髭講師の研修日誌(95)
「新人への支援を楽しむ先輩社員の実践」
澤田良雄氏 ( (株)HOPE代表取締役)
◆B・S研修での活躍の一端に観る
B・S(ブラザー・シスター)制度とは、新入社員の先輩社員を兄(ブラザー)、姉(シスター)として見立て、新人の仕事の進め方や心構えの指導に加えて、業務や職場内外生活における不安や悩みに対する解決の支援指導をする社員として企業から委嘱される。
この制度の目的は、新人が入社時の二つの不安を解決し、この会社を選んで良かった、だからこそしっかりキャリを積んでいこうとの真の覚悟を持たせることにある。それは、定着対策の一環である事は言うまでもない。
敢えて真の覚悟と記したのは、面接時、入社時に発する「早く一人前になるよう頑張ります」と意気軒昂に述べてもそれは、思い描きであって、現実に即してのものではない。なぜなら、入社時、配属後その現場、現実に直面したときに、想いとのギャップがあることが事実なのだ。
従って、このギャップでの不安・不満をどう解消し、新たな活躍の軸づくりと気概を持つことを真の覚悟と位置づけたのである。もしこの覚悟が定まらない時には、早々の退社という事態が発生することは周知の通りである。
先日、B・S活動に選ばれた社員研修を担当した。「ありがとう」の言葉を社名にしましたとの基本方針を掲げる大手物流・建設・設備・ライン一括稼働受諾事業……を展開するS社。そして受講者は100年の現場力を担う先輩社員である。まさに、第一線の要の立ち位置で活躍している誇りを持っており、短期間の活躍での実績を問うと、「新人が元気良く活躍しているね]と同僚から言われた」「上司から、よく面倒みてくれているね」と肩を叩かれた」「新人が自分なりに考えて仕事する気配が見えてきた」「相談にきてくれる」…の情報提供が成された。
この事実は、多分に、新人の持つ、①直接指導してくれる人はどんな人だろう、②担当する作業が自分にはできるだろうかの二つの不安が、「いい先輩、良い職場の人でほっとした」。そして、「自分にもできそうだ」の二つの安心感への転換になったことは見事である。
そこで、今回は、先輩社員として新人をどう育むか、そこに着目してみよう。
◆後輩からの期待を確認
筆者は今年も新人研修を担当してきた。そこで出される先輩社員への要望や、入社後半年後に実施研修での「来春先輩社員になるその時、後輩から憧れられる先輩像の提案」等から導き出される憧れタイプの条件に着目して診ると次の8点に集約できる。
①活躍ぶり、人物的評判が良い憧れの先輩であってほしい
②模範的行動を示して欲しい
③仕事を丁寧に教えて欲しい
④気がつかないことはどしどしアドバイスして欲しい
⑤ダメなところはきちんと叱って欲しい
⑥仕事のカン、コツを教えて欲しい
⑦良いところは誉めてほしい
⑧相談に乗って欲しい(仕事・プライベート)
である。まさにネットで調べ上げた概論でなく、新人時に指導支援頂く中で実感した先輩のOK点や、要望条件の事実データから導き出した条件である。特に憧れの先輩像に対して考察を加えてみると、
◆仕事を楽しんでいる先輩の姿
憧れとは、新人の目指す将来像である。ならばその実像の先輩社員の活躍ぶりはいかがであろうか。多分に「誇りと自信を持って活躍し、さすがの実績形成を楽しむ働く喜びであり、持続的発展する企業貢献している」存在感であろう。
そこには、当企業だからこそ得る活躍の楽しみ方を、自ら享受しており、具体的な楽しむ心得は、次の8点である
①さすがという専門力を活かし、ひと味違う実績をつくろう (人財としての存在感)
②従来の枠を破り、新鮮な目と一歩前に出る活力を活かそう (殻を破る発想))
③挑戦的目標を持った朗人思考で、改善力、知恵力を活かそう (目標達成への改善力)
④先手の挨拶で、周囲に明るい灯火を灯そう (挨拶人間の好感度)
⑤信頼される指導力の活躍で新人に施そう (指導・支援)
⑥上司に貸しの出来る協力・補佐力を生かそう (上役補佐で頼られる)
⑦話力を高め、社内外の人と交流する逞しさを持った仕事の展開をしよう (人脈)
⑧時には自己を振り返り、自己認識の高めと自己成長の機会としよう(啓発による成長)
であり、その活躍ぶりがネクストステージの基となっている。従って、B・Sでの活躍もその糧の一端である。
◆だからこそ B・Sに選ばれたことは、より楽しみを得る機会です。
B・Sには選ばれるのである。だからこそ、「期待される自分」こんな嬉しいことはない。職場は力のある人のところに仕事が集まる。それだけ能力と人望が認められた証なのであり、この機会を生かした経験は将来に向けて底力を付けていけるときに他ならない。ならば、自分に誇りを持って、期待に応えた活躍を楽しもう。その気概は、
①自分が選ばれ、期待されることは誇りある自分である。そこから更なる成長への新たな実践がある。自慢できる活躍の足跡は将来の底力として生きる。
②新人の育みを支援指導出来るとは、双方の人生の縁であり、良き思い出づくりは、将来の人生のパートナーとなる
・役割を果たす楽しみ、それは、やった“できたの達成感・特に困難な仕事は感動を更に重ねる
④自己成長できる楽しみそれは指導能力、多忙から指導時間を捻出する仕事の生産性の追求(仕事の質、量、技術、知識、)人間性を磨ける機会である。なぜなら、周囲からの「期待で観られる事は自分を磨く機会」だからである。
・志の実現はチャレンジ精神に基づく取り組みを楽しむ覚悟を実現する。
・役割を果たす楽しみは、やった・できたの達成感・特に困難な役割への取り組みだからこそ感動を得る機会です。それは順調でないときほど得られるもの。
だからこそB・Sに選ばれたことは、より楽しみを得る機会なのである。それは「役割は、人を創る」この言葉通りである。
◆新人への日常の関わり心得
S社B・Sの受講者と以上を確認し、活動での実践の心構えをグループワークで紹介し合ってみると、実にきめ細かな施し策を講じている。それは、
①自分の知っていること、経験は惜しみなく与える
②求められれば、いつでも、どこでも率直に意見交換する
③新人の個性、良いところを認め、他の人へも紹介ししていく
④妙に新人を甘やかすことは控える
⑤言うことによく耳を傾けて、話すことを楽しませる
⑥問題、不安、悩み事には察してこちらから声がけする
そして、⑦自分が新人として指導されたときの体験を生かす
それは、OKポイントもあり、もっとこうしてほしいと心で願った事柄を生かして指導する実践である。そこには、次の4条件も踏まえての実践心得である。
- 仕事上での基本、規則はきちんと守った取り組みで、良い模範を示す
- 指導に当たる時には、優しさと厳しさをバランス良く施す
- 上役からの本人対する情報は適宜知らせる
- 忙しい中での指導実施もあろうが時間創出や、他の人からの協力も頂く
- 上司に適宜報告、相談し指導支援を仰ぐ
◆だからこそ得られる、新人の声
以上を実践する事により、その実効はどうかと確認も怠らない。その方策は、新人からの声を直に聴いたり、上司、人事担当者からの情報の活用である。そこから得られる、嬉しさは次のような事実データーである。
①親切に教えてくれて、やる気が出る
- 褒められたり、ねぎらってくれたりすると嬉しい
- 朝の挨拶どきにニコニコ声がけしてくれるとほっとする
④指導された仕事がうまくいったときは嬉しい
⑤他の人からほめられたときは、感謝です
⑥話をじっくり聞いてくれたときには安心感が出た
との声であり、しかしながら、不十分さにより新人が時には気が重くなったときはどんな時かを素直に聴かせて頂く、その事実は・・・
- 自分が思っていたことと、あまりにも違っていたとき
- 自分の言ったことが理解、納得されなかったとき
- 指導する先輩が不機嫌で話しかけずらかった
- 自分は間違ってないと思うことを叱られたときは辛かった
- 一所懸命やってもなかなかうまくいかなかったときは先輩に済まないと思った。
勿論 即改善に尽力する。との対応の実践で良き関係づくりに努める現状である。
◆指導時にはそのことが「何のため」「なぜ重要か」を丁寧に説く
さて、新人の早期戦力化もB・S活動の目的の一つ。一人前とは、専門力を体得する事であり、企業人としての考え方、社会人として言動を体得することである。それには、現時点でのOKのみでなく、新人が先輩となり新人への指導を成すべき事を踏まえた丁寧な施しが不可欠である。その最たる指導留意点は、単に身体の動かし方や〇×の評価でなく、なぜそうなのかの根拠、理由の解説を加えることにある。
つまり、やって魅せ、言って聞かせて、させて診るの指導ステップで、言って聞かせる段階での「なぜこうするか」の解説、させてみての評価時の「OKはなぜか、NOはなぜか」を教えることに他ならない。
この点も踏まえて、改めて確認しておこう新人指導での実践8カ条
①自分が習う立場で教育する。そこには「何故」「どうして」の説明を丁寧にする。
②概念や規則、仕組みが、どうして決められているかきちんと教える
③きちんと説明し、実際にやらせて、ほめて自信持たせる
- 何を意識して行うか、何のための方法や装置なのか説明、十分な話し合いをする
- 自分の知りうる体験から、その必要性と理由に基づく対処方法を施す
⑥「決まりは守らせる」そのためにも、その必要性を説き、自分が模範となる
⑦聞いてこられやすい雰囲気を日頃から創っていく
⑧ほめると自信がつく、教えたことがきちんとできればほめる
仕事の遂行は、正しい仕事のできる事。だからこそ、十分なる「理解・納得」を得る指導が不可欠であるからこそ、「なぜできない」「そんな事は言わずとも解るはずだ」と無精を棚に上げて攻める前に、それは「何のため・なぜ」の指導無精にありはしないかの確認が必要である。そして、次の留意ポイントも確認事項としておこう。
①個別理解を深める
最近の若者観に惑わされずに本人を正しく理解する。
②新人から学ぶ事も多い。叉、自身の仕事に生かす事も良い。新たな戦力として認め、かつ、自分にない異見異能を取り入れる心の広さが肝心なのだ。
◆この時期三つのコミュニケーション
新人のこの時期は、仕事の基本をものにし、多少の心のゆとりを得た段階である。観える。従って、自身なりのあれこれの思考を巡らし、聴いて欲しいとの欲求も芽生えるときでもあり、一方、先に向けての想いをふと考え出す時期でもある。そこで、成すべきコミュニケーションは寄り添いの三つの実践である。
- 寄って来させるコミュ二ケーションを生かす
「訊きに来る」「相談に来る」このような寄って来させるコミュニュケーションが良い。それは、新人の現実は、「訊きたいが」「相談したいが」との迷うことも多い時期である。それには、先輩への人間性の不信が芽生えていないかの確認が第1.それは、「訊きに来て下さい」との言葉には「このような人になりたい」「訊きやすい」、「丁寧に教えてくれる」この先輩の条件を踏まえてとらえるからである。この想いに反していれば寄ってくることはない。だからこそ、気持ちよく迎えて、可能な限りの時間を工夫し、じっくり聴いていく事が寄って来る関係づくりなのである。
②引き出すコミュニケーションの実践
基本がある程度できてくると新人の要望、意見も芽生える。そこで、心して欲しいことは引き出すコミュニケーションの実践。それは、「何か・・」あるのだろうと察しの配慮により、「あのー?」のこの言葉を新人から 掛けさせるだけで良い。なぜなら、そこから自然と「何か」と指導者から訊きに繋がり「実は・・・」と話しは進展していくからだ。ここに成長してきた新人への寄り添っての指導が現実化する、
- 察するコミュニケーション
また、定着への動揺、悩み的心中は行動によりシグナルを送っている事が多い。気にかけて観れば、挨拶、出勤時刻、歩きの後ろ姿、事への取り組み時の活力等の変化が一例である。その変化は相手から「気づいて欲しいとのシグナル」であるから、この状態(兆候)に早期に気づき、尋ね、聴き、小さい芽を摘みとっていくことだ。そこには「気づく」「察する」「静かなる雄叫びの心を聴く」この聴き方ができるならば、メンタル不全を未然に防ぐ(予防管理)ことにもなる。ましてや、突然、やめますの事態は起こるまい。「気が付きませんでした。言ってくれれば良かったのに」の後追いの自省は他責にすぎない。
◆迷ったときは上司、(人事)の協力を仰ぐこと
自分なりに精一杯成していても、時には、厳しい状況が起こることもあろう。それは、自身の仕事の多忙さや、新人の課題が発生する事がある。この時どうする。それは一人で抱え込まない。上司への報連相を生かす事により、適宜適切な支援を仰ぐことである。何故なら,責任持って頑張ってくれとの言葉の前提は「必ず、うまくいくように自分がカバーする」との覚悟があり、迷ったときには、いつでも声がけすることを望んでいる。なぜなら、新人にどうしても当社、職場で早期戦力として活躍を願うからであり、だからこそ、職場ぐるみ、会社ぐるみで育成して行くのである。従って、関わる人達の一体となった取り組みが不可欠だからこそ、上司、関係者の支援への働き掛けが肝心なのである。
福沢諭吉翁の人生訓の第一に「世の中で、一番楽しく、立派なことは生涯を貫く仕事を持つことである」といっている。だからこそ今できることを最高実践し、決してあのときにやっておけば良かった等との悔いは残さない。こんなたゆまぬ活躍を重ねる事がいつも胸を張って、誇りある先輩社員として活躍を楽しんでいく。それは、「先輩社員の仕事の遂行=働きがい=B・Sの役割=キャリアアップ=心豊かな人生づくりそのもの」と確認しての受講者へのエールとした。