髭講師の研修日誌(102)
微笑みの言動が自己実現の喜びを創る
澤田良雄( (株)HOPE代表取締役)
◆「お世話になりました」それは、自己実現欲求を喜びとした感謝
この時期、飛び交う言葉は、卒園・卒業・入社・転勤・定年・昇進・昇格に伴う交わし合いが多い。そこには、「お世話になりました。」と感謝の笑顔と寂しさ、そして、おかげさまでとの感謝と寂しさの幸心であり、時には感極まりの涙あり、ハグしての背中のたたき合いが見えます。
それは、ここまでの関わりでの互いの喜びづくりを成した賜であり、次の活躍舞台への期待するエールです。ちなみに微笑みとは、お日様に向かって両手を広げて、「いつも光を翳し、温かみを与えていただきありがとうございます」と感謝し、安心し、「今日もよろしくお願いします」とニコッとするその表情です。
年始めの初日の出への心境を思い起こせば合点がいこう。その嬉しそうに笑っている顔を笑顔と称しています。従って、心の表現であり、単なる作り笑いでありません。従って、この微笑みの笑顔で相手を、受け入れ、包み込む一言を施すと、自然と微笑みが返ってきます。例えば、笑顔で「おはようございます」と挨拶すれば、笑顔で「おはようございますと」返礼されます。なぜ、多少深めて考えてみると、それは、相手の認知欲求を満足させるからです。
なぜなら、誰でも、認められたい、好かれたい、役割を果たしたい、成長したいという4タイの欲求を持っています。この4タイの欲求とは、認められタイ、役割を果たしタイ、好かれタイ、成長しタイであり、自己実現欲求、認知欲求と説かれることが多い。従って、笑顔での挨拶は、自分の存在を認めていただき、好感を寄せてくれているとの嬉しさなのです。
現実には、褒めの一言の実践があります。例えば、「よくできたね」「さすがだね」とか、挨拶言葉での「○○さーん。お会いしたかったんですよ」「あなたの笑顔が大好き、今回も楽しくなりますね」があり、期待を掛けての一言には「○○もできたあなただからこそ、この件お願いします」、そして、実りの実態を確認できたときには、その過程での素晴らしさを含め「よく頑張りましたね」「おかげで助かりましたよ」「力がつきましたね(仕事力)」」ねぎらい・賞讃・感謝の言葉を掛けています。
この時期の、笑顔でかつ涙しての「ありがとうございました」「おかげさまです」「これからも、頑張ってください」…交わされるシーンは、この4タイの欲求が自己実現できた喜びの御礼でもあるのです。如何であろうか。実に微笑ましい光景です。
◆皆さんの喜ぶ笑顔が大好き
ふと、見上げると、チエーンレストランに関わる企業経営者の学習会に出講した折、その会長(食材供給、卸業経営)H氏からいただいた、詩画作品の「皆さんの喜ぶ笑顔が大好き」の額に目がいく。笑顔の部分の顔の部分は左側に彦が書かれ、右側には喜び一杯の笑顔が描かれています。実に満面の笑みです。
正に、活躍はなんのためにする。それは、相手のお役に立てること、「身近なあなたのために」の心情で、相手の喜びを創造することの気概です。そこには、笑顔で、明朗(明るく、朗らかに)に楽しみを持った言動で自身の力の施しの実践です。周知のとおり「自分のために」と塊過ぎたら、この笑顔での明朗なる活躍ぶりは如何でありましょうか。
実は、「あなたのために」との施しは相手の自己実現欲求の喜びの実現に貢献し、その満足により「○○さんのおかげです」と感謝の笑みで返礼されます。「そうでしたか。お役に立って良かった」と笑顔でグータッチする、ハグする瞬間を創ります。この瞬間の喜びは、自身の幸福感となります。自分に返ってくるこの喜びは、「自身のために」となりませんか。
このような施しの実践を成している人に、筆者の敬する幼稚園理事長のO氏がいます。O氏は二宮尊徳翁の考えを生かした経営で見事な発展を持続している人であり、人望の厚い人です。時折、尊徳翁のたらいの水の例話を話されます。それは、「たらいの水を欲を起こして水を自分の方にかきよせると向こうに逃げる。人のために押しやれば、我が方にかえる。金銭も、物質も人の幸福も又同じことである」との教えです。
O氏の実践は、毎朝、園の入り口で、園児を「おはよう!!」と一人一人に声がけし、園児が駆け寄る楽しみを満喫しています。この行動姿勢は職員、保護者にも自ら働きかけ絶対的信頼を得ています。それは、「新入園児は卒園者のお子様です」「新職員は卒園児です」と笑顔でお知らせいただくことです。
また、経営者の早朝の学びの会で「今日も笑顔で…」と満面の笑みで語りかけます。思わず「ハイ」と大きな声で、笑顔で返礼する仲間の手の拳に思わず力が入るのは自然の成り行きです。
◆笑顔を創る活躍の楽しみ方
さて、先日、T幼稚園の職員研修を担当しました。T幼稚園は、民家の街中にありますが、設立者の想いは「豊かな自然環境での育みをする」ことから、園庭の木々、隣接する農場を生かした野菜作り、魚、幼虫からさなぎ、そして蝶へ…の体験学習を取り入れての特徴があります。
保護者からの評価にも「季節毎に種や苗を植えたり、収穫したり、その野菜でカレーを創って食べたり、ブドウ狩りしたり自然に恵まれたいろいろな経験をさせてくれること、その体験をのびのびと温かく見守ってくれている先生がいて安心…」との多数の声を得ている園です。そこで、数回訪園し、園長の想いをしっかりと受け止め、どうお役だてするかの内容、方法を共有化して実施にしました。
その研修テーマは「より園児の笑顔を創る活躍の楽しみかた」とし、対話型講義、演習、そしてワークショップとしてグループ編成による「園児の喜びづくりの実践紹介」そして「さらなる笑顔づくりの活躍提案」を策定し、全体の発表により共有化しました。特筆すべき事実は、各自の喜びづくりの実践紹介は、晴れやかな口調、表情、ゼスチャーでなされ、その場面を彷彿させるリアル感に満ちており、まさに園児の笑顔が目に浮かぶ筆者であったことです。
総括したK園長からは「この体験実例は、各自の財産であり、園の財産です。今後様々な条件を擁する園児一人一人の笑顔づくりに、工夫を加えて活躍してください。そして、実践成果を相互に共有化して行き、互いの喜びづくりのお役立てを推進して参りましょう」と結ばれました。
如何でしょうか。幼児教育の職業観をしっかり持っての先生としての共通している活躍ぶりの実際は、「楽しい思い出もあるが、胸がぎゅっと締め付けられる思いや、悩み、葛藤もあります。そんなとき支えてくれるのがやっぱり子供たちです。「先生大好き」と当たり前のように愛溢れた言葉を伝えてくれることです。この言葉が勇気を与えてくれることです」…この現実あっての笑顔づくりの活躍実態なのです。
◆あなたの喜ぶ笑顔が大好きその活躍ぶりの8条件
そこで、自己実現の欲求を喜びの実現に変化させ、微笑み(笑顔)で感謝される活躍ぶりは、如何ようであろうか。幼児教育の分野にとどめることなく様々な活躍舞台の共通事項を考察し、その条件を括ってみると次の8条件が掲げられましょう。
- 働きを楽しむ それは志事の心です
「しごと」への取り組みの心持ちで3分けすると、「志事」「仕事」「死事」と書き表せます。
志事とは自ら想いを持ってその実現を楽しむ取り組み姿勢です。それには職業観に根ざしていることであり、その活躍は、誰のためであるか、それは、おおよその企業理念に掲げられる「社会に役立つ」との理念に基づき、それぞれの業務で「あなたのために」との笑顔づくりを楽しむ気概が元です。
従って、その活躍ぶりは、明朗(明るく、朗らか)マインドでの言動で施す活躍です。ちなみに「仕事」は、そつなくこなす、「死事」は、仕方なしにやるとの意味合いです。そこには、微笑みはありません。
- 愛情の豊かさが相手に伝わります
愛とはひと言でいうと「相手を思いやること」。なぜ、それは「愛」の文字は真ん中に「心」が来て、上下で「受ける」となっています。つまり相手の心を受け止めて、打てば響く言動の施しを成すことです。ですから、相手の意思、欲求、喜び、悲しみを素直に受け入れて、その事に心を通わし、顕在化された行為で働きかけていくのです。
従って、自分だけ良ければ良いとの傲慢さや、一方的では、押し込む事が主になりがちです。その愛の対象は「自然」や「物」対しても同様な心持ちです。自然に対しては、例えば草木なら、水をかけ、日に当て、肥料を施し、剪定もする、時には声をかけるという育てる施しもします。T幼稚園での「自然とふれあう保育」もその一例です。この愛情の豊かさが「愛で包む」現実として伝わります。
- 点から線のプロセス変化を観ています
その時々での、言動の判断でなく、継続して気に掛け、その微妙なる変化もくみ取り、そして察して、「ほめ」「ねぎらい」の言葉がけです。「以前この事はできていたんですよね」「ここまで、できましたね」との笑顔での一言は、成長ぶりを認めて欲しい(認知欲求)を汲み取る施しで、成長する楽しみを助長し、頑張りぶりの持続になります。
④「なぜそうなのか」丁寧な説明がいいですね
良さの褒め、注意点、さらなる成すべき方法の施しは、「なぜそうなのか」「なぜそうするにか」丁寧なる説明が肝心です。忙しい、だからこそこの施しが生きます。それは、「忙しいときでも自分のために時間を割いてくれた」この嬉しさがモチベーションを高め、良き結果を生み出します。
⑤自立心を育む
「あなたはどう思いますか」と本人の意向を、引き出すコーチング的コミュニケションは効果的です。「いい考えですね。じゃやってみましょう」とその実践の試しを楽しませる働きかけがが自立人間の育みです。うまくいかなかった。「なぜだろうか。考えてみましょう」「ならば、どうしたらよいと思いますか」「私はこう思うが、あなたはどう思いますか」…。相手のキャリア、潜在能力に適応した具体的実践を楽しむことです。
⑥苦の体験があるからこそ、相手の心・努力を察せますね
「有り難う」とは、難き事、苦難あり、それは施していただくことの乗り越えていただいた努力の賜と理解できます。だからこそ、苦労を積むほど、人の心を汲み取る深みも磨かれ、自分への施しへの謝念も高まります。従って、愛の豊かさは、思わぬ苦難(まさかの出来事、失敗)と対峙、その克服の体験が生きます。
⑦自分の笑顔が相手の笑顔をつくる
自分の喜びが相手の喜びをつくる。喜びづくりは鏡の原則です。自分の笑顔が鏡面に映る自身であり、相手の笑顔です。従って、「自分の笑顔が関わる人の笑顔をつくる」「自分の喜びが関わる人の笑顔をつくる」「自分の元気が相手の笑顔づくりに感化する」となります。
⑧褒め心の人間味が笑顔の施しとなります
人間味があるとは、具体的には、温かみ、感謝、気概、遊び心、倫理観等ですし、言い換えれば、その人の生き方、考え方、人生に対する姿勢(人生観、職業観、倫理観)が滲み出るものでしょう。
理論、理屈、スキルやテクニックを包含しつつ、それを超えた豊かな人間性、品格、人徳ともいえます。ですから、相手のために、とのゆとり感もありますし、敏感に感じ取る感性の豊かさによる欲求の汲み取りもできます。そして、即、実践する褒めの一言のプレゼントがお日様の存在として、相手が微笑みかけてくれるのです。
卒から、新たな舞台での活躍の楽しめる時期です。そこには、選ばれた実現の喜びがあり、必ず期待に応え、いや、「期待以上の活躍で認められる自身になる」。の覚悟があります。その実現には、迎える側の微笑みがあり、相応した笑顔の新任(新人)の出会いからの出発です。以後、相互に「成す言動」は違えども、相手のためのお役立ちを楽しみ合い、共に笑顔での「ありがとう」「おかげさまで」の交わし合いを重ねていきます。
それは、芽が花をつけ、実りとなるお役立てもあり、一方、芽が枝となり、幹となっての大木への成長がさらなる逞しさで、大きくお役立てできる存在へのお役立てです。「今日も笑顔で…」。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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