【真田幸光の経済、東アジア情報】
「中国本土のECアプリについて」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
月間7億5,000万人が利用している中国本土3位の電子商取引(EC)アプリである「ピンドゥオドゥオ」がユーザーの通話記録や文字メッセージ、写真アルバムに不正アクセスしていたとの見方が出ています。
このアプリは主に中国本土国内のECに使われていると言われていますが、他の国でもダウンロードして使用することができ、世界的に波紋が広がっているのであります。
中国本土政府が自国企業のアプリを利用し、全世界のユーザーの情報を収集、悪用しようとしているとの懸念が顕在化したとの見方を米国のCNNは示しています。
CNNは、欧米、アジアの専門家に独自に依頼して分析をした結果、中国本土の大手ECアプリである「ピンドゥオドゥオ」で不正なコードが発見されたと報じており、グーグルの元開発者が2015年に上海に設立した会社であり、高度技術のアプリを安価な共同購買サービスで急速に成長し、時価総額は米国のイーベイの3倍にまで達しているとされています。
ピンドゥオドゥオのアプリに内蔵された不正なコードは、グーグルのアンドロイドOSの脆弱性を利用し、ユーザーの同意なく、携帯電話の使用内容やデータにアクセスしていることが分かったとCNNは報じており、
「一度インストールすると、アプリを削除しても、不正なコードを除去することが非常に難しい構造になっている」
と見られています。
セキュリティー業者オーバーセキュアードの創業者であるセルゲイ・トシン氏は、
「ユーザーが多い主要なアプリで発見された最も危険な不正コードである。
非常に広範囲な個人情報の奪取であり、これほどのレベルの侵害は前例がない」
と話していると報道しています。
ピンドゥオドゥオはユーザーの携帯電話使用内訳を照会した上で、ライバルを牽制し、販促を行う為に不正なコードを組み込んだと見られています。
ユーザー情報に基づき、オーダーメード型広告を行ったとも見られています。
ピンドゥオドゥオが入手した個人情報が中国本土政府に渡ったという証拠はまだありません。
しかし、中国本土当局はITサービス業者のデータにいつでもアクセス出来、ピンドゥオドゥオの情報も当局が必要とすれば、いくらでも利用者の監視に活用できることになります。
グーグルは、具体的な理由を明らかにしないまま、不正なコードが発見されたとして、ピンドゥオドゥオの提供を自社アプリマーケットであるグーグルプレイで中止しています。
CNNは、
「ピンドゥオドゥオは自社アプリに対する疑惑が広がると、緊急アップデートを実施し、不正コードの削除を試みた。」
とも報じています。
そして、ピンドゥオドゥオの不正コード問題は、中国本土で開発したアプリ全体に対する不信感にまで拡大しています。
特にピンドゥオドゥオの姉妹企業である「テム」の海外市場向け越境ECアプリが米国でダウンロード量トップとなる人気を集めていますが、このアプリを回避する動きも本格化する可能性が高いと見られています。
CNNは、
「今回の騒動にテムが直接関与したわけではないが、テムの世界展開には悪材料になるだろう。」
と指摘しています。
現在、欧米は中国本土の「TikTok」に対する規制に乗り出しており、TikTokが顧客の情報を中国本土政府に提供しているとの理由からであります。
米国下院の聴聞会では、
「TikTokは中国共産党の武器である」
として、周受資CEOを追及しています。
米国のブリンケン国務長官もTikTokを「安全保障上の脅威」と呼び、「如何なる方法であれ禁止しなければならない。」
と指摘しています。
テクノロジー業界は米国政界がTikTok規制の矛先をピンドゥオドゥオとテム、その他の中国本土系アプリに向ける可能性が高いと見ています。
最近、米国内の中国本土系アプリは若年層を中心に大きな人気を集めており、市場調査業者センサータワーによると、3月末時点で米国・アップルのアップストアに於けるダウンロード順位の1~4位が中国本土系アプリとなっています。
米中の情報覇権争いは更に続き、そして拡大していくと見ておきたいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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