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「2022年、渋谷のハロウイン」(日比恆明)

【特別リポート】
「2022年、渋谷のハロウイン」

日比恆明氏(弁理士)

今年も秋が深くなり「ハロウイン」の季節となりました。10月31日に渋谷に出掛けて「渋谷ハロウイン」を見物に出掛けることにしました。2020年からコロナ禍となったため、3年振りの見学となりました。

例年ならばハロウインを心待ちにしていたのですが、今年は出掛けようかどうか躊躇することになりました。コロナの第7波が沈静化せず、第8波も来るのではないかという警告が出されていたからです。

しかし、外出の自粛要請が解除されていることでもあり、重い腰を上げて出掛けることにしました。この日、午後7時から9時の2時間、渋谷駅前付近を徘徊してきました。
 
さて、10月29日に韓国の歓楽街である梨泰院(イテウォン)で、ハロウインに参加した大勢の若者が転倒し、156人が死亡するという大惨事が発生しました。連日、関連するニュースがテレビから流れ、事故現場の映像や原因などが報道されています。このため、日本でも同様な事故が発生するのではないかと地元渋谷区では危惧してました。

渋谷区長の名義で「ハロウインの仮装での練り歩きや撮影などを目的に渋谷に来られることはご遠慮下さい」と自粛を発信していました。この要請は防災速報によるメールで自動的に送信しており、スマートフォンの位置情報で渋谷区付近にいると確認された人には全員送信したようです。

私のスマートフォンにも着信しました。また、フェイスブック、ツィッターなどのSNSでも同様に同報メールで配信したようです。厳重に要請したのは、韓国と同じ規模の事故が発生するのを予防するためでしょう。


                    写真1

写真1は、午後8時頃のセンター街の人混みです。写真で見ると混雑しているように見えますが、実際には人の間隔は1mくらい空いていて、密集するような状況ではありませんでした。2019年のハロウインでは、この通りは前後の人と密着する程混んでいましたが、それに比べると今年は半分以下の人混みではないかと思われました。

道路でゴミの整理をしていた渋谷区役所の職員は「予想に反して人数が少なくて、拍子抜けした」と漏らされていました。テレビ、新聞では、「渋谷の街路には人で溢れ、大変な騒ぎになっている」と報道していましたが、これは大きな間違いで、渋谷に来た若者は大幅に減少していました。

報道が間違っているのは、当日に渋谷で取材していたアナウンサー、ディレクターは過去の状況を体験していなからでしょう。テレビ、新聞の担当者は定期的に交代しており、同じ担当者が毎年渋谷を取材するとは限りません。毎年取材に来て、群衆の混雑ぶりを定点で観察していれば比較できます。今年の取材の担当者にはその体験が無かったと思われます。


                  写真2

ただ、渋谷駅前の交差点付近だけは人が溢れていて、ここだけは混雑していました。横断歩道で一時的に歩行が停止され、歩道に人が滞留するからです。例年、ここの交差点はスクランブルであり、どの方向にも横断できるのですが、今年は警察官がテープを張り、特定の方向にだけ横断できるように誘導していました。スクランブルにすると、歩行者は勝手に歩き廻るので、信号が青から赤に変わっても渡り切れないことがあります。テープで人の流れを一定の方向に誘導することにより、歩行者の横断を早めていました。
 
今年のハロウインでは、警察官、民間警備員の人数が多かったようで、どこの路地でも見かけられました。皆様、マニュアルで教育されたようで「立ち止まらず、ゆっくり前にお進み下さい」と同じ文言で警告されていました。若者達が道端でたむろしていると、同じ場所にとどまらないように追い立てられていました。すると、群衆は街路をゾロゾロと歩くだけとなり、これではハロウインではなくて「渋谷の路地歩き大会」となってしまったようです。しかし、ものは考えようで、歩くことは健康に良いことで、ハロウインは健全な遊びになったようです。

今年の警備が従来と全く違うのは、幹線道路の交通規制をしなかったことです。例年、道玄坂、文化村通りは閉鎖され、渋谷109を中心としてY字形となった大通りを歩行者天国として開放していました。写真3は、渋谷109の2階から道玄坂を今年に撮影したもので、写真4は2019年に撮影したものです。人通りが極度に少なくなっているのが分かります。


                    写真3


                   写真4

さて、今年のハロウインは渋谷に集まる若者が減少したのですが、その理由を考えると複数の要素があるようです。

1、梨泰院の事故の影響
2日前には韓国で惨事があり、人混みのある場所に出掛けると事故になるのではないか、と危機感を持った。家族から出掛けるのを反対されたかもしれません。

2、コロナの第7波が残っていた
8月に始まったコロナの感染拡大は未だ収束していません。第7波は感染力の強いBA5派生型であるため、感染を避けたかった。
 
3、既に、29日、30日に参加していた
31日は月曜日で、平日です。月曜日には出勤するサラリーマンなどは、29日、30日の前夜祭に参加してしまったようです。
 
4、公共施設が利用できなくなった
例年、渋谷区は、仮装する人達のために更衣室を用意し、仮設トイレも多数設置していました。今年は、そのような公共施設を提供しない、と宣言しました。このため、更衣室、トイレを必要とする女性に嫌われたのかもしれません。


                   写真5

今年のハロウインでは、仮装している人達が極端に少ないのです。ざっと見渡しても60人に1人か、80人に1人程度の割合でした。従って、仮装している人を見つけるのが大変で、仮装している人を見かけると野次馬が集まっていました。

テレビ、新聞では仮装者だけを撮影して報道しているので、いかにもという光景になりますが、実態は違っていました。仮装者が少なくなっていることは自治体も把握しているようで、渋谷区は「以前に比べ、仮装する方は減少傾向にあります」とメッセージしています。どのような理由で仮装する人が減ってきたのかは不明ですが、一夜に数千円の衣装代を払うのが勿体なくなったからかもしれません。
 
写真5は露出の多い衣装を着た2人連れで、このような人達は極めて稀であり、お見かけすればラッキーというところでしょう。29日の土曜日には、超ビキニの水着にハーフコートを羽織った女性が参加した画像がネットに流れていました。ハロウインでは「卑猥な衣装」での参加は禁止しており、当該女性は交番に引き入れられてお説教をされたそうです。


                   写真6

今年のハロウインでは、仮装の衣装は出来合いのものばかりで、変わった仮装を見かけませんでした。その出来合いの仮装も似合えば良いのですが、そうでもないと見苦しいものになってしまいます。写真6のような仮装ではブラックユーモアになります。


                   写真7

今年目立った仮装では、コロナの防護服を着た集団でした。中国の過剰なコロナ隔離政策を批判していました。手に持った棒の先端には白い布が巻き付けてあり、ウイルス検査のために鼻に入れて粘膜を付着させる綿棒を模しています。中国では、このようにして人民が検査されているのだ、と揶揄していました。


                   写真8

集団の一人が掲げている旗には赤地で星のマークが入っていたので、中国の五星紅旗かと錯覚しました。しかし、良く見ると、星はナチスの鍵十字の配列になっていました。この旗は、「中国ナチス(赤納粹、Chinazi )と呼ばれ、中国共産党の人権侵害や宗教弾圧に反対する集団が使用しているものです。同一模様の旗は、2019年に香港で中国の政策に反対する大規模デモで出現し、有名になりました。すると、この集団は在日の香港人か台湾人ではないかと推測されます。
 
この集団は渋谷のあちこちの路地に出没し、気勢を上げていました。ハロウインでは無意味な仮装をして、非日常的な体験をするのが多くの人の目的です。このような政治的な活動をする参加者は珍しいと思われます。


                  写真9

集団の防護服の背中にはスローガンが書き込まれていました。左側から、
 「全体主義、習近平政権、倒せ!」
 「#今年流行しているチャイナ股 #習近平ちゃん当選おめでとう」
 「偉大なる習近平首席」
と書かれていました。中国政府に対する当てこすりのようです。


                  写真10

ハロウインでは路上での喫煙、飲酒は禁止されているのですが、余り守られていないようです。喫煙所は閉鎖されているため、あたり構わず喫煙している風景が見かけられました。女性達も周りの目を気にせずにプカプカされてました。本来ならば違反なのですが、民間警備員が通りかかっても注意しておりません。余りにも喫煙者が多すぎるので、一々注意するのは面倒であり、下手に注意して反発されると身体に危害が加えられるかもしれず、お目こぼしされていました。


                  写真11

喫煙する人は多く見かけられましたが、大通りでは飲酒している人はほぼ見かけられませんでした。もしかしたら、脇道とか路地の奥で飲酒していたかもしれませんが、私は見つけられませんでした。そもそも、大通りでは群衆がゾロゾロと歩いていて、飲酒するような状況ではないからです。ニュース、新聞では、飲酒した若者達が路上で騒いでいた、と報道していましたが、そんな光景は見かけられませんでした。
 
公安からの要請で、渋谷駅周辺のコンビニなどでは酒類の販売は中止していました。若者達が飲酒しようとするなら、渋谷以外の場所で購入して持ち込まなければなりません。しかし、そんな面倒なことをしてまで渋谷で酒盛りをしようとする若者はいないようようです。酒類の販売は中止したのですが、どの居酒屋も営業して酒を提供していました。酔っぱらって騒いだ若者は居酒屋で飲んだのでしょうか。酔っぱらいを無くするには、居酒屋を閉店させるのが根本的な対処方法ではないかと思われました。


                  写真12

何時ものことですが、渋谷ハロウインでは見知らぬ人と接触をしたい人達が集まっていました。ようするに、渋谷でナンパして彼女を作りたい、といのが正直なところでしょう。ただ、何もせずに歩いていたのではキッカケは掴めません。かと言って、誰でも構わずに女性に声をかけていたのでは逃げられてしまいます。そのため、皆様色々と声掛けのキッカケとなるような工夫をしていました。この人達はお菓子を無料で配給していました。駄菓子を渡してお友達ができれば幸せでしょう。


                  写真13

こちらの3人組は ウイスキーのワンショットを100円で販売してました。女性が立ち飲みをすることは稀であるため、誰を相手に販売したいのか目的が不明でした。何れもイケメン風であったので、もしかすると彼らはホストクラブの従業員で、顧客開拓のために立っていたのかもしれません。もしウイスキーを販売しているのが若い女性であれば、たちまちの内に売り切れることは間違いないことですが。


                   写真14

道端で座り込んでいたのはやや中年がかった男性でした。特に何かを訴えているようではなく、声を掛けてくれる人を待っていたようでした。都会では知人も少ないため、何とか知り合いを作りたいために座りこんでいたのでしょう。何となく都会の哀愁を漂わせていましたが、本人は一夜の出会いを楽しむために渋谷まで出掛けてきたのかもしれません。


                  写真15

座っている人は金正恩のそっくりさん(あまり似ていなかった)で、ユーチューバーでした。この日、「金正恩で座り込み、チャンネル登録お願いします」のプラカードを掲げ、手前にあるスマートフォンで動画配信をしていました。ユーチューブでは「デブ・ジョンウン総書記」のアカウント名で活動しているのですが、チャンネル登録している人数はわずか88名でした。今回は知名度を上げて登録者数を増やすために、自宅のある静岡県島田市からやってきました。

                     写真16

 こちらの3人は某宗教の勧誘をしていました。キリスト系の宗教団体でしたが、今有名となっている韓国の宗教ではなく、1905年から続いている真面目な宗派でした。ただ、知名度は極めて低く、本部はロサンジェルスにあるマイナーな宗派でした。宗教年鑑で調べたところ、協会は2か所、信者は158名でした。法外な寄付金を要求せず、地道に布教しているようです。

今後のハロウイン

渋谷のハロウインは、「渋谷の仮装大会」とか「渋谷の馬鹿騒ぎ祭」などとも揶揄され、商店街振興組合の小野理事長は「ハロウインではなく、変態仮装だ」と断言されてみえます。しかし、若者たちが渋谷に来ることを止めることはできず、渋谷区長は「ルールを守って騒がないように」とお願いするだけでした。こうして、本来のハロウインではなく、日本独特の祭りに変化していったようです。そのためか、外国観光客は、渋谷ハロウインは世界でも珍しい祭りである、ととらえているようです。
 
今年のハロウインでは、警備体制による立ち止まりの規制があり、群衆がゾロゾロと街路を歩くだけとなってしまいました。そんな歩くだけのハロウインに多数の若者がなぜ集まるか、と言えば、「渋谷に行けば何か得られる」という心理があるからでしょう。「友達が出来る、恋人を見つけることができる」という淡い期待があるからです。都会には多くの人が住んでいますが、知り合いができる機会は少ないものです。ハロウインは、誰かと出会うことのできる年に一度のチャンスかもしれません(実際には出会えない人の方が多いが)。
 
その昔、村の秋祭りでは、近郷の若者達が村の神社に集まることで独身の男女が知り合うキッカケとなったそうです。恋仲となった男女が闇夜に消え、どうにかした、というような話もあります(本当かどうかは不明で、単なる伝説かもしれません)。すると、ハロウインも男女の交際を始める場所と考えれば、一種の婚活に利用できるのではないでしょうか。節度を持って渋谷ハロウインに参加することで、恋人ができれば小子化の解消が可能になるかもしれません。そんな活用方法があるのなら、渋谷ハロウインはこれからも続けて欲しいものです。