【真田幸光の経済、東アジア情報】
「複雑な世界情勢下、注目される植田日銀総裁の動静」
真田幸光(愛知淑徳大学教授)
米英に反発する国の中で産油国は意外に多い。
ロシア、サウジアラビア、イラン、ベネズエラなどがそうした国に挙げられ、これら諸国は、水面下で連携をして、石油減産、そしてコスト・プッシュ・インフレを意図的に引き起こし、米英とその同盟国経済にもう一段打撃を与えるかもしれないとの見方も出てきている。
実際に、米国にカショギ殺人の指示をした張本人と攻め立てられているムハンマド皇太子率いるサウジアラビアは、こうした意図があってか否かは別にして、石油減産を示唆する動きを強めつつある。
こうした結果、国際原油価格は上昇傾向を示し、物価上昇懸念が再び広がりつつある。
米国のパウエルFRB議長も物価上昇懸念の中、必要に応じて、米国が政策金利を更に引き上げる可能性があることを否定していない。
こうして、基軸通貨発行国・米国をはじめとする世界の多くの中央銀行の金利に対する悩みは深まっていると言えよう。
物価を適正に安定化させる為には金利を上げなければならないが、しかし、昨年以降のインフレとの戦いであまりにも多くの「金利引き上げ」を実行してしまった為、追加引き上げが必ずしも簡単ではない、否、経済回復の重荷になる可能性は高い。
しかし、だからと言って、政策金利の引き上げを抑えながら、インフレが過熱した場合には、最悪、1980年代の米国の経済情勢のような悪夢が再現される可能性もある。
世界経済情勢は厳しい状況にあり、これにより、米英の秩序が崩れるきっかけにもなりかねない。
その場合には、虎視眈々と経済覇権の拡大を図る中国本土の利となる可能性もある。
複雑な世界情勢の行方を読むことは丁寧に行っていかなければならない。
こうした中、国際金融市場では、筆者にとっては意外にも円が米ドルに対して円高に戻ると言う見方をする向きが強い。
「来年には、1米ドル当たり110円前後にまで回復すると言う見方があり、また、2~3年はかかるが円は円高に戻る」
との見方がある。
7月28日、植田日本銀行総裁が年0.5%の国債10年物の金利変動上限幅を年1%水準までは容認するという計画を明らかにした。
これにより、今後、日本の金利が上がり、円安現象も緩和されるという観測が出ているが、今のところ、変化が始まる時点といつになるのか、不確かである。
GDP基準で、経済規模世界第3位の日本が金融政策の方向を修正すれば、世界経済に与える影響も小さくはない。
なかなかポジションを明かさぬ植田日銀総裁の動静は注目されている。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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