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「米ドル通貨覇権に対する挑戦が本格的に始まった」(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
米ドル通貨覇権に対する挑戦が本格的に始まった

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

マクロ経済指標だけを見ていると、
「米国経済は予想されていたよりは堅調に推移している」
と見られているが、金融機関の破綻が続き、また、米国債の債務不履行リスクも叫ばれ、昨年、インフレ対策として取り入れた急激な政策金利の引き上げが、やはりじわじわと景気不確定、悪化要因になってきていると見られている。

更に、こうした中、雇用にも変化が出てきている。
米国の物流スタートアップ企業であるパンディオンは最近メタ(フェイスブック)で解雇された職員3人を雇い、昨年もパンディオンが採用した65人のうち15%がメタ・テスラ・アマゾン・グーグルのようなビッグ・ハイテクで働いていたスタッフであった。

即ち、巨大IT企業などで経験を積んだ人々を新たなスタートアップ企業が積極的に採用し始めている。

こうした傾向は、昨年から見られ始めており、グローバルな雇用現況を集計しているサイトである「レイオフ」によると、昨年1,219のハイテク企業で16万4,591人を解雇され、一昨年の1万5,823人から10倍以上に急増した。

そして、今年はレイオフが更に拡大、第1四半期だけで18万6,328人が解雇され、昨年の解雇者数を既に超えている。
最近5四半期の間、世界的なハイテク企業で約35万人が職を失っている。

新型コロナウイルス対策による低金利時代によって短期間、幸いにも好況であったが、既にそうした時代は終わり、高金利時代に突入すると、企業は筋肉体質に変身すべく、先ずは解雇を進めていることにより、こうした失業者増加が進んでいるのである。

これまでのところ、世界的なハイテク企業に解雇された人材がスタートアップ企業の一定程度吸収されてきたが、今後、米国景気がさらに悪化すると、スタートアップ企業の採用余力が損なわれる危険性もある。
注視したい。

広島G7サミットでは、ウクライナ侵攻を図ったロシアと経済は権力を強める中国本土の二カ国を意識した議論を中心になされたと言ってよいであろう。

そして、中国本土経済を牽制する為に構築されたと言われている、米国政府主導で発足した、
「インド・太平洋経済フレームワーク(IPEF)」
が発足してから1年経ってやっと、
「サプライチェーン協定」
を妥結した。

これにより米国を中心としたサプライチェーンを構築し、脱中国本土化を本格化する、その結果として、中国本土経済に対して、より一層厳しい圧力を掛けていく姿勢が確立されたと見られている。

世界各地では、米英やロシア、中国本土が主催する国際会議が盛んにおこなわれている。
上述したG7ももちろんその一つに入る。

こうした中、6月1日から外相会議が始まったブラジル、ロシア、インド、中国本土、南アフリカの新興5カ国(BRICS)各国では、
「基軸通貨の米ドルへの依存から脱却し、共通通貨の創設を求める声」
が上がり、議論が始まった。

いよいよ中露による、
「米ドル通貨覇権に対する挑戦が本格的に始まった」
と見てもよい。
「非米欧」の対抗軸を作ろうとしている中露が、所謂、グローバルサウスの中で力を持つインドやブラジルも巻き込みながら、存在感を高めようとしているとも見られ、共通通貨などが今後議論されていこう。

もちろん、BRICS各国の国益はまだまだかなりの違いがあり、共通通貨構想を巡る各国の思惑にはかなりの温度差があると見られ、実現には困難があるとの声もあり、筆者もそれを否定はしない。

しかし、
「基軸通貨・米ドル」
即ち、
「米国覇権」
に対する世界的な批判や不満は高まりつつあり、筆者が見るところ、BRICSが結束するとすれば、
「BRICS BANK」
「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」
という、中露を軸に構築した国際金融機関を上手に利用しながら、米ドル基軸を崩しに来る可能性はある。

「現行の世界基軸、英米の秩序」
が今後どのように変貌していくのか、変貌しないのか、丁寧にフォローしたい。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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