[ 特集カテゴリー ] ,

「不確実性の高まる世界経済~今後の国際金融市場の動向」(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
「不確実性の高まる世界経済~今後の国際金融市場の動向」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

 世界の原油市場から投機性の資金が抜け、WTI基準で原油価格が1バーレル85米ドル水準にまで低下したが、また反騰しており、原油価格はなかなか本格的な下落には結びついていない。

 こうした中、世界の主要産油国は、サウジアラビアのエネルギー大臣がほのめかした石油減産方針に対して基本的には賛成の姿勢を表明している。即ち、今週初め、サウジアラビアのサルマン大臣は、原油価格の動きに基づいて減産の可能性を示唆している。サウジアラビアは、石油を生産するが石油輸出国機構のメンバーではないロシアやその他の国を含むOPECプラスをリードしており、こうした発言には重みがある。原油市場の動向もまだ先読みが難しい状況にある。

 一方、ロシアからのエネルギー供給を事実上ストップされようとしているドイツを軸とする欧州では、原油価格どころか、エネルギー源の調達そのものに懸念が示され、それが、今後のドイツ経済の低迷、更にそのドイツを軸とするユーロ経済の不透明さにも繋がり、こうした観測の一つの表れとして、ユーロは米ドルに対しても弱含みで推移するに至っている。こうした中、欧州では最近、朝夕になり、やっと、厳しい暑さも遠のき、猛暑によるエネルギー不足に対する不安も少しは解消するのではないかとの期待もなされている。
 
 しかし、秋以降の、「ヨーロッパのエネルギー危機」に対する懸念は完全には払拭されてはおらず、エネルギー問題、電力供給問題には不安がつきまとっている。今年の夏を振り返ると、猛暑で、数千人が死亡したスペインでは、商業用建物の温度を27度以上に維持する為の政府命令が下され、オランダでは、エアコンの電源を切ってシャワーを5分ほど浴びるようにというキャンペーンも行なわれた。

 更に、ドイツのミュンヘンでは信号灯に使う電気まで節約する事態となった。全て、ロシアがガス供給を制御して生じた結果であり、新たなエネルギー源の確保がなかなか見られぬ中、ロシアとの関係が改善されない限り、少なくとも短期的には、「ヨーロッパのエネルギー危機」に対する懸念は解消されないであろう。世界経済全体に改善への期待は持たれているが、まだまだ本格的な回復への兆候には至っていないと見ておくべきであろう。

 このように、「不確実性の高まっている世界経済」に関連して、今年も世界の金融界が注目する、恒例のジャクソンホール会議が開催された。
ジャクソンホール会議とは、米国・ワイオミング州の山岳リゾートであるジャクソンホールで毎年この時期に開催される経済政策シンポジウムであり、米国のFRB高官をはじめ、主要各国金融当局者などが参加し、その後の国際金融情勢などに関して議論する会議である。

これまでのジャクソンホール会議では、経済構造の変化や、不確実性の高い状況に直面した際の金融政策の全体的な方向性など、幅広いトピックスについて議論してきていたが、今年は米国のパウエルFRB議長が、金融市場に対する、より直接的なメッセージを伝えた。

 即ち、米国FRBのパウエル議長は、この40年で最も深刻な世界的なインフレを抑制する為に、今後、数カ月の間に、更に利上げを行う可能性を示唆した。具体的には、パウエル議長は、8月26日、ジャクソンホールで開催されたFRB主催の年次経済シンポジウムで、他の主要国の中央銀行総裁やエコノミストが参加した中で、スピーチを行い、「経済は物価の安定なしには機能しない。インフレを抑える為の、利上げという金融政策措置は不運なコストではある。そして、家計や企業にいくらかの苦痛をもたらす可能性が高い」と述べた上で、「暫くの間、制限的な政策が必要である。利上げの規模は、9月20日に始まるFRBの次期会合で決定されるだろう」とも述べた。

 これを受けて世界の金融市場は、ただでさえ方向感を失っている中、改めて景気先行きに不安を感じた模様であり、米国のウォール街に暗雲が漂い、ダウ工業株平均も下落した。

アナリストたちによると、投資家は、インフレが速やかに抑制されればFRBが金融緩和に動くことを望んでいたのに、改めて景気先行きが不透明となったと判断し始めていると見ている。国際金融市場は、暫くは、「基本的には方向感のない中、目先の材料によって、相場が乱高下する」と見ておきたい。

 そして、国際金融市場からは、「今回のパウエル議長の発言により、市場は更なる引き締めに備え、経済の冷え込みへの懸念が高まった」との声まで出始めていることを付記しておきたい。その国際金融市場動向についても、一言、述べておきたい。

本年上半期の証券市場は不安定な展開となっているが、下半期はいったいどうなるのか、国際金融市場は注目している。

本年下半期には、
*世界第一位のGDP大国である米国の中間選挙
*世界第二位のGDP大国である中国本土の共産党・党大会
*ロシアのウクライナ侵攻の行方
*世界的なインフレの行方
*世界的な食糧、エネルギー、資源市場の行方
など、市場に与えるイベントが目白押しとなっている。

 特に、この中で、市場が最も注目しているのは。正に米国の中間選挙ではないであろうか。日本が衆議院と参議院の二院に分かれているのと同様、米国議会は下院と上院の二つに分かれている。しかし、米国の下院は任期が二年であり、今年11月の中間選挙では下院435議席全員を選出することになる。

 一方、上院は任期が6年と日本の参議院と同様であるが、三分の一ずつ2年毎に改選されることとなっており、今年は上院100議席のうち35議席が改選の対象となっている。

 そして、バイデン大統領が属する民主党は現在、上院と下院をギリギリで掌握している。民主党は現在たった10議席の差で下院の過半数を治めているが、米国では1945年以来与党が中間選挙で下院議席数をそれ以前よりも増やしたケースは、2002年に一度あっただけであり、特に人気のない大統領はこれまで平均して38議席も失っている。こうした中、現在、38%というバイデン大統領の低い支持率を重ね合わせて考えると、今回の中間選挙で下院の過半数・主導権を共和党に引き渡すことになる可能性が大きいとの見方が今のところ支配的となっている。

 更に、上院に関しては、現在、民主党系と共和党系がちょうど50議席ずつを確保する中、米国上院で議長を兼務するカマラ・ハリス副大統領が決済票を投じることが出来るタイブレイカーの役割を果たしており、民主党が一応優勢を維持している状況とはなっているが、現在の議席一つでも共和党が上回ることとなれば、上院の主導権までも変わる。もし、上下両院ともに野党・共和党が主導権を握ることともなれば、バイデン大統領のレームダック化は避けられないであろう。そして、そうなった際には、国際金融市場はこれをマイナス要因と見做すのか、プラス要因と見做すのかについても、予測は分かれている。
 
本年下半期のチェックポイントは多く、また、その読み込み方は難しい。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
——————————————————