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政治家と不倫(小島正憲)

小島正憲のアジア論考

政治家と不倫

小島正憲((株)小島衣料オーナー)                                   
                                                            
今回の衆議院選挙では、自公が過半数を割り、少数政党の国民民主党がキャスティングボートを握ることになった。

衆院選直後には、代表の玉木雄一郎氏が、得意満面でメディアに登場していた。ところが、すぐに週刊誌が玉木氏の知人との不倫を報道した。一転して、玉木氏はその報道を「おおむね事実だ」と認めて、釈明会見に追われることになったが、今のところ代表辞任を迫る声は大きくない。

最近の世論調査でも、「玉木氏は代表を辞任する必要はない」という声が上回っている。一般に、世間、ことに女性陣は、政治家の不倫に手厳しく、今までも、多くの政治家がその責任を取って辞任・辞職している。玉木氏はなぜ例外と成りえ得ているのだろうか。

玉木氏と国民民主党は、選挙公約に、「103万円の壁を壊し、手取りを増やす」と掲げ、主婦たちの損得勘定(感情)に訴え、選挙後も自公政権にそれを強く迫っている。女性たちが不快な不倫に目をつむり、手取りの増加に期待している結果かもしれない。

ことに女性は不倫に手厳しい。だが不倫は、モラルの問題であって、重婚や結婚詐欺、未成年との交遊などで、法に触れない限り、罪にはならない。要するに、不倫を妻が許せばよいのである。今回の玉木氏も、妻との間では、離婚沙汰など、大騒ぎにはなっていないようであり、「妻から、“この大事なときにと、強く叱られました”」との釈明のように、家庭内では事態を丸く収めているようだ。

だが、選挙に勝つためには、女性票が大事である。女性たちは、心底では、不倫した代議士を嫌悪している。だから、不倫した代議士に投票を控える。女性たちだけでなく、男性票も逃げていく。そこに男性の嫉妬心が働くからである。

多くの男性が、不倫願望を抱きながら、それを実行するのをためらっている。家庭の崩壊や、世間からの弾劾を恐れているからである。それなのに、代議士がその身分や地位を利用して不倫するということが許せないのである。かくして、男性票も減っていく。結局、政治家は厳格な一夫一婦制を守り、聖人君子でなければならない。

それでも男性は政治家になりたいのだろうか。宮沢博行氏は、女性問題が影響し、今回の選挙で落選した。彼は、「私は性欲が強い。それに負けた」と、語っていた。これは彼の本音だろう。性欲には個人差が大きいと思うが、性欲が強過ぎる男性は、現代の代議士には不向きなのだろう。だが、日本を背負って立つような男性の意欲の源泉の中に、性欲は入らないのだろうか。

不倫を許さない女性には、ジェンダー平等を訴える人が多い。日本は女性の地位が低いと言われており、日本男児としては肩身が狭い。女性は、ジェンダー平等や女性の地位の向上を声高に訴える。だが、それは建前であって、本音は別の所にあるように思う。損得勘定から考えると、女性にとっては、権利や地位よりも財布を握ることの方が得だと思う。

昔、中国人女性から、「私が日本に来たころ、“日本の女性には権利がなくて可哀そうだ”と思った。ところが、数年、日本に住んでみて、“日本女性は賢い”と思うようになった。なにしろ家庭の中で、財布を握っているのだから。“小遣いしか貰えない旦那さんは可哀そう”」という話を聞いたことがある。

最近、養老孟子氏が、「(昔)杉本鉞子がね、アメリカで結婚し、奥さんたちの集まりに出たら、日本はやっぱり遅れている、女性に権利がない、かわいそうだと言われているわけですよ。でも、日本では家計は全部奥さんが握っているという話をすると、むこうの奥さん方がね、私もそのほうがいいと言い出すわけです。だから外側の、いわゆる男性社会だけを見て、女性の地位が低い、ジェンダーギャップ指数が118位だって騒いでいるのを見ると、バカじゃないかと思う。明治時代からそうやって女性が社会を仕切ってきたんだと」(「老人の知恵」 田原総一朗・養老孟司著 毎日新聞出版)と書いている。

もし、全国の女性に、「専業主婦か、キャリアウーマンか」というアンケートを取ったら、圧倒的多数が権利のない「専業主婦」を選ぶと思う。男女間の問題も、建前よりも本音で考えるべきではないだろうか。

20年ほど前、香港で華人実業家と会食する機会があった。彼の繊維事業は絶好調で、欧米に市場を持ち、生産基地も、中国を始め、タイ・フィリピン・ベトナム・インドネシアなどにあり、それぞれが1万人を超す巨大工場だった。私は、わが社も彼のグループに加えてもらおうと考え、宴席に参加した。

その華人実業家は、大柄な男性で、いかにも豪放磊落という感じの人だった。酒の飲みっぷりも良かった。その宴席には、彼の企業の幹部が、10人ほど揃っていた。宴もたけなわのころ、その華人実業家が、参席していた幹部を自慢げに紹介しはじめた。

「まず香港の妻の息子で香港本社の営業統括社長、次はベトナムの妻の息子でハノイ工場の担当、次はタイの妻の息子でバンコク工場の担当、次はフィリピンの妻の息子でマニラ工場の担当……」と話し続け、あっけにとられている私に向けて、「小島さん、私は多くの妻を持っているが、彼女たちは、決して喧嘩しない。その秘訣を教えようか?」と聞いてきた。

下戸の私は、すでに酔っ払っていたので、不覚にも、「教えてください」と即答してしまった。すると彼は、「まず妻たちの国籍を同じにしないこと、また共通言語を持たせないこと。そして十分な経済保障をすること。そうすれば万全だ」と強調した。そう言われてみると、同席していた息子たちの顔には、それぞれ、どこか父親似のところがあり、この華人実業家の話を裏付けているような気がした。

そのとき私は、そこに、華人の家族経営の強さを見せつけられたような気がした。そして、華人実業家の性欲が、その家族経営の源泉だと思った。さらに事業欲は旺盛な性欲に裏打ちされていると確信した。

最近、私は、病院で、医者の問診に、返答に困ることがある。それは、「最近、性欲はありますか?」と聞かれたときである。ことに若い女性看護師さんが側にいたときなど、「相手によります」などとは答えられないからである。医者にとっては、「性欲は食欲と同じく、生きる意欲の源泉」であるから、それを確かめるのは当然のことだろうが、答えにくい質問である。もちろん、妻が付き添いで来ているときには、「ありません」とあっさりウソをつく。

高齢者向けの本には、よく、「異性の友を作れ。恋をせよ」などと書いてある。これは無責任だ。実際に、介護施設などでは、高齢者間の色恋沙汰に困っているところや、若い女性介護士へのセクハラなど、結構多いと聞く。また、これからは、シルバーセックス産業が隆盛となるという話も聞く。高齢者と性欲、つまり生きる意欲については未解決なことが多く、その処理方法は超高齢社会の難題だとも言えるようだ。

私も、性欲が枯れてから、事業意欲が薄れた気がする。今では、事業欲の旺盛な実業家、つまりあの華人実業家のような多くの妻を持つ意欲のある商売人には、その面で、到底及ばない。もちろん、日本を背負って立つ政治家には、聖人君子であって欲しい。

しかし、世界各国の大物政治家たちは、権力欲も食欲も性欲もギラつかせており、逞しい。彼らには、意欲のない小物の政治家では、立ち向かえないだろう。人間の意欲という面を重視し、建前ではなく本音で考えた場合、私は、政治家の不倫には寛容であってもよいではないかと思う。

いずれにしても、「叩けば埃がたくさん出る身としては、私は、政治家にならなくてよかった」と、つくづく思う。

 

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  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。