髭講師の研修日誌(100)
憧れの社員像を確認し、来たる年の望みに生かす
澤田良雄( (株)HOPE代表取締役)
◆2023年の言葉「憧れることはやめましょう」から確認する
「憧れはやめましょう」–この言葉は昨年の流行語大賞にもリストされ、多くの場面で話題となった。
この言葉は今春のWBC大会の決勝戦アメリカとの対戦前に、大谷翔平選手がチームメンバーに呼びかけたメッセージである。その概略は、「僕から一個だけお願いしたいことは、憧れることはやめましょう。米国代表には野球をやっていれば誰しも聞いたことがある選手達がいると思うんですけど、今日だけは、やっぱり憧れてしまったら超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになる為に、ここに来たので、今日一日だけは、彼らへのあこがれを捨てて、勝つことだけを考えましょう」という内容だと各報道で紹介された。
その前提は、みなもそのレベルの力を持っているという誇りを確認する事であり、力なき大差のある人には通用しない投げかけの言葉だと理解し、「大谷選手が、各自を認めているからこその言葉だと理解できる。そこには、勝つために選ばれた優秀選手であり、監督の考えを元に、各自の活躍場面では、勝つために今、自分はどうすべきかの、全体最適の判断に基づく最高プレーに徹し、勝ち上がってきた事実に基づく。例えば、大谷選手のセカンドベースでの雄叫びやバントなど、自分の際立てよりも「繋ぐ」に徹するチーム貢献もあった。だからこそ、皆が固唾をのむ・・・。そして各所の劇的場面にチームのみならず、最大の人々が歓喜の瞬間を共有した。
この事は企業活動でも共通することである。社員それぞれの活躍は、所属しうる部署で、部署目標達成に向けて、役職、役割に対して持ちうる確かなキャリを最大に生かし貢献することである。そこには、憧れの社員が存在するからこその強い集団力が形成され、その集大成の企業力が持続的経営が実現している。
昨年もその支援の一助として人財育成でのお役立てを施してきた。そこでの最近の研修における活躍層における憧れ条件を確認してみよう。
◆憧れの条件それは三本柱
昨今の研修では、第一線現場での中堅社員、集団力を生かし実績形成するリーダー層、そして、熟練社員、また、創業を成功させたい憧れの人、この人に着目し憧れの条件を浮かび題していくことにする。まず、どの対象者に共通している憧れの条件は次の3条件である。
1.専門力が豊かであるから実績を示せる人
2.魅力的人間味で人を寄せ付ける人
3.人の心に伝わる話す力を持ちうる人
なぜなら、活躍現場において、「あの人に訊いてみよう、頼んでみよう、あの人だからついていく」との信頼感のある人として「寄ってきていただける人」だからである。
言い換えれば、「私には、この強みがある」」ということを相互に認め合い、「お役に立てる」相互支援の実践を成せる人である。その生かし合いの基本スキルの話し方・聴き方の交わし合いが共に活躍のしがい(楽しみ)を高め、組織集団の強さ作りになることは言うまでもない。
◆憧れの先輩、そして中堅社員としての活躍
建設部品等のトップメーカーS社の新人の7ヶ月研修(2日間)の最終項では「当社の社員として貢献する人財にこうしてなる」とのテーマでワークショップ形式でまとめ上げた。その努力の楽しみ方はラッキーセブンの次の条件である。
①当たり前の実践で信用を重ね、任され、責任持っての活躍する信頼される自分になる
②顧客から信頼される社員(企業人)となる
③自ら考えて、その考えに基づく行動を起こせる社員になる
④目配り、気配り、心配りができる当社社員になる
⑤一人ですべてやろうとせず、周りの人に適宜頼る
⑥社員一体となって,当社ブランドを高める。その一役を担う楽しみで活躍する
⑦将来、誰とでも心を通わせられる理想の上司になる!!
ちなみにS社の人財育成体系での人財3条件は、共生・挑戦・創造である。今研修でもその近づきへの考え方・実践スキを確認・み断した。その上で、入社時、憧れた先輩をスケッチし、自身も、後輩からの憧れの先輩社員としての魅力をつける意図を議論し合っての発表である。来春、先輩となりやがて、任され、選任持った実力社員となり、やがて中堅社員となる。
◆中堅社員の憧れ条件は
「大谷選手の素晴らしさは、打つ、投げる能力の凄さは勿論だが、人間的魅力も素晴らしい。そこには真摯に人との関わり合いもあるし、冗談混じりの温かみもある。そして、親、監督、関係者・先輩に対するわきまえを持った(敬意)接し方も素晴らしい。従って、大谷フアンもにわかに増えたのである。S社社員の成長ぶりもやがてこの域に入る。
その憧れ像は、
①実務の中心→日常業務を取り仕切る→責任ある当事者
②業務のプロ→担当する業務に詳しい→責任ある専門家として実績を誇る
③役職者候補→業務のリーダー・若手の良き指導者
である。
なぜなら、「第一線現場のコア(核)人財」であるから、上からも、下からも、他部門からも一目置かれ、発信する言動の影響力がある。そこには、単なる実務者でなく論理(冷静な分析、思考に基づく考え抜かれたストーリー)構成能力が伴っている。だからこそ「このことは、○○さんに聞け」、と頼られるまさにコア人財(いなくては困る人)として存在感がある。
従って、その活躍成果は、「任され・責任持って・関わる人の協力を得て、実績を創り、部署に貢献できる」ことであり、実力担当者として、仕事の改善者・上司の補佐役・ 協力関係構築者・指導支援者・そしてムードメーカーである。正に大谷まがいの人である。大手鉄鋼メーカー協力企業主催の中堅社員研修でこの具体的条件を確認したのは、それは次の活躍を魅せている人である。
①誠意・努力・責任感の溢れるねばり強さで、目標達成できる人
②計画性に富み、安心、信用の太鼓判を押せる仕事遂行の出来る人
③不測の事態に先々を読んで仕事の出来る人
④ネアカ、前向き、素直等の人間性の良さを太鼓判の押せる人
⑤上司を信頼し、協力依頼に素直に対応、建設的意見を提供する人
⑥自ら、学習熱が高く、自己啓発に取り組む人
ちなみに、中堅の文字の意味は全軍の精鋭が集まるから「堅」と意味合いがあり、「堅い」こととはしっかりしていることで、よろい、かぶとと例が記されてもいる。大谷選手の元の所属チームではホームランを打つとかぶとで祝福された。ここにも大谷選手の貢献があった。
また、行政でのC市の研修では中堅技能員研修を担当した。住民満足を生み出す第一線の要の職員である。調理士の喜びは、園児、生徒から「美味しかった」と声がけされること、学校関係校務員からは、「いつも校庭、植え込みがきれいになっていてありがとうございます」と笑顔で声がけいただくことなどの事実例が紹介された。まさに、キャリアが生きた市と住民の橋渡しの見事な活躍ぶりは憧れの条件ともいえる。
◆リーダー時は、人を生かした実績づくり
自動ドアーの主力企業のC社での全社各層研修で監督者・リーダークラスの研修を担当した。このクラスの憧れ条件は、
①この人のためならと信頼を得る専門力・実績を有し、かつ人間性の豊かな人
②「なるほど」言うことはもっともだと、理解納得させる伝える力を持った人
③この人の一生懸命さが伝わってくる、熱意ある実践力を醸し出す人
と確認した。
それは、リーダーの活躍は、組織活動で関わる人々の協力を得て、実績づくりの貢献である。それが存在感ある憧れを創る。今年の流行語大賞は、アレ(A.R.E)であった。これは、阪神タイガース岡田監督があれ、それは優勝の強い意志の言葉として使い、見事日本シリーズ優勝を果たした。
そのほかの監督、指導者、舞台・映画・イベントの監督や指揮者などの責任者を見れば、協力者からの「確実に実績を残せるメンバーとして誇れる」との思いが、チームが一丸となって難関と思われるときこそ底力で成果を導き出す。その結果、「皆さんの心からの協力のおかげです。本当にありがとうございました」と声を詰まらせながら、感謝の言葉を述べるのは、リーダー冥利であり、憧れの認知力を高める事実である。
さて、大業の一役を担っていただく協力とは、それは、異質の人の専門力と心をつなげる手腕である。現実に目をとめれば、タテ方向に下に部下、上に上司。ヨコ方向に同僚、ななめ方向には、他部署、社外の関係団体、顧客、他社の人との関わりであり、特にナナメ方向の人は、自分、自署、自社以外の専門家である。だからこそ、ゴールに向けてのスピードと創り出す成果の品質の高さを確保できる。ここで、リーダーの器と力量が問われるが、日頃からの活躍で「このことはあの人に聞け」と一目置かれる専門力を持っている人は、頼む側としての強みであり、人間味の豊かさは「あなたと一緒に一度仕事したかった」との声も得られる。
このように異質の専門力を持った人の人脈を持つことで、強い陣容を整える事ができる。従って、そこには組織内外に「仕事のひきだし」と「人脈のひきだし」を持ち得る人である。
◆ベテラン層の憧れは頼られる存在感
先日、大手鉄鋼メーカN社Y製鉄所の「エバースマイル(いつまでも笑顔で活躍する)を担当した。受講者は入社時に目で覚えた時代から、多くの課題に取り組み新たに編み出した技能、技術に誇りを持ち得ている社員である。
職場でのベテラン層への周囲からの見方は二つのタイプがあり、それは「あの人まだいるの」と「あの人いてくれるの」である。人生100年時代、職業人生の定年は、企業の定年でなく、自分で決めるのである。だからこそ「いてくれるの」との言葉は、頼ってくる存在感ある人である。当然憧れの人は、生涯稼げる人である。
①卓越した専門力と人間性の豊かさ。だからこそ、この能力の施しを活かす。この施しのパワーは「このことは、あの人ならではのものだ」と評価される人
②常に経験則に新たに専門力を加えていく。そのためには、学び心をなくさない。人の異見を聴かせていただくこともあり、自分の可能性を信じる人
③ベテランだからこそ人間的な実りがある。人間味を創るのは、日ごろからの 周り人への「おかげさま」との謙虚さである。それは「実るほどこうべの垂れる稲穂かな。」の徳を保ちうる人
④技術継承は「自分の分身を宿すこと」。宿してくれる後輩に「ありがとう」 との感謝で以後、指 導支援を惜しまない人
⑤公私を問わず相談を受けることは、「信頼される人」ならではのこと。信頼して相談に来てくれたことに感謝し、親身になって対応するいざとなったら「あの人に聴いて頂こう」との包容力にある人
この憧れ条件は、エバースマイル(いつまでも笑顔で)で心豊かな人生を築くがそれには3Kが肝心。3Kとは、健康、経済性、決め手である。経済性とは自分で自由に使えるお金の確保である。それはたとえ年金生活になろうが、ボランテア、趣味、社会活動を楽しむ費用を保ちうることである。この不安は楽しみの活動を狭め、決して笑顔の一生とはならない。そのためには稼げる決め手保つことである。実は、確認した憧れ条件は、生涯にわたってその機会を得られる決め手作りの条件である。決め手を生かしたお役立ては、稼げる機会であり、今日やること、今日行くことの心身の健康作りとなるのである。
◆創業塾で紹介された憧れの創業者とは
先般、地元会議所主催の創業塾の講師陣とし対応した。「映像の仕事で事業化する」「日本茶を専門に提供する喫茶を開店する」「生花を生かした「花育」と称して、子供たちが直に花に触れ、作品創造の喜びを感受する学習を普及する」「アロマセラピーの活用で、快適な環境、心、美容の活用を普及するワークショップを設営する」「美容室開店」「パラグライダー体験クラブを開設します」・・
今回も想いを実現する気概を持った受講者で充実した6日間の研修であった。当研修の回を重ねてきたからこその喜びの一コマに受講者の受講動機に「それは、この塾の修了し開店したNさんに憧れたからです」と紹介した一言である。
憧れのNさんは5年前に卒熟し「焼き菓子店を開業し成功し、4年後に、焼き菓子に喫茶レストランを併設した新店舗を開店した人である。Nさんは、子育て女性、高齢者女性層をターゲットに、素材と上品なおいしさを加味した商品開発を駆使し、焼き菓子にプラス関連商品も新作、商品群を拡大してきた。
路地裏に位置した店だが、チラシなしで口コミでの評判が広がり、3年目には「競合店はない」との自信をのぞかせた。その人間力は商品開発、製造、接客をこなし、まさにお店の顔としての魅力にあふれ、賢しを備えた女性である。そこには「楽しい」このキーワードがお菓子に転嫁されお客様の食する楽しみに届くという信念がある。だからこそ笑顔で何事に向かうその人間Nさんの魅力が常に醸し出されている。新店舗でも変わらず、社員も同様の魅力を醸しての評判店である。
いかがであろうか。成功の柱は、顧客様の真なる欲求を察し、受け入れ、応えたサービス提供、商品提供があること、しかも、進化を加えてより高い満足を提供する素晴らしさがある。
もちろん実現していくトップとしての市場、顧客の要求を素直に受け入れていく器量の豊かさがあることは言うまでもない。そこにはお客様から学ぶ、経営に関しての提供される示唆事項をも受け入れ、再考を重ねて判断、決断する人間力が生きている。これらの条件を憧れの創業者としてくくってみると
①初心の熱き想いと、心と初顧客への謝念は絶対に失わない人
②「楽しい」このマインドをトップとしては関わる人への行動の基本とする。それは商品に心を宿し、顧客に届ける。その届きが顧客の喜びを作る人。
③専門力を磨く。それは広げる、深める、新たな知識、技術を取り入れる人
②人だからこそ提供できる笑顔、挨拶、接客、相談対応、新たな知恵による新商品・顧客満足、そして安心安全の信頼を創りだせる人
⑤人から学ぶ素直・謙虚さ、人へ施しは相手の心と願いの受容に応えた利他の実践をする人
⑥面白さ、ユニーク、自己顕示の人間味が企業を際だてる。硬軟併せ持つ人
⑦価格の善し悪しは顧客が決める。それは喜びの提供を成し、高満足の創造であると心する人。
⑧ここぞと思う機会を逃さず、事業拡大を判断し決断、決行する人
の八、それは末広がりの創業経営者としての憧れられる条件である。
昨年は大谷選手からの学びも多い年であった。改めて昨今の研修現場での「貢献する社員の活躍楽しみ方」の指導支援を振り返り、受講者のその学びを実践する継続力によりいつしか、憧れの人の存在に近づいている、いや、多少に関わらず「憧れの人」と称されている人もいよう。
来たる年、より、磨き合いを楽しみ「憧れはやめましょう」と自信と誇りを自他共に認め合いたいと念じる師走である。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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