増田辰弘が訪ねる【清話会会員企業インタビュー】第19回
リピーター率100%の総合リスクマネジメント企業 ㈱TMR
~企業や経営者の二面性の裏側を探るスペシャリストの味が持ち味~
【会社紹介】
株式会社TMR
代 表 者:高橋新治
設 立:1983 年4 月7 日
従業員数: 51名(提携先含めて190名)
資 本 金: 1 億円
関連事業部: バイオテックカンパニー https://www.bio-jpn.com
高橋新治社長
看板商品の3つの情報誌
「都内中央区のA印刷会社2期連続赤字、大阪市東住吉区の青果店B社5期連続赤字、武蔵野市のアニメーション制作会社のC社債務超過……」と企業継続が危ぶまれるこれらの問題企業の関連情報が、その理由と裏付けの数字が並んでいる。これは㈱TMR(本社:東京都千代田区、高橋新治社長)が1年365日祝休日以外は毎日発行している「デイリーWATCH」の内容である。
同様に毎月2回年間24回発行する「企業特調」、これは「デイリーWATCH」よりももっと詳しい内容で、問題企業の仕入れ先の後退や業績不振に陥った理由など企業の情報を毎回20社、各社の資金繰り、支払い準備、金利負担限度額、借入金月商対比などが記載されている。もちろん多くが債務超過企業である。
また、随時に発行される「債権者速報」がある。これは倒産企業が発生すると、倒産に至る経過、原因を解説するとともに債権者名及びその金額をリアルタイムで配信している。
この3つの情報誌が同社の看板商品である。我々は、上場企業の業績は比較的理解できる。しかし、多くの未上場企業の状況はあまり理解できない。このために企業の信用調査が必要になって来る。きちんと与信管理をするためである。これを見誤ると貸し倒れや販売した商品の代金が回収できずに命取りとなりかねないからだ。
多くの企業の財務状況などを的確に把握しユーザーに報告するのが同社の業務である。特に、最近は詐欺まがいのだまし商法も横行する。人間誰でもうまい話には乗りやすい。これらの被
害を未然に防ぐのも同社の重要な役割である。
同社は、総合リスクマジネント企業として、具体的には、(1)総合調査カンパニー事業、(2)リスクコンサルティング事業、(3)人物調査事業、(4)情報出版サービス事業と幅広く展開している。
企業信用調査と人物調査でバランス
総合調査カンパニ―事業は、企業の合併・事業再編に伴う関連調査、企業信用調査、不動産関連調査、不良債権回収に伴う調査などを行う仕事である、企業の決算書などオフィシャルな情報だけでは判らない、把握できない、的確な対象企業の詳細情報を提供する。
リスクコンサルティング事業は、内部統制構築サポート、反社に関する精密審査、各種相談窓口開設サポート、海外投資リスク検証など企業の内外に現存する「見えるリスク」と「見え
ないリスク」への合理的な対策を行う。
人物調査事業とは、文字通り人物の調査である。例えば、タワーマンション入居申込者の身辺調査がある。一人やくざが入居すると大変なことになるため、未然にリスクを回避する必要が
ある。
同様に新入社員、あるいは取締役に就任予定の幹部社員、また社員の業務上横領、背任行為などの身辺調査、裏付け調査など主に企業からの個人人物調査となる。情報出版サービス事業
とは先に述べた「デイリーWATCH」「企業特調」「債権者速報」などの情報誌の発行である。
総合リスクマネジメント業界は特殊な業界で帝国データバンクと商工リサーチのガリバーの2社でシェアの80%を占める。同社は業界の中堅どころの位置付けである。ガリバーの2社は
人物調査事業を行っていない。従って、同社には多くこの人物調査依頼が入り込みバランスの良い事業運営になっている。
この総合リスクマネジメント業界は不思議な業界で、石油ショック、リーマンショック、コロナ感染など不況期に仕事が活発になる。逆に、人物調査事業はタワーマンションが売れたり、
新規の社員を採用が増加したりする好況期に仕事が活発になる。この意味でも同社の事業バランスは取りやすい構造となっている。
社長室の棚には、乾燥させた様々な薬草などが並ぶ
不況時に仕事が増える不思議な業種
㈱TMRの起源は渋沢栄一まで遡る。彼がアメリカに産業調査に出向いたおり、銀行の信用調査機関を目にし、この重要性に気づき、1854年に銀行の与信管理を行う㈱東京興信所を
創業した。この会社に高橋社長は大学を卒業してから勤め取締役営業部長をしていた1979年にスピンアウトし、㈱東京経営調査の商号で創業した会社である。その後社名を変更し20
13年から現在の㈱TMRとなる。
スタート時は10人規模だったので特定業界に的を絞り、高橋社長が強い業種であった管工機材機器業界から始めた。しかし、一つの業種では景気に左右されるので、あまり景気に左右され
ないゴルフなどのスポーツ業界、宝石業界に分野を広げ、その後、組織拡大とともに業種を拡げ、今ではほとんどの業種を手がけている。
社員は現在60人だが、何と言っても会社の中核は、12人の調査マンと8人の営業マンの顧客を回るリテール事業である。このほかに全国、世界の顧客からのニーズを満たすため約200
名のネットワーク社員がいる。これで、全国、世界からのニーズもカバーできている。
この仕事の難しさは社員の才能も大切だが、幅広い情報ネットを持つことで、色々なルートを使い多岐にわたる企業情報を仕入れ、これを調査報告書にうまく表現するかどうかである。
なるほど社内を見渡すと出かけているためか空席が多い。もちろん普通の会社のように「どこに出掛けています」と報告する必要はない。私が高橋社長に「この仕事は警察官が良いのではないですか」と尋ねると、「確かに警察官は調査能力が高いのですが、うちの仕事はそれを文章化し表現しなければならないのです。捜査ではないのですから読みやすい文章能力が不可欠なんです。この文章能力の点があり、警察官出身の方は少ないのです」とのことであった。同社の社員の給料はやはり普通の民間企業の平均より少し高めで、固定給部分と成果給部分が6割と4割の比率となっている。やはり貴重な企業情報を仕入れて来た社員にはそれなりの報酬で報いるわけである。同社は今年の11月には社員全員でハワイ旅行に出かける。コロナで多くの企業の経営が厳しくなり同社もそれに従い忙しくなった。これに報いるものでこの時期に羨ましい限りである。
同社の会社案内より
環境型の植物工場
不思議なことに㈱TMRに入ると敷居が別の部屋がある。そしてそれなりの数の人がいる。私は高橋社長に「あの部屋はサーバー室ですか」と尋ねると「それもありますが、コールセンタ
ーです」とびっくりする答えが返って来た。何でも数年前にM&Aで入手したもので、ある大手の薬局チェーン店会社のコールセンター部門を一手に引き受けて同社の稼ぎ頭となっている。
おそらくこんな話は、帝国データバンクと商工リサーチなどではないであろう。そうなのである、同社は新規分野の進出が得意なのである。
特に異彩を放つのがバイオ事業である。宮城県石巻市にバイオ事業本部を置き、社員は15人程、人員配置している。
30年前にこの事業を始めたのは有機無農薬農業への関心である。当時は農薬天国であった。これではいけない。このままでは農業従事者や消費者の安全、安心が守れない。そこで、長年高橋社長の故郷である宮城県で研究開発を行い、有機無農薬JAS認定資材と微生物による人、植物にやさしく病害虫には強い有機無農薬資材である「バイオクイーン」「ベリーキング」「フィッシュアミノ液」、「アグリPソイル」などの商品を製造し、市場で販売している。
この延長線上で現在、同社が手掛けているのが環境保護型の植物工場である。日本は台風など自然災害が多く農産物の生産が安定しない。そこでこの環境保護型の植物工場を考えた。この事業はあらゆる点で新機軸が窺える。まず、事業主体であるが同社の直営ではなく( 社) 日本みどりの食料システム推進協議会とした。単なる民間の営利事業でなく社会的に提案する事業としたのである。
実施場所は栃木県の那須地域で、「ナスコンバレ―構想」のもと廃校となった旧大澤小学校を活用することにした。この事業は何から何まで新鮮である。まず、台風などの被害に左右さ
れず、周年栽培による食料の安定供給ができる。
次に廃校の活用による地域の活性化に貢献する。土や有機肥料を使用し有効微生物群を取り込むことにより、品質と味の良い農産品を作る。無農薬、有機栽培で産品のブランド化ができ、
農産物の高付加価値で売り出すことができる。また規模も農家や中小企業でも取り組みやすい規模で行い、同法人がノウハウの提供、指導まで行うなど、まさにいいことずくめのビジネモデルができ上がった。
しかし、植物工場はエアコン、LED照明、細霧システム、CO2測定器などで膨大な電気代がかかる。だから普通の農家はなかなか手を出しにくかった。そのためこの植物工場では、家庭ゴミや家畜糞尿、食品残渣などを原料としたメタン発酵発電所で対応する予定である。これは単なる構想ではなくもうすでに実験中である。
さて、この植物工場で何をつくるかであるが、現在検討しているのはライチ、パイナップル、イチゴ、トマトなどである。現在、農産物の輸出世界第1位はアメリカだが、実は第2位は植
物工場のオランダなのである。植物工場は高付加価値産業、その先鞭をつけるひとつがリスクマネジメント業の㈱TMRというのも大変おもしろい。
同社のホームページより
*ハルピンの街で 目にしたもの
会社や人間の二面性については、私も驚くべき体験がある。中国黒竜江省ハルピンの帝政ロシアの名残りが留まる屈指の繁華街の中央大街で、日本では誰でも知っている有名企業の会長
が若い女性と腕を組んで歩いていたのだ。この方、経営手腕がたくみなだけでなく人物が高潔、常々社会正義を唱えている方でもあった。
その時私は腰を抜かすほど驚き、もちろん知合いではなかったが思わず木陰に身を隠した。彼はおそらくこのハルピンまでは誰も知った人間はいないはずだと思った一時の油断だったの
だろう。私はこの時、人間は誰でも二重人格だと確信した。
誤解を恐れずに言えば、この二重人格性を持たない人間はそれほど大した者ではないと感じる。これは会社、法人、国家も同様である。高度な情報化社会で人間は高等動物であるから、多少の二面性はある意味でやむを得ないのかも知れない。
㈱TMRの仕事は、この会社や個人の二面性の裏側を探る仕事である。これは野球で言えば牽制球の役割で必要なものである。日本のある有名な大手自動車メーカーは社内にパワハラとそれに伴う自殺が絶えない。もはやこれがある程度会社の文化ともなっている感がある。
しかし、皆が知っているのにこの会社があまりに巨大過ぎて誰も本格的に指摘しない。ある意味、牽制球が利かない状況、この状況は大変危険である。牽制球があるから気を付ける。自
制する。この作用が利かなくなると逆に危険なのである。
この牽制球は野球と同様極めて高度な勘とテクニックを必要とする。高橋社長によると、これは天性の才が持つ生まれつきの能力である。自然とこういう能力を持っている社員がいる一
方、何年経ってもなかなか取得できない社員も多い。だから研修とは言っても底上げの研修であり、皆をすべての社員を高度なレベルに育て上げることはできないのである。
この仕事は、企業のあるいは経営者の誰にも知り得ない秘密を探り出すという極めて特殊な仕事で、一度やったらやめられない部類のものである。確かに企業の、あるいは経営者の裏面
を探り当てたぞ、と言う感覚とそれに伴う充実感は、やった人間でなければ判らないものなのかも知れない。