第2回 「大退職(The Great Resignation)」とはなにか?
周知のようにいまアメリカでは、今年の後半から不況入りする懸念がある。すでに、アマゾン、マイクロソフト、メタ、グーグルなどのIT大手は1万人を越えるリストラを実施している。しかし、そうした動きとともに起こっているのが、社員が自主的に退職し、フリーランスになる「大退職(The Great Resignation)」である。
2022年12月13日、世界的な仕事紹介業の「Upwork」は、アメリカの独立労働力に関する最も包括的な調査「Freelance Forward: 2022」の結果を発表した。
「Upwork」の調査によると、過去12カ月間に6000万人の米国人が自主的に退職し、フリーランスになったという。これはアメリカの全労働力全体の39%に相当する。
退職しているのはスキルを持ち、フリーランスでもやって行ける人々がほとんどだ。そういう人々の間ではフリーランスの人気が高まり続けており、9時から5時まで、オフィス内で、雇用主は一人というモデルは、すべての人が望むものではなくなっている。
この結果、スキルを持つ人々がフリーランス化しているので、アメリカ経済に占めるフリーランスの所得の割合も増えている。2022年にフリーランサーは年間1兆3,500億ドルの収益をもたらしてしており、2021年よりも500億ドルも多くなっている。
フリーランスで一番多いのが、20代前半のZ世代、ならびに20代後半から30代初めのミレニアル世代だ。2022年には、スキルを持つZ世代のプロフェッショナル全体の43%、ミレニアル世代のプロフェッショナル全体の46%がフリーランスになっている。
また2022年には、全フリーランサーの51%、約3100万人が、コンピュータープログラミング、マーケティング、IT、ビジネスコンサルティングなどのナレッジサービスをさまざまな産業分野で提供している。そして、退職した69%のフリーランサーが将来の自分の稼ぎについて楽観的な見通しを持っている。
また退職の理由としては、生活費の上昇に伴う賃金の低迷、職場におけるキャリアアップの機会の制限、敵対的な職場環境、福利厚生の欠如、柔軟性に欠けるリモートワーク方針、長く続く仕事への不満などが挙げられる。辞める傾向が強いのは接客業、医療、教育分野の労働者だ。
だが、やはり退職理由で最も多いのは、職場への不満である。「ここが嫌なら他で働けばいい」というような態度をとる企業、社員を人間として扱わず、使い捨ての品目として扱っている企業が「大退職」の影響を最も受けている。
過去に最も苦しんだのは現場の従業員だったが、コロナのパンデミック以降、パワーバランスはますます従業員に傾いている。いま続いている「大退職」は一連の大きな修正の可能性の最初のものであり、企業がそれに対処しないと、必要な人材の確保に失敗し、企業の持続可能性と成長が危うくなるような状況にもなる。
これは従業員が、より大きな力と影響力を持つようになったことを意味する。パンデミック後、多くの従業員が「こんな扱いを受けたくない、この仕事よりフリーランスのほうがましだ!」と言うようになった。
パンデミック以前は、失業の恐怖から嫌な仕事でもなんとか我慢していた。しかしいま、労働者の多くが職場復帰を拒否し、フリーランスを選ぶようになったのだ。
この現象は、津波のように日本にもやってくるだろう。