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国際通貨基金IMFの世界経済見通しについて(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
国際通貨基金IMFの世界経済見通しについて

真田幸光(愛知淑徳大学教授)

科学的で客観的で中立的であるとされる国際機関であるところの国際通貨基金IMFは2024年の世界経済見通しを発表しました。
 
その総括を見ると、以下のようになっています。

「世界経済の成長率のベースライン予測は2022年の3.5%から2023年は3.0%、2024年は2.9%へと暫時鈍化する見込みである。
これは、歴史的(2000~2019年)平均である3.8%を大きく下回ることとなる。
先進国の成長率は、金融政策の引き締めの影響が出始める中、2022年の2.6%から、2023年は1.5%、2024年は1.4%へ鈍化する見込みであり、特に欧州には不安が残り、日本も減速する見込みである。
新興市場国と発展途上国の成長率はやや鈍化し、2022年の4.1%から、2023年と2024年は共に4.0%となる見込みであるが、先進国よりは、潜在的な消費需要、潜在的なインフラ開発需要と言う実需があることから先進国よりは高くなると予想されている。
一方、世界のインフレ率は、国際的な一次産品価格の下落が金融政策の引き締めと合わさり、2022年の8.7%から2023年は6.9%、2024年は5.8%へと安定的に鈍化する見込みである。
コアインフレ率は総じて、より緩やかなペースで鈍化し、大半の地域で、2025年まで目標値まで戻らない見通しである。
現時点では、インフレ期待を引き続きアンカーさせる為に、金融政策の措置と枠組みが鍵となる。
経済主体のインフレ期待を管理することで生産高への打撃を抑えつつディスインフレーションを実現する為の、コミュニケーション戦略などの金融政策枠組みの補完的な役割を強調する。
地経学的分断化への懸念が高まっていることを踏まえ、一次産品の世界貿易の混乱がどのようにして一次産品価格や経済活動、グリーン経済への移行に影響を与える可能性もある。」
とコメントされています。

コストプッシュインフレや為替レートの変動に伴う輸入インフレという「悪いインフレ」を回避し、ディマンドプルインフレという「良いインフレ」へと上手に転換できるか否かが一つの大きなポイントであり、もしも、悪いインフレとなると、米国をはじめとする先進国は再びインフレ対策の為の、
「政策金利の引き上げ」
をせざるを得なくなり、これが引き金となって、米国や韓国などでは金融機関の不良債権問題が顕在化、その結果、大きな金融危機が世界にも広がっていく危険性も起こり得ます。
 
IMFの見通しは、上述したような究極のリスクは想定から外したものであるということも念頭に置きながら参考にしたいと思います。

[世界の主要国の経済成長率実績と予測]
出所:IMF 単位:%
          2022年  2023年   2024年
世界全体      3.5    3.0     2.9
米国        2.1    2.1     1.5
ユーロ圏      3.3    0.7     1.2
 ドイツ      1.8    -0.5    0.9
 フランス     2.5    1.0     1.3
 イタリア     3.7    0.7     0.7
 スペイン     5.8    2.5     1.7
日本        1.0    2.0     1.0
英国        4.1    0.5     0.6
カナダ       3.4    1.3     1.6
アジア新興国その他 4.5    5.2     4.8
中国本土      3.0    5.0     4.2
インド       7.2    6.3     6.3
ロシア       -2.1   2.2     1.1

また、こうした厳しい経済見通しが示されている中、株価だけは堅調に推移しています。
 
アジアの株式市場の個別銘柄の株価を見ていると、例えば、日本のトヨタ自動車の2月15日の時価総額は55兆1,882億円を記録し、同日の韓国の三星電子の時価総額(436兆ウォン)を韓国ウォン基準で見ると54兆ウォンほど上回る時価総額となっています。

トヨタ自動車の時価総額が三星電子を上回るのは2016年8月以降、7年6カ月ぶりとなります。
また、アジアの株式市場の時価総額ランキングは1位台湾積体電路製造TSMCとなっており、トヨタと三星を大きく引き離して一位、二位トヨタ自動車、三位三星電子となっています。

株価は強含みで推移しています。

 

真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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