小島正憲のアジア論考
東南・南西アジア短信《ミャンマー:クーデター関連》
小島正憲((株)小島衣料オーナー)
1.東部のタイ国境地域、国軍と抵抗勢力が衝突
ミャンマー東部カイン(カレン)州のタイ国境ミャワディとコーカレイを結ぶアジアハイウエー(AH)沿いで、国軍と抵抗勢力の戦闘が激化している。
抵抗勢力側は、少数民族武装勢力「カレン民族同盟(KNU)」の軍事組織「カレン民族解放軍(KNLA)」と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」が共闘しているという。
KNLAを中心とする抵抗勢力は26日、タイとの国境地域に最後まで残っていたピョーチム国軍基地を制圧し、国境地域をほぼ完全に支配下に収めた。
同基地は複数の国軍大隊が駐屯する重要拠点だった。ただ、違法ビジネスの温床となっているミャワディの「シュエ・コッコー新都市(通称チャイナタウン)」は依然としてカレン国境警備隊(BGF、現在はカレン民族軍=KNAに改称)の支配下にあるもよう。
カレンBGFは今年初めに国軍指揮下から離脱し、名称も変更したが、国軍との連携が依然として続いているとみられている。電子メディアのイラワジは地域住民の証言を基に、国軍が26日夜から27日にかけて、ミャワディとコーカレイとの間に位置するドーナ山脈から、抵抗勢力が拠点を置いているとされるミャワディ側の村を砲撃したと伝えた。ミャワディへ向かう国軍の援軍は2週間前からドーナ山脈にとどまっている。
抵抗勢力は4月上旬、ミャワディにあった最後の国軍基地を制圧。国軍は同11日、ミャワディ奪還を目指す「アウンゼヤ作戦」を開始した。同23日までに奪還に成功したと伝えられている。
同作戦に参加している国軍兵士は1,000人に上り、装甲車や戦車、大砲を装備しているもようだ。
2.ロヒンギャ迫害、再び激化=国軍との紛争巻き込まれ
ミャンマー西部ラカイン州で、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する暴力や強制移住といった迫害が再び激化している。クーデターで実権を握った国軍と抵抗勢力の紛争に巻き込まれて双方から弾圧を受けており、国際社会は懸念を表明した。
ラカイン州では昨年11月以降、仏教徒が中心の少数民族ラカイン族の武装勢力「アラカン軍(AA)」が国軍への攻勢を強め、複数の地域を制圧。今年5月中旬にはバングラデシュとの国境に近く、ロヒンギャが多く暮らすブティダウンを支配したと主張した。
シンクタンク「国際危機グループ」によると、紛争の過程で国軍はロヒンギャに対する徴兵を行い、戦場に投入している。兵士らがロヒンギャの過激派組織と協力し、ラカイン州内の村を襲撃して放火したという情報もある。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の声明によれば、AAによるブティダウン制圧などに伴い数万人のロヒンギャが家を追われた。
「逃げる際に数十人の遺体を目撃した」という生存者の証言も紹介。殺人や放火が行われた疑いを指摘し、「暴力の即時停止と民間人が差別なく保護されることを求める」と訴えた。AAは「われわれがブティダウンを破壊したという情報は虚偽だ。民間人はAAの支配地域に避難している」と弾圧を否定している。
仏教徒が多いミャンマーでロヒンギャは「不法移民」と見なされ、国籍や移動の自由がないなど長年迫害を受けてきた。2017年には国軍による大規模な掃討作戦で多数の民間人が殺害され、70万人以上がバングラデシュに避難。難民キャンプでの暮らしを余儀なくされている。
3.ガパリ・ビーチ近くで戦闘激化、航空便は運休
ミャンマー西部ラカイン州タンドウェ郡区にあるリゾート「ガパリ・ビーチ」近くで、国軍と少数民族武装勢力アラカン軍(AA)との戦闘が激化している。
両勢力は同郡区で4月に衝突。先週末には同リゾートに近いタンドウェ空港の2キロメートル圏内で攻防があり、同空港をつなぐ航空便が運休になったという。
アラカン軍は西部の掌握を図ろうと国軍への攻撃を強化。国軍は空爆などで対抗している。攻防により、ビーチ沿いのホテル「ジャスミン・ガパリ・リゾート」の建物が損傷した。地元住民はRFAに対し、「2日からはタンドウェ空港の航空便も運休となった」と話した。道路も封鎖されており、タンドウェの町から避難できない市民も多いという。
アラカン軍は昨年11月以降、北西部チン州パレワやラカイン州の各郡区を占拠。ラカイン州全域の掌握を狙っている。アラカン軍と国軍はそれぞれ、敵襲で市民が死傷していると非難しているが、事実確認が困難な状況となっている。
4.アラカン軍トップ、民主派の干渉に抗議
ミャンマー西部ラカイン州の少数民族武装勢力アラカン軍(AA)は先ごろ、民主派による政治組織「挙国一致政府(NUG)」に、同州への干渉を制限するべきだとする書簡を送った。アラカン軍のトゥワンムラットナイン司令官が明らかにした。
同州でのAAと国軍の戦闘を巡って発生したとされるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの人権侵害にNUGが懸念を表明する声明を出したことに反発したものだ。同氏は、NUGがミャンマー国軍と反対勢力との対立で重要な役割を果たしているとし、「国全体がNUGに期待を寄せている」と発言。その上で、NUGが声明を出したことには同意できないと述べた。NUGに対し、必要以上に干渉しないよう丁重に要請したという。
ラカイン州内では、バングラデシュ国境に接するブティダウン郡区を巡って国軍とAAによる戦闘が発生。AAがロヒンギャの家に放火し、暴力行為に及んでいるとの報道があったようだ。NUGは5月21日、ロヒンギャへの人権侵害に懸念を示す声明を発表していた。
AAとその政治組織のアラカン統一連盟(ULA)は先ごろ、ロヒンギャへの暴力行為を否定。ラカイン(アラカン)民族だけでなく、ロヒンギャを含む全ての人を国軍の支配から解放するために戦っていると主張した。
5.シャン州北部、3少数民族武装勢力が対立
ミャンマー北東部シャン州北部で、国軍から奪った地域や鉱山の支配権などを巡り、少数民族武装勢力間の緊張が高まっている。緊張が高まっているとされるのは、同州のタアン民族解放軍(TNLA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、北部カチン州のカチン独立軍(KIA)の3勢力だ。
シャン州北部では昨年10月下旬、TNLAとMNDAAを含む兄弟同盟が国軍に対する一斉攻撃「作戦1027」を開始。TNLAは、今年1月上旬までにナムサン、マントン、ナムカム、ナムトゥ、モンゴー、クッカイ、モンロン、MNDAAは、センウィ、クンロン、モンコー、パンサイン、チンシュエホー、コンチャンの各郡区をそれぞれ占拠した。
KIAは、これらの地域への攻撃には直接参加しなかったものの、マントンとクッカイの両郡区などで、国軍への攻撃を独自に展開した。TNLAは5月31日、北部7勢力で構成する政治対話委員会(FPNCC)に文書を送付。TNLAの支配地域での民間人からの税金徴収、マントン郡区にあるマグウィボーバン鉱山での採掘やマントン、ナムトゥ、クッカイの各郡区での教育・医療サービスの妨害をKIAが繰り返していると訴えた。
3勢力はいずれもFPNCCに加盟している。KIAの広報担当者であるナウブー氏はTNLAの苦情について、FPNCCから連絡を受けていないとした上で、中央司令部からこのような行動に関する命令は出していないと説明。他の武装勢力の支配地域への干渉は控えていると述べたが、マグウィボーバン鉱山については言及しなかった。
KIAが管轄権を主張する地域には、TNLAの支配地域とされるマントンやナムカム、クッカイの各郡区の一部が含まれており、特にクッカイ郡区での両者の衝突が多数報告されている。KIAは4月、クッカイ郡区でMNDAAとも衝突したが、既に和解したとの情報がある。4月末にはTNLAとMNDAAの戦闘員の間でも小競り合いが起こったが、解決されたもようだ。
政治アナリストのタンソーナイン氏は、「同盟関係にある武装勢力間でも支配地域や利権、徴税を巡る対立はよくある」と話した。
6.アラカン軍、中国の停戦呼びかけに応じず
ミャンマー西部ラカイン州の少数民族武装勢力「アラカン軍(AA)」は先ごろ、中国からミャンマー国軍との停戦交渉の呼びかけがあったことを認めた上で、AAの軍事的・政治的目的が達成されたときにのみ国軍との停戦に合意できると強調し、これに応じない姿勢を見せた。
AAの報道担当者、カイントゥッカ氏が明らかにした。中国が国軍との停戦を求めてきたものの、AAがそれに呼応するかは「国軍の行動次第だ」と述べた。その上で、前回の和平交渉時に民間人へ危害を加えないよう求めたにもかかわらず、現在国軍が民間人を標的にしている以上、妥協点を見つけることは困難であるとも付け加えた。
ラカイン州では、州都シットウェやバングラデシュの国境近くで国軍とAAの戦闘が続いている。AAはラカイン州の17郡区のうち9郡区を占拠。現在も国軍の支配下にあるシットウェやマウンドー、アン、チャウピュー、タウングップ、マナウン、タンドゥエ、グワの各郡区を占拠するまで国軍拠点への攻撃を続けるとしている。
7.徴兵の2陣目は4000人=監視団体報告書
ミャンマーの戦争犯罪を監視する団体のビルマ・アフェアーズ・アンド・コンフリクト・スタディー(BACS)は国軍による徴兵第2陣の実施状況に関し、第2陣の徴兵数は約4,000人になったと報告した。
BACSは5月19日に発表した報告書で、第2陣として徴兵された約4,000人が同14日から、全国16カ所で訓練を受けていると指摘。4月初めに訓練が始まった第1陣と合わせると徴兵数は約9,000人に達したと報告した。BACSによると、第2陣の徴兵は140郡区で実施されたもよう。
同団体は地域・州別の内訳が、◇北東部シャン州、中部エヤワディ地域、第2都市を抱えるマンダレー地域がそれぞれ約600人◇中部のバゴー地域が約500人◇最大都市を抱えるヤンゴン地域が400人◇抵抗勢力の活動が活発な北部ザガイン地域が200人超◇東部のモン州とカイン(カレン)州、南部タニンダーリ地域で約600人――と推計している。
BACSはメディアのデータを基に試算したとした上で、第2陣の新兵のうち少なくとも900人が強制徴兵されたと指摘。20郡区で強制徴兵が行われたとし、マグウェ地域が最も多い400人超、バゴー地域が300人超、ザガイン地域が100人超とした。
国軍系メディアは第1陣の徴兵の際、新兵は全て志願兵だと報道していた。
8.退役軍人の招集開始か、67歳までが対象
ミャンマー国軍は、予備役法に基づく退役軍人の招集を始めたもようだ。対象年齢は67歳まで。拒否した者には最長3年の禁錮刑が科される。
6月に入ってから、首都ネピドーにある国軍の宿泊施設に100人を超える元将校らが到着し、身体検査を受けているという。ミャンマー・ナウは独自調査の結果として、先週初めから50台以上の軍用トラックで元将校らが宿泊施設に到着したとしている。
情報筋によると、退役軍人の配置は現役時代の職務を考慮して行われているもよう。退役時の階級と給与が高かった軍人の中には、自らの利益のために復帰を望んでいる者もいるという。一方で、一般兵士などは招集後すぐに前線に送られる可能性が高いとされている。
予備役法では、退役から5年未満の元軍人に、招集された場合は現役に復帰することを義務付けている。国軍は2年前に定年を60歳から62歳に引き上げたため、最高で67歳の元軍人が対象となる。2019年の政府報告では、退役軍人数は25万人となっていた。
9.チャット安止まらず、過去最安値を更新
ミャンマーの現地通貨チャット安が止まらない。軍事政権下で多重相場が発生する中、実勢レートは30日までに1米ドル(約157円)=4,700チャット台となり、過去最安値を記録した。
急速なチャット安が各産業に打撃を与える恐れがある。情報サイトによると、30日朝の時点で両替商の米ドルの買値が1米ドル=4,680チャット、売値が同4,740チャットとなった。前日から400チャット以上下落した。これまでの過去最安値は、22年8月末に瞬間風速的に記録した4,500チャット前後だった。
最大都市ヤンゴンの両替商は30日、NNAに「米ドルの買値は4,300チャット、売値は4,500チャットとしており、交換する金額によって微調整する」と話した。中央銀行は、経済混乱を狙った抵抗勢力による「為替操作」が行われていると主張。情報サイトや両替商の取り締まりを強化するなどして相場の安定化を図ろうとしているが、外貨繰りのための制度変更を繰り返し、逆に経済を混乱させている。
中銀は昨年12月、輸出企業に義務付けている外貨収入の「強制両替」の割合を総額の50%から35%に緩和した一方、同行が管理する国内企業間のオンライン取引レートの「自由化」を発表した。輸出企業が稼いだ外貨の一部を1米ドル=2,100チャットで固定した公定レート(参考レート)で放出させつつ、燃油の輸入企業がオンライン取引レート(3,300チャット台前半で推移)などで外貨を獲得できるようにした。
国軍による2021年2月1日のクーデター以降、チャット相場は乱高下しながら下落基調をたどってきた。チャットの価値はクーデター前から3分の1以下まで下がっている。ヤンゴンの薬局の販売員はNNAに、「チャット安で採算が取れず、海外製品を扱うサプライヤーの一部が事業停止に追い込まれている」と話した。
企業経営にとってチャット安が最大のリスクになっており、輸入品をはじめとする商品の価格上昇が一段と加速する恐れがあるという。
10.ヤンゴンの縫製工場、労使紛争決着せず
ヤンゴンの中国系縫製会社サウン・ウー・シュエナイでの労使紛争について、地元労働局が労働者による訴訟提起を認めたものの、すぐにこれを撤回したと伝えた。
労働局は雇用契約違反の訴訟に関する書類を労働者に提示。労働者側はこれに合意・署名したが、「同局の決定は15分後には撤回された」という。サウン・ウー・シュエナイは3月、複数ある工場のうち「A」工場を閉鎖し、従業員には別工場に異動するよう求めた。
従業員側は雇用契約違反だとしてこれに合意せず、補償金を支払った上で解雇とするよう経営陣に求めていた。労使間ではこれまでに、ラインタヤ郡区労働局で3回にわたり交渉が行われている。サウン・ウー・シュエナイの労使問題を巡っては、労働局職員らが5月13日にA工場の労働者4人と面会した際、労使交渉に費やす時間の賃金は支払われないなどと発言したとされる。
この件については、調停委員会がサウン・ウー・シュエナイに賃金の支払いを求める判断を下したという。サウン・ウー・シュエナイは、スウェーデンの衣料品大手H&M向けなどの製品を生産している。従業員は約1,800人。A工場では300人超が働いていた。
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小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。