【真田幸光の経済、東アジア情報】
トランプ次期大統領の出方
真田幸光(愛知淑徳大学教授)
米国大統領選挙が終了した。
投票直前は、接戦と見られていたが、結果的には、トランプ氏の言う通り、
「共和党の大勝利」
であったと言えよう。
また、一度落選した大統領・トランプ氏の復帰を見て、これを歴史的大勝利とする米国国内の見方もある。
トランプ氏勝利の背景については、様々な見方が出ており、ここでは、それを述べるつもりはない。
結果は結果であり、我々が今、すべきことはトランプ政権になった後の我々の対応を考えるべきであるからである。
そして、下野した民主党も今回の選挙結果を少なくとも一旦は受け入れる姿勢を示しているから、
「米国の民主主義に対する国際社会の不信感」
はこれ以上高まってはいかないということを前提として、今後を考えていきたい。
唯一の懸念は、
「トランプ氏の暗殺」
であることを指摘しておきたい。
さて、今回の米国大統領選挙を通して米国国民を眺めてみると、
「既得権益を守ることに価値観を示す者」
「既得権益層に不満を持ち、現行の社会に変化を求める者」
との戦いであったのではないかと思われる。
そして、既得権に胡坐をかいている者に厳しい批判を展開し、勝利したのがトランプ氏であろう。
これからすると、トランプ政権が出帆すると、
「米国では、既得権益層に対する改革」
が進むものと思われ、これが、米国の秩序を変えるだけでなく、
「現行の世界秩序をも変える」
と言う契機となる可能性がある。
一方、トランプ氏は、
「アメリカ第一主義を掲げ、例えば保護貿易主義となり、その間隙を縫って中国本土やロシアが台頭する」
との指摘があるが、筆者は、
「トランプ氏は先ずはアメリカの内実を強める。
アメリカが持つ水、食糧、原材料、エネルギー、それらを繋ぐ物流を有効に使いつつ、何よりもアメリカが持つ人的資源を有効に使い、先ずはアメリカを強くして、再び、しっかりとした覇権を取りに来る準備をしてくる」
と見ており、「覇権主義者」であろうと言うことからすると、トランプ氏を外国人である日本人としても警戒すべきであろうと考える。
一方、トランプ氏が覇権主義者であるとすれば、ここで、中露の台頭を黙って見過ごすことはしないと考える。
むしろ、意識すべきは、トランプ氏が、その中露勢力を上手に利用して、先ずは既得権益層の排除に向かう可能性があり、その様子を表面的に見れば、中露との接近、或いは、中露の勢力の拡大と見えるかもしれない。
しかし、「覇権主義者・トランプ氏」はここで、中露ともDealをしながら、米国の国際社会に於ける「覇権国家としての地位」を落とさぬよう、動いてくるものと思われる。
即ち、
「パワーゲームの中で、是々非々で対応する」
と言う姿勢を示すのではないかと思われる。
とすれば、日本がすべきことも、
「日本としては強い意志を持って、トランプ政権とは対等に、米国とも、是々非々、Deal by Deal, Case by Caseで上手にパワーゲームを行っていくしかない」
と考える。
今こそ、自民党議員のお好きなお言葉である、
「したたかな外交姿勢」
を日本政府は示さなくてはならない時であると筆者は考えている。
ところで、国際金融社会では、技術の進歩によって、
「法定通貨を背景としたデジタルマネー化」
を進めるか否かが一つの議論の的となっているが、これに対して、米国のトランプ前大統領は決して肯定的な姿勢を示していない。
デジタルマネー化、実体経済と金融経済を更に著しく乖離させる背景ともなり得るからである。
こうした中、米国の大統領選挙の結果によっては、
「中央銀行デジタルマネー(CBDC)」
の構想が金融市場で安定化していくことが難しくなる可能性があるという見方も出始めていた。
そしてそのトランプ氏が当選、今後もCBDCに否定的な姿勢を示せば、米ドルを発行する世界最大の金融市場である米国がこの計画に否定的な姿勢を取る可能性もあり、その結果として、グローバル決済手段としてCBDCの価値は大きく低下する可能性も出てくる。
今後の動向をフォローしたい。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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