気込みだけであり、やがて、「なんでこんな……」との疑念が互いに沸きだし、育てる、育つ楽しみが希薄にならざる得ない。

以後、育成過程での成長ぶりは、このスタート時点の共有化されたストーリーを軸にし、成長ぶりを共に確認しつつ、新人にとっては、成長ぶりの自覚が明らかになり、また、指導者の指導ぶりの自己評価も成される。

そして、適宜管理者、部門長、新人を加えてた対談の施しにより、当初の構想の実態の共有化ができる。勿論、採用担当者との垣根のない状況の共有に伴う必要に応じて同席することも新人の安心感を助長する。

さて、今年の育成のキーワードを確認してみると

◆「考える」このキーワードを求めてならば……

入社式でのトップの挨拶に「考えることを大事にしてください」との期待される言葉が目についた。それは働き方改革の時勢による「個性を生かす」「ただ言われたことをやるのでなく自分を生かしてやりがいを得たい」「楽しく働く」との若者の働くマインド傾向に対応している事でもあろう。
 
研修では、この期待に応えた活躍ぶりは、訊く、聴く、相談することを積極的に説く。それは、訊く(質問)、聴く(正しい理解)事は学ぶ力であり、学びを生かして考えを巡らすことがチームメンバーとしての貢献心得であり、好き勝手に考えを巡らすことではない。

相談するとは、提案内容が組織との整合性如何の確認と、未熟さをカバーしてより良い提案内容にする上で、上司からの支援を引き出すことであると指導している。その前提は、新人の新鮮なる発想が所属部署で受け入れられ、実現することが指導者の楽しみであり、企業の採用前提であるからである。
 
ならば、この寄ってくるコミュニュケーションをいかに活かしているであろうか。よく耳にする言葉に「何かあったら言ってきてくださいと言っておいたのに」「忙しい時に、あれこれ言って来て!」とか「言ってくるはずだ、言ってくるべきだ」「言ってこないから大丈夫らしい、ようだ、だろう」の無精はないだろうか。

また、「新人のくせに……」「忙しい中で指導してやっているんだ、この事ぐらい解れよ」などのこんな真意はないだろうか。

それでは、どこに「新人に寄り添って、指導していきます」の心地良い言葉の実態があるのだろうか。なぜ、敢えて確認したかは、新人の現実は、「訊きたいが」「相談したいが」との迷うことも多い。それは、指導者の忙しい事象を観ての事であるが、加えて、訊きづらい人間性や、現実に観てきた言動ぶりによる人間性の不信が芽生えていることもあるようだ。

従って、「訊きに来て下さい」との言葉には「このような人になりたい」「聞きやすい」「丁寧に教えてくれる」、この条件を踏まえての言葉なのである。
 
そこで、心して欲しいことは引き出すコミュニケーションの実践である。それは、「何か……」あるのだろうと指導者の察しの配慮により、「あのー?」のこの言葉を新人から 掛けさせるだけで良い。なぜなら、そこから自然と「何か」「実は……」と話は進展していくはずだからである。

実は、小生は、新人指導でこの「あのー」と声がけすることを指導しており、質問の仕方の上手さなどは現実はいらないとしている。それは、対応する指導者の「引き出すコミュニケーション」が生かされるからである。

なぜなら、引出しには、指導者側の訊く、聴く、そして内容の確認をし、その対策方法を指導として施しの実践に他ならない。ここに寄り添っての指導が現実化するのである。次に心して頂く実践は、小さなコミュニケーションの重ねの願いである。

◆気配りのひと言シャワーで成長の喜びを……

先に記したように、新人の想いが活躍ぶりに生かされ、実施されているか、さらにその実現の成長がどうかを、ひと言のシャワーで喜びとして享受される支援の施しの実践が気配りのコミュニケーションなのである。それは、教えたことのフォローである。なぜなら、教えることは相手に、従来の言動を変える要求であり、それには、新たな努力を強いるといえる。

例えば、挨拶一つでも「もう少し笑顔が加わると良いね」との指導は、本人なりに良いと思っていた表情の仕方を、笑顔ですることを組み入れる要求であり、本人にとっては、馴れたことを変えるのは抵抗があり、心持ちと動作を変えるには新たな苦労が伴う。だからこそ、指導されたことの実践継続していくうえで、「素直に取り組んでいる自分の態度をみてください」「これだけ良くなってきました、どうぞ評価してください」との欲求が芽生えてくる。

この心を汲み取っての気配りあるひと言のシャワーすなわち「笑顔が良くなってきたね」「実践してくれてありがとう」とひと言掛けることが良い。このシャワーは心地よく「ちゃんとみてくれている」「自分もできる人となっている」との指導者への信頼が深まる事は周知の通りであろう。

ちなみに、認め、労いの言葉例として「頑張っているね」「よくできてきたね」「さすがですね」「ここまでできたね、素晴らしい」「期待に応えてくれてありがとう」さらに、「上司も褒めていましたよ」「お客様が感じの良い社員ですね。と言っていましたよ」と第三者の評価を重ねていくのも良い。

ここで、育成時の具体的な実践の10ポイントを提起してみよう。

① 想い、決意の紹介内容に対して、現時点から累積した変化をみて、その努力を評価する。そこには、想い、決意と関連づけての良さの説明が生き、理解と納得を得る
② 本人が、気がついて欲しい、みて欲しいの欲求を察して、その点に着目してはっきりと褒める。それだけ努力をみてくれているとの喜びを高揚する
③ 地味なことでも継続している行動に目をかけ褒めていく。案外派手な行動に目が行きがちだが当たり前の事でもきちんと成す事は素晴らしい事である
④ 教えたことに対して、行動変化が目についたら、すぐに認めの言葉をかけ、何がどうできたか、その事はなぜ良いかを説く
⑤ 報告内容は、訊ねて、隠れている努力、考えの良さ、取組みの良さを引き出し、ズバリと褒める。結果までのプロセスでは必ず努力が伴っているとの察しが生きる

そして、言葉がけ時の心得は
⑥ こういう所が良い、なぜかと言えば……と具体的に褒める。具体的事実への着目はそこまでみてくれているのかと嬉しさは高まる
⑦ くどくならないよう褒める。またあれもこれも重ねない。褒め所が印象に残らないし、褒められた実感が薄れる。時には煽てととられる事もある
⑧ 改善事項は、褒め所を際だて、このような良い点は、他の本人の不安事項でも必ずできると引用する。ここから、本人の無理かな、が払拭される
⑨ 褒め言葉には「ありがとう」「ごくろうさま」の感謝、ねぎらい言葉も効果的である。認められた、お役に立てたとの喜びに通ずるからだ
⑩ 関わりのある人に紹介し、適宜「指導者が喜んでいたよ」と声がけ頂くよう働きかける。時には、朝礼時に全員に実践事実を紹介する事も良い
 
この実践は、対面指導だからこそ可能なる寄り添いの直なる育成を継続できる楽しみである。昨年よりも育成環境の整いが可能になりつつあるからこそ実践できるシャワー掛けである。

アフターコロナが問われる現在、人と人とが直接な意思疎通を生かし得ることが最も大事である。それは、直に向き合って成すコミュ二ケーションだからこそ、文字、言葉だけの理解でだけではなく、察する、気づき合う、汲み取り合う、この深みある相互理解が成される良さであろう。新人の気概をより高め、描く将来の自我像の実現に向けた支援、指導者としての育成の楽しみを是非楽しんで頂きたい。そこは、育成する側にとっても成長の良き機会である。

新たな人材も企業への期待条件も多様化している。それは、働き方改革、人生100年時代、ライフワークバランス……の諸説が飛び交う。まさに企業での職業人生の有り様が多様化し、個々に判断し決めていくことの必要性が問われている。
 
従って、新人育成の目的、指導の有り様も多様性があるのだろう。しかし、脚下を照顧せよとの言葉があるように、足下をきちんと確認し、成す事が肝腎である。それは、育てられる、育てる双方の想いを融合させ、その実現に向けての成長の喜びを共に分かち合えることである。そこには定着云々の不安は無いだろう。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/