髭講師の研修日誌(96)
「ベテラン層と後輩が交わすエンジョイの実践」
澤田良雄氏 ( (株)HOPE代表取締役)
◆ベテラン層研修も楽しい
メーカーで活躍するベテラン層の研修は楽しい。今回も「おはようございます.ご苦労様です.今日一日共に楽しく気づき合い、触れあい、磨き合って参りましょう」と板書する。まさにエンジョイ研修が筆者の講師信条である。それは、受講者が現状の、実践事実を確認し、今後の想いと、その新たな活躍実践する楽しみを抱く事にある。ここでの肝腎な事は、確認は自身を鏡に映すのでなく、研修仲間の言動を鏡にする事にある。それでなければ「井の中の蛙の、私なりにやっている」との自己満足に過ぎず、新たな活躍ヒントを見出すことはできない。だからこそ「共に楽しみ合い」のある研修を受講者間・講師で創り上げていく事に尽きる。
先日、大手鉄鋼所の協力企業で構成する協力会主催の「ベテラン層研修」を担当した。受講者はその道の達人、皆、入社時に目で覚えた時代から、多くの課題に取り組み新たに編み出した技能、技術に誇りを持ち得ている社員である。それに、「これまでの活躍は、皆さんのお陰です」の謙虚さも厚く、更に「社内外にお役に立っていきます」とのこれからの職業人生への気概を持ち合わせている。
従って、研修のストリーは、受講者各自の現状の活躍状況の事前レポート(主催・筆者で作成)の提出、その内容を基に対面型研修で相互に磨き合い、今後の変える活躍のヒントづくりとしている。その軸は、後輩・若手社員と共に創る「触れあいのあるおかげ様づくり」として、指導・支援を心した。その第一歩は、身近に頼られる「あの人がいるから」との存在感の確認である。
●お役立ての楽しみは、頼られる存在感が肝心
職場でのベテラン層への周囲からの見方は二つのタイプがあり、それは「あの人まだいるの」と「あの人いてくれるの」である。人生100年時代、職業人生の定年は、企業の定年でなく、自分で決めるのである。だからこそ「いてくれるの」との言葉は、頼ってくる存在感ある人であり、「触れあいのある施しの機会を創れる人」である。この周囲の人ヘの献身的施しは、新たに「おかげ様」の感謝を得、活躍の場の継続、あるいは社外からの寄ってきてくれる存在感を高め、生涯現役の将来づくりとなるのだ。ならばその施しの楽しみはいかにあるだろうか。
それは、自分の経験則での育みの提供と、若い人からの新たな視点での出される異見に学び、広い心で耳を傾けることにある。これがないと頑固、古いとのイメージができ、ベテラン層だからこそ秘めている専門力の施しの機会は失われていく。
確認して診よう。今日まで、企業の発展に尽力し,今後の進展に新たな貢献でき楽しみ方は後輩と共に、「選ばれる・選ばれ続ける強み」を創り出す楽しみである。改めて、その、活躍の楽しみ条件を確認して診よう
①専門力を生かした新たな業務に貢献する〈企業の新しい、初めて、独自強みづくりに一役を担う・関したプロジェクトメンバー)
②経験値を生かした、仕事の改革(現状の最高を打破し、新たな最高技能を創り上げる。ハイテク〈技術)の基は暗黙知をより高める事にある。新たな凄さは凄さを持った人の進化によるからである。
③組織での難解なる案件の解決に貢献する〈熟練者の持つ事実データー発想は貴重)
④後輩管理者への補佐・支援〈自部署のみでなく、関連スタッフも含め)
⑤後継者〈若手社員)への技能継承・育成(専任講師,OJTでのトレナー)
⑥関連企業への指導、育成〈専門分野・経営・管理法)
⑦職場の活性化、風土改善にオーラのある言動で牽引する(士気減退の姿勢は老害)
である。
ならば、この施しを楽しむ気概はいかにあるだろうか。それは、ベテラン層パワーを現在を単に良しとすることでなく、「さらなる変える楽しみ」の気概を持つことにある。「今更,無理をすることはない」とのマインドの低さは勿体ない。役職定年,定年後の継続雇用での頼られる存在が薄れ「あの人まだいるの」では決して居心地は良いことではなく楽しむ活躍ぶりは遠くなる。
●「寄ってくる」コミュニケーションの実践を楽しむ
そこで、施しの機会としての訊きに来る・話しに来る、この「寄ってきてくれる」条件を育む実践はどうするか。それは、日常の良好なコミュニケーションの施しに他ならない。ならば、具体的にはどうする?そのヒントは、事前提出レポートの「良好なコミュニュケーションの実践」の事実例にも多く紹介されている。例えば、
*先ず、自ら率先の大きな声での挨拶 *できる限り声がけし、仕事の悩み・不満なきようにする。 *趣味などのはなしで相談しやすい、話しやすい環境作りの実践 *誰に対しても挨拶を実践 *人の面前での叱りはしない *機嫌悪い顔しない、そして陰口、ぼやき、弱音は吐かない *若者の興味ある情報を自分なりに集めて共通の話題づくりに生かす。*挨拶時に察する相手の困っている事への積極的フオローをする *冗談を言い、あまり先輩面しない・・等が紹介されている。勿論、決められたルールの厳守、もし、他の人がルール厳守なきときは声がけする。とのコンプライアンスに留意したコミュニケーションの施しもされている。
いかがであろうか。ここには、共に活躍する職場の雰囲気作りに、若手社員層に対して、ベテラン層から仕掛る良好なるコミュニケーション作りの実践がある。とかく、若手から声がけせよとの説きがあっても現実に難しい。だからこそ、ベテラン層から心を開いて近づく一言の声がけが会話へとつなぎ、親しみ合う関係ができ得るのであり、この関係が、必要な時に、寄ってくる後輩・若手に対して、教え、語り合いでの「おかげ様で」との施しが可能になるのである。
しかしながら、現在は不十分さが気がかりであるとしている。それは、最終のグループワークでの「職場の雰囲気やコミュニケーションをどうよくするか」の提起内容には「上司・先輩・後輩との飲み会」「飲食を伴う懇親機会」この実施をしたいが・・・との意向も発表された。この要因は、コロナ禍での制約条件による対面型コミュニケーション不足による相互の親近感の乏しさである。従って、その後遺症を早期に回復すべき時である事から、この実践が不可欠なのである。又、採用計画により、高齢者と若年層の中間層なる社員が少ない企業も多く、ギャップがありすぎの課題もある。
しかしながら、この条件を踏まえて後輩との楽しみづくりに不可欠事項は仕事力の育みの施しである。
●繋ぎ、後輩の育みを楽しむ
それには、卓越した能力を属人化しないことである。例えば、仕事は私が一番知っている、私にしかできないというプライドを持っての任務遂行は良いが、この仕事にすがりつき、渡さないとの囲む意図は,組織活動では望ましくない。むしろ、ここまで進化させてきた技術を後輩に繋ぎ、後輩がより向上していく楽しみを育む「託す、任せる実現」に向けての指導・育成を楽しむことが良い。
その、実践例としては事前レポートに次の内容が紹介されている。
*設備故障時、自分たちで修理可能な場合は、若手を同伴一緒に修繕指導 *それぞれの考え方に対応し一通り教えて、実際作業を指示、そして、工夫を促す *現地、現場で直接説明し、質問を受ける *現場でやりやすい方法、手順指導、容易作業から高度技能へと指導、個々の能力を見極め、良き点の生かせるようセミナー受講への機会づくり *自分の経験や過去の事例を元に危険箇所を伝授・・・等が紹介されている。
いかがであろうか。一方的に教え込むのでなく、共に創り上げる指導の楽しみ合いであり、将来、指導的立場になった折りにも指導できる能力を育み、生涯に渡って逞しく活躍できる後継者の育みである。
そこで、加えて、後輩・若手が、自身を生かし、成長する楽しみを喚起する指導法としてコーチング法の活用について確認指導する。
◆自分で考えて成すこの指導を楽しむ
コーチング法とは一言で言えば相手の自発的な行動を促進させるためのコミュニケーション法であり、「目標達成に向けて、自発的行動を促す」あるいは、仕事の方法を指導するときにも、単なる指示・命令調で一方的に教えるのでなく、あくまでも「本人自身の考え方で、主体的に行動を起こしていくよう働きかけていく」方法である。 つまり、本人が本来持っている欲求に基づき、能力及び行動力を引き出す働き掛けなのである。従って、指導する上でも、経験・レベル(能力、理解力、思考力・・)に対応した指導実践法として「自分で考えて成長することを楽しませる育成」の施しとして活用できる。
その極意は、質問し、考えさせ、考えを出させ、認め、補足し、本人の自発的活躍に導く事にある。それには、
①質問する=「こうしなさい」式の命令調でなく「これはどのように仕上げたらよいかね・それはどうしたらいいと思うかね?」などと質問、あるいは、「Sさん、例のN製鉄さんに納める部品、納期に間に合いそうかな?」←「実はこのペースだととても間に合いそうもないので、気になっているんです」→「そうか、こまったなあ・・」「とするとSさんはどうしたらいいと思うかね?」←「今のやり方だとまずいと思うんです。」→「そうか、どんな点がまずいと思うのかね?」←「機械の調整に手間がかかりすぎます。結構時間が取られています・・」→「そう、調整時間を短くする方法は、どんなことが考えられるのだろうか・」← 「そうですね。前から考えていたことですが、調整用の治工具を改良すると、早く調整ができると思いますが・・」というように、問いかけることで、本人の考えや知恵を引き出す。そこから承認欲求が満たされ自発意志が高まる。
②気にかける一言の施し
*行き詰まっているのかなーのときに=「疲れているみたいだがどうなのかナー?」「なにかして欲しいことあるー」「どうして欲しいかな?」
*自信がないとき力づける場合=「以前上手くいった時にはどんなやり方をしたのだろうか?」「強味を生かすとするとどうしたら良いだろうか?」「貴方ならできると信じているよ、何か手伝うことある?」「思いつくまま善し悪し考えずどんどん出してみようか?「自分でできる事はどんなことだろうか?」
*間違いを気づかせる時には=「これだけで想いを達成できるだろうか。どう思いますか?」「この状態をこのままにしておいたらどうなると思う?」「ちょっと気になるんだけど。貴方なりの感じかたはどう?」等が考えられる。
③否定せずに肯定話法で問題解決の糸口づくり
失敗したとき頭ごなしに「だから言ったじゃないか」叱りつけず「何が原因なのか考えてみよう」と問いかけることで問題解決の糸口の発見に向けさせる。この場合も「何でうまくいかなかったのか、やり方が悪かったのはどこか」と責任追求型の質問でなく、「どうすればうまくいったと思うかな」と言った肯定型の質問をする。そこから今度はこうしようとの知恵が自発的に出されてくる。案外問題解決や失敗対策は、すでに本人が持っているものである。「なるほどそうか」 「○◎だと考えているんだね」「これは任せて大丈夫かな」「このような点を留意すると更に良くなると思うがいかがかな・・」と補足の施しも適宜施すと良い。
いかがであろうか。今夏の高校野球大会で注目された言葉として、「エンジョイベースボール」「自発性を生かす」「自分たちで考えて、自分の役割を全うしよう」「より高いレベルを楽しもう」・・があった。
若手に限らず人は、「認められたい」「成長したい」役割を果たしたい」そして、「好かれたい」との欲求があり、その欲求の満たしは活躍の喜びであり、その喜びは「あなたのお陰です」との良好なる対人関係による「自身を生かし、育ててくれる育みの働きかけ」によるのである。
●若い人からの学びを楽しむ
育みの楽しみは、実は、若手から学べる楽しみを得る事でもある。それは、ベテラン層にない優れた能力、発想を素直に学び、自身の成長の糧とする事に他ならない。
今研修受講者の声も *若手に修理指導の際、自身の現状方法を再確認し、さらなる向上のヒントを掴む *若手への指導時に、若手からの質問から、共に考え、若手の意見などから学ぶ *ITに関しては若手の活用は凄い。教えて貰うことも多い *若手技術者に問い掛け、専門的知識を学ぶ事も楽しい」・・がある。そこには、若手が日頃のコミュニケーション・指導を受ける中で、自然に沸き立つ「憧れの人」からの求められる要求に施す楽しみを重ねている様相が伺える。
この学ぶ楽しみは、ベテラン層のより成長であり、企業貢献に適応した活躍を楽しみ、同時に、将来に向けての「売れる力・稼げる力」のキャリアアップに他ならない。
今研修、筆者も共に楽しいサポーター(支援・指導者)であった。そこには、苦労を楽しむ準備・現場対応にほかならない。苦労を楽しむ、ふと、五輪重量挙げ金メダリスト三宅義信氏からの「苦労は楽しい事である。なぜなら、世界一になる目標は、その実現に向けて他選手よりも、苦労を強いることであり、その苦労(努力)の克服は、世界一に近づく楽しみである」との直話が浮かぶ。
企業活動での現実は、ベテラン層、後輩、若手この関係は、縦の絆から変わって来ている。だから、コミュニケーションや指導も難しいとの論調も多い。ならば、難しい、苦労があるから楽しめるとポジティヴにとらえてみるとよい。それは、新たな方法の見出しと、共に生かし合う施しによる楽しみ合いを共有できるからである。
ベテラン層の偉大な力は企業の財産であり、この財産をより価値付けして行くのは後継者である。それは共に常識を変えていく楽しみ合いでもある。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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